『昔と今のリレイション 前編』

週末の放課後。
いそいそと帰り支度をしている相良宗介に、クラスメートの千鳥かなめが話しかけた。
「ね、ソースケ。今晩なんだけど、空いてる?」
宗介はデジタル通信機を入れようとした手を止め、彼女の方を向いた。
「空いているが。何かあったのか?」
いつも通りのむっつり顔――それでもどこか穏やかな目で見つめられ、かなめが一瞬きょとんとしてしまう。
「あ、別に、何もないんだけどさ」
彼女はすっと視線をそらし、「えー」とか「うー」とかうなって口ごもってしまう。
「何もないのか」
急に感心がなくなったかのように、帰り支度を再開する宗介。かなめは慌てて、
「そうじゃなくて、そっちは何か『仕事』あるの?」
その部分だけ辺りをはばかった小声で訊ねる。
彼女の言った「仕事」が、アルバイトや副業などという物でない事を知っているからだ。
そう。人の生き死にで糧を得る「傭兵」。それも、極秘の対テロ組織<ミスリル>に属する軍曹。
それがこの校内ではかなめのみが知る、相良宗介の正体なのである。
「いや。今夜は何も任務は入っていないぞ。空いていると言った筈だが」
今度は宗介の方がきょとんとしてかなめを見ている。
彼女はその答えにどこかホッとしたものの、やっぱり「あー」だの「えー」だのと言い淀んでしまう。それでも黙って彼女の言葉を待つ宗介に、ようやく、
「……よかったら、晩ごはんうちで食べない? 明日休みでしょ? キョーコとミズキも呼ぶつもりだし、みんなでパーッとやろうよ」
照れも手伝って、これだけ言うのにずいぶんとかかってしまった。
かなめの母は死去。父は仕事の関係でニューヨーク暮らし。妹も今はその父と暮らしている。そう。かなめは一人暮らしも同然の身の上なのだ。
一方宗介も一人暮らしだし、彼が住んでいるのはかなめのマンションと都道を挟んだ向かいのマンション。
一人暮らし同士で近所という事もあり、こういうケースも稀ではない。宗介は少しの間考えると、
「了解した。今晩君の家に行く」
とびきりとまではいかないものの、容姿もスタイルも料理の腕前も間違いなく平均値以上の女の子から夕食のお誘いだというのに、相変わらず淡々とした態度である。
だが、ここで笑顔で「喜んで」などと言う方が逆に不気味に思えてしまうのが宗介である。
かなめは、そんな想像が浮かび上がった頭をこつんと叩き、
「はは、ありがと。おいしいもの作って待ってるからね」
呆れはしたものの、何となく宗介の肩をポンと叩いて、かなめは足早に教室を出て行く。そして、教室の入口で爽やかな笑顔で振り向くと、
「ちゃんと来ないと……ぐりゃんぐりゃんに殴り飛ばすからね♪」
爽やかな笑顔で言う台詞とは思えないが、笑顔で言われる方が怖いという事もある。
笑顔の理由は判らなくても、その怖さだけはストレートに伝わったらしく、宗介は背筋をゾッとさせてわずかに顔を青くした。


帰宅した宗介は、部屋のノートパソコンを起動させ、届いているメールをチェックする。
メールの受信はすぐに終わった。その中にある旧知の武器商人・ベアールからのメールが目に止まった。マウスを操作してそのメールを開く。
「……アーマントゥルードか」
メール本文を読んでいた宗介が、文中にあった名前を呟く。
アーマントゥルード・リー。傭兵。
れっきとした男なのだが、アーマントゥルードというのは女性につける名前である。彼がなぜ女性名なのか。それは誰も知らない事だし、偽名か本名かもはっきりしない。
彼と初めて会ったのは、かれこれ二年も前の話。
銃はあまり得意ではなかったが、サバイバル術とナイフ・コンバット、それに交渉事にも長けた、中性的な長身の男だ。
本人は日系四世だと言ってはばからなかったが、天然のプラチナ・ブロンドをなびかせてそう言われても、説得力などカケラもない。ただ、大層な親日家である事は確からしい。
酒は一滴も飲まなかったが、タバコは戦闘中でも平気で吸っていた。
