トガった彼女をブン回せっ! 第26話その5
『ムータが反応したから多分そうだと思う』

暗渠(あんきょ)という言葉がある。整地や開発などの理由で地下に埋設された河川や水路を意味するものだ。
この鉄砲塚湖の水も、名もなき細い川を経由して山の裾野を流れる留十戈(るとか)川に流れて行くようになっている。
昭士達が立っていたちょうどこの場所が、開発によって埋められてしまった川の真上なのである。
もちろん昭士やジェーニオ達は水の動きからここに川がある事は判っていた。しかし「水の塊」も水の流れと一緒になって動いていたために、マンホールの直下に来るまで昭士ですら気づくのが遅れたのである。
走り寄った昭士は両手で戦乙女の剣の柄を力一杯握ると同時に、大剣を自分の身体ごとグルリと一回転させた。その回転の勢いを使ってさらに一回転し、「ジャックと豆の木」を思わせる豆の木のような水の柱を叩き切る。
さすがに根元を切られては立ち続ける事も触手(?)の形も維持できなかったようで、普通の水となって空から降って来る。もちろん鳥居の身体も。
「受け止めろ、ジェーニオ!」
《判った》
昭士の命令に間髪入れずに答えたジェーニオ(男性体)は空から落ちてくる鳥居の身体を片腕でしっかりと受け止めた。
しかしその衝撃で、鳥居の着ていた服に大きく裂け目が入って破れてしまった。それでも鳥居は安堵の表情で、
「……たすかった〜」
人間は何の装備もなく水中で息をする事はできない。もし助けるのに手間取っていたら鳥居は陸で溺死していただろう。全身ずぶ濡れのまま肩で荒い息をしている。
この「水の塊」はただ者ではない。加えてかなり高い知能を持っている。その事を皆に伝えるのには充分すぎた。
「よく判らないけど、こいつはヤバイ」
何となく呟いた昭士の言葉に、皆が言葉に出さず同意する。
なめてかかってはいけない。相手は本能で動く獣ではない。高い知能と思考を持った相手なのだと。
だが昭士は不意に構えを解いた。女性型ジェーニオもゆっくりとスオーラを地面に下ろす。何が起きたのか、あったのか全く判っていないスオーラが昭士に訊ねると、
「水の塊の気配が消えた。多分あれが今回のエッセだ」
証拠も確証もないが、おそらくそうだろうという説得力は確かに感じる。それはスオーラにも判る。
だがあれは「生物」なのだろうか。想像上もしくは異なる世界の生物なのだろうかと。それとも生物として現れる筈のエッセの「例外」なのだろうか。
そう考えたい気持ちをこらえ、スオーラはずぶ濡れの鳥居に駆け寄った。水の中に包まれていたので必要以上に水を飲んでいないか、他にも異常はないか確認をするのだ。
まだ息は荒いものの、少なくとも外傷は見当たらない。だが今は全身ずぶ濡れになってそのまま放置できる気候ではない。特にここは山の中。地上よりも気温が低いのだから。
「ジェーニオ。車の中にあるタオルを取って来て頂けますか?」
女性体のジェーニオは返事に代わってすぐに行動に移した。それをチラリと見送ったスオーラは続けて、
「濡れた服を着たままでは風邪を引いてしまいますが、トリイ様が着られるような着替えの用意がございません」
申し訳なさそうなスオーラに、さすがの鳥居も若干テンパったようにあたふたしながら、
「いえいえ、お気持ちだけで充分。……ところで敵は片付いたんですか?」
「片付いたというか、あっちの方から姿を消したというか」
昭士がそう言うと、肩に担いだ戦乙女の剣――いぶきが不満をあらわにした声で、
『終わったンならとっとと家に返してくれない? 寒いったらないンだけど』
「けど今変身を解いたら、お前素っ裸だろ。着る物ないし」
無遠慮な昭士の言葉にいぶきが間髪入れずに激昂し、聞き取れない言葉をガンガン怒鳴っている。
いぶきが着られそうな服がこの場にないのだ。いくら地味な女性服といえスオーラとではサイズが違いすぎる。
「着る物に困ってるのはこっちもなんだが。何か変にぬるぬるするし、破れちまったし」
鳥居も「自分の方が困っている」と言いたそうにぼやいている。完全に巻き込まれたのだからぼやきたくなるのも無理はない。
《普通の水なのにぬるぬるするというのは妙ね》
女性型のジェーニオにそう言われ、見つめられ、さすがの鳥居も恥ずかしそうに視線をそらす。だがそんな鳥居を見つめるジェーニオの目が鋭くなった。
《……やっぱり。あと少し遅かったらあなた、溶けていたわよ》
「はぁ!?」
そう言われて驚かない人間がいよう筈もない。普通の水に飲み込まれてなぜ「溶ける」という単語が飛び出したのだろうか。
《その「ぬるぬる」と表現したそれは溶解液だ。すぐ洗い流せ》
