「Baskerville FAN-TAIL the 11th.」 VS. Ghosha
イボテの鋭い声が砂浜に響いた。
ゴーシャの方は自然体の「無形」の構え。
バーナムの方は相手に対し体を横にして左腕を突きだし、右腕を引いた構え。この流派では「弓引絞(きゅういんこう)」と呼ばれる構えだ。
始めの合図はあったが、二人とも構えたままぴくりとも動かない。
周りが固唾を呑んで見守る中、二人は同時に動いた。二人の間合いの中央で互いの拳と蹴りとが凄まじい勢いでぶつかりあう。
正拳蹴上裏拳蹴降肘打膝蹴手刀回蹴貫手踵落とし……。
互いに防御を全く考えていない。相手の技を己の技で叩き返す、攻め一辺倒の戦い。二人の動きを見切るのも難しい。
さっきまでの静けさが嘘のようである。攻撃の音が離れたこちらにまで大きく響いてくる。
違いといえば、ゴーシャの方は相手に密着するような形で素早い打ち込みが多いのに対し、バーナムの方は少し距離をとってゆったりと、しかし鋭い動きの足技が多い事くらいか。
他の面々が見続ける中、グライダは若干拍子抜けしてしまっていた。別に想像以上に低レベルという訳ではない。
(何か、普通の試合だなぁ)
そう思った事は確かだ。
「お嬢さん。意外かね」
いつの間にか隣に立っていたイボテが言った。グライダは素直に、
「……はい。『四霊獣の拳』っていうくらいですから、何か、もっと、こう……凄いのを想像していたもので」
「ふむ。無理もなかろう」
彼は、グライダの言わんとする事を何となく理解した。
「人間の体の動きという物は、関節の動かせる範囲が決まっている以上、無数ではあっても無限ではない」
二人の戦いを見ながら、いきなりよく分からない解説を始める。
「その限りある動きの中で、最も効果的な動きで最も効果的な攻撃をするとなると……自然と数は限られてくる。『気』を使う『四霊獣の拳』と言っても、拳法である以上それは例外ではない。お嬢さんはどこかで見たような技ばかりだと思って拍子抜けしたのであろう?」
何も言っていないのにこれだけの説明をしてしまう老人。だが、それはグライダが思っていた事だ。
しかし、言われてみればその通りかもしれない。武器を使わないで戦うとなれば、身体の固い部分を相手にぶつけるのが多いだろう。その場所も動かし方も限られるのだ。
凄まじい打ち合いはまだ続いている。二人とも、どこにこんな体力があるのだろうかと思うくらいだ。
特に、バーナムはまともに修業らしいものをしているところを見た事がないだけに、一同の驚きようはなかった。
「あいつ……強かったんだ」
グライダは素直に感心していた。
「ええ。バーナム様はお強いですよ」
隣のスーシャが力を込めて答える。
「バーナム様は努力するところを決してお見せにはなりません。しかし、影で血のにじむような稽古をされておいでなのでしょう」
一方的に好いているせいもあり、かなり過大評価しているスーシャ。
「あのぐうたらが稽古なぞするものか」
師匠が真剣な顔で呟く。
「あいつは……ある意味不幸な人間かもしれん。この世の総てを傷つける事しか出来なかった。そういう奴じゃった」
師匠が、どこか遠い目をしていた。


今から十七年前。村にある四霊獣を祀った社(やしろ)の中で、一人の赤ん坊が発見された。
胸に縦に裂いたような傷跡が残る、生まれて間もない赤ん坊。
それがバーナムだったのだ。
村人全員が集まって話し合った結果、赤ん坊を見つけたフーツラ・ガラモンドが自分の息子として育てる事となる。
だが、赤ん坊に気をとられて人々は気付かなかったのだ。社に安置されていた筈の神器の一つ「龍の水晶玉」がなくなっていた事を。
この水晶玉は四霊獣の拳免許皆伝の証。持ち主の肉体の一部となって次の世代が育つまで力を貸し続けるという物だ。
もちろん村全体は誰が盗んだ、どこに行った、と大騒ぎ。奉っている神器がなくなったのだから当たり前である。
そんな時、まだ立てない筈のバーナムがふらりと立ち上がって、自分の胸を断ち割って人々に見せたのだ。自らの肉体に納められた「龍の水晶玉」を。
