トガった彼女をブン回せっ! 第9話その2
『『説得』します』

角田昭士と角田いぶきは兄妹である。
何の因果か因縁か。異世界の力をその身に受けて変身、そして侵略者と戦うよう定められてしまった。
ところがこの二人。兄妹なのにその仲は最悪。……というよりは、妹の方が献身精神・協力精神が皆無の自分勝手主義を地で行く性格。
そのため。二人揃って変身、世界を越えねばならないところを昭士一人で越えてしまったからさあ大変。
昭士は目的の場所にやって来れたがいぶきの行方が判らない。
場所はもちろんどこの時代に到着したのかすらも判らないと賢者は言う。
だが、妹いぶきが変身した大剣「戦乙女の剣」がなければ、侵略者との戦いすらおぼつかない有様。
この広い世界から、剣に変じた妹いぶきを探す旅が、たった今始まったのである――


退屈していた昭士は頭の中で、アニメの「これまでのあらすじ」的にこれまでの状況をまとめていた。
本当ならすぐにでも出発したかったのだが、そうもいかない事態になってしまっているのだ。
原因はスオーラの旅立ちを見送りに来た、教会の人間達。
これから旅立つ前にと、昭士の世界で協力をしてくれたジュンを皆に紹介した時だった。
今なお森の中で原始的な生活を営む村の出身という、彼女の格好が格好である。
原始的な生活の人間がそのまま文明社会の中に来れば、違和感は相当なものだ。
特にふんどし一つに裸足の下半身。この世界(この国)の常識になぞらえれば、上半身も下半身も完全な全裸でない限りは特に恥ずかしがったりする事はないと言っても、それで往来の真ん中・公衆の面前に出られるかどうかは別だ。
しかしそこは多文化共存が一応の当たり前として通っている社会。大半はぎこちないながらも快く「行ってらっしゃい」と見送る姿勢だったのだが、年輩の人々がチクチクと文句をつけて来たのだ。
「森の蛮族が」と。
しかしそれは無理もないかもしれない。タダでさえよそとの交流がほとんどない村。そんな村があるというレベルの情報しか彼等にはないのだ。
単に信用できそうだからという理由だけで、どこの誰かも判らない人間を無条件にいきなり信用できる訳もない。
それに学校教育を受けた時代も理由の一つだ。
彼等年輩の人間が学生だった若かりし頃は、彼女達の事は本当に「森に住む蛮族」と教えられて来たのだから。
若い頃にそう教えられた人間が、今は違うからといっていきなり考えを改められる訳がない。それに若い人間が反発をしたのだ。
「文化が違い過ぎるだけであり、原始的な生活=野蛮な一族とは言えない」と。それから、協力をしてくれる人間に対して、さすがに言葉が過ぎると。
実際交流が「ほとんど」ないだけで「全く」ない訳ではない。この町のような文明社会の都市で暮らす「森の蛮族」出身の人間もいる事はいる事はいるのだ。数はかなり少ないが。
そんな風に新しい旅立ちという話の本筋と全く関係ない部分で口喧嘩が始まってしまった。
スオーラはもちろんこの場で一番偉い彼女の父親も止めに入り、直接の言い合い・ののしり合いこそ収まったものの、さすがにギスギスした雰囲気までは収まらない。
まさしく「一触即発」に良い見本である。
だが、騒ぎの元凶となった、彼等曰く森の蛮族出身のジュン自身はそんな彼等の様子を見て首をかしげている。
彼等の言葉――この教会があるパエーゼ国の言葉がサッパリ判らないのだから、何を喋っているか、何が起きているか判らなくて当然である。
もっとも言葉が判ったところで、ジュンの性格的に、年寄り特有の皮肉を織り混ぜた遠回しな言い回しが判るとも思えないが。
一方、ジュンの隣に立つ昭士も、彼等の言葉は全く判らない。でもその雰囲気で「何かしょーもない事で喧嘩してるな」くらいは察している。
《こっちは早いトコ行きたいんだけどねぇ。何で組織ってヤツはこう面倒なんだか》
「オレ。飽きた」
ジュンが退屈そうに大きな口を開けてあくびをしている。
