トガった彼女をブン回せっ! 第30話その3
『寒くねぇのか、レディ?』

空から降ってくる者達がある。
昭士も、スオーラも、ジュンも、ガン=スミスも必死に抵抗を続けている。
降ってくる者そのものには、それ自体には、大した脅威はなかった。
何故なら昭士の「戦乙女の剣」はもちろん、スオーラの魔法もガン=スミスのクロスボウも。何よりジュンですら降ってくる者を倒す事が出来ているのだから。
だが、世の中にはこんな言葉がある。「多勢に無勢」。
いくら何でもたった四人では防ぎ切れない。何者かの存在を知っていながら逃げ出した(と思っている)美和がこの場にいても、この状況は覆せはしなかっただろう。
次から次へと降ってくる者達とは、何と蜂なのである。無論ただの蜂ではない。全身が独特の金属で作られている、いわば蜂型エッセ。
不幸中の幸いなのはこの蜂型エッセには彼等エッセと戦う戦士以外の攻撃も効果があるという事だ。ただそれでも本物と同じ約五センチほどの体長の敵を次々迎え撃ち続けるのは至難の業である。
加えて蜂は群れで行動する昆虫である。だから数が多いのだ。事実村に近かった事もあり、村中がその被害に遭ってしまっている。
スオーラと村の聖職者の言葉で皆建物の中に避難してはいるので「人的被害」こそまだだが、いつ建物の壁が破壊されたり、扉などの隙間から侵入されて村人に被害が出るか判らない状態だ。
《ったく。エッセってのは元の生き物よりデカくなるんじゃなかったのか!?》
これまでの例と違って予想外の敵が来たため、昭士も苛立ちながら剣を振り回す。
自身の身体よりも巨大な戦乙女の剣を大きく、しかし体力を温存するように振り回し続ける昭士は、次々降ってくる者達をどうにか叩き落としていく。
戦乙女の剣は威力こそ桁外れに高いが、体長五センチ程の昆虫を相手にするにはあまりに大きく、大雑把で、非効率なのであった。
この戦乙女の剣は、昭士の妹・いぶきが変身させられた姿である。せめてもう少し振り回しやすい短剣にでもなってくれれば良いのだが、いぶきはこの姿の大剣にしか変身できない。
それに。彼女の「何かの・誰かの助けになる事を嫌悪する」性格上、変身が可能だったとしても、自分が死ぬ様な事になったとしても絶対にやる事はないであろうが。
誰かを助けたり、誰かの助けとなるくらいなら、死んだ方が遥かにマシだと豪語してやまない性格の持ち主だけの事はあるが、何の自慢にもならない。
それをどうにか当て続けているのは昭士の能力による部分がほとんどだ。そうでなければ時速四十キロで不規則に飛び続ける蜂を相手には出来ない。
《っ、っ、ってーな! いい加減にしろ!》
大剣になっていてもいぶきの五感はそのまま健在である。物を叩けば痛がるし、いぶきが痛がれば痛がる程剣は威力を強めていく。
戦いを経ていぶきの戦乙女の剣の威力が桁外れに上がっており、一度山の頂上を吹き飛ばした事がある。
もちろん村に向けて振り回さないよう気をつけてはいるが、蜂型エッセもそれを読んでいるかのように村の方へ行くように飛び回っている。
《レディの魔法でも倒し切れねぇとなると、消耗戦は避けられねぇな》
ガン=スミスも自身のクロスボウを連射して対応している。このクロスボウは特別製で通常の矢はもちろんガン=スミスの意志で作った光の矢を、それも連続で放つ事ができる。
その速度は何と秒速にして約七十六メートル。蜂の時速四十キロ=秒速十一メートルの約七倍も速い。
だが、このクロスボウの矢はガン=スミスの意識と直結している。あまりやりすぎると意識を失ってしまう。
それにクロスボウではあり得ない連射は出来るが、矢だけに何匹もまとめて撃ち倒す事ができないため効率が非常に良くない。
それが判っているから節約をしたいのだが、それが出来る状況にない事は一目瞭然。もちろんこの矢だけではこの場の状況を覆すのは非常に難しい。
「こうも立て続けに襲ってくると、さすがに魔法が尽きてしまいそうです」
スオーラの息が少し乱れている。彼女の魔法は、専用の魔導書のページを破り取り、それを具現化させる魔法だ。
本には色々な魔法が載っているのだが、一対多数というこの状況で効果的な物となるとそれほど多くない。加えて一回使ってしまうと一晩程ゆっくり休まないと使ったページは元に戻らない。
これがもし空を覆うほどの、黒い霧にしか見えない程の大群であれば広範囲に影響を与える魔法でカタがつくだろう。
