『恋敵のシスター 中編』
昼休み。今朝あった事をクラスメートの風間と小野寺にも話した恭子。
話を聞いた二人はぽかんと口を半開きにしていたが、
「女は怖いねー」
言葉の割に気楽な口調で小野寺が呟く。
「けど、それにしても殺気はないよね、殺気は」
そういう風間は、自分じゃなくて良かったと露骨に表情に出している。
案外サラッと流されてしまった事に、恭子は「男子の反応はこんなモンなのかな」と少しだけ不思議そうにしていた。
本人達はともかく、周囲は(一応とはいえ)カップルと見ているのに。
しかし、小野寺があからさまに不満そうな表情で宗介の方を見る。
その宗介は次の古典の授業に備えて予習の真っ最中であった。彼は古典と日本史が大の苦手なのだ。
そして、そんな彼の前で購買のパンをぱくつきながら、あれこれ教えているかなめがいる。
「……じゃ、次行くね? 『こがねづくりの太刀をはき、切斑の矢負ひ、しげどうの弓持ッて、連銭葦毛なる馬に……」
「こがねとは、確か金の事だったな。金で刀を作るなど、常軌を逸している。金など重くて硬度が低い。役立たずな刀ができる事請け合いだ。そんな刀を持つなど、無謀もいいところだな」
唐突に始まった宗介独自の解釈に、かなめは読み上げを中断すると、
「あのねソースケ。金でできてる刀じゃなくて、柄とか鞘に金で作った飾りがついてるって意味だってば。昔は偉い人しかこういうもの持てなかったから『俺は偉いんだぞ』って身分証明も兼ねてるんじゃないの?」
「自ら重要人物だと吹聴するのは小物の証拠だ。しかも矢を負う、だ。この者は負傷しているのか。治療が先だろう。そばに医療班や衛生兵はいなかったのか?」
「そうじゃなくて。筒に入った矢を背負ってるって事。つまり、立派な刀、矢、弓を持って、立派な馬に乗った侍が逃げてるってシーンなの、ここは!」
「逃げているなら、なおさら己の身分を隠すべきだろうし、目立たない格好をするべきだ。常識がないな」
「あんたにだけは『常識がない』なんて言われたくないわよ」
そこにすかさずかなめの空手チョップによるツッコミが炸裂する。宗介は眉をしかめて口をヘの字にし、彼女の講義の続きを聞く。
「けどあれは……恋人同士っていうより、絶対ペットと飼い主だよなぁ」
どちらがどちらかは言うまでもないだろ。小野寺の目がそう語っていた。
「それはいくら何でも悪いよ。せめて姉弟くらいに……」
風間が苦笑いして小野寺の意見を訂正する。
「結局恋人同士には見えないんだよねぇ」
恭子がため息まじりに呟いた。
恋人同士と呼ぶには少々接し方に刺があり過ぎるように見える。しかしただの友人同士と呼ぶにしてはあまりに親密すぎる。
ここはあえて微妙で複雑な関係とでも言うべきか。恭子は困った顔で二人を見つめていた。
そんな時。宗介の動作が一瞬止まる。だが次の瞬間には宗介とかなめの姿が消えた。
宗介がかなめの肩を掴んで力づくで床に押しつけたのだ。周囲の机や椅子がけたたましい音を立てて動く。
「ちょ、ちょっとソースケ、いきなり何すんの! 痛いってば、コラ!」
「静かにしろ。誰かが見ている」
自らもしゃがみ、ゾッとするような険しい表情でかなめにそう告げた宗介は、彼女に「そのままでいろ」と言い残して、低い姿勢のまま窓まで歩み寄った。
壁にピタリと背をつけると懐から取り出した鏡をそっと掲げ、窓の向こうの様子を観察する。
いた。中庭を挟んだ向かいの校舎の同フロアに、こちらに向けてデジタルカメラを構える人影を発見。さらにその服装が今朝みかけた涛朋(とうほう)学園女子高校の制服である事を確認した。
(部外者がこの学校で何をしている?)