本当なら言い合う教会の人間を無視して出発したいところではあるのだが、何せ言い合いをしているのが車、それもちょっとした小型バスほどの大きさを持つキャンピングカーの真正面。退いてくれねば出発もできない。
いくら邪魔だからとて、彼等を跳ね飛ばし轢き逃げして出発する訳にもいかない。当たり前の話だが。
《まぁ俺が悪いとはいえ、こんな調子じゃ妹探せるのはいつになるんだかなぁ》
「アキ。言ってた。探す。デッカイ剣」
ジュンはさっき昭士が言っていた事を復唱する。それからやや上の方を向いて「むーー」と唸ると何か良い事を思いついたかのように、
「まじーなじゅじゅし。探せる。思う」
《何だそれ》
ジュンの口から出た謎の単語に、昭士はもちろん聞き返す。間髪入れずに。
「まじーなじゅじゅし。知ってる。ナンでも。探せる。ナンでも。ジュンの村。いる」
ビシッと胸を張り、何とも偉そうに(しかし微笑ましく)キッパリと言い切ったジュン。
原始的な生活を営む村。何でも知ってて何でも探せる「まじーなじゅじゅし」。きっと巫女とか霊能力者とか、そういった存在だろう。そうした村にはつきものだろうから。もしかしたら村長や女王の可能性もある。
この世界がどれだけ広いかは判らないが、土地的な問題に加え時代的な問題もある。広大な海の中からたった一つの水素原子を探し出すよりも難しい。それほど捜索範囲が広いというか際限がないというか。
たとえどんな形でも目印や指針という物があって困る事はない。
もちろん「何でも」探せるというのがオーバーなのは判っている。だが余りにも手がかりがない以上、そうした存在を頼るのが悪手や遠回りとは思えない。
それにこのテも「魔法っぽい」事は、現代より昔の方が優れているというのが定番だ。本当かどうか保証はないが。
でも、そこで一つ問題がある。
そんな「何でも知ってて何でも探せる」という存在が、村人以外の人間の頼みをホイホイ聞くだろうか。頼むのが村人であるジュンであっても。
何せ村とその周辺の森だけが世界の総てという原始的な生活を今も続ける村だ。こちらの常識など通用しないだろう。
良くて無理難題をふっかけてくる。悪くて門前払い。さすがにその程度の反応は充分想像がつく。
時は金なりという言葉もある。昭士としてはすぐにでも出発したいところではあるのだが。
《さしあたって、そこを退いてくれないと何ともしようがないと言いますかねぇ》
という彼の聞こえるような独り言もギスギスしたままの教会の人々には通じない。日本語(に近いこの世界の言語)が判る数名は例外だが。
彼の視線の先には、相変わらず車の前を陣取っている教会の人々達がまだいた。
世代に分かれた文句の直接の言い合いこそ終わり、ギスギスした雰囲気が続いていたかと思いきや、また言い争いが始まってしまった。
当然それをスオーラと彼女の父親が止めに入るが、
父「いい加減にしないか」
年輩「ですが……」
みたいな雰囲気を見て取った昭士は、スオーラの肩をちょいちょいとつつくと、
《今度は一体何でモメてんだ?》
スオーラは説明しようと口を開きかけたが、慌てて言葉を飲み込むようにして一旦黙る。それから考え事をするように一呼吸以上間を置くと、
「我が教団の古い習わしで、初めて旅立つ托鉢僧を見送る……その、儀式のようなものがあるのです。パルテンツァというのですが」
旅支度を整えた托鉢僧を皆で取り囲み、一斉に手で頭や肩を叩きまくるというものだそうだ。もちろん軽くだ。スオーラが言うには「辛い世間の荒波に負けないように」という意味合いらしいのだが。
《古い習わしねぇ》
「それをやるのかどうかで、また言い争いが始まりました」
何とも申し訳ないという気持ちで一杯のスオーラの表情に、昭士も釣られて同じ気持ちになった。
本当にこうした宗教や組織というものは面倒ばかりである。
《つまりアレだろ。旅の無事を祈るーとか、頑張って来いよーとか、そういうのだろ。だいたいもう「初めて」の旅立ちなんて済ませてるじゃねーか。要らん要らん要らん》