そこまでの大群でない事が一つ。そして一塊となるのではなく、それぞれが統率が取れていないかのようにバラバラに動いている。そんな絶妙な群勢なのだ。仕える魔法はさらに限られてしまう。
「ブー。うるさい」
ジュンが自分の周囲をブンブンと飛び交う“蜂”を手ではたいたり指でつまんだりして倒している。
倒しても倒しても、矢継ぎ早という言葉通りに次から次へと降って来られては疲労も覚えるし、いつ終わるか判らないから一気に力を注ぎ込んで無駄に消耗する訳にもいかない。
そしてそう考え、動いている事によってかえって疲れてしまう。彼等はそうなりつつあった。
「やはりジュン様が見つけた、上空にある『何か』という物をどうにかするべきではないでしょうか」
スオーラの目には見えないが、次から次へと降ってくる者達の、さらに上空を見つめて言った。
この状況をどうにかする方法は、すでに皆の頭の中にあった。それは、遥か上空にある「何か」である。
見えていなくても周囲の動きが理解できる昭士の能力によれば、今も空から降り続けている蜂型エッセの出所は、先ほどジュンだけが見つける事の出来た「何か」なのだ。
戦いながら昭士の「能力」で観察をしたところ、その「何か」は視覚・気配といった情報を定期的に遮断しているようだった。
だから見えたり見えなかったり、判ったり判らなかったりするのだ。その行動(?)に何の意味があるのかは判らないが。
《あー、面倒だからアレを「巣」って呼ぶ事にする!》
やけくそ気味に怒鳴りながら、巨大な戦乙女の剣を振るう。
《こういう時は巣を叩く。戦闘の基本だ!》
《どうやるってんだバカ! 見えねぇくれぇずっと上なんだろ!?》
「そうです。わたくしの魔法でもそこまで上空へ行く事はできません」
ガン=スミスもスオーラも戦いの手は止めないものの、当然異を唱えた。ジュンは蜂を潰すのが面白いのか、勝手に一人村へ駆けて行ってしまっている。
とはいえ意見を出した昭士もどうやって遥か上空へ向かえば良いのかは判っていないし、思いつきもしていない。
一応スオーラは魔法で空を飛ぶ事は可能だ。だが本人が「できない」と言っている以上その方法では無理だろう。
ガン=スミスにはウリラという愛馬がおり、ムータの力でペガサスに変身する事ができる。とはいえペガサスがどのくらい高くまで飛べるのかが判らない。
もし巣が宇宙空間にあったとすれば、ペガサスでそこまで行けるかどうかは疑問だ。オルトラ世界に「宇宙」というものがあるかどうかは知らないし、ペガサスが宇宙空間を飛べるかどうかも判らない。
何かこう、もっと確実な手段が欲しい。一か八かにしても、もう少し成功しそうなものを。
昭士のささやかな長所は、相手にアイデアを出せと言うが、一応自分でも考えている事だ。完全な丸投げではないのである。
《とりあえず時間を稼ぐ! ちょっと我慢してろ!》
昭士はそう言うと、戦乙女の剣の切っ先を地面に突き刺した。剣の長さが自分の身長より遥かに長いので、かなり斜めにであるが。
《ナニしてくれンだてめぇ! 汚れンだろ!》
当然いぶきが文句をつけてくるが、もちろん無視である。それどころではない。昭士はムータを取り出すと、剣の刃の根元にある四角いくぼみにムータを嵌め込んだ。それはピタリと収まる。
すると、周囲の空気にヒヤリとする物が混ざり出した。今は冬なので空気自体冷たいのだが――それでもこの辺りは彼の故郷よりは温暖な方なのでより冷たさが際立つ。
その冷気の元凶は、斜めに突き立った戦乙女の剣である。刃の根元のくぼみにムータを嵌め込むと、剣に違う力を上乗せする事ができるのだ。
だいたいは火が多いのだが、今回は冷気。突き刺して直接触れている地面は、早くも霜柱ができ始めている。
《さむさむさむさむさむさむさむさむさむさむさむさむ…………》
剣からいぶきの震えた声が小さく聞こえ続けている。冷気を発しているのは戦乙女の剣=いぶき自身であるが、それでも寒いらしい。
《オイオイオイ何がしてぇのかは知らねぇが、寒いのは勘弁だぜ?》
あまり寒いのに慣れていなさそうなガン=スミスは、自身の吐く息が白くなってきたのを見て、昭士に文句をつけてきた。
マントをつけているとはいえお腹が丸出しのスオーラはあまり寒そうにしていないが、一方のガン=スミスはその格好自体がとても寒そうに見えるので、余計に寒さを感じている。だから、
