トガった彼女をブン回せっ! 第21話その2
『でで、電話終わりましたんで』

「おお、お、オ、お、おお落ち着いて!」
落ち着かせるべき昭士の方が、ドモりも手伝って慌てているように見える。
彼は電話に話しかけながら皆から離れるよう、神社の敷地の奥に駆けて行く。撫子を含めた何人かがコッソリと後を着いて行くのにも気づかずに。
基本的に昭士はあちらの世界の言葉も文字も何一つ判らない。しかし一応のコミュニケーションが取れるのは、あちらの世界に日本語に酷似した言語がある事が一つ。
そしてもう一つはエッセと戦う戦士に「変身」するためのアイテム・ムータだ。
一見よく判らない金属製のこのカードは、同種のカードを持っている人間同士であれば言語が違ったままでも意志の疎通が可能という非常に便利な能力を持っている。
しかし今は道着に着替えているためそのカードは持っていない。そのため彼女の慌てた言葉がさっぱり理解できないのだ。
奥まった場所まで来た昭士は慌てる事なく一旦携帯を口から話すと、何となく中空に向かって手を伸ばし、
「ト、トルナーレ」
伸ばした右手に一瞬だけバチッと青白い火花が散った。痛みはほとんどないのだが、反射的に身体をビクンと震わせてしまう。
すると何も持っていなかった筈の右手には一枚のカード――らしきものが。これがムータである。少し重量のある、固くて平たい物なのだから、カードで間違いはないのだが。
ただ、そのムータは低く唸るような音を発しながら青白く点滅していた。それを見た昭士の表情が凍りつく。
『≒#≪&∽ま、聞こえますか、アキシ様!?』
ムータが現れた途端、電話から聞こえるスオーラの言葉が理解できるようになった。昭士は電話の向こうのスオーラに、
「お、お、落ち着いて、スオーラ。き聞こえてるから」
今度は大してドモらず落ち着いて話せたからか、向こうも少しは落ち着いたらしく、
『申し訳ございません、アキシ様。エッセが現れました!』
やっぱりそうか。昭士はようやく点滅が終わったムータを見ながらそう思った。エッセがどこかに現れるとムータがこうして点滅して教えてくれるのである。
だが教えてくれるのはその出現のみで、どこに現れたのかまでは判らない。おまけに今いる世界に存在しない生物を模したエッセだった場合は点滅すらしないケースもある。その辺りはあまり頼りにならないのだ。
「ど、どど、ど、どこか判るの!?」
『ここから一二〇〇キロ離れたペッシェペーコラ国に現れたようなのですが……』
スオーラの困り果てた声が昭士の心をも締めつける。
エッセが現れていられるのはそれほど長い時間ではない。一度消えた後はその近くに再度現れる事が多いので待ち構える事は不可能ではないものの、いつ現れるかは神のみぞ知る。
加えて百年は昔の文明レベルしかないオルトラ世界では一二〇〇キロもの距離を移動するだけで何日もかかってしまう。一応飛行船がある事は確認しているが、それを使えたとしても到着は間違いなく半日から一日は先だ。
スオーラの性分から察するに、その間にどうしても出てしまう被害者の事が気にかかるだろう。一刻も早くと焦りたくなる状況が重なれば、確かに精神的によろしくない。
そこでふと思い当たった事がある。
ムータの点滅はエッセの出現を教えてはくれるが場所は教えてくれない。だがスオーラは確かに「一二〇〇キロ離れたペッシェペーコラ国に現れた」と言った。あちらの世界はこの世界程情報の伝達スピードは早くない筈なのに。
昭士がそれを問うとスオーラは得意げに続ける。
『実は先ほどモバイル・バッテリーの充電が終わりまして。早速ナビゲーション機を動かしてみました。仕組みなどは判りませんが、急にペッシェペーコラ国の地図が表示され、ムータの点滅に合わせて印が浮かびましたので、おそらくは』
モバイル・バッテリーも携帯型のナビゲーション機も何故かオルトラ世界(それも三百年前の!)で使われていたもの。しかも使用者は昭士の前に同じムータを使っていたらしい戦士。
確かに仕組みこそ判らないが、それならスオーラがそう判断しても無理はない。こう見えても彼女は要領もいいし適応力も高い。実際今こうしてかけている「携帯電話」もすぐに操作法をマスターした。
しかしスオーラは急に声のトーンを落とすと、