彼の心臓に当たる部分にその「龍の水晶玉」があったのだから、村人全員驚きを隠せなかった。
そして、彼は普通の人間とは思えない力をこの頃から発揮する事となる。
父親の腕にしがみつこうとすればその腕をいとも簡単に折り、何気なく叩いた分厚いテーブルをあっさりと叩き割り、泣いてじたばた暴れれば壁や床は壊れていく。
しかし、その強大な力に身体の方が耐えられず、同時にバーナム自身の腕もへし折れてしまう。だが、力を貸し与える水晶玉の力で瞬く間に完治してしまうのだ。
生まれながらにして「免許皆伝」と認められた運命の赤ん坊。
人間とは思えない強大な力を秘めた不思議な子供。
その為、古い文献に載っていた「力を抑える禁呪」の入墨を全身に施す事となった。
その結果、どうにか普通の人間並みの力を得る事に成功し、彼は本格的に修業を始めるのだった。


「バーナム様にそのような秘密が……」
スーシャも初めて聞く彼の過去に驚きを隠せないでいる。他の仲間も同様だ。
「強大な力を持つ者は、常に心身を鍛えねばならない。しかし、力とは常に己の内にしまいこむべきなのだ。力の制御が出来ぬ者に、武術を学ぶ資格などない。もっとも『制御』は四霊獣蛇亀の拳にも通じるところはあるがな」
彼のバーナムを見つめる目がすっと厳しいものになる。その視線の先にいるバーナムは対戦相手であるゴーシャと、今だ熾烈な打ち合いをしていた。
「あやつが全力を出し続けても大丈夫なのは、せいぜい三十分程度であろう。それを越えるとまずいな。特に、あやつは水晶玉の力による『変化』を二度も使って、封印もかなり緩くなっている。自力で封印を破ろうとすれば……どうなるかは分からん」
さすがに実力伯仲の者同士。お互い無傷という訳にはいかず、互いの身体に打ち込まれた跡が赤くなって残っている。ダメージが骨にまでいっていないのはさすがと誉めるべきか。
二人は同時にお互いの肩に一撃入れると、一旦離れて間合いを取った。そして始めのように構え、再び動かなくなる。
(何故……倒れない)
自分の向かいに立つ黒い髪の少年を睨みつけたままゴーシャは思った。相手から何発かの好打をもらってしまっているが、確実に自分の打撃は相手の力を奪っている筈だ。
四霊獣虎の拳の特徴は気の「放出」と素早さである。何気ない一撃に見えても、その攻撃総てに強大な「気」がこもっている。
その気は攻撃の威力を数倍に跳ね上げ、しかもそれが相手の気を乱すためダメージも蓄積しやすい。生半可な防御は役に立たない筈だ。
無論一発一発に己の気を込める訳だから、ゴーシャ自身も消耗している。しかしそれは鍛えれば克服できる。
その証拠に、バーナムは少しだが肩で息をしている。疲れているのだ。それに比べて鍛え続けていたこちらは息の乱れは全くない。
(やせ我慢か? いや。それだけではなさそうだが……)
ゴーシャは落ち着いて相手の観察をし、隙を見つける事に没頭した。
(ちっきしょう。身体が重くなってきやがった。もう限界かよ)
バーナムは相手を睨みつけると、重くなり始めた自分の身体に悪態をついた。まだ時間には余裕がある筈だが、読み間違えたか。
「疲れた時は基本に帰れ。焦る時こそ平常心」。
亡き父フーツラの口癖だ。
(はいはい。分かったよ)
内心で父に言い返す。
ゴーシャとは彼が十二の時に村を出てから全く会っていない。仲はあまり良くなかったとはいえ、どういう風に成長をしたのか見てみたかった思いはあった。
しかし、それは「武闘家」ではあっても「バーナム・ガラモンド」ではない。
たとえ考えなしと言われようとも、一気に突き進むのが自分ではなかったか。
(……らしくねぇか、こんなん)
彼は構えを解くと、自分の糸切り歯で指の腹を切って血が流れたのを確認し、その血の出ている指で相手をびしっと指さし、その後軽く閉じた目蓋に血を擦りつけるように塗った。
その動作にイボテが驚いた。
「何なのですか、バーナム様の行動は?」
訳の分からないスーシャが慌てて尋ねる。