《寒くねぇのか、レディ?》
「確かに冷えては来ていますが、大丈夫ですよ?」
蜂の対応をしながらスオーラがガン=スミスに向かって静かに答えた。その本当に大丈夫そうな表情を見て、
《……まぁ、腹、冷やさねぇようにな》
丸出しのままの彼女の腹にチラリと視線を合わせ、また蜂との戦いに戻る。
ところが。蜂の動きが明らかに先ほどとは違ってきた。ゆっくりになって来たのである。クロスボウの矢を当てやすくなったガン=スミスがその事に疑問を持った時、
「そう言えば、確か蜂はあまり寒いところにはいないと聞いた事がありますね」
スオーラが昔聞いた記憶を思い出す。
蜂に限らず昆虫というのは変温動物。寒いところでは動けなくなって死んでしまう。種類にもよるが、蜂は気温二十度を下回ると活動しなくなっていく。
そしてエッセは姿を模している生物の特徴を色濃く受け継ぐ性質がある。たとえそれが弱点であっても、だ。
実際辺りを飛んでいた蜂達が、寒さから逃れるように昭士達――そして村から離れようとしている。だが寒さが急速に増しているからだろう。逃げ切れずに身体が凍りついたまま地面に落ちて来る蜂が多くなっている。
《ったく。コイツらが動かなくなったのはともかく、寒いのは勘弁だって言ったろ?》
身体を抱えるようにして身を縮こませているガン=スミスが文句を言ってくる。
ガン=スミスの故郷の地球・アメリカはイリノイ州の気候は冬場の最高温度が一桁。最低気温はマイナスになる事も珍しくないくらいの地域である。
とはいえ寒い地域に生まれ育った人間でも寒さに弱い人は弱い。ガン=スミスもそんな感じの体質なのかもしれないが。
だがこれでもエッセを全滅させた訳ではない。襲ってきた蜂の大半は無力化か逃走させただけだ。
遥か上空にあるらしい「巣」らしき物は未だ健在であり、そこからまだまだ蜂型エッセがやって来ている。戦乙女の剣が生み出す冷気が一種のバリアの役割を果たして、こちらに来ていないだけなのだ。
《さて。どうやって上まで行ったモンかなー》
相変わらず上から蜂が次々と降っているが、この辺りの空気がグッと冷やされているためか、これまでのように近くまでは寄ってこない。
エッセはこの世界では長時間存在し続ける事はできないが、倒さない限り時間を置いて再び現われる。「巣」をどうにかするアイデアが思い浮かばない限りは、この冷気は本当にただの時間稼ぎにしかならない。
《……ロボも呼べれば良かったんだけどなぁ》
昭士は戦乙女の剣ではなく、もう一つの武器である「ウィングシューター」を手に取った。
これは元々昭士が幼少の頃に見ていた戦隊ヒーロー番組に登場する武器兼変身アイテムであり、彼が持っているのはその玩具である。
だがとある事情で本物=番組設定同様の威力のある武器に変わっていたのである。もちろんエッセに対しての効果はないが。
しかしその威力は武器としては立派な物であり、鳥型メカ・ビーム剣・ビーム銃への可変、番組同様変身もでき必殺技も放てる。
さらに鳥型メカにして空へ放つと鳥形の巨大ロボ・聖鳥王(せいちょうおう)がやってくる。
とはいえ番組中でそのシーンがあったのは数回程であり(省略される事がほとんどだった)、昭士もインターネットで調べて「そうだったんだ」と初めて知った事でもある。見ていた筈なのに。
あくまでも本物=番組設定同様になったのはこのウィングシューターという武器そのものであり、その威力である。いくら何でも巨大ロボまで呼べはしまい。
昭士はそれでも未練がましくウィングシューターを鳥型に可変させると、
《何もジェーニオまで連れて行く事はなかったと思うんだよなぁ》
《まぁいたら今頃こんなに困っちゃいねぇよな》
昭士とガン=スミスが揃って悪態をついている。
「冷たいぞ。空気」
上半身裸なのに少しも寒さを感じていないように見えるジュンが村から戻ってきた。それを見たガン=スミスは昭士を指差して、
《お前のバカ力で、コイツを巣まで投げ飛ばせねぇか?》
「巣?」
《ほら。このずっと上にある、お前が見つけたヤツだよ》
「できない」
自分の考えをあっさりと否定されてジュンをこづく真似をするガン=スミス。ジュンはそれに気づいていないようにスルーすると、昭士が持っていたウィングシューター(鳥型)を目ざとく見つけ、
「ナンだ。これ?」
《あー。武器だよ。銃。飛び道具》