『……実はわたくしのニセモノを騙る人物が現在逃走中らしく、本物が飛び出しては混乱するだけだと言われて、外出を禁止されてしまっているのです』
オルトラ世界にこちらの世界の重機がワープ。それが盗まれたという事件は聞いていたが、初耳の事を言われ、昭士は思わず声を挙げて驚く。
だがスオーラの性格上、いくらエッセが現れたといっても、強行突破して現場へ向かうような真似は心苦しくてできまい。
しかしこうと決めると猪突猛進する性分なのは知っているので、飛び出して行くのも時間の問題だろうと、昭士は声に出さず思う。
昭士の方もさすがに合宿の真っ最中。抜け出して戦いに行くには一二〇〇キロはあまりに遠すぎる。
「……ジェ、ジェーニオに頼む?」
『さすがの我でも一二〇〇キロは時間がかかるぞ』
いきなり電話から聞こえてきた男の声。思わずギョッとしてしまった昭士は携帯電話を離し、通話中の画面を見てしまう。もちろんちゃんと「スオーラと会話中」と表示されている。
だが同時にアラビアの民族衣裳のような姿の二頭身の男がちょこんと表示されていた。
昭士は手で通話口を覆うようにすると小声で、
「ジェジェ、ジェーニオ、おどどど、驚かすな」
そう。急に会話に割り込んできたその声こそジェーニオである。
元々オルトラ世界にあるサッビアレーナという国に伝わっている精霊で、半分が男半分が女という姿をしている。昭士の世界では男性と女性の二体に分かれてしまうようだが。
機械、というより電波との相性が特に良いらしく、昭士やスオーラの携帯の中にアプリケーションのように居座っている。
だが元々はサッビアレーナの伝説にあるマージコ盗賊団の仲間。そう。美和の部下である。もっとも今は盗賊団はないし、昭士達のサポートという役目を負っているので盗賊稼業はしていないようだが。
精霊というだけはあり、常人を越えた数々の能力を持つジェーニオだが、さすがに一二〇〇キロの移動は大変だろう。
『……ああ、地図から印が消えました。どうやら姿を消してしまったようですね』
スオーラの残念そうな声が電話から聞こえてくる。昭士も内心でホッとしていると、
『外出はまだできませんが、殿下を通じてペッシェペーコラ国に問い合わせてみようと思います』
『では我もインターネットとやらで調べてみるとしよう。さらばだ』
スオーラとジェーニオの声がして通話は切れた。昭士が何か言うよりも早く。
そして道着の内ポケットに携帯電話をしまいながら、背中に貼りつくようにしている撫子を始めとする数人の部員達に向かって、
「あ、あの。でで、電話終わりましたんで」
少し口を突き出せば触れ合いそうな程の近距離。見知った顔とはいえさすがに抵抗感はある。彼等は昭士から離れながら、
「スオーラちゃん元気だった?」
「少しくらい俺にも話しさせろよ」
「ここに呼んでくれよ、頼むから」
などとブツブツ文句を言っている。
ここにいる部員達はスオーラの事を知っている。スオーラが初めてこちらの世界に来た時に会っているからだ。
さらに彼女を不必要な騒ぎに巻き込まぬよう、その正体を知られぬよう尽力すると約束してくれている。
この昭士を取り囲むような「人壁」もその一環……なのは一応理解できるのだが、見知らぬ学校の面々が「何やってるんだ」と聞きたそうにこちらを見ているのを見てしまうと、彼等が逆に騒ぎを大きくしていそうな気がしてくる。
「何をしているんですか?」
かなりトゲのある、聞き覚えのある口調。その声に皆がそちらを向くと、そこに立っていたのは同じ剣道部員の鹿骨(ししぼね)ゆたかだった。
古風な印象を持つゆえに道着が非常に似合っているが、普段の服装を知っている者は彼女のスタイルの良さの方もよく知っている。
だが一貫して男嫌いで通しており、昭士達男子部員を見る目は実に冷ややかだ。同じ女子の撫子はそんな視線をものともせず「おっ、追いついたか」とケラケラ笑っている。
それから走って来たにも関わらず少しも着崩れていない道着を見て、
「何でお前そんなにピシッとしてるんだよ」
「あなたが無駄に動き過ぎなだけです」
だいぶ呆れ気味に、しかしビシッと厳しく言ってのけるゆたか。
「そうそう。剣道の足捌(さば)きがちゃんとできてれば、結構崩れないぞ?」
ゆたかの後ろには三年生の女子部員・岡 忍(おかしのぶ)も腕組みをして立っている。
