トガった彼女をブン回せっ! 第24話その1
『確かに危険で物騒だな』

角田昭士(かくたあきし)は遥か先にある一点を見据えたまま立ち尽くしていた。
目論見が外れた時ほど、人間の心が脆くなる時はおそらくない。
だがそこからいかに早く自分を立て直せるか。それができるのも人間としての「強さ」である。
昭士はくるりと振り向いて皆の方を向くと、
《よーし。作戦会議やるぞー。集まれー》
気落ちしていたようにも見えた態度から一変。テンションは低めなもののその眼が語る意志は強い。まだ諦めていない。何とかしてやる。そんな意志をヒシヒシと感じる眼。
根拠があろうがなかろうが。偶然や奇跡のおかげであろうが。昭士はこれまでに何度も自分のアイデアで迫ってきたピンチを「何とか」してきた実績がある。
それを知っている者は素直に従ったが、会ってまだ数時間の西部のガンマンである(マンとつくが女性である)ガン=スミス・スタップ・アープだけは別だった。
《お前が仕切るな》
不機嫌そうに鼻を鳴らし、昭士を指差し、かなりキツイ口調で言い切った。
それはガン=スミスが白人で、昭士が東洋人だから。加えて昭士の方が自分の半分ほどの年齢だから。不機嫌なのはその二点が、特に前者が大きい。
だが昭士の方はテンション低めのまま「落ち着け」とばかりに手で合図すると、
《文句は話を最後まで聞いてからにしてくれ。質問コーナー設けるから》
そう前置きしてから、昭士はジュンの方を見る。
《身に染みて判ってるとは思うが、あの臭いをどうにかしないと、ジュン以外戦いにすらならん》
それには皆が小さくうなづいている。
今回彼らが戦うべき侵略者は、ダチョウの形をしている。
全身を見た事もない金属らしき物で覆った謎の存在。姿を模した生き物の特性を受け継ぐが通常の武器は一切効かない。
その口から吐くガスはあらゆる生物を金属の塊へと変え、それのみを捕食する、エッセと呼ばれる侵略者。
今回姿を模したダチョウには「濡れると強烈な悪臭を放つ」という特徴があった。だがその「強烈さ」を全員が甘く見ていたのだ。
まだ埃粒ほどの大きさにしか見えない距離にも関わらず、体調に異常をきたすほどの悪臭を放っていたのだ。こうなってはもう戦うどころの話ではない。
唯一まともに動けたのは、森の中で原始的な生活を続けてきた野生児・ジュンただ独り。しかもその種明かしが森で採れる植物の葉を鼻に詰めていたから。
エッセはこちらの世界で出現できるタイムリミットが過ぎて元の世界(?)へ帰ったらしいが、必ずまたここに現れる。
食べようと目星をつけている、金属へと変えた馬がまだここにいるのだ。必ず捕食にやって来る。
その馬――ウリラという名前の馬の胴を優しく撫でるガン=スミスは、
《ウリラ、もう少しの辛抱だからな。我慢してくれ》
それからすぐさま昭士を睨むようにすると、
《で、あの臭いをどうする気だ、モンキー?》
明らかに蔑視する単語に反応したのは、ここオルトラ世界のパエーゼ国出身の聖職者であるモーナカ・ソレッラ・スオーラだ。
彼女は露骨に嫌悪感を示す眼を向けると、
「ガン=スミス様。先程も申し上げましたが、そのような単語は使わないで下さい」
戦いの前に判った事だが、ガン=スミスは魔法的な事故に巻き込まれ二百年は昔の世界から来た人間。
その時代では「普通」でも現代では「差別発言」に受け取られる単語や言い回しは非常に多い。
しかもガン=スミスはさっき指摘されるまで時間移動している事に気づいていなかったのだ。さすがに説明されてもいきなりは変われないだろう。
加えて元の世界では男性だがこの世界では女性というギャップも嫌悪感を示す理由かもしれない。女性らしいスタイルとは無縁の中性的な外見だが、それでも女性は女性だ。
差別的で時折品のない男言葉は、さすがに聞いていて気分が良くなるものではないし、そんな言葉を話す女性を好意的に思う人間もおるまい。
それでも「現代は違う」「この世界ではこうなのだ」と説明をしておく。スオーラに限らずオルトラ世界はそういう傾向が強い。