もうどうでもいいとばかりに突き放す、露骨に「めんどくさい」と言いたそうな一言。実際托鉢僧になってから何度か昭士の世界に「旅立っている」のだから、今さら初めても何もない。
《今聞いたんだが、ジュンの村に何でも知ってて何でも探せるって人がいるらしい。アテにはならんと思うが、送ったついでに聞いてみても良いだろ》
昭士は完全に他人事のようにそう言うと、堪えていたあくびをかみ殺す。
「そ、そうなのですか!?」
いきなり飛び出した重大な情報に、思わずスオーラも驚きの声を上げてしまう。
一応ジュンの住んでいるというヴィラーゴ村に関する資料は読んでいたものの、さすがによそとの交流がほとんどない村。外部からの情報収集はやはり限界があるという事か。
「そうしますと、一刻も早く出発した方が良いのですが……」
昭士は腰のポーチに入れっぱなしの携帯電話を取り出す。蓋についた画面に表示されている時刻はもう午後の四時近い。時刻も昭士のいた世界とリンクしているので、この時計は信用できる。
スオーラの視線の先には、これまたさっき同様年輩の人間と若い人間とに分かれて言い争っている様子が目に入った。
年輩の人間は「儀式はちゃんとやらねば」と言い、若い人間は「廃れかけて形骸化してる物をわざわざやらなくても」と言い。
昭士は自分達と同じように「どうしたものか」と端から眺めている賢者に向かって、
《おい。こいつの村まで、ここからどのくらいの距離があるんだ?》
そう言ってジュンの頭を何となくポンポンと叩く。彼女は「わふわふ」と意味のない言葉を言いながらも機嫌は良さそうだ。
そんな微笑ましい笑顔に癒されつつ、賢者は少し考えると、
「正確な位置は判りませんが、少なく見積もっても直線距離で三十キロ近い筈です」
《三十キロか。確かに乗り物が欲しい距離だけど……》
出発しようとしているキャンピングカーの真正面では、未だに議論をし続けている集団がある。どうせなら車の脇とか別の場所でやってほしい。いっその事無理矢理発進してどかしてしまおうか。そんな思いである。
「ですが、途中から森になりますからね。さすがにこの車で村まで直接行くのは不可能でしょう」
賢者の淡々とした指摘に、一同「あー、そうだよなぁ」とため息をつく。そもそもこの車はこの世界の物ではないために、サイズがこの世界に合ったものではない。
この国有数の大都市ですら通れる道がかなり限られる車である。他の小さな町や村では入る事すらできない可能性だって高い。
「せっかく皆様から分けて頂いた食料も積んだのですけれど」
食料は車内のキッチンにある冷蔵庫に収納済。当然水もタンク一杯にしてある。それが無駄になりはしないか。スオーラは心配そうな顔である。
「……判りました。アキシ様達は先に車に乗っていて下さい」
《お前は?》
「『説得』します」
妙に「説得」の部分に力を入れたスオーラ。それが言葉通りの意味でない事は昭士も簡単に察する事ができるくらい、怒りに目が燃えていた。
巻き込まれるのは面倒とばかりに昭士は入口を開け、ジュンの手を引いて車の中に入る。そしてキッチリとドアを閉じカギまでかけた。
「ナンだ。ナンだ?」
ジュンが運転席の窓から人だかりの方を覗き込んでいる。昭士もひょいと目の前の様子を覗き込んでいる。
言い争っていた人々は、いきなり何もない空間を見て悲鳴を上げ、一目散にどこかへ駆け出して行く。
それはまるで目の前に化物でも現れたかのようだったが、そんな化物など影も形もない。
車内の二人が首をかしげていると、「魔法使い」になったスオーラが大急ぎでドアに駆けてきた。昭士が急いでカギを開ける。
「これから急いで出発します」
そう言いながら運転席につくと、澱みのない素早い動きでエンジンを始動。すぐさまアクセル踏みしめ車を走らせた。
《うわっ!》
その急発進ぶりに、昭士とジュンは後方の壁にガツンとぶつかってしまう。
《何したんだよ、お前》
「幻覚を見せて、皆さんを追い払いました」
