トガった彼女をブン回せっ! 第26話その6
『お前。手伝え』

《後は吉報を待つばかり、と》
昭士は携帯電話をポーチにしまいながら独り言のように呟く。
彼が電話をした相手は、この世界で知らぬ物は無いとまで云われている知識を持ったモール・ヴィタル・トロンペ。
色々と不可思議や胡散臭い部分はあるが、その知識は本物。
その知識を頼り、この目の前の砂山となった「何者か」の正体を特定しようというのである。
エッセの反応はあるし特有の金属化能力もあるようなのだが、エッセかと問われるとノーと言うしかない。物事はそう単純ではないのである。
案の定。それから五分と経たずに鳴った電話に出た昭士が少ない語彙力をアレコレと駆使して二十分が経過する頃、スオーラとガン=スミスは全く同じ事を思っていた。
……本人がその場におらず、その目で確認ができないのだから尚更だ、と。
とはいえスオーラにも昭士と同じような説明しかできないし、ガン=スミスに至ってはそれ以下の状況しか把握していない。ジュンはもちろん論外である。
電話の向こうの賢者とて何とかしようとしているのは伝わっては来るものの、さすがに「水の塊のようなヤツ」「触手を伸ばして来る」「一応知能はあるらしい」といった情報だけでエッセ(?)の正体を特定するのは至難の業というレベルではあるまい。
だがそこは賢者。この世界で知らぬ物は無いとまで云われるだけの事はあった。
『……メルマ』
《は? メンマがどうしたって?》
唐突にぽつりと呟いた賢者の事場に昭士がボケて返すと、
『メルマです、剣士殿。一応……生物、になるのでしょうか』
そんなハッキリとしない前置きをしてから、賢者は勿体ぶったように話を始めた。
メルマというのは九九.九パーセントが水でできている不定形生物。何でもかんでも片っ端から吸収するだけの生物だ。
昭士は何となく理科の教科書で見たアメーバだのゾウリムシだのを思い浮かべる。
だがメルマに知能らしい知能がある筈はなく、身体(?)の一部を触手のように伸ばしたり、そもそも相手の裏をかくような行動をとるとも思えない。
だが確かに触手を伸ばして地下の水路を経由して鳥居を取り込もうとした。
元々持っている筈のないエッセの金属化能力も発揮した。
砂の塊になってからは砂人間を大量に生み出して昭士を攻撃しようとした。
携帯電話をスピーカーモードにしているため、スオーラがそのまま電話に向かって話しかけた。
「賢者様。もしかして吸収した生物の力や能力といった物を、己の物にしている可能性はありませんか?」
なるほどと、昭士と(特に)ガン=スミスが大きくうなづく。吸収した生物の力を己の物としてパワーアップしていくなど良くある展開だ。
賢者も電話の向こうで少し考え込むようなうなり声を上げると、
『本来のメルマならおそらくあり得ない事でしょうが、力や能力を吸収してより強くなるという考え自体は、正しいかもしれません』
あり得ない筈の事が起こる。世の中そう珍しい事ではないのだが、やはり起きれば驚きは隠せないのか、賢者の声に若干自信のなさを感じる。
《オイコラ。結局あのバカでけぇのはメルマっていう水みてぇなので良いのかよ?》
賢者のハッキリしない物言いに苛立ったかのようにガン=スミスが電話に向かって文句を言う。
『だと思うのですが、本来のメルマならあり得ない……』
《じゃあ突然変異とか超進化体とかスーパーナントカとか、そんな感じなんじゃねぇの?》