宗介自身あまり他人と親しくつき合う性分ではなかったが、一〇代半ばの東洋人傭兵という珍しさもあって、向こうから興味本意で近づいてくる者は割といた。
彼もその中の一人だったが、宗介のぶっきらぼうな態度に呆れる者が多かった中、気さくに話しかけてくる方だった。
「戦ってない時くらい笑えよ」
「タバコは精神安定剤。ヒルやヘビ除けにも使えるから、お前も持っておけよ」
「ナイフってのは振り回すんじゃない。刃を叩きつけるんだ。少なくとも、俺はそうしてる」
変に訛った英語で話す彼の言葉が宗介の脳裏に蘇る。
その誰にでも屈託なく話す態度と、女性にも見える中性的な容姿は嫌われる要素にはならなかった。
当時宗介がいた部隊がろくな装備もなく荒野のまっただ中に放り出された時、彼の卓越したサバイバル技術がなければ、とても一四人全員は生き残れなかっただろう。
武器弾薬が不足した時も、彼の交渉術のおかげで安く手に入った物も多かった。
助けられる度にいちいち礼など言っていられない傭兵稼業だが、彼から教わった数々の技術は今でも宗介の中で生きている事は間違いないのだ。
メールの本文には、アーマントゥルードが脚を怪我をして傭兵をリタイアした事。自分と連絡を取りたがっている事等が記されてある。
文面の最後に「ここに連絡してくれ」と言わんばかりのメール・アドレスが記載されていた。
向こうは善意のつもりだろうが、知った仲だという事を利用して、自分の命を狙ってくる可能性だってゼロではないのがこの業界なのだ。
疑り深いと思うかもしれないが、しばらく会わない間に、人間はいくらでも変わる。警戒だけは充分にしておかねばならない。
「リタイア、か……」
知らずに口を出た言葉に、宗介自身がわずかに驚く。
仮の身分とはいえこうして学生をしてはいるものの、やはり自分は傭兵。言うなれば人殺しだ。
自分が彼のように怪我で傭兵稼業が続けられなくなった時、もしくは運良くリタイアできた時、彼の様に他の道を選ぶ事ができるのだろうか。
(戦う事しかできない俺には、とてもそんな真似はできそうにないな)
自分が物心ついた頃から、傍らには戦争と銃器があった。その中で人の命を奪う事で生きてきたのだ。
そんな自分の過去を思い返し、自嘲気味にため息をついた。


夜七時。
宗介がかなめのマンションを訪れる。インターホンごしに二言三言会話をすると、すぐにドアが開いた。
「いらっしゃい、ソースケ」
かなめが明るい笑顔で出迎える。だがその奥からガンガン聞こえてくるのはドラムやエレキギターの音。
宗介は音楽にはうといので判らないが、以前かなめが貸してくれたロック・バンドのCDを思い出し、同じような物かと思った。
だが、こうまでガンガンかけているというのは珍しい事だった。
宗介がかなめの家に上がってその事を問おうとした時に漂ってきた香り。
鼻に微かにつんとくる酸味と甘味を含んだ、何とも不思議な香り。宗介の記憶にはない香りだった。
「千鳥。これは……」
「あ、相良くん」
かなめではなく、既に来ていた常盤恭子が彼に声をかける。
「相良くんもカナちゃんに言ってよぉ。カナちゃんさっきからずーっとこのバンドのCDかけっぱなしなんだよ」
ムッとするというよりは呆れているのだろう。困った顔の恭子が宗介に訴える。
「そーねー。いくら何でも『こればっかり』ってのはねぇ」
同じく既に来ていた稲葉瑞樹も同じように呆れ顔で座っていた。
「ま、いーじゃないいーじゃない。買ったばっかりのCDなんだから。ほら、さっさと席につく!」
部屋の主人であるかなめの号令で、かなめ以外の一同はのろのろと席につく。
テーブルの中央にはご飯の入った木の器(寿司飯台というのだが)がドンと置かれており、それを取り囲むように四角く切った海苔、かいわれ大根、キュウリ、ペースト状の梅干し、細長く切ったマグロなどなどが盛られた小皿が並べられている。
「手巻き寿司か。大勢いないとこういう料理って作れないもんね。カナメも久しぶりなんじゃない?」