鏡を見ながら頭を働かせていると、鏡の中の景色に変化が起こった。
陣代高校の教師が後ろから声をかけてきたのだ。しかしブレザー姿の女生徒は無視してこちらを観察し続けている。その教師が怒鳴っても完全に無視だ。
時折フラッシュがつくところから、何かを懸命に撮影しているようだ。時折カメラを覗き込んでは神妙な顔でうなづいて、十字まで切っている。
その時にちらりと見えた顔は、今朝会った女生徒に間違いなかった。
「何してんのよ、あんた」
トコトコと歩み寄ってきたかなめが宗介に訊ねる。彼は鏡を見つめたまま厳しい声で、
「伏せていろと言った筈だ。……今朝会った女がこちらを観察している」
「え?」
かなめは窓を開けて向こうの校舎を見る。そして彼女と一瞬目があった。
「……!」
今朝感じたものと全く同種の「殺気に満ちた目」。この世の総てを憎み恨んでいるような、狂気的なテロリストを彷佛とさせる目だ。
だがそれも一瞬で、向こうから視線をそらして廊下をつかつかと歩いて行く。
「……帰るのかな。一体何しに来たんだろ」
確かに感じた殺気に苦笑いしながらも、かなめは首をかしげる。
「けどさ。昼休みに他校に来るなんて、よっぽど本気なんじゃないかな」
無責任に、そしてどこかからかうように恭子が言う。かなめはいきなり話しかけられてぎょっとしていたが、
「今朝の『ソースケに一目惚れ』説? だったら直接クラスに押しかけてくるんじゃない、ああいうタイプなら」
中庭を見下ろすかなめには、そこをデジタルカメラを覗き込みながら悠然と歩き去って行く彼女の後ろ姿が見えている。それを見た恭子が、
「けどそれができないから、せめて遠くからでもって事だったりして」
単純な興味から、彼女は宗介に話を振った。
「相良くん、どう思う?」
「判らん。スパイ行為にしては大胆で無防備すぎる。陽動でもなさそうだが」
そこでようやく立ち上がった宗介は、銃を取り出しながら、
「あの様子では大した情報は掴めなかったようだが、問いつめて目的を吐かせるべきだ。同時に警戒体制をより厳重にする必要が……」
「ないっての」
かなめは目の前ある彼の頭に軽く拳を叩き込んだ。


そんな昼休みがあった日の、翌朝。
「あ、相良」
「相良くん、ちょっと……」
小野寺と風間は、自分の席で銃の手入れを始めようとしていた宗介に声をかける。彼はその手を休めて二人の言葉を待った。
「ボーリング場にいたあの子、覚えてるよな? 昨日の昼休み学校に来てた……」
小野寺のその言葉を遮るように、宗介は厳しい顔で、
「あの女がどうかしたのか。また校内に潜入していたのか?」
「違うよ、相良くん……」
風間は少々苦笑いして彼の言葉を否定すると、
「昨日の放課後、彼女が校門の前で待ってたんだ。話があるって言われてさ」
昨日の放課後は、宗介はかなめに付き合って生徒会の会報作りに勤しんでいたので二人とは別行動だった。
来ていたと知っていたなら自分が行って、学校へ来ていた目的を吐かせていたところだったが。
「何の話だ?」
「お前の事だよ、相良」
少々がっかりしたようにも見える小野寺が、話を続けた。
「まぁ気持ちは判るよなぁ。一応はからまれてたところを颯爽と助けたヒーローだもんな。一般論的にも気になるに決まってるし」
「ゲームなんかだと確実にフラグが立ってるよ?」
風間も神妙な顔で一言加える。
「聞かれたのは判った。だが何を話した? 内容次第では、二人といえど容赦はしない」
机に置いた銃を素早く掴み、その上半分をスライドさせて初弾を装填する。その手慣れた滑らかな動作に二人は思わず両手を挙げて、
「待てって。大した事は話しちゃいねーって」
「そうだよ。それに聞かれたのは千鳥さんとの事だから……」
「何だと!?」
