『うららかな日差しの中で』
暖かい日差しが窓の外から差し込んでいる。
グランドに視線を向けると、他のクラスの生徒達が、体育の授業を受けており、
また、校外に目をやると、老人やら子供連れの母親がゆっくりと行き交っている。
街角は昨日とほとんど変わらぬ様相で目に映り、
ただ、新しく掛け替えられた看板のみが、昨日と違う今日を強烈にアピールしていた。
じつに、平和でのどかな風景。
明日も続くであろう、平凡な……
思わず、ため息をつく少女。
あまりに平和なその風景に、
すでに、それらの風景から切り離されて存在する、自分というものに対して。


自分の教室を見渡してみる少女。
教鞭をとり、熱心に勉強を教えている女性教諭。
黒板に書かれた文字を、必死に書き取ろうとしている生徒がいる。
とりあえず、先生の言うことに耳を傾けている生徒もいる。
関係ないとばかりに、机の上に落書きをしている生徒もいた。
いつもの光景。
いつもと変わらぬ日常。
いずれ、みんなはこの学校を卒業し、それぞれの人生を歩むのだろう。
それぞれの人生を精一杯に、
決して、途切れたりすることなく……
それが当たり前なのだ、ここでは。
それが、当たり前であるべきなのだ、ここでは!
けれど、
自分は違う。
今日と同じ明日が訪れるとはかぎらない、
それどころか、明日があるかもわからない。
理不尽な、その事実。
いくら否定しようとも、変えられない、その事実。
認めなければならない、
この空間の外にあるものを。
自分は好むと好まざるとにかかわらず、それに関わってしまったのだから。
ぽっかりと空いた、一つの席。
それがたまらなくわずらわしく、呪わしく、そして、愛おしい……
「ソースケ」
小さな声で、つぶやいてみる。
らしくないな、
思わず、苦笑してしまう少女。
「あんたが、いないせいだからね」
少し怒った口調で言ってみる。
「あんたが、いないせいなんだから」
そう言った後で、すこし気分を持ち直す少女。
「あんた、あたしを守るといったんだからね」
空になった席に、静かに語りかける少女。
「帰って来なかったら、許さないんだから」
あまりに優しく、愛おしそうにつぶやく少女。
少女は思いを馳せる。
少年の凛々しい横顔を、
戦場という過酷な状況にたたずんでいるであろう、少年のその姿を、
思い浮かべる。その脳裏に、
血と、硝煙と、油と、砂にまみれたその光景を……
それは少女にとっても、今や日常の一部と化した光景。
その過酷さを、少女は知っていた。
それゆえにこそ、少女はつぶやく。
「帰って来なさいよ、ソースケ。何があっても、どんなことがあっても」
ひたすら、少年の無事を祈る少女。
みずからの秘めた感情には気がつかず、
……少女はただひたすら、空いた席を見つめていた。


うららかな、平和で長閑なある日の出来事。


<うららかな日差しの中で 終わり>


あとがき

日本って、本当に平和だと思います。
いろいろなことはありますが、それでも平和であるということは、良いことですね。
最近、その有り難みをしみじみと感じます。
平和の中で育ったかなめ。
それ故にこそ、宗介が戦場で死ぬことを許そうとはしないのではないかと、そんな風にふと感じました。

かわせみさん。有難うございますm(_ _)m。
どこかポエムを彷佛とさせる(?)かなめの一人称。気付いているのかいないのか。自分でも判っていない彼女の本心が垣間見える……かもしれないお話。
どこかの歌にもありました。「何でもないような事が、幸せだったと思う」って。平和や幸せの中にいるからこそ、それに気づかないのかもしれませんね。
けど、何のかんの言って心配してるんですから、ソースケくんは幸せものだと思います。
――管理人より。


文頭へ 円規で書いた四角形へ
inserted by FC2 system