瑞樹がうんうんとうなづいている。かなめも照れくさそうにうなづくと、
「確かに。こういう料理って一人で食べても味気ないだけだし」
「でもカナちゃんすごいよね。あたし達じゃ酢飯なんて作れないもん」
つやつやとしたおいしそうな酢飯を見て、恭子が目を輝かせる。
「けど、今は合わせ酢だって粉末のが売ってるし。そんなに難しくないわよ」
炊きたてのご飯に合わせ酢をかけ、時折うちわなどで扇いで冷やしながら切るように混ぜる。技術よりも根気と体力のいる作業だ。
実はその時にちょっとでも楽をしようと、扇風機を使った事は内緒にしている。
宗介は彼女達の会話に入らず、じっとテーブルの上を見つめていた。
「あれ、ソースケ。あんた手巻き寿司って食べた事ないんだ?」
海外の紛争地帯と戦場で今までを過ごしてきた宗介は、日本のあらゆる事が極端に判っていない。
それが元で起こした勘違いが原因で時折騒ぎを巻き起こしてしまうのだが、その度にかなめが腕ずくで彼を止め、叱り、たしなめているのだ。
戦場育ちのはた迷惑な帰国子女。それがかなめ以外の人間が見る相良宗介の姿である。
実際手巻き寿司は初めてだった宗介は、素直にそれを告げる。かなめは海苔を手に取ると、
「いい? こうやってね……」
彼に見せながら酢飯を乗せ、キュウリとかいわれ大根を乗せ、くるりと斜めに巻いた。
ぴしりと一部の隙もなく巻かれた手巻き寿司は、まるで花束のようだ。それを丁寧に彼に持たせる。
「で、そのまま食べる」
宗介は言われた通り、手巻き寿司にかぶりついた。しばらくもごもごとやった後、
「……うまい」
相変わらず淡々とした呟くような声だったが、その目はどこか幸せそうに見えた。
もっとも、その微妙すぎる変化に気がついたのは、かなめだけだろう。
そのかなめのかいがいしい様子を、瑞樹と恭子はにやにやと笑いながら見ている。
「見ましたか見ましたか、キョーコさん」
「何ともラブラブな雰囲気ですよねぇ」
「見せつけてくれやがりますよねぇ?」
「テーブルの向こうが別世界ですものねぇ」
実際瑞樹と恭子が座る反対側に、隣同士でかなめと宗介が座っているのだ。
いつもならこういうノリで話していると、かなめは力一杯意地になって「そんなんじゃない!」と全否定してくるのだが、
「今日は機嫌がいいから気にしないもんね」
口の端を引きつらせた笑みを浮かべ、海苔を二人に差し出していた。
(そんなにこのCDがいいのか)
二人は少々呆気に取られたものの、それ以上茶化すのはやめにしておいた。


食事そのものは何の異常もなく進んでいた。
不格好に巻いてしまったので笑い、バカな話をしては笑い。そして、宗介の事でかなめがからかわれたり。
異常らしい異常といえば、食べているのは純和食の手巻き寿司なのに、そのバックにかかっているのが典型的なロックだという部分くらいである。ちなみに歌詞は全部英語だ。
しつこく言及すると、さすがにかなめも「うはははは」でごまかさずに口を開いた。
「元々は、アメリカから日本に留学とか転勤とかした人が集まって作った『FOREIGNERS』ってバンドなんだって」
かなめ自身も人から聞いた知識を披露する。
ちなみに「FOREIGNERS」とは「外国人達」とそのものズバリな名前だ。
「最初はホームページで曲を紹介したり配信するだけだったんだけど、そういう形態が珍しいって雑誌に取り上げられたところから火がついてね。インディーズとはいえ、そこそこの人気が出たの。今じゃ半分プロみたいなもんね」
インディーズとは(主に)セミプロやアマチュアのアーティストによる自主製作のCDの事を差す。
最近はパソコンの普及と発達で、専門の録音スタジオなどを使わなくても、以前に比べれば割と簡単にそういった作業ができるようになった。
インディーズのCDを製作する会社もあるが、それでも自主製作は自主製作だ。