立ち上がりかけたところを、走ってきたかなめが容赦なくハリセンでひっぱたく。
「テッポー構えて何やってんの、あんたは」
宗介はしぶしぶ銃を机に置くと、
「その武器は一体どこから出しているのだ……」
そんな宗介の問いをすっかり無視して、かなめは二人に訊ねる。
「あたしとソースケの事を聞かれたって言ってたけど、何で?」
小野寺と風間は、かなめにいきさつから話して聞かせた。
「……ふぅん。けど、そんなの聞いてどうするんだろ」
「ライバルの情報収拾ってところじゃない?」
かなめの後ろからいきなり声をかける恭子。心底驚いたかなめは情けない悲鳴を上げると、
「ちょっと。驚かさないでよ、キョーコ」
恭子は悪びれた様子もなくケラケラ笑い、自分の席に鞄を置きに行った。
「あたしもさっき声かけられたもん。カナちゃんと相良くんの事聞きたいって言われて」
「はぁ!?」
かなめの口が驚いてポカンと開きっぱなしになる。それを見た恭子は笑顔になって、
「大丈夫。ああ見えても、ちゃんと二人は仲良しさんだって言っておいたから」
「言わんでいい!」
かなめは恭子に詰め寄り、その肩を掴んでガシガシ揺さぶると、
「それ以外は? 何か余計な事言ってないでしょうね?」
「言ってないよ。それだけ聞いたら学校へ行っちゃったから」
かなめは脱力したように、安堵の息を漏らす。そこへ宗介がやってきて、
「その際、その女の名前や所属などの情報は聞き出したのか?」
普通の人間にそこまでの事を期待するのも酷だろう。ダメで元々、という雰囲気ではあった。
「あ、名前だけは聞いたよ」
恭子はそう言うと、鞄にしまっていた一枚の紙を取り出して、皆に見せた。
それは昨日見かけたポスターとほとんど同じデザインの、A5サイズのチラシだった。白い紙に青いインク一色で刷られた、案外地味なものだ。
「ほらここ」
恭子が指差したのは、当日発表する主な曲目が書かれた部分だった。そこには“ドビュッシー作曲/カンタータ「選ばれた乙女」”と書いてある。
音楽が素人のかなめ達にはサッパリ見当もつかない曲である。かろうじて作曲者名が「音楽の教科書に載ってたっけ?」と思い浮かぶくらいだ。
「で、この下に『メゾソプラノ・斉口 昌(さいぐち あきら)』って小さく書いてあるでしょ? これがあの子なんだって」
ほぉ、と一同が感心したように驚いている(宗介は別だが)。
「しかし『アキラ』かぁ。男みたいな名前だなぁ」
「けど今は女の子でも結構いるよ?」
どこか残念がっているように見える小野寺に、恭子がシビアにつっこむ。そのあと、何やら考え込んでいるかなめに、
「どうしたの、カナちゃん?」
しかし彼女は恭子の問いに答えず、真剣に考えていた。あの時の異常な「殺気に満ちた目」についてである。
恭子の仮説が正しいとしたら、まさに自分は邪魔者。排除すべき存在だ。
少しだけ考えた「二時間サスペンス」のような愛憎劇は御免だが、こちらを攻撃をしてくる様子がない。かといって、宗介に「アタックしている」気配もおそらくない。
恭子の仮説が間違っていたとしても、少なくとも自分が「異常な殺気に満ちた目」で睨まれるほど彼女に何かした覚えが本当にない。
誰が見てもほんの些細な事だが、本人にしてみれば総てに優先する自体というケースも考えうる。だがそれならなおの事、直接にしろ間接にしろこちらを攻撃してこないというのも変な話だ。
しかしただのハッタリであそこまでの殺気は出せないだろう。昌という少女の意図が全く読めない。
「……判らんわ」
さすがのかなめも、まさに「お手上げ」状態になってしまった。


さらに次の日。かなめ達のクラスに、別のクラスの稲葉瑞樹がやってきた。しかしどこかさえない顔色で、機嫌も良くなさそうである。
「そういえばこのところ見かけなかったけど、どうしたの?」