ガン=スミスは身体を折るように頭を下げてスオーラに「だけ」謝罪すると、昭士の方には目線だけで「続けろ」とうながす。
《おいジュン。さっきの葉っぱ、ちょっと広げて見せろ》
ジュンは昭士に言われるままに、さっき皆に見せた葉を取り出した。彼女の森では「クング」と呼ばれる植物らしい。
ジュンはクシャクシャの葉を手のひらの上に綺麗に広げてみせる。昭士は腰のポーチから携帯電話(ガラケー)を取り出し、それをカメラで撮影する。
ガン=スミスがその携帯電話に反応する。見た事もない道具なのだから当たり前だろう。
《何だそいつは》
《個人で携帯する用の電話。テレフォン。って、アンタの時代に電話ってあった?》
ガン=スミスは残念そうに首を振った。
余談だが電話の発明とされている「グラハム・ベルが電話の特許をとった」のは一八七五年。ガン=スミスがここオルトラ世界に来たのはだいたい一八六八年頃。ギリギリ「知らない」のだ。
もっともこのオルトラ世界にも電話そのものはあるにはあるが、まだまだ一般に普及しているとは言えないレベル。旅から旅への暮らしをしていたガン=スミスでは知らなくても無理はない。
《今の電話には電話以外の機能が山ほどついててな。これはカメラの機能。って、アンタの時代にカメラってあった?》
《聞いた事がある程度だ》
そう話すガン=スミスはどこか悔しそうだ。彼の中では白人である自分の方が劣っていると突きつけられているのだから。プライドが傷つくというレベルではあるまい。
昭士はそれを無視して携帯電話を操作すると、パタンと蓋を閉じる
《とりあえず賢者のヤツに葉っぱの写真送っといたから、何かリアクションがあるだろ》
賢者とは知識を売り物にしている人物の事である。彼の言う賢者とはモール・ヴィタル・トロンペ。この世界でも有名な人物である。
彼もこのオルトラ世界の人間ではあるが、何故かスマートフォンを持っており昭士とは電話やメールでのやりとりができる。
《こういう時くらい役に立ってもらわなきゃな》
言い方はともかく内容は実に正論である。知識が売りの人物に質問をするのだから。
「アキシ様」
不意にスオーラが話しかけてきた。育ちの良さ故に彼女は未だに昭士に対しても様付きの敬語である。
「アキシ様の世界に、あの葉はあるのですか?」
《いや、判らん。元々植物は詳しくないしな。アンタはどうだ、判るか?》
《……知らん》
急に昭士から話を振られたガン=スミスもぶっきらぼうに否定する。
「わたくしも見覚えはないのですが……」
スオーラはそう前置きしてから、
「この葉が必要なのであれば採って来る方がよろしいのではないでしょうか」
《採って来る?》
「ジュン様が住んでいたヴィラーゴ村のある森になら、間違いなくあるでしょうから」
その言葉に「言われてみれば」と思い至った昭士達。彼は早速携帯電話を開く。
“ちょうど良い。忠告に来た”
“ちょうど良い。忠告に来た”
昭士は何も操作をしていないのに、携帯電話から声がした。しかも男女が一斉に話しているような、重なった声が。
この声はジェーニオという精霊の声だ。オルトラ世界のサッビアレーナという国で伝説となった盗賊団・マージコ盗賊団にいた精霊だ。
今では昭士達に協力を約束してくれている精霊で、その格好は右半身が女性で左半身が男性。二つの声が重なったような話し方なのはそれが理由だ。
“まず、先程賢者に送った葉の写真だが”
“まず、先程賢者に送った葉の写真だが”
《えっ、お前知ってんの?》
ジェーニオの言葉に素早く反応する昭士。スオーラやガン=スミスまで身を乗り出して携帯電話の画面を覗き込む。
その画面には三頭身体型になったマスコットキャラのような姿のジェーニオが写っていた。そのジェーニオはもったいぶったように咳払いをして間を空けると、
“だいぶ葉の痛みが激しいので正確なところは断言できないが……”
“だいぶ葉の痛みが激しいので正確なところは断言できないが……”