「あれは、古い仇討ちの儀式じゃ。『お前の血を見るまで闘いは止めない』という強い意思表示を表わしている」
だがゴーシャの方も驚いている。この古い儀式を知っていたようだ。
「バーナム! そんな古くさい仇討ちの儀式を持ち出して、何を考えている!」
バーナムから返ってきたのは余りにもいい加減な答えだった。
「どんな手を使おうが相手を叩き潰す。それがオレのやり方だ! 本気でいくぜ」
疲れているにもかかわらずそう言い切ったバーナムに、ゴーシャも頭にきたのか、
「ふざけるな! 疲れているのに本気も何もないだろう!」
嫌悪感剥き出してゴーシャが吼え、地を蹴ってバーナムに一気に迫る。
次の瞬間、バーナムの方が天高く吹き飛ばされた。バーナムに密着した状態からゴーシャが下から肘で鳩尾に神速の一撃を叩き込んだのだ。昨日コーランが見た、サンドバッグを一瞬で吹き飛ばした技だ。
「四霊獣虎の拳・虎顎(こがく)……?」
スーシャがぼそっと呟く。基本的に虎の拳には「手技」「投げ技」といった近距離用の攻撃技しかない。
その虎顎は突進力を利用して、拳や掌を「上から下に叩きつける」技。下から打ち上げる肘の一撃であそこまでの威力を出す技など存在しない。
バーナムはすかさず空中で体勢を立て直そうとするが、思うように身体が動かず、背中から砂浜に叩きつけられた。小柄な彼の身体が二度程バウンドして動かなくなる。
「勝った……」
小さくゴーシャが呟いた。腕に残る感触が、受け身を取れずに吹き飛んだ事を証明している。
上から来ると思っていた技が下からきたのだ。いくらバーナムであろうとも、受け身をとっていないのでは大ダメージは必死だ。
一同は顔をこわばらせてその光景を見ていた。スーシャは自分の顔を覆う布に手を当て、飛び出して行きたいのを賢明に堪えている。
倒れたままのバーナムを見ていたイボテが終了を宣言しようとした時、
「待てよ……。ちょっと休んでただけじゃねえかよ」
バーナムの身体がぴくりと動いた。ぎこちない動きで立ち上がろうとしているのだ。
実際イボテやスーシャ達しか分からない事だが、バーナムの周囲の「気」が次々と彼の身体に吸い込まれていた。
ゴーシャの四霊獣虎の拳が気の「放出」と素早さが特徴ならば、バーナムの四霊獣龍の拳の特徴は気の「吸収」と蹴り技だ。
「気」は生命力に直結した力。無論回復にだって使える。その証拠に打撃によるあざは色濃く残っていたが、その足取りには力強さが戻っていた。
完全に勝利を確信していたゴーシャは、一転して地の底に叩き落とされたかのような表情を浮かべている。だがすぐさま気を取り直すと、
「ならば回復する前にとどめを刺すまでだ!」
体勢を低くして一気に跳躍。バックステップでかわしたバーナムの眼前に着地すると、立ち上がる勢いをも利用して再び先ほどの技を繰り出した。
バーナムの身体が宙に舞い飛ぶが、今度はそのまま空中で体勢を立て直すと、綺麗に足から着地。
「今度はこっちから行くぜ!」
地を這うようにゴーシャに駆け寄ると、寸前で顔面に膝蹴りを入れる。もちろんゴーシャは難なくそれを受け止めるが、バーナムは待ってましたとばかりに空中で身体を捻り、反対側の足を器用に相手の首に巻きつけ、そのまま締め上げる。
龍の拳の技に絞め技はない。絞め技があるのは蛇亀の拳だ。ゴーシャも油断していたらしい。
「四霊獣蛇亀の拳・蛇絞(じゃこう)だと!?」
これにはイボテもスーシャも驚いている。確かに龍の拳の使い手が蛇亀の拳を使ってはいけないという決まりはないが……。
「お次はこいつだ!」
バーナムは攻撃が来る前にぱっと離れると、再び宙に飛んだ。ゴーシャも負けじと飛び上がり空中戦となる。
そんな時、接近してきたゴーシャを触れてもいない蹴りの風圧で地面に叩き返した。
「今度は鳳の拳・鳳搏(ほうはく)……」
スーシャもぽかんと口を開けて彼の出す技を見つめていた。
(どういう事だ!? 奴は何の鍛練もしない筈ではなかったのか!?)
少なくとも、ゴーシャが「聞いた」の彼の姿はそうだった。だが、その話が事実なら、何故こんなにも鮮やかに専門以外の技を繰り出せる?