言い返した賢者の言葉を遮って昭士が無責任にそう言う。とはいえ昭士自身も判らないのだから、責任云々を言われても困るが。
そしてスオーラは律儀に「オルトラ世界では、相手の発言の途中を遮って自分の発言をするのは大変失礼な事」と昭士に注意している。
そんなおり、会話に全く参加できないジュンが、スオーラの肩をつつく。それに反応したスオーラは、ジュンが指差す方を見て、表情をこわばらせた。
「アキシ様、ガン=スミス様、あれを!」
二人もスオーラにならってジュンの指差す方を見てみると、これまで微動だにしていなかった砂山が小刻みに震えているのが判った。
何かの前兆だろうかと昭士は通話を切って身構える。だがその時になって初めて、
《あ、砂山にいぶき刺しっぱなしだった》
突き立てたまま抜けなくなり、砂山から生えてきた砂人間を相手にしている間にすっかり忘れていたのだ。唯一の武器の存在を忘れるなど迂闊にも程がある。
《刺しっぱなしって何だよ》
ガン=スミスが呆れるのも当然である。そんな中、
「あの、もしかしたら、何ですが……」
おそるおそるといった感じでスオーラが口を開く。その声は少し震えている。
「あのメルマらしき水の塊は取り込んだ物を吸収するらしいのですよね?」
“賢者はそう言っていたな”
“賢者はそう言っていたな”
ジェーニオも砂山に注意を払いつつも律儀に答える。
「砂山に刺したままだという戦乙女の剣を、吸収……という事は考えられませんか?」
《………………》
昭士とガン=スミスの表情が唖然としたまま凍りついた。
戦乙女の剣は対エッセ以外にはそれほど強力な威力を発揮しないとはいえ、取り込まれて吸収されてしまっては武器がなくなってしまう!
そこで戦乙女の剣=妹いぶきが死んでしまうという発想にすぐ行かなかったのは問題かもしれないが、彼女の普段の言動を考えると致し方あるまい。
昭士がいぶきをこの場に呼ぶキーワードを叫ぼうとしたその時だった。
砂山がいきなりボコンボコンと激しい音を立て始める。まるで内側から強烈な力で殴られているかのように表面が盛り上がる。それも全身(?)のあちらこちらから。
そのあまりの激しさに叫ぶ事すら忘れたようにぽかんとその様子を眺めてしまう一同。
ばしゅっ
遥か上空でそんな音が聞こえた――ような気がした。いや、気のせいではない。確かに音はしていたのだ。
昭士の「能力」は砂山の中から遥か上空に撃ち出された戦乙女の剣の動きを確かに感じ取っていたのである。
《何だぁ?》
「アキシ様、どうされたのですか?」
不意に上を見上げた昭士に向かってスオーラが訊ねる。
《いぶきのヤツが上に吹っ飛ばされた》
“確かに。吹き飛ばされるというか、吐き出されたというか”
“確かに。吹き飛ばされるというか、吐き出されたというか”
「高い。もう見えない」
昭士と同じように上を見上げるジェーニオとジュンがぽつりと呟く。
“遥か上空……一万メートルは上か”
“遥か上空……一万メートルは上か”
ジェーニオは人間が遥か遠くを見るようにそう言って、目の上に手をかざしている。距離の方は適当かもしれないが。
「遥か上空!?」
驚いたスオーラも空を見上げようとしたのだが、目の前の砂山の動きが急激に変わった事に気づきそちらに意識を集中させた。
先ほどからのボコボコとこぶのような盛り上がりが止んだかと思うと、何と砂の山が静かに力なく崩れ出したのだ。
山の麓がさらさらと流れ、頂上がゆっくりと地面に向かって落ち窪んでいく。
そして……何と、流れている砂の中から様々な生物が姿を現したではないか!