足捌きとは簡単に言えば足の動かし方である。剣道の基本中の基本であるが、これができるのとできないのとでは攻撃や防御の際の動きに雲泥の差ができる。
ゆたかはそれが(レベルはともかく)できており、撫子はできていないという事にもなる。イコール撫子の方が実力が下という意味でもあるので、さすがの彼女も少しばかりムッとしている。
「だいたい、こんな隅っこでなにコソコソしてんだ。時間ないんだからとっとと行くぞ!」
堂々とした事が好きな目立ちたがり屋な性分のためか、必要以上に大声かつ演技も過剰気味である。そのため他の学校やこの神社の人間の目まで引いている。
部員達は「しょーがねーか」とブツブツ言いながら、再び石段を登って行く作業に向かう。
そんな部員達の後ろに着いて行こうとした昭士だが、忍が肩を掴んでそれを止める。
「あっ、あ、あ、あの。な、なに何か?」
ドモりのせいで女性に免疫のない純情少年のようなリアクションになってしまう昭士。それを見て小さく吹き出した忍は、
「今度スオーラちゃんがこっちに来たらさ、海かプールにでも行こうって言っといて」
別に昭士だけがスオーラと連絡がとれる訳ではない。彼女達もスオーラの携帯電話の番号は知っている。
だがスオーラはこちらの言葉は判るが文字が理解できないのでメールやLINEといった文字でやりとりする方法が使えない。そのため頻繁な連絡はしないよう気を使っているのだ。
とはいえ現在はジェーニオの力で文字を即時翻訳できるようになっているものの、この人気を考えて昭士はこの事を話していない。
「安心しろ、荷物番でお前も一緒に連れてってやるから、水着姿くらいは拝ませてやる」
「ついでにこいつの水着姿もどうだ? エロいぞ?」
ひょいと会話に加わってきた撫子が、後ろからゆたかの胸を鷲掴みにする。ゆたかは「止めて下さい」と言いながらかなり強く肘で撫子を攻撃する。女同士の微笑ましい(?)やりとりだ。
ゆたかはさっき以上に冷ややかで嫌悪感むき出しの目で昭士を睨みつける。その視線は「想像するな」という怒りと「絶対スオーラを連れてこい」という脅迫の二つの意味があった。
それが判った昭士は「聞くだけ聞いておきます」とぼやかした返事をすると、先を行く男子部員達の後を追いかけた。


結局昭士達剣道部員は、どうにか制限時間ギリギリに合宿所に到着できたので、全員昼食には間に合った。
しかしかなり疲れており、お腹は空いているが食べる気力がない、という有様だった。特に一年生は。
合宿所の昼食はそれを見込んでいたのか、メニューはまぜご飯のおにぎりと具沢山の味噌汁だけである。昭士も具沢山の味噌汁だけはどうにか腹に入れた。
たかだか石段を延々と登って戻ってくるだけなのに、これほどまでに疲れるとは。体力には自信があったのに。想像を遥かに越えていた。一年生部員の表情がそう語っている。
それを見た三年生の部員達は「そのうち慣れるよ」と苦笑いを浮かべている。きっと二年前の自分達を思い出しているのだろう。
一方で撫子だけは必要以上に元気に振舞っており、皆が残しているおにぎりを「食べないならオレにくれ」と断わっては口に放り込んでいる。
その様子に大半の部員は「……元気なヤツだなぁ」と完全に呆れている。
だがこれは合宿である。練習メニューはこれだけではない。これから午後の練習メニューが待っているのだ。
そんなところに顧問の小糸がひょっこりと現れ、
「メシ食ったら次は体育館に集合な。遅れるなよ」
そう言い残してさっさと体育館の方に向かって行った。それをゲッソリとした表情で見送る部員達。
「……先生は走ってないモンなー」
誰かが発したその言葉は、部員全員の本意であったろう。
そんな見送りに参加していなかった戎は、相変わらずスマホをいじっている。さすがに山の中よりは繋がりやすいようで、さっきのような不満な顔はしていない。
「おっ、何か面白いニュースはないか?」
一年生程には疲労を見せていない部長の沢が、彼のスマホの画面を覗き込む。戎は画面をなぞる動作をしたまま、
「面白い、ですか? 今のところは特に……おい、角田!」
いきなり名前を呼ばれた昭士は疲れで少しふらつく足取りで戎の元に向かう。彼の顔は極めて真面目、真剣そのものだ。