少し――いや、かなり機嫌の悪そうな声でスオーラが答える。これはかなり怒っている。昭士ですらそう簡単に読み取れるほどの表情で。
スオーラはしばらくの間無言で車を走らせていた。その表情は明らかに何か言い淀んでいるものだ。だがやがて決心がついたようで口を開いた。
「……アキシ様には、お話ししておくべきですね」
スオーラは被っている大きな帽子を被り直して視界を大きくすると、
「先ほどアキシ様の世界へ行った時、エッセが現れました。エッセは倒せたのですが、その戦いでわたくしの魔法の本が失われました」
スオーラの魔法は、身体の中から取り出した本のページを破り取る事で発動する。その本が無くなったというのだ。
「万が一を考えていくつかのページは破り取った状態で保存してあったのですが、今使った幻覚もその一つ。わたくしの魔法は使い捨てなので、これでまた一つ魔法が減ってしまいました」
そんな大事な魔法を、たかだか追い払うためだけに使う事もないだろうに。昭士は声に出さずにそう思った。
キレると何をしでかすか判らない。そういうタイプは多いものだと胸に止めておく事にした。
昭士のそんな思いに気づく事なくスオーラは続ける。
「失われた本が、ページのように回復するかどうかは判りません。今までなかった事ですから。ですが魔法が使えなくなっても、わたくしは戦いを止めるつもりはありません」
目の前の車窓が町の中から荒野に一転する。町の外に出たのだ。大して舗装されていない道の為、揺れが少し大きくなった。
「それに、わたくしには心強い味方もいます。感謝の証もあります。まだまだ頑張れます」
ハンドルを片手で操りながら、空いた手で大事そうにそっと帽子に触れるスオーラ。昭士には判らないが、きっとさっき自分の世界に行った時に手に入れた物だろう。
その帽子がなぜ「ゲームのキャラクターの帽子」なのかは判らなかったが。
「以前ヴィラーゴ村の近くまで行った時にお世話になったガイドの方のところへ、まずは向かおうと思っています。そこからは、申し訳ありませんが徒歩になります」
《ああ、判った。その辺は任せる》
この世界の地理を全く知らない昭士は、スオーラの提案を受け入れるしかない。彼女が自分達に不利な提案をするとも思っていないが。
ふと横を見ると、ジュンは顔を窓ガラスにピタリとくっつけるようにして景色を眺めている。
「速い。速い。速い」
この車が大型でスピードを出すための車ではないとはいっても、自分で走るより、馬などが走るよりもずっと速いのだ。生涯初めて体験する速さである事は間違いない。
昭士としては「ナンだ、これ」と質問攻めにされないだけ相当に気が楽だと、この世界に来て久方振りにホッとした時間を感じていた。


それほどのスピードは出していなかったのだが、元々車そのものの絶対数が少ない。渋滞など全くない。
整備のほとんどされていない荒れ道を何のトラブルもなく走破して辿り着いた小さな村。どこの世界かは判らないが遥かに進んだ文明で作られた車だけの事はある。
そのため、小さな郊外の村の人々の注目を集めるには充分過ぎた。
村までは順調に来られたものの、村人の好奇と警戒心の視線を一身に浴びて、進みたくとも進めない状態だ。
そもそも、これだけ大きな車を停めておける場所がどこにあるのか。それどころか、車が大き過ぎて村の中に入れないという有様なのである。
「せめて村の外れに停めておければ、と思ったのですが……」
スオーラは運転席から周囲の様子を見て呟く。村、いわゆる村人が住む集落が固まっている地域を除けば痩せた畑が広がるばかり。さすがに畑のど真ん中に停める訳にもいかない。
昭士とジュンも運転席から見回してみるが、スオーラと同意見である。もっともジュンの方はきょろきょろ見回すだけで意見など出していないが。
「! あの方は」
「いくさし!」
スオーラとジュンの視線が同じ方向を向く。遅れて昭士がそちらを向くと、思わず口をぽかんと開けっ放しにしてしまった。