人間が多かったが熊や鹿といった動物。名前も知らない数々の魚。さらに――全長二メートルを超える、金属のような体表をもつ魚。そう。エッセである。
そのエッセが流れる砂に流されるまま流されている。こちらに襲いかかる事もなくその身を少しずつ沈めていくのだ。
《……生きてやがるのか?》
その手にクロスボウを出現させたまま警戒するガン=スミスの問いかけに答えられる者はこの場にはいなかった。
水ではなく砂に埋もれているとはいえエッセが目の前にいる。だがメルマとかいうらしい謎の生物(?)もさすがに放ってはおけない。
どちらを先にするか。それとも手分けをするか。しかし戦力を分散させる余裕は――
そこに先ほど天高く吹き飛ばされたいぶきが下りて――いや、落ちて来た。
流されるままになっているエッセの真上に。それもエッセを串刺しにするように。
天空からの落下の衝撃も相まって、川のように流れていた砂が轟音と共に巻き上がる。まるで砂でできた嵐である。
その轟音と強風に驚いて暴れ出す馬のウリラを、ガン=スミスは手綱を引いて懸命になだめようとしている。ジュンも手伝おうとしているがもちろんガン=スミスに止められている。
だが戦乙女の剣が落ちて来た衝撃の方が遥かに強く、なだめようとしているガン=スミス達もろとも吹き飛ばされた。
その時だ。ガン=スミスが手に持っていたままのクロスボウがカチャカチャと変形を始め、元のカード状のムータに戻ったのである。
さらには周囲の景色がすうっとかき消えていく。目の前にいたウリラも、ジュンも、砂漠の砂も、強風や轟音までがかき消え、周囲の総てが見る見るうちに塗りつぶしたような真っ白に変わって行った。
真っ白なだけで何もない空間の中にぼんやりと姿を現したのは、身の丈程もある大きな弓を持った小柄な青年だった。
革でできた粗末な服を着て、これまた粗末なフード付の外套をまとっている。
“怪しむ気持ちは判るが、どうか怪しまないでほしい”
外見通りの若い男の声。だがこの状況でそう言われても怪しまないのは無理である。なぜだか判らないが、今のガン=スミスは手足はおろか指先一つ動かす事ができないのだ。
“私はこの「射手」のムータに宿る、いわば精霊のような存在なのです”
色々言い返したいが何もできないガン=スミスを静かに見つめる、フードの奥に隠れた目。今のガン=スミスにはそれを睨み返す事しかできない。
“ムータには色々な力があります。その一つを使う時が来たようです”
口調こそ丁寧だが、その勿体ぶり過ぎた話し方が気に入らないガン=スミス。見た目は全く違うのだがどうしても賢者を彷彿とさせてしまうのだ。怪しさ全開の部分が特に。
“ムータをかざして「ヴェイーコロ」と唱えなさい。さすればこの窮地を脱する事ができるでしょう”
フェイドアウトのようなか細い声になりつつ、青年はそんな事を言った。同時に真っ白の周囲に溶け込んでいくようにその肉体もかすれていく。
同時に自分の身体も自分の思い通りにきちんと動く事にようやく気づいたガン=スミスは現在の状況を思い出し、怪しいとも分の悪い博打だと思いつつも、たった今教わった言葉を高らかに唱えた。
《ヴェイーコロ!》
周囲がまだ真っ白のまま、握ったままだった手綱が力強く引っぱられる。横にではない。明らかに上だ。
自分の身体がグングン上昇して行くのと同時に周囲の景色が元に戻っていく。
《んなっ!?》
ガン=スミスの声にならない声がする。当たり前である。自分の身体が空高く舞い上がっているのだから。
しかもそれだけではない。今まで隅々まで見知っていた愛馬・ウリラの姿がガラリと変わってしまっていたから。
茶色の毛並みだった筈が全身雪のような純白に。その容姿も凛々しさが幾分増しているようにも感じられる。
そして何より一番違うのは、き甲(きこう:首元と背中の間くらいにある盛り上がった部分)の少し下あたりから白く大きな翼が広がっている事だ。まるでギリシャ神話における天馬・ペガサスのように。
だが斜め後ろにいるガン=スミスを見つめる澄んだその瞳は、明らかにこの十年共に過ごしてきた「相棒」の瞳そのものだった。