戎はやって来た昭士に、自分のスマホの画面を突きつける。周囲の部員達も釣られたように、そして何となく集まってくる。
それはツイッターの画面だった。短い文章の下に写真が添えられている。
文章は昭士には判らない韓国語だったので無視し、写真を見てみた。
それは古臭さを感じるロボットの写真だった。マンガのコマやアニメのセル画ではない。青空の元で堂々と立っている(らしい)ロボットのアップの写真だ。
「ナニコレ。マジンガー? にしちゃ変だな」
昭士と一緒に画面を覗き込む誰かが呟く。
昭士もあまり詳しくはないが、それでも一九七〇年代に放送されていたロボットっぽく見えなくもない。「懐かしのアニメ」的な特番でなら見た覚えがある。そんな感じなのだ。
「韓国のロボットアニメに出てくるロボットだよ。あっちじゃ二分の一サイズの像が建ってる。日本のロボのデザイン丸パクリでそのスジじゃメチャクチャ有名なヤツ」
と戎が説明を入れる。
周りの部員の大半は、そんなロボットの写真を昭士に見せた理由が判っていない。だが昭士はすぐに判った。そこには見るからに怪しいものが写っていたのだ。
それはロボットの肩にちょこんと乗っているウサギ。それも人間のように直立している。
それだけならまだ良かった。そのウサギは明らかに全身が金属光沢を放っていたのだ。その光沢、昭士には忘れようとしても忘れよう筈もないもの。
そう。その金属光沢は明らかに謎の侵略者・エッセ特有の代物だったからだ。
「コレ……もしかして」
「う、う、う、うん。たた多分」
昭士はこのツイッターにあった写真を自分の携帯電話に送ってもらうよう頼む。
「文章も訳そうか?」
「たた、頼みます」
戎はちょいちょいと画面をなぞり出す。そして再び昭士に画面を向けた時には、どこかのウェブサイトが表示されていた。
タイトルらしい大きく太い文字で“TWOKAEN Λ”と書かれている。読み方は知らない。英語ではなさそうだという事が判ったくらいだ。
トップに堂々と載っている写真(というよりアニメのパッケージか何かだろう)は、本当に一九七〇年代に日本で放送されていた、いわゆる「懐かしのロボットアニメ」に登場するロボットのデザインを何のひねりもなく繋ぎ合わせたようなロボットである。
これが先程の像の元ネタとなったアニメの事をネタにした日本語のサイト、らしい。
全長:56メートル 重量:1400t 飛行:マッハ1.2 などといったスペックが書かれているが、昭士はそれらをほとんど読まずに飛ばしていく。
「韓国じゃロボットアニメの元祖と云われてるけど、同時に日本のをパクっただけとも叩かれてる、複雑な作品らしい」
事実それで日本と色々もめた事もあるようだ。それでも像が建ってしまうのだから、あちらでは今でも人気があるのだろう。
戎は再びスマホを操作し、昭士の携帯にそれらを送る作業に取りかかる。
そこで昭士の携帯電話が鳴った。マナーモードなので震えるだけだが。
昭士は電話を取り出す。だが蓋についた小さな画面には誰からの着信なのか表示されていない。今のメールであれば「戎」と表示される筈だし、そうでなくとも何らかの字が出る筈なのだ。
首をかしげながらも皆から少し離れて電話に出る。
「も、もも、もしもし」
『調べて来たぞ』
短く簡潔な言葉。ジェーニオ(男性体)からだ。
『この世界で「大韓民国」と呼ばれている場所に、エッセが現れたようだ』
ジェーニオの言葉に昭士の表情が固まる。
『現れたのはグレムリンの姿をしたエッセのようだな』
「グググ、グレムリン!?」
昭士は大声を上げそうになるのを必死に我慢し、しかし驚きの声で電話の相手(?)に訴える。
先程美和が言っていた謎の首なし死体。その後その姿のエッセが現れる。まさしくその通りの流れになっている。
グレムリンの「本物」を見た事はもちろんない。ゲームに登場するグレムリンは小鬼のような外見をしていたが。
『グレムリンとは耳と後ろ足が大きな直立したウサギの姿をしている妖精だ。服を着ている事が多いが、それがなくとも模様のないまばらな体毛で普通のウサギとの区別は容易だ』
ジェーニオのその解説はあくまでもオルトラ世界での姿だろう。昭士はたった今見たばかりの「直立しているウサギ」を思い浮かべた。体毛云々は判らないが、まさしくその通りではないか。
『……今メールが届いたな。写真がついている。まさしくこれがグレムリンだ』