不思議がる恭子に、瑞樹は気難しい顔のまま、
「先週末から風邪で倒れちゃってさ。もう頭は痛いわお腹は痛いわ。時期外れの風邪は、ほんとタチが悪いったらありゃしない」
ぶつぶつ言いつつ、手近の椅子を引き寄せてどすんと座る。
「お願いだから、そんなタチの悪い風邪、こっちに移さないでよ?」
言葉の割に気楽な調子でかなめが言う。瑞樹はしばし教室を見回すと、
「見かけないって言ったら、カナメのオプションの相良も見ないけど……」
「オプションって……」
苦笑いする恭子をよそに、かなめの顔が一気に不機嫌モードに移行する。
「それがね。夕べから見かけないのよ。人がせっかく特製のビーフ・ストロガノフを恵んでやろうと思ってたのに……」
かなめと宗介の家は道を挟んだ向かい同士という事もあり、かなめが彼に料理を振る舞う事もある。その腕前やレパートリーは、一人暮らしであるという事を差し引いてもかなりのものだ。
「カナメの手料理を食べ逃すなんて、ついてないね、アイツも」
「違うよ。相良くんが食べてくれなかったから不機嫌になってるんだよ」
恭子の言葉に変に納得した様子の瑞樹。
『こっちに八つ当たりされてもねぇ……』
「してないっての」
真顔でひそひそ言い合う瑞樹と恭子をジト目で見下ろすかなめ。そこに教室に宗介がひょっこり入ってきた。
「ソースケ! あんた夕べどこ行ってたの!?」
開口一番彼に詰め寄るかなめ。だが宗介はいつも通りの淡々とした顔で、
「あの女の身辺を調べていた。万一の事があってからでは遅いのでな」
「どんな万一よ!」
かなめの訴えを無視して、宗介は懐から取り出したメモ帳をパラパラとめくっていく。
「名前は斉口 昌。私立涛朋学園女子高校音楽科の三年。学校付属の女子寮暮らしだ。専攻は声楽だがピアノも達者で、コンクールに入賞くらいはできるらしい。実際昨年秋に一度入賞を果たしている。学校の成績は上の下と言ったところだ。それから父親が、東京郊外にあるカトリック系の学校で音楽の教師をしているな」
立て板に水とはこの事である。
「夕べ一晩で調べたの? どうやって?」
「単に職員室を漁っただけだ。もう少し時間があれば役所なども調べられたが」
「それはタダのコソ泥だっつーの!」
かなめのハリセンが鋭く決まる。
「カナメ。アキラがどうかしたの?」
二人のやりとりを不思議そうに見ていた瑞樹が声をかける。その反応に驚く恭子が、
「ミズキちゃん、その子知ってるの!?」
「そこの女子校に通ってるサイグチアキラでしょ? アキラのパパとあたしのパパは高校時代からの友達だそうだから、一応はね」
何と。意外な接点があったものである。瑞樹はしばし考え込むような仕草をすると、
「あたし自身は頻繁に会ってる訳じゃないから詳しくないよ。ちょっとスローテンポで人付き合いあんまりよくないし。それにこうと決めたらぐあ〜っと突っ走って、すぐ周りが見えなくなるのよね。イイ人だけど友達にはなりたくないってタイプかなぁ」
「スローテンポねぇ。いかにも『お嬢様』っていう感じはしたけど」
その時の光景を思い出しながらかなめが呟く。どことなくゆったりとした立ち居振る舞いであった。瑞樹からすればそれがスローテンポに見えるのだろう。
「アキラの家ってキリスト教徒じゃなかったかな。結構躾も厳しかったみたいだから、確かに『礼儀正しいお嬢様』みたいに見られてるけど」
いつぞやの登校途中で会った時などの仕草はそれが原因か。奇妙に感じたけれども、それを聞いて納得した。
「聞いた話だけど、ヨーロッパへ留学しないかっていう話もあったみたい。結局は日本でこうして勉強してるけど、大学はもしかしたら向こうかもね」
確かにこうした音楽の場合、日本よりはヨーロッパの方がレベルも高いし勉強になる。語学留学も兼ねて行く人間は確かに多い。