通常のプロのアーティスト達が出すCDと違って生産数も少ないし、流通経路も入手方法もかなり限られる。まさに「知る人ぞ知る」と形容するのが適当かもしれない。
そう思ってCDのジャケットを良く見てみれば、一般に売られているCDとはどこか違って――悪く言えば何となく安っぽい気がした。
「……で、あたしが良く行く輸入モノのCDを置いてる店でも、インディーズのCDを少しだけ扱っててね。そこで知ったのよ」
店内でかかっていたこのバンドの曲に、いわゆる「一目惚れ」をしたのである。いや。曲だから「一聞惚れ」と書くべきだろうか。
「ふーん。確かにここのところのインターネットってすごいけど、そういう人もいるんだね」
いわば現代のサクセス・ストーリーに、恭子がしみじみと感想を述べる。
「最近はロックだけじゃなくて、他にも色々やってるみたいなんだ」
それから各メンバーのプロフィールやらホームページに掲載されている日記や裏話までネタにして、容赦なくガンガン話してくる。
その様はまさに「洗脳」と言ってもいいテンションである。
「……ちょっと前にライブのチケットを発売してたみたいなんだけど。あたしが初めてアクセスした時には、もう発売終わっててさぁ」
心底悔しそうに語ってコップに注いだドクター・ペッパーをあおる様は、居酒屋でいい感じに酔ってくだを巻く中年サラリーマンを彷佛とさせた。
「悔しいったらないわよ。やっぱりこういうバンドの曲はライブが一番なんだから」
恭子と瑞樹は彼女のノリに合わせて適当にうなづいている。
ちなみに宗介は黙々と手巻き寿司を作ってはほおばっているだけで、会話には加わっていない。
「……けどさぁ」
そこでかなめのテンションが落ち、表情も曇る。悲しそうというよりはちょっと困った様子だ。
「けど、何だ?」
言葉を濁したかなめに、宗介が訊ねる。
「……急にホームページが見られなくなってねぇ」
そのバンドのホームページのアドレスは、買ってきたCDのジャケットにも書かれているし、自分のパソコンのブラウザの「お気に入り」に入れてある。
前に一度見られたのだからアドレスが違っているという事もないだろうし、それなりに知られたバンドのホームページが、何の予告や告知もなく移転や閉鎖をする確率も低いだろう。
にもかかわらず、急に見られなくなってしまったのである。不思議に思うのも無理はないだろう。
だが、かなめはパソコンの知識はたいして持っていない。たまにメールを出したり、ちょこちょこっとホームページを見るくらいにしか使っていないのだから、その知識の程も知れよう。
「ね、ソースケ。あんたパソコン判る?」
「全く判らない訳ではないが。急に見られなくなったというだけではな」
少し考えてからそう答えた宗介。かなめは何となく彼の手元に目をやった。その途端、かなめは宗介の手巻き寿司の巻き方に小さな憤りを感じてしまった。
まず海苔をテーブルの上に置く。
それから海苔の半分にご飯を乗せる。若干多めだがこれは問題ない。ちょっと少ない方がうまく巻けると説明しておいたのだが。
次に具を乗せる。これも問題ない。やはり若干多めのような気もするが。
宗介はそれをくるりと巻くのではなく、何も乗せてない方を持ち上げてぱたんと二つに折っていたのだ。
確かに手巻き寿司はどう作ろうとどう巻こうと個人の自由だ。でも手「巻き」寿司というくらいだから、やっぱり巻いてほしいという彼女なりのこだわりがあった。
「ね、ソースケ。何で巻かないの?」
かなめは話を中断して、ストレートに訊ねてみた。宗介は食べようとした動作を止め、かなめに向き直ると、
「巻かなければいけないのか?」
「いや。そういう意味じゃないけど。やっぱり『手巻き寿司』なんだから、巻いた方が……」
「そういえばさ。相良くんって手巻き寿司は初めてなんでしょ? それにしては何か手つきがいいなって思ったんだけど?」
彼の正面に座っていた恭子が疑問点を口にする。確かに初めてにしてはぎこちなさが全くないのだ。特に手先が不器用という事はないのだが、飲み込みが早いという訳ではない。