昭士は耳から電話を離して画面を見る。するとジェーニオも心得たもので、メールに添付された写真をすぐに表示してくれた。それは確かに戎から送ってもらったあの写真だ。
昭士は再び電話を耳に当て、ジェーニオの言葉を待つ。
『この写真に写っている「ロボット」という物の像だが、グレムリンはこれを乗っ取ったようだな。元々手先が器用でこうしたからくりをいじるのが好きなのだが、自己表現が苦手らしく他人の前に姿を現わす事は極めて珍しいと言える』
こちらの世界のグレムリン――イタズラをして機械を壊してしまう妖精――とだいたい同じような特徴である。
だがロボットの像を「乗っ取った」とはどういう事だろう。確かにロボットは機械であるが、これはタダの像である。像を乗っ取ったところで何ができる訳でもないだろう。
そんな昭士の疑問を見抜いたかのようにジェーニオは続ける。
『このロボットの像は、一日三回両腕を高く振り上げるポーズをするらしい。そのため腕は稼動する。その時間は写真や動画に収めようとする人間で一杯になるそうだ』
昭士にもその光景は容易に想像がついた。さしてロボットに興味のない人間でも、そんな光景に出くわせば写真の一つも撮りたくなるだろう。
だが、腕が動くだけのロボットを乗っ取ったところで何ができるのだろう。昭士の疑問はますます深くなるばかりだ。
だからその気持ちが正直に出てしまった。
「エ、エ、エッセはそんなロボをの乗っ取って、な何をする気だろう」
『それこそ本人に聞かねば判らんな。話ができれば、の話だが』
間髪入れないジェーニオのそっけない返事。だがすぐに、
『だが聞くのは難しかろう。このロボを乗っ取って、空を飛んで行ったようだからな』
「はぁ!?」
この言葉にはさすがの昭士も大声を上げてしまった。当たり前である。
腕を動かすのが精一杯の像が、どこをどうやれば空を飛ぶ事ができるのやら。
確かにそのロボットはマッハ1.2で飛べると書いてあったが、それはあくまでもアニメの中での設定。実際の像が、全長二〇メートルのロボットがそんな速度で飛べる訳がないのだ。
『事実、先程グレムリンの姿を写した写真が撮影されたのは現地時間で午前十時五分。この国との時差はほとんどないのでほぼ同時刻だ。その直後に像は空へ飛び立った』
十時過ぎといえば、確かにムータが鳴ってエッセの出現を知らせた頃だ。
スオーラは初めて聞いたあちらの国の名を言っていたが、こちらとオルトラ世界は位置的にはリンクしている。日本から韓国までは確かに一二〇〇キロくらいはある。
さしものナビゲーション機も別の世界の地名までは手に負えなかったようである。
『だがその像は急に海の真ん中で落下して沈んだそうだ。おそらくエッセの出現時間が限界に達して姿を消したためだろう』
ドジな強盗の顛末を聞いた時のような、笑いの込み上げる脱力感、とでも言えば良いのか。
本来不倶戴天の仇敵の筈のエッセが、急にカッコつけてるだけの情けない悪役のように思えてしまった。
だがその情けない悪役の能力は決して情けなくなどない。むしろ人類の脅威としか言い様がないものだ。
とはいえ。姿を消してしまった以上、今の昭士達には出番もなければ、できる事もない。
『我には良く判らぬが、この像は国のプライドそのものと言っている。それゆえ空を飛んでどこかへ行ってしまったという事を隠したいのだろう。その場にいた者達が片っ端から拘留され、こうした携帯電話などの機器を取り上げられているようだ』
まるで実際に見て来たかのような物言いである。だがジェーニオにとっては電波のように移動する事も周囲の人間から見えぬよう姿を消す事なども雑作もない。実際見て来たとしても疑う余地はない。その能力はとても有難いものだ。
だがジェーニオがいなくとも、そのうちそうした情報が手に入ったかもしれない。
何せ機械を取り上げているのに、先程のような写真がインターネット上に流出しているのだから。きっとそのうち「空を飛んだ瞬間」だの「海に落ちた瞬間」だのの写真や動画がネット上に流出するに違いない。
だから昭士は苦笑するしかなかったのだ。
ジェーニオの言葉に。

<つづく>


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