ペガサスは器用に身体をひねって、ガン=スミスを自分の背中にふわりと乗せた。それに釣られるかのように、ジュンまでガン=スミスの後ろにちょこんと乗っかる。
それを見て怒鳴ろうとしたガン=スミスだが、下を見てその高さにギョッとする。いかに黒人を人とみなさない環境で過ごして来たガン=スミスでさえも、ここからジュンを突き落とすのをためらうくらいに。
「来る」
ガン=スミスに掴まって下を見ていたジュンが真面目な声でそう言った。空中を走る事など初めてで、懸命に手綱を操ろうとするガン=スミスも、その真剣さはただ事ではないと思い下を見る。
……確かにただ事ではなかった。
出会った時に見かけた水の塊が、こちらに向かって浮かび上がってきていたのだ。とはいえサイズは明らかに小さくなっている。それでも小さな邸宅レベルの大きさはあるが。
その全身(?)から無数に伸びる水でできた触手をうねらせる様は、攻撃するタイミングを伺っているかのようだ。
そして。その触手をうねらせる姿は、さしずめ空に浮かんだタコである。
ただ。その水の塊から聞こえてくる――うめき声のような音は、ガン=スミスの耳にはこう聞こえていた。
「YUCKY」と。
これは英語で「非常に不快である」「(食べ物が)非常に不味い」という事を意味する言葉だ。なぜこんな風に聞こえるのかは判らない。おそらく、たまたまそう聞こえるだけだろう。
“気をつけろ。こっちを狙っているぞ”
“気をつけろ。こっちを狙っているぞ”
いつの間にか側に飛んできていたジェーニオが忠告に入る。
“不味い物を喰わされた腹いせのようだからな”
“不味い物を喰わされた腹いせのようだからな”
《は!?》
そんな物を喰わせた覚えはない。ガン=スミスの目がそう語っている。
“おそらくは「戦乙女の剣」だろう。あれが天高く吹き飛ばされた時――”
“おそらくは「戦乙女の剣」だろう。あれが天高く吹き飛ばされた時――”
ジェーニオは少し間を置いて小さく笑うと、
“「不味い」と叫んでいたからな”
“「不味い」と叫んでいたからな”
それを聞いたガン=スミスは激しく吹き出してしまう。その拍子にバランスを崩しそうになった程だ。
《オレ様達を狙ってくるのは、完全にとばっちりかよ!》
戦乙女の剣は今地上にいる昭士の持ち物。確かにガン=スミスの言う通りである。だが世の中はそううまい事いかないものだ。
“下は砂埃で何も見えないからな。見えているこちらに来るのは普通だろう”
“下は砂埃で何も見えないからな。見えているこちらに来るのは普通だろう”
淡々と状況を分析しているジェーニオは、早速伸ばしてきた水の触手を軽々と避けてみせる。
《何か必殺技とかねぇのかよ》
あいにくガン=スミスはお世辞にも学があるとは言えない。ペガサスに関する神話や伝説などはほとんど聞いた事がないのだ。
ジュンがガン=スミスの肩に掴まって、いきなり馬の背中に立った。そしてジェーニオを見ると、
「お前。手伝え」
唐突にそう言うと、何と彼女は水の塊めがけて飛び下りたのだ。遥か上空にも関わらず!
もちろん水の塊も触手を伸ばして来るが、ジュンは自分が使える唯一の魔法「物を堅くする魔法」をフルに発揮して触手を固め、それを足場に次の触手を避ける始末。
そしてその魔法がとうとう水の塊本体を捕えた。触手の大部分も固まったまま動けなくなっている。ジュンはそれを足場にして、ジェーニオめがけてジャンプ。
それを見たジェーニオはようやく「手伝え」の意味を察し、彼女を空中で抱きとめた。
その時、ペガサスとなったウリラの目が真剣な物になった事を、ガン=スミスは察した。
これはウリラの癖でもある。「これから全速力で走るぞ」という時にする真剣な目なのだ。ガン=スミスは自身の両脚をウリラの胴に巻きつけんばかりに挟み込むと、手綱をしっかりと握り直した。
《GALLOP!》
英語で「走れ」と命じるガン=スミス。ウリラはこの世界で出会った馬だから英語など判る筈もないのだが、それでもウリラは相棒の意を汲み取って、地面に向けて天駆けた。
最初の一蹴りでトップスピードに達し、しかも限界突破の加速を果たしたウリラは、水の塊の中を一気に貫き、慣性の法則を完全無視した緩やかな着地を見せていた。