「鳥。違う?」
《鳥にもなるの》
森で育った野生児であるジュンにも判るかもしれない単語で、とりあえず説明をしてやる昭士。ジュンは物珍しさで興味を覚えたのか、貸せ貸せと言いたそうにウィングシューターを引っぱる。そもそも今はそれどころではない。
だが、あまりにもしつこいので、いざとなったら能力を発揮して止めに入ろうと、ジュンに渡してやった。
鳥型になったウィングシューターを持った彼女は目をキラキラとさせて嬉しそうにして、鳥の鳴きまねをしながら飛んでいるかのように動かしている。こういう状況でなければ非常に微笑ましくも写る光景だ。
ところが。
まるで紙飛行機でも飛ばすかのように、いきなりウィングシューターを空へ向かって投げたのである。間にスオーラとガン=スミスがいた事もあり、昭士の能力をもってしても止められないスピードであった。
肝心のウィングシューターはあっという間に目視が困難になる程遠くへ飛んで行ってしまった。しかも地面に落ちず上空に向かって飛んでいく。飛ばす様なバランスになっていないにも関わらず恐ろしい投擲力である。
そしてウィングシューターは戦乙女の剣と違い、呼べば手元にやって来る訳ではない。
《お前なぁ。いくら何でも遠くに投・げ・過・ぎ・だ・ろ・う・が・よ!?》
昭士もジュンの頭に拳を置き、力を込めてグリグリと押しつけている。一部始終を見ていたスオーラは、さすがに昭士の行動を諌めるつもりもなく、
「あ、あの、ジュン様。さすがに今のはダメではないかと」
「鳥。飛ぶ。当たり前」
一方のジュンは鳥が飛ぶのは当たり前と言わんばかりに胸を張り、自分の行動の善し悪しが全く判っていない。
《壊れてないだろうな?》
《さぁな。そもそも黒いのにそんな大事なモンを渡したのが悪い》
飛んで行った先を見ながら表情が凍りついた昭士に、ガン=スミスがケラケラ笑いながら肩をバシバシ叩く。
それが見えていたのかは判らないがいぶきもゲラゲラと笑っているのが判る。昭士は剣の刃をガツンと蹴り上げてやり返す。
が。その時唐突に動く「気配」を感じたのである。それも遥か天空に。
「わー。ナンだ。あれ」
《何だ、あのバカでっかいの》
ジュンとガン=スミスの二人が全く同じ方向を向いて驚いている。昭士が感じている「気配」も全く同じ方向から感じている。
その気配の主たる物。そしてジュンとガン=スミスが驚いている「バカでっかいの」。そのどちらも遥か天空に現われ、そしてこちらに向かってくる物だ。
やがて昭士の肉眼、そしてスオーラにも「物」が見えてきた。
「な、何なのですか、あれは!?」
《……あー、いやー、何か、色々、済まん》
意味もなく昭士は謝ってしまう。
彼等の元に向かって来る「物」。それは昭士が全く予想していなかった物であり、同時にもっとも来て欲しかった物だ。
皆に見えているのは巨大な鳥型のロボット。昭士が幼少の頃見ていた戦隊ヒーロー番組に出てくる鳥の姿の巨大ロボ・聖鳥王そのものに間違いなかった。
大きな白い翼に黒い胴体。全長五十四メートル、重量百五トン、最高速度マッハ二十と設定集にあった、まさしく巨鳥が、悠然と空を飛んでいるのだ。
実際に見るとここまで大きいのかーと、昭士は思わず口をぽかんと開けて見上げてしまっている。
こんな巨大な鳥、いや、空を飛んでいる物そのものを見るのが初めてであろうジュンやガン=スミス。
スオーラは全長二三五メートルという飛行船を見た事も乗った事もあるのでそこまで驚いてはいないものの、それでも声の震えは隠せない。
「あの鳥、羽ばたいてもいませんよ。どうして飛べるんですか?」
《驚くとこソコかよ》
スオーラの驚いた部分に拍子抜けになって力でも抜けたのか、昭士は我に返ったように、
《よく判らないけど、来ちゃったモンはしょうがない。載れればいいんだけど……》
確か番組中ではヒーロー達が空高く飛び上がってコクピットに搭乗していたのだが、さすがに昭士にそんな真似はできない。超人的な跳躍力を発揮できるスオーラでも、あの高さまでは無理だろう。
やがてその巨体が自分達の真上を通過したため、太陽の光が思い切り遮られた。そのせいか村人達も上空の聖鳥王に気づき、何事かと大騒ぎになっている。
その時、上空の聖鳥王から一条の光が。その光は昭士の身体を包み込んだ途端、彼の身体がふわりと宙に浮いた。