男性体のジェーニオの方が物騒な言葉を何でもない事のようにサラリと言ってのける。それを聞いた鳥居は大慌てで湖ほとりの売店に向かって走った。そこに水を撒くための水道がある事を知っているからだ。
「スオーラの車にシャワーついてるんだけどな」
昭士のそんな呟きも全く聞こえていないスピードだ。この季節なのだから水よりはお湯の方が気分的にも良いに決まっている。
とはいえ、着替えの問題は全く解決していない。どうしたものかと考えようとした時だ。
ぶぉぉぉん。ぶぉぉぉん。ぶぉぉぉん。
エッセの出現を知らせる音が再び。だがさっきと同様にエッセらしい気配は全く感じないし、水の塊のような動きも全くない。
《今度はオルトラ世界に出現したようだ》
両方のジェーニオの声がキレイにハモる。それを聞いた昭士は急いで短剣を拾い上げ、今度は戦乙女の剣を地面に寝かせる。
ブーブー文句を言ういぶきを無視し、ポーチの中からムータを取り出した。スオーラも同様である。
そこへタオルを抱えて戻って来たジェーニオは少しでも綺麗そうな地面にタオルを置く。
昭士とスオーラがムータを力強く前に突き出すという全く同じ動作をすると、
ぴぃぃぃん。
質のいいガラスを指先で弾いたような、高く澄んだ音が響いた。ムータからあふれた光がまるで空中に四角を描くように広がっていく。
その四角い光が形作ったのは、光でできた青白い扉だった。これがこの世界とあっち――オルトラ世界とを結んでいるのだ。
戦乙女の剣を拾い上げた昭士は、短剣と共に一直線にその扉に飛び込んだ。スオーラとジェーニオも後に続く。
そんな光でできた扉に彼らが消えてから、ようやくずぶ濡れのままの鳥居が戻って来た。
そこに残っていたのは立てかけたままの釣り竿と、真新しいタオルのみだったが。
「……おーい」
一人取り残された鳥居の呆れた声が空しく響いた。


そんな鳥居を残して扉に飛び込んだ一行が姿を現したのは、一面砂しか見えない大地の上。とはいえ砂漠独特の乾燥した雰囲気は全くない。
人間の姿に戻ったジュンが、とても熱そうに足を上げ下げしている。彼女は裸足なので、乾燥した空気でないとはいえ、焼けた砂の上はとても熱いのだから無理もない。
そして周囲を見回していたジェーニオが言う。
“ここはスピアッジャではないか?”
“ここはスピアッジャではないか?”
オルトラ世界に来たので、右半分が女で左半分が男の姿に戻っているため、二つの声が重なった話し方だ。
スピアッジャとはスオーラの故郷・パエーゼ国の中で「七不思議」とされている不思議な場所だそうだ。
気候的には砂漠とは無縁の周囲と全く変わらないのに、このスピアッジャと呼ばれるほんの数キロ四方の空間だけこうして砂漠のように砂の大地になっているのだと云う。
様々な学者が様々な論を唱えてはいるが、どれも決定的な物はない。スオーラがそう補足してくれる。
その補足を聞きながら、昭士は周囲を見回し、また細心の注意を払っていた。
エッセは基本最初に現れた場所の近くに現れる。そして地球とこのオルトラ世界は位置的に妙にリンクしているらしく、地球の日本にある鉄砲塚湖とオルトラ世界のスピアッジャという地名はリンクしているのだろう。
だからエッセが現れるのはこの近辺の筈。なのだが。
“あの失礼な女が向こうにいるな。それもエッセと戦っている”
“あの失礼な女が向こうにいるな。それもエッセと戦っている”
ジェーニオが少々不快そうな顔で遠くを指差した。昭士がそちらに注意をやると、馬に乗った人間がこの砂漠を走っているのが判った。
そしてジェーニオが不快そうにそう言ったという事は……。
《ひょっとしてガン=スミスのオッサンか?》
“他に誰がいる”
“他に誰がいる”
昭士の言葉にさらに不快な表情になるジェーニオ。
「ガン=スミス様ですか? エッセと戦っているのであれば、助けに行かなくては」
スオーラの言葉にジュンは砂の上を猛スピードで駆け出して行く。ジェーニオは右腕でスオーラを、左腕で昭士を戦乙女の剣ごと抱えて空を飛ぶ。
上空から近づくと、砂の上を駆ける馬が見えた。もちろん馬にまたがっているのは先日オルトラ世界で別れたガン=スミスである。
片手で手綱を握り、もう片手で対エッセ用にしてガン=スミス専用武器でもあるクロスボウを構えている。
普通の矢を放つ事もできるが、本来放つのは光でできた矢だ。それなりに連射はできるものの、エッセに対して決定的な破壊力は期待できない。
そんなガン=スミスが戦って(?)いるのは山のように巨大な泥の塊である。それが先ほどのように触手のように水――今は泥であるが、それを伸ばして馬を攻撃しているのだ。