更に若干もったいぶったようにそう前置きをすると、
“臭いを遮断するのに使っていたのであれば、ツィーポロの葉の可能性が高いな”
“臭いを遮断するのに使っていたのであれば、ツィーポロの葉の可能性が高いな”
昭士は目線でスオーラに「知ってるか?」と振ってみるが、彼女も知らないらしく首を横に振る。もちろんガン=スミスも知っているようなリアクションは見せていない。
“この葉から出る臭いが人間の粘膜の働きを弱く、もしくは麻痺させるのだ”
“この葉から出る臭いが人間の粘膜の働きを弱く、もしくは麻痺させるのだ”
なるほどと昭士は思った。鼻に詰めて嗅覚が麻痺すれば臭いを感じなくなるだろう。少なくとも彼の知識にはない効き目であり、日本にはなさそうな植物だと判る。
「ではジェーニオ。これからジュン様が暮らしていた森まで行って、その葉を採って来る事はできますか?」
すると画面の中のジェーニオは少々渋ったような表情を見せると、
“あの森は方向感覚が非常に掴みにくい。我一人で行くのは困難を極めるな”
“あの森は方向感覚が非常に掴みにくい。我一人で行くのは困難を極めるな”
以前聞いた事があるが、ジュンが暮らしていた森には方向感覚を狂わせる魔法や呪いなどがかかっているかのごとく、道に迷って出られなくなるという話は聞いている。
もっともその森で生まれ育ったジュン達ヴィラーゴ村の住人ならば方向感覚が狂う事はない。理由は不明だが。
その方向感覚を狂わせる「何か」が原因で外部からの侵略や文明社会の影響をほとんど受けておらず、彼女達の村は未だ原始的な生活を続けている。
いくら精霊とはいえそんなところに好き好んで飛び込みたくはないだろう。前後左右だけならともかく、上下の方向感覚までおかしくされては二度と帰って来られないかもしれない。
「では、ジュン様を連れて行けば大丈夫なのではないでしょうか?」
というスオーラの提案。だがそれにはさっき以上に渋った表情を見せると、
“先程のエッセが放っていた悪臭が、お前達の身体にこびりついている”
“先程のエッセが放っていた悪臭が、お前達の身体にこびりついている”
そうハッキリと言い切ったジェーニオは、表情だけは申し訳なさそうに、
“こう見えても我は臭いには敏感でな。事情は判るが……触れたくはない”
“こう見えても我は臭いには敏感でな。事情は判るが……触れたくはない”
その口調はいつも以上に上から目線で偉そうなものだ。ジェーニオは更に続ける。
“その臭いが取れるまで車に戻って来ない方が良いぞ”
“その臭いが取れるまで車に戻って来ない方が良いぞ”
「そうでしょうね。車の中にまで臭いがついたらなかなか取れないでしょうし」
スオーラも言われて気づいたように自分の服の臭いをかいでみる。
そしてそれぞれが自分の身体の臭いをかぐが、自分の臭いほど自分では判らない。もちろんガン=スミスがスオーラの臭いをかごうとしたところを昭士が露骨に割って入って止める。
《まぁあの悪臭の中にいたから鼻が麻痺して逆に判らんか。けど臭いが取れるのってどのくらいかかるんだよ》
“そこまでは知らん”
“そこまでは知らん”
この場にいないのだから当たり前である。加えて人間を超えた能力を発揮できる精霊でも、やはりできない事はたくさんある。
《おい半分野郎。今そんなワガママ言ってる場合じゃねぇだろう。あの黒いの連れてその森とやらに行って来い》
ムスッとしたままガン=スミスが携帯画面のジェーニオに向かって言う。ジェーニオを「半分野郎」と呼び捨てて。
右半身が女性で左半身が男性だから「半分野郎」は確かにその通りなのではあるが。
出会い頭にクロスボウで狙われた事もあり、ジェーニオはガン=スミスの方をわざわざ向いて指を差すと、
“相変わらず口の聞き方という物を知らん若造だな”
“相変わらず口の聞き方という物を知らん若造だな”
激昂――まではいかないものの、かなり怒りをあらわにしているのが、三頭身にディフォルメされていても良く判る。