それはまさしく瞬き程の一瞬の出来事だった。ようやく砂埃が晴れてきた地上からは、その一瞬はまるで稲光のようであった。
そのためだろうか。稲妻ほどの超高圧の大電流と一瞬だが莫大な高熱は、電気を通さないと云われている水をも完全に破壊してしまったのは。
メルマらしい水の塊は空中でバラバラに弾け飛び、二度と再生をする事はなかった。


水の塊は消滅し、それが取り込んでいたらしいエッセも戦乙女の剣に串刺しにされて絶命。今回の戦いはようやく終わったと言えるだろう。
昭士からの電話でそんな報告を聞いた賢者モール・ヴィタル・トロンペは、電話を切ると同時に安堵の息をついた。
電話で色々と情報を聞きはしたが、さすがに現場を見ていないのでいかに賢者といえども詳細は判らない。
「おそらく」という言葉が頭につくが、ガン=スミスが話していた「オクラホマ・オクトパス」という謎の生物とメルマは(ほぼ)同一の存在であろう。
メルマにない筈の「“力や能力を”吸収してより強くなる」という部分が若干引っかかるものの、触手を伸ばした水の塊はまさしくタコのシルエットに酷似しているし、水の中に水の塊があるのだから普通の人間ではその姿を確認するのはほぼ不可能。謎の生物扱いはかえって似つかわしい。
金属に変えてしまう水を吐き出したのもテッポウウオ型エッセを、そしてその能力を吸収したと考えればおかしくはないし、気配が急に消えたのも「エッセが吸収された」と考えればこれまた不自然ではない。
そして戦乙女の剣を吸収しようとしたが「不味い」の一言で吐き出した報告にはさすがの賢者も肝が冷える思いがした。もし吸収されていたら武器を失う上にどんな能力を発揮されたか判ったものではない。
しばしの間全く動かなかったと聞いたが、それは戦乙女の剣を吸収するために全力を振り絞っていたからだろう。消化吸収に(ほぼ)全体力を使ってしまうので動きが極度に鈍くなる動物は実在するし。
だが、何でもかんでも片っ端から吸収するだけが取り柄のメルマが吸収を「拒否」するとは。戦乙女の剣=角田いぶきという存在は、メルマの視点では人類と不倶戴天のエッセよりも遥かに「嫌われている」らしい。
賢者は手持ちのスマートフォンの録音機能でさっきまでの会話を再生させ、その内容を紙に速記のようなスピードで書き込んで行く。
スマートフォンは賢者が使える「異なる世界の物を呼び寄せる魔法」で手に入れた物であり、このオルトラ世界の文明は初期の電話が「最先端の発明」というレベル。他の人間に伝えるにはこうして紙に書くか口伝しかないのだ。
スオーラの父親でありこの世界で広く信仰されているジェズ教最高責任者モーナカ・キエーリコ・クレーロの鶴の一声で、彼らに協力をするよう通達がされている。
賢者もその知識の提供と昭士達からの情報を整理整頓する役目を受けている。さすがにサボった事で最高責任者の恨みや怒りを買い、世界中を敵に回すほどの度胸は、賢者にはない。
この世界に知らぬ物は無いと言われている賢者であるが、やはり新しい事を知りたいという欲求はあるし、実際に知識を得る事で快感にも似た喜びを感じている。
とはいえ、エッセが現れる事を喜ぶつもりもないし、喜びたくもない。
何とかこの情報を生かし、出現するエッセの元となる生物や出現頻度・場所などのデータが取れれば。そして何らかの条件が判れば。戦いの役に立つかもしれない。そう思って引き受けはしたものの。
書き上げた今回のレポートをざっと読み返しながら、賢者は幾分肩を落とす。
(やはり統一性は見られないようですね)
あらゆる条件がバラバラであり、統一性もなければ周期性もない。むしろ何も関連がない事が判っただけマシ、というレベルである。が、そんな結論が世の中で通じる訳はない。
戦いとは、武器を振るうだけではない。こうした事後処理も同じくらい大変な「戦い」なのである。だから賢者はこう思わずにはおれなかった。
「早く終わってほしい」と。

<第26話 おわり>


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