ゴーシャが地面に叩きつけられたところにバーナムは馬乗りになった。
「ざけんなよ、バカが」
バーナムは彼だけに聞こえるように抑えた声で言った。
「あのガキからいろいろ聞いてたらしいがな。他人の話を鵜呑みにしてるようじゃ、まだまだだぜ」
「何故その事を? あの子が喋ったのか!?」
驚いて顔がこわばるゴーシャ。そんな彼を見たバーナムはややあきれ顔のまま、
「違うって。お前は昔から相手の事を逐一調べてからでないと闘えない奴だったからな。この町でオレを知っててオレの事をベラベラ話しそうな奴はあいつっきゃいねぇ」
バーナムはそのまま彼の身体から下りる。
「それで? まだやるか?」
ゴーシャは無言のまま立ち上がった。
「やる気なら、今度こそ本気の本気でいかせてもらうがな」
バーナムは静かに目を閉じた。その途端、バーナムの全身に無気味な文様が鮮やかに浮かび上がった。
「……いかん! バーナム、やめるんじゃ!!」
「どうしたのですか、お祖父様?」
スーシャが祖父に尋ねるが、
「あやつは、自らの封印を解こうとしている。そうなれば全員総がかりでも止められんし、あやつも無事ではすまんぞ!!」
無気味な紋様は、幼い頃に入れられた「力を抑える禁呪」なのだ。それが今解かれようとしている!?
「うるせぇ! じじぃは黙ってろ!!」
師の叫び声を聞いたバーナムが一喝する。
「しかし、これは殺し合いではない! いわば試験なのだぞ!」
「だからだよ! よく見とけ!!」
無気味な文様の影響か、バーナムの全身の筋肉が盛り上がり、彼の体躯がひと回り大きくなった。それと同時に天高く飛び上がる。
そして空中で制止すると、ものすごいスピードで「気」の吸収を始める。次第に彼は「気」による青白いオーラで包まれていった
上空にいる敵にこちらから仕掛けるのは不利だ。特に四霊獣虎の拳には、離れた相手を攻撃する技はほとんどないし、まだゴーシャには使えない。彼は相手を睨みつけながら「気」を練って攻撃に備える。
しかし妙であった。さっきまでははち切れんばかりに己の体内に充満していた「気」が、まるで感じられない。
その時、彼は唐突に悟った。気の「放出」が特徴の虎の拳と気の「吸収」が特徴の龍の拳では、相性が悪すぎるのだ。自身の内部の「気」をも、相手は吸収しているのだ、と。
逃げようとしたゴーシャであったが、まるで上から「重く見えない何か」で押さえつけられてしまったように、指の一本に至るまでぴくりとも動かす事ができなくなってしまった。
その時、下に突き出したバーナムの両手から、まるでビーム兵器のように気が発射される。真下にいたゴーシャは、その「気」をまともに喰らってしまった。
気の衝突によって砂が巻き上がり、衝撃波が飛び散り、全員の視界が塞がる。
思わず身構えるグライダ達だったが、それらは彼女達には襲いかかっていなかった。
その衝撃波をスーシャとイボテが弾き返していたのだ。よく見れば見えない壁のようなものに総て遮られている。
「四霊獣蛇亀の拳・亀楯(きじゅん)……。腕を上げたようだな、スーシャ」
蛇亀の拳にあるのは絞め技、極め技、それにこの防御の技だ。自分も手伝っているとはいえ、とっさに張れるだけの力をつけた孫を見て、イボテはうれしそうに呟いた。
やがて、衝撃波と砂ぼこりが収まり、視界が開ける。
上空にひと回り大きいままのバーナムが浮かんでいる。しかし、ゴーシャの姿はどこにもなかった。
「ゴーシャ!?」
スーシャが真っ先に彼が立っていた場所へ駆け寄ろうとしたが、そこで彼女は見た。
巨大なクレーターのようにえぐれた砂浜の真ん中に彼が無傷で立っているのを。彼の足元では、砂の中に隠れていたであろう蟹が平和そうにちょこちょこと歩いていた。
絶命必至の大ダメージを覚悟していたゴーシャは、無事な自分の身体をぽかんとした表情で見回している。
そこにバーナムが着地した。全身の文様はすっかり消え、体格も元通りになっている。
「……無事なのですか?」
思わずスーシャが呟くように言った。
「ああ。こいつは『見せかけの技』なんだ。見せかけって言っても身体に被害がないだけで実際はこの通り」
彼はクレーターとなった砂浜を指さした。
「まるで、見えない何かに押さえつけられたように身体が動かなかった。伝説にある『人を凍らせる龍の雄叫び』のような……」