《ケンカしてる場合じゃないだろ。ともかくいつエッセが出るか判らない以上、急ぐに越した事はない。ジェーニオが空飛んでジュンを運べば一番早いだろ》
携帯電話を持ち上げて顔の真正面に持って来ると、昭士は強い調子でそう言い切る。
《……あ、行くんだったらキャンピングカーの冷蔵庫から適当に食べ物持ってってくれ。あいつ食べ物があれば何とかなるから》
良く聞けばかなり酷い言い草であるが、確かに食べ物なら良く「釣れる」のは実証済なのだが。
その話題に上っているジュンはというと、これらのやりとりを無視して土埃舞う荒野に身を投げ、その埃を全身に擦りつけるようにしている。
「……あの、ジュン様、何をしているのですか?」
ゴロゴロと転がるのをピタリと止め、首だけ起こしてスオーラを見上げたジュンは、
「消す。臭い」
そう言うと再び地面をゴロゴロと転がるのを再開する。
理由までは知らないが、犬などが時々地面に身体をこすりつけているのを見た事はある。そんな感じだろうか。
そうして上から下まで服込みで土埃に塗れたジュン。その様子を携帯電話の画面にいるジェーニオに見せながら、
《何かあんな感じになってんだけど、何とかやってくれね?》
“……………………………………まぁ、仕方あるまい”
“……………………………………まぁ、仕方あるまい”
ものすごく「不承不承」とか「仕方なく」という雰囲気のジェーニオだった。


ジュンがジェーニオの待つキャンピングカーに向かって駆けて行くのを見送った昭士達。
とりあえず臭いの方は何とかメドがつきそうになったからか、幾分気持ちが楽になった気がする。
気分的には何か軽くつまみたいところではあるが、さっき食べてからまだそんなに時間が経っていない。
それに食べ物の総てはキャンピングカーの中だ。たった今ジェーニオに「臭いが取れるまで車の中に入るのは止めた方が良い」と言われている。
ジェーニオの言う事ももっともなので、もう少し後にする事にした。
昭士は閉じていた携帯電話を開いて、画面を見る。そこにはもうジェーニオは写っておらず、デフォルトのそっけない待ち受け画面が見えるだけだ。
《早く来ねーかな、連絡》
待つ事しかできないというのは、実は精神的に極めて良くない。何よりイライラがつのる。
一方、右手の指で銃のような形を作り、鳥はおろか雲一つない青空に向かって突き出すガン=スミス。
《鳥でも飛んで来れば、そいつを落として食えるんだがな》
まだ食事をする時間ではないが、次にエッセが出る前に食事や休息をとっておきたいのが本音だ。
《さっきのクロスボウでか?》
昭士の世界にもクロスボウそのものはあるからどういった武器なのかは判る。ただ昭士の国ではクロスボウではなくボウガンという名称の方が知られているが。
《ああ。オレ様のは矢が要らない特別製だからな》
すっと取り出したのは、彼らエッセと戦う者の証ともいえるカード状のアイテム・ムータ。小声で呟くとムータはひとりでに手から跳ね、ガチャガチャと音を立てて何かに変わっていく。
その変化が終わった時、ガン=スミスの手に握られていたのはクロスボウ。装飾や模様などが一切ないシンプルすぎるものだ。
クロスボウの外見は、拳銃の上半分に小さな弓がついた物と説明できる。たいがいは何らかの道具などを使って弓を引き絞り、矢を装填。しかる後に狙いをつけて引き金を引く。弓と拳銃両方の特徴を持っていると言える。
とはいえ弓よりはコンパクトだが拳銃に比べればその威力は劣るものの、薄い鉄板を易々打ち抜く程度の威力はある。狩りで小柄な生き物をしとめるのには充分な殺傷力を持つのだ。
離れたところから攻撃できるのは確かにメリットが大きいし、ムータが変化した武器であればエッセに通じるだろう。
だがエッセと戦うにはあまりにも非力な武器である。こんな小さな矢を何十本何百本突き立てれば仕留められるというのか。
《さっきは出番がなかったけどな。この次会ったら容赦はしねぇ》