それは、この車を遠巻きに見ている村人から頭二つ分は突き抜けて背の高い人物だった。
服の上からでも判る鍛え上げられた鋼の肉体、としか形容できない筋骨隆々とした体躯。その上にちょこんと乗るのは彫りの深い、いや深すぎる、パーツのメリハリが効き過ぎた濃い顔立ちだ。髪は剃っているのか一本も生えていない。
その体躯の持ち主が村人をかき分けるようにしてこちらに近づいてくる。だがその表情に警戒心はない。見知った人間を出迎えるかのような、温かい笑顔を浮かべている。
濃すぎる顔立ちの為、少々不気味な感じは拭えないが。
近づいてきてから判ったが、その人物の額には白い丸の中に黒い丸という模様が描かれていた。
服装そのものは他の村人と大差ない。質素な半袖のシャツに膝丈のパンツルック。だがその足は裸足である事に加え、上半身はジュンと同じような布をスッポリと被っていた。
スオーラは慌てて運転席から下りると、昭士とジュンを押し退けるようにして車から出た。その後にジュン、それから遅れて昭士が続いた。
「ご無沙汰しております、ボウ様」
「いくさし!」
左手を出して握手を求めるスオーラに、前髪をバサッとかきあげて自分の額を見せるジュン。
ボウともいくさしとも呼ばれたその巨漢は、スオーラとガッチリ握手をかわしながらジュンを見下ろすと、
「おお。お前。いくさし。オレ。同じ」
身体に見合った太い声。かつジュンと同じような言葉遣いで微笑んでみせた。それから遅れてやってきた昭士に気がつくと、
「噂。聞いてる。デッカイ剣。使う。剣士」
ズンズンと昭士に向かって歩いてくると、バシンとすごい力で彼の両肩を叩く。別に避けようとも思っていないので、その「洗礼」をしっかり受ける昭士。予想通りかなり痛かった。
《ててて。……で、こいつ誰?》
少々過剰な演技で痛がりながら、昭士はスオーラに訊ねる。スオーラは握手をした左手を少しブラブラと振りながら、
「この方が先ほどお話しをしたガイドの方で、ボウ様と申します。ジュン様と同じヴィラーゴ村にいた方です」
「ボウで。良い。オレ。ボウ。ボウサマ。違う」
さっきのジュンと同じ事を言う。しかしその顔は苦笑しているので、彼――もとい彼女は「様」が敬称だと判っているようだ。
《…………そうか》
人は見かけで判断してはいけないが、とてもじゃないがどう贔屓目に見ても女性には見えない。初対面なら百人中百人が「男」と思うだろう。間違いなく。
彼女はジュンと同じ「ヴィラーゴ村」の出身らしい。
だが、ジュンは人種的には典型的な黒人。しかしボウの方は日焼けこそしているが、襟ぐりから見え隠れしているのは薄いピンク色の皮膚。これは白人の特徴だ。
そこで思い出した事がある。昭士の世界に存在した、女性ばかりが住むという「アマゾネス」の村。
女ばかりの狩猟民族。弓を引くのに邪魔なため、左胸だけ切り落としている。他の村から男をさらってきて子供を作る。産まれた子供が女なら育てるが男なら捨ててくる。
こちらの世界のヴィラーゴ村も同じようなものらしい。昔白人と子供を作った例でもあったのだろう。それなら人種的にゴチャゴチャでも「同じ村の出身」という話に納得はいく。
「スオーラ。何の。用だ」
ボウが人なつこそうな笑みを浮かべる。するとスオーラも釣られたような笑顔のまま、
「ジュン様を村まで送り届けたいのです。それから、何でも知っているという方に、お尋ねしたい事もございます」
「何でも。知ってる?」
ボウが不思議そうな顔でスオーラの言った単語を繰り返し、尋ね返してきた。
「まじーなじゅじゅし! 知ってる。ナンでも。探せる。ナンでも!」
ジュンは何故か万歳三唱でボウに向かってそう言った。するとボウも合点がいったかのように、
「呪(まじな)い術師。探せる。確かに。でも。今。ダメ」
だがその口から出たのは否定しようのない、
否定の言葉だった。

<つづく>


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