そしてそのまま一気に上空へ、聖鳥王へ吸い込まれていく。幼少の頃憧れたロボットに載れるのかと、内心緊張と嬉しさで一杯になっていた。
ふと気づくと、昭士はいかにもロボットの内部といった感じの無機質な通路の上に立っていた。ロボの向きから考えて、コクピットがある鳥の頭部の方へ駆けて行く。
少し走るとそれっぽい扉が見えた。走る勢いのまま扉を押し開けると案の定、憧れていたロボットのコクピットの中だった。
とはいえ操縦法まで知っている訳ではない。そもそも物語を思い出してみれば、最初は誰が操縦しているのかも判らない謎の、しかし確実に味方をしてくれるロボットだった。
だが中盤でロボットが大破した際に調査したところ、ブラックボックス的な場所からカプセルに入った状態で発見されたのが六人目のメンバー。遥か昔このロボットが作られた時自ら志願してメカの一部となった人物だった。
昭士がウィングシューターを使って戦隊っぽいスーツ姿に変身するのが、この六人目のメンバーの姿なのである。とはいえそのメンバーは女の子なので(スカートがついてないとはいえ)その格好は微妙に恥ずかしいのだが。
(どうせなら、変身して乗り込みたかったなぁ)
ヒーローっぽいスーツではなく、剣道の道着姿の自身を見て自嘲気味に笑うと、昭士は一番前のシートに座った。
とはいえ操縦法はもちろん知らない。変形や必殺技の名前は叫ぶが音声入力ではなかった筈だし、パイロットの意志を汲んで動いてくれるタイプでもパイロットの動きがそのままロボの動きになるタイプでもなかった筈だ。
それを物語るかのごとく、目の前には小さなハンドルやレバー、スイッチや計器類までがズラリと並んでいる。ハッキリ言ってどこが何なのかどこをどうすればどうなるのかすら見当もつかない。
とりあえず方向転換はハンドルだろうなぁ、と、ハンドルを握って車のように傾ける。すると目の前に広がる風景がゆっくりと傾けた方向に曲がり出した。
とりあえず自分が思った通りに動いてくれた事に意味もなく高揚感を覚える昭士。そして、そこで調子に乗ってしまうのが悪いクセでもある。
ハンドルの両脇に、三角形型の電車の吊り輪の様なレバーがあるのを見つけ、それを両手で握って引いてみた。
TRANSFORMATION SEQUENCE
どこからか機械的な発音の声が響いてきた。おそらく英語だろうがネイティブレベルの早口なので、昭士にはほとんど聞き取れていない。
同時に、宙に浮いている筈なのに、いきなりコクピットが揺れ出した。自分に判るのは窓から見える風景だけなので、今自分がどうなっているのか判らないというのは非常に怖い。
そこで唐突に昭士の携帯電話が鳴った。取り出して蓋の液晶画面を見るとスオーラからの通話である。
《はいもしもしどうした?》
『アキシ様。上空の巨大な鳥が、いきなりバラバラになりましたが、大丈夫なのですか!?』
《バラバラ!?》
この巨大な鳥型ロボ・聖鳥王がバラバラになる。別に壊れた訳ではない。それは一旦バラバラになってから人型ロボに組み変わるからだ。という事は今その変型の最中なのだろう。
幼少の頃憧れたロボットに載っている高揚感が否が応でも増すのだが、その勇姿はロボの中にいては見る事ができない。ある意味痛烈な皮肉である。
揺れが収まり、何か動いている様な感覚があるが見えないのでよく判らない。その直後再びコクピットが揺れた。さっきより強めに、そして短く。その揺れが終わると同時に、
COMPLETE TRANSFORMATION
また機械的な発音の声が響いた。早口なのでやっぱり良く聞き取れない。バラバラになり、動いたり揺れたりしたのだから、きっと合体が終わったのだろう。
(番組では「鳥人降臨、聖鳥王!」って言ってたなぁ)
さすがにこの場で言うにはかなり恥ずかしく、実際に言いはしなかったが。
『ア、アキシ様。本当に大丈夫なのですか!?』
通話が繋がったままだったのに今気づいた昭士は、
《ああ、大丈夫。何か変型が終わったらしい》
『変型……と言われましても。その。何と言いますか』
スオーラにしては珍しく歯切れの悪い言い方である。
『何故巨大な鳥が、随身(ずいしん)ブルチャの御姿に変わったのですか!?』
電話からの彼女の声が完全に割れてしまっていた。
あまりの驚きのために。

<つづく>


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