冷や汗をびっしりとかいているゴーシャが、震える声で呟く。
「……バーナム。何故、このような技を?」
バーナムは驚きを隠せない自分の師に、
「じーさんが前に言ったろ? 『お前は人を傷つける事しかできない』って。なら逆の事やってやろうって思ってな」
バーナムはボサボサ頭をかく。
「こいつはかなり『気』を吸収しないと出せねえしな。実用性はともかくとして、試験の内容は満たしてる筈だぜ」
確かに、新しい技の編み出すが試練の内容だ。それは確かに満たしている。人を傷つけずに押さえ込む技。前代未聞である。
「……バーナム様。それではあの仇討ちの儀式は?」
「ああでもしねぇと、ぜってー本気でかかってこねぇだろ。その『気』も使わなきゃ、多分できなかったろうな」
かなり照れくさそうなバーナムを見たスーシャは、そっと彼の隣に立った。
「やはり、バーナム様はお強いです。ゴーシャもお疲れ様。見事でしたよ、新しい技」
その時、バーナムががくりと膝を折った。スーシャは慌てて彼を抱き止めるが、その異常な発汗と体温に驚く。
全身に粘ついた汗がまとわりつき、筋肉の発熱も常人のものではない。それだけで、体中の筋肉という筋肉を極度に酷使したのが分かった。この分では骨にも何か異常があるかもしれない。
だがバーナムは彼女の治療の申し出を断わった。水晶玉の力による治癒を知っているからだ。放っておけば治る、と。
イボテはバーナムとゴーシャの前に立ち、
「見事、と言っておこうか。……して、技の命名じゃが、ゴーシャの物は虎頤(こし)。バーナムの物は龍声(りゅうせい)と名付けたい。どうかな、お前達」
虎頤とは虎の下顎の事だ。下から上に突き上げる技としては似合いの名か。
「どうにでも」
「構いません」
バーナムとゴーシャの声が重なった。
そこに、みんなが駆け寄ってきた。
「ゴーシャおじちゃん。まけちゃったの?」
彼は、やってきたセリファの肩を叩くと、
「ああ。でも、試練は通った。悔いはない。俺は再び修業の旅に出るつもりだ。お嬢ちゃん一人でも修業は出来るな?」
その言葉にセリファがしゅんとなる。
「おじちゃん……行っちゃうの?」
旅の途中と聞いてはいたが、実際に別れるとなると、やはり悲しさが込み上げてくる。涙もろいセリファならばなおさらだ。
「今度からバーナムに教えてもらうといい。俺に勝ったんだからな。腕は保障する」
「やだ。クーパーのほーがやさしいからクーパーがいい」
そう言って、クーパーのそばによりそう。
セリファの脈絡のない一言に、一同が唖然とした。
「……よく分かんないけど、セリファは一体何がしたいの? 体を鍛えたいの?」
グライダの言葉に、コーランがクスクス笑いながら言った。
「……理由はセリファに聞いて」

<FIN>


あとがき

えと。久しぶりの第11弾です。この話は、全体的にかなり手を入れてます。特にバーナムVSゴーシャのシーンは大半を書き直してます。バーナムの技の名前まで変えちゃったし(冊子掲載時は龍息(りゅうそく)でした)。
今回はバーナムの過去・その2ですね。もっとも、こっちの方がしっかりそれに触れてますけど。
「バーナムが強すぎじゃない?」とか「強いんだか弱いんだか分かんない」とか「影が思いっきり薄い」等々と言われておりましたバーナム・ガラモンド君。
確かに彼が大きな活躍を見せるのは少ないです。でも、その理由もちゃんとこの話で分かると思います。というか分かってくれ!

ゴーシャ・スーシャ Gorsha Soosha AGE 16 [M] 髪・黄(染) 瞳・黒 T155cm・W52kg
私的な声のイメージは関 智一さんDeath。
四霊獣(しれいじゅう)・虎の拳を使う武闘家。バーナムとは兄弟弟子。
真面目で固く、また一所懸命。しっかりと情報収集してから物事に望むタイプ。そのため考えもしっかりしており、老けた言動もしばしば。
……バーナムの同門のライバル。バーナムが「龍」ならばその相手は「虎」しかないでしょう。昔から「竜虎相摶つ」と申しますし(笑)。
(2006/02補足。簡体字の表示法が判ったのでそれを追記。中国語が表示できる環境の方は見える筈です)

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