「でもアキラって音楽センスはバツグンなんだけど、それ以外のセンスが“今みっつ”くらいなのよねぇ」
それはかなめも納得した。ああいう感じならオーバーオールにTシャツではなく、暖色系の軽そうなワンピースなどの方がよほど彼女の雰囲気に合うだろう。
「ともかく。それ以上の事を調べるにはもう少し時間が欲しい。さすがに一晩でというのは難しいのでな」
「いや、そんなの別に要らないって」
宗介の要望をかなめは一蹴する。欲しいのは個人情報などではないのだから当然だ。
「だが安心しろ、千鳥。彼女自身、それに家族や友人知人にも秘密結社やカルト宗教、テロリストに関係した人間は一人もいない」
「いてたまるかぁっ!」
すかさずかなめのハリセンが再び襲いかかる。ダイレクトに命中した宗介はふらふらと身体が傾いた。
「それに、この斉口 昌は昨日・一昨日と俺達を尾行してきていたが、素人丸出しで全くなっていない。いつでも簡単に始末できる」
「するなっ!」
かなめのハリセンが三たび襲いかかった。
「どーしてあんたってそう考え方が物騒なの。せめて『放っておいても問題ない』くらいにしときなさい!」
身体が傾きかけた宗介は、どうにか体勢を立て直す。
「で。どうしてアキラの事調べてんの?」
今一つ会話に着いて来れない瑞樹は、事情を知っていそうな恭子に訊ねる。すると恭子は、
「この間、そのアキラさんが絡まれてるところを相良くんが助けてね。それからカナちゃんの事を凄い殺気立った目で見てるんだよ。ウチの学校にも来てたしね。だから相良くんに一目惚れしたのかなーって思ってるの」
後半部分はもちろん彼女の推測が入っている。もしかしたら願望かもしれないが。
「……まぁ、音楽以外はセンスないからなー、アキラは」
横目でじろーっと宗介を見ている瑞樹。その視線に気づいたかなめは、
「ほー。それじゃあたしは、そんなセンスのない人にアレコレ世話焼いてるダメ人間だって言いたい訳?」
少しばかりかなめの雰囲気が殺気立ってきた。
「まあまあ。別に殺気立った目で見られてるだけで、何もされてないんだからさ。も少し気楽に構えようよ」
「確かに殺気立った目ってのは穏やかじゃないけどね。あたしには関係ないし」
こいつら全然判ってない。かなめは心の中で呟いた。
「だが千鳥。先日の我が校への侵犯行為については、きっちり反省させるべきだろう」
反省させるはともかく、部外者がひょいひょい校内に入ってくる状況というのも歓迎したいものではない。
特に最近は部外者が校内で暴れて云々という報道もある。彼の考えではないが、ある程度の警戒や自衛を考えておかなければならないだろう。歓迎したくない現実だが。
「まぁ確かにそうかもしれないけど。でも、あくまでも穏便にね。特に、始末とかは厳禁」
ぴしりとしたかなめの態度に、宗介は苦々しげに「判った」と呟くと、
「だが、尾行の理由を聞き出す必要はある。あくまでも口を割らないつもりなら、薬物の使用も辞さないつもりだ」
「使うなそんなモン!!」
かなめは宗介の頭を両手で鷲掴みにすると、そのままジャンプして顎に膝蹴りをかます。さすがに宗介の身体がのけぞりかけた。
「し、心配ない。薬物といっても、ごく少量のアルコールを静脈注射して酔わせるだけだ。身体に致命的な後遺症などは残らん」
「女の子酔わせてどーする気よ、この変質者っ!!」
かなめは宗介の顎を思いっきり蹴り上げる。そのまま机をいくつも薙ぎ倒して、彼はようやく倒れた。かなめは怒らせた肩を脱力させると、
「……ったく。ちょっと気を抜くとこれだもんなぁ」

<後編につづく>


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