まるで、昔から何度もやっているかのような、危なげない手慣れた雰囲気すら感じる。宗介は恭子の問いに、
「手巻き寿司を食べた事はないが、ナンならば、アフガンで食べていた」
少し目を伏せて静かにそう語る。
「ナンって、インド料理とかで出てくる、あの平ベったいパン?」
瑞樹が以前見たナンを思い浮かべながら訊ねる。
「肯定だ。インドだけでなく、中央アジアや西アジアでは主食も同然の食べ物だ。アフガンでは食べ物そのものの事をナンと呼ぶ事もある」
ちょっとしたうんちくめいた知識を披露する宗介。
「そのまま食べる事もあるが、焼いた肉や煮物をくるんだり、カレー等の汁物につけて食べる。大きさや厚さはいろいろあるのだが、食べ方はどれも大差ない」
「あ、なるほど。『くるんで食べる』っていうのは慣れてる訳だね」
恭子がうんうんと納得している。
「へぇ。変な干し肉とかカロリーメイトしか食べてなかった訳じゃないんだ」
かなめも意外な一面を見たかのように感心している。
以前カレーを作った時「できればパンがいい」と言って退かなかった事があるのだが、この彼の主張は、こうした幼い頃からの食生活が多大な影響を与えていたのだろう。
日本人であるかなめはカレーといえばご飯だ。
もちろんそれは譲れない彼女の「こだわり」であるが、彼女と同じように、宗介が昔から馴染んでいるパンで食べたいと主張するのは当然の事だろう。
「でさ、相良くん。あっちの方の、何か面白い話とかない?」
恭子の無邪気な質問に、かなめの表情が凍りつく。
仕方のない事だ。恭子達は、物騒な紛争地帯で暮らしてきた風変わりな帰国子女だと思っているのだから。
苛烈な戦場で生きてきた傭兵で、現在も極秘の対テロ組織<ミスリル>に属する軍曹だと知らないのだから。
「ソースケ……」
かなめは不安そうに隣の宗介を見る。だが宗介は、そんなかなめの心配など気にもせず、
「ナンはある程度なら保存が可能なので、保存食代わりに持っていた。しかしナンは種類によっては五〇センチほどもあるし、色も黒っぽい。それを……雑巾と間違えられた事があった」
恭子や瑞樹はもちろん、かなめも思わず吹き出してしまった。
「それが縁で知りあった傭兵が先日、怪我でリタイアしたという連絡が、旧知の武器商人を通じて届いた」
縁は異なもの、と昔から云うが、実に奇妙な話である。確かに食べ物と雑巾を間違えられたのでは良い気分はすまい。最悪の出会いと言っていいだろう。
「……それで、その傭兵さん、今どうしてるの?」
「判らん」
恭子の問いにあっけないくらいあっさり答える宗介。
「知り合いなんでしょ?」
「確かに知り合いだが、まめに連絡を取り合っている訳ではない」
瑞樹の質問にも淡々と答える。
「連絡先が判らないとか?」
かなめが宗介に訊ねると、
「いや。それらしいメール・アドレスなら、届いたメールに書いてあった」
『連絡くらいしなさいって』
宗介の答えに、三人の少女達の意見が見事に一致する。彼は彼女達の態度に逆にきょとんとなり、
「そういう……ものなのか? 生死が判れば充分だろう?」
『そういうものなの!』
また三人が口を揃えて言い返してくる。
「ったくこれだから。帰ったらちゃんとその人に連絡しなさいよ。いいわね?」
まるで子供に言い聞かせるようにかなめが詰め寄る。
その時、かなめのPHSの呼出し音が小さく聞こえてきた。
彼女は自分の部屋へ小走りで向かい、机の上に起きっぱなしのPHSを取る。
食卓に残された三人は、何となくかなめの部屋の方を見ていた。部屋の方から小さく「あ、どうも」「ふんふん」と声が聞こえる。
誰か知り合いからの電話か、と納得して食事に戻ろうとした時、
「ホ、ホントですか――っ!!」
一オクターブは跳ね上がったかなめの絶叫が部屋から響いてきた。

<中編につづく>


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