そう言うとクロスボウはまたひとりでにガチャガチャと音を立ててムータに戻り、ガン=スミスはそれをポケットにしまう。
だがその鋭い眼光は、先ほどエッセがいた地平線の先を見据えている。それこそ射るような眼で。
……その眼の先に、倒すべきダチョウ型エッセが今現在立っているかのように。
「その時には、わたくしも魔法でできる限りの援護を致しますよ」
自分を忘れないでほしい。そう言わんばかりにスオーラが割って入る。
ガン=スミスは「女を戦わせるのは」と渋い顔になっていたが、その辺の事情が現代では変わってきている事を思い出し、
《本当なら男だけで済ませるべきでしょうが、協力をお願い致します》
「もちろんです」
だいぶ格好つけているガン=スミスと真剣だが笑顔を浮かべているスオーラが、改めて固く握手をする。年の差約二倍の二人だが、一緒のチームのメンバーにそんな物は関係ないとばかりに。
外見はともかくガン=スミスの中身は中年男性だから、若い美人にそこまで言われては悪い気分にはなるまい。
中年男性だから仕方ないとはいえ、昭士との露骨な態度の差に蹴り飛ばしたい気分にもなったが、そこを責めても仕方あるまい。
手持ち無沙汰になった昭士は、今度はメールではなく賢者に電話をかけてみる事にした。とにかく「何もしない」でいるのがどうにもこうにも落ち着かないのだ。
呼び出し音が鳴っている。一回。二回。三回。四回。
五回目で相手が電話に出た。
『……おや。珍しいですね』
電話口から聞こえる、少し驚いた賢者――モール・ヴィタル・トロンペの声。
それもその筈。普段は一回呼び出し音を鳴らした段階で電話を切り、相手にかけさせて少しでも電話代を浮かせる方策を取るのが昭士なのだ。
《まぁたまにはな。ところであの葉っぱどうだ? 何か判りそうか?》
その辺りをあまり突っ込まれたくない昭士は、すぐ話の確信に持っていく。すると賢者は、
『添付されていた画像が少し荒いので判りにくいのですが、おそらくはツィーポロの葉ではないかと推測します』
先程ジェーニオが言っていたのと同じ名前。さすがは賢者といったところか。
『この臭いの成分を粘膜吸収させると粘膜の働きが弱まる効能が確認されています。かつては部分麻酔や胃の働きを弱める薬などに使われていた植物ですね』
この辺りもジェーニオの解説とほぼ同じ。より知識が補強されている、といった感じだ。
《ジュンはこの葉を鼻に詰めて悪臭を中和させてたな》
『なるほど。それで鼻の粘膜を一時的に麻痺させていたのでしょう。とても危険ですが』
賢者の口から飛び出した物騒な言葉。「とても危険ですが」。それは一体どういう意味なのだろう。
少なくともそんな危険な物であれば、ジェーニオが先に忠告して来ると思うが。
『この植物は現在は取扱注意の薬物に指定されていまして、国によっては麻薬同様の扱いにされているそうです』
《……麻薬とは確かに危険で物騒だな》
賢者の解説によると、麻薬のような常習性は低いのだが、とにかく効能が強すぎるのだそうな。
そんな危険性から危険薬物に指定されたのがだいたい五十年ほど前との事。生きて(?)いたとはいえ世間と隔絶同然だったジェーニオが知らなくても仕方ない事だろう。
特に今回のジュンのような使い方をすれば、葉を取り除いても当分は鼻が一切利かなくなるのは間違いがないという。
《あいつはそんな風には見えなかったがなぁ》
ジュンの様子を思い出した昭士は、素直に賢者にそう告げると、
『ヴィラーゴの村の住人は、色んな意味で人間離れした方が多いようですが、そんな強い効能の葉を慣れないあなた達が使うのは推奨しませんよ』
いくらあの危険極まる悪臭を防ぐためとはいえ、当分鼻が利かなくなるような強い薬草? 麻薬? を使うのはいかがなものだろう。というためらいが出てしまった。
昭士の胸中に。

<つづく>


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