次々と泥の触手を伸ばし、(おそらく)金属化させる水を吐き、それらを巧みに避けながらクロスボウを放つのが見える。
《オッサン、生きてるか!?》
昭士が上空から怒鳴る。それが聞こえたガン=スミスは昭士の方を見ずに、負けてなるかとばかりに怒鳴り返して来た。
《誰がオッサンだ東洋人!》
怒鳴りながらクロスボウの矢を放つが、当たりはするものの与えているダメージは微々たるものだろう。それがガン=スミスの気持ちを微妙に苛立たせる。
「ジェーニオ。わたくしは自力で飛びます。アキシ様をお願い致します」
スオーラは魔導書のページを破り取り、宙に投げる。そのページが背中のマントに貼りつくと、バサリと翼のように広がった。それを確認するとジェーニオはスオーラを放す。
スオーラは上空から泥の塊を確認する。するとその泥の塊はスオーラも敵と判断したようで、彼女にも触手のように水を伸ばして来た。それをさらに上空に上がる事によって避けたスオーラは、魔導書の別のページを破り取った。
「BUCUTE」
良く聞き取れない不思議な響きの言葉をページに込めると、それはすうっと姿を消した。
その直後だ。泥の塊がいきなりぐにゃりと形を変えた。真上から物凄い力で押し潰されているかのように。それに伴ったのか触手(?)の勢いが見るまに鈍くなっている。
だがそれでも、生身で向かって行くジュンめがけて鋭く触手を伸ばす。だがジュンは避けようともせずまっすぐ突っ込んで行く。
「ジュン様!?」
スオーラが別の魔法を準備しようとした時、ジュンは驚く行動に出た。
何と。自分に向かって伸びて来た泥の触手の先端を「蹴り飛ばした」のだ。それによって触手の軌道が真上に変わる。しかも、真上に伸びた状態で固まってしまったのである。
ジュンは村一番の戦士であるが、肉弾戦しかできない訳ではない。物を堅くする魔法だけは使えるのである。きっとその魔法の力だろう。
自分の身体の一部が固められて驚いたのか――そんな感情があるのかは判らないが、動きが一瞬止まった。
昭士は戦乙女の剣の刃の根元のくぼみに、自分のムータを嵌め込むように押し当てる。すると刃全体からゆらゆらと煙が立ちのぼり出したのだ。
これは戦乙女の剣に何らかの力を付与する時に使うのだが、一体何の力なのだろうか。ジェーニオがそんな疑問を抱いた途端、
《さむさむさむさむさむさむさむさむ》
弱々しく震えたいぶきの声が剣から出ている。きっと冷却の力だろう。この力をもって泥の塊を凍らせでもするつもりか。
確かに水が相手なら、熱で蒸発させるか寒さで凍らせるかの二択だろうとは思うが。
《真上で落としてくれ》
“判った”
“判った”
昭士に言われ、ジェーニオは昭士を泥の塊の真上で放した。戦乙女の剣を肩に担いだ状態で落下していく。
もちろん動きが止まっていたのはほんの一瞬だったので、昭士に向かって泥の触手やエッセの水とおぼしき水流が襲いかかって来る。
昭士はそれを持ち前の「周囲の動きを超スローモーションで認識する」能力をフル活用して、右手に構えた光線銃で破壊していく。こんな末端に凍らせる力を発揮するのは勿体ないとばかりに。
(やっぱり目が痛いな)
実質低空からとはいえ、立派なスカイ・ダイビングである。風が目に入って来てとても痛いので目を閉じる。
そうしていても周囲の認識が可能な今、視界は塞がっていても問題はない。
昭士はタイミングを見計らい、戦乙女の剣を振りかざし、絶妙のタイミングで泥の塊に叩きつけた。
ざくん。
戦乙女の剣から伝わる感触に違和感を感じる昭士。泥や水の塊を切った感触では、明らかにないのだ。しかも叩きつけて半ばまで食い込んだ刃が全く抜けない。
そこでようやく目を開けてみると、何と水や泥だった筈の敵が、何と砂の塊となっていたのだ。
しかもいぶきが全力で痛みを堪えていたためか周囲数メートルが吹き飛んだ程度の破壊力しか発揮できていない。この程度では山のようなこいつはほとんどダメージを受けてはいないだろう。
さらに追い討ちをかけるように、砂の山となった足元から「何かが生えて来る」感覚を感じ、あえて戦乙女の剣を手放して飛び退いた。
直後そこから生えてきたのは明らかに人間の腕。砂でできてはいるが、まごう事なき人間の腕だ。しかもどんどん伸びて――いや、肩から胸、頭、胴、腰、脚と砂でできた人間が出てきたではないか。それも次から次へと!
《砂の人間とは。一筋縄では行かないってのはこういう事か》
昭士は先ほど使っていた光線銃――ウィングシューターを連射する。あまり銃が得意ではない昭士でも、近距離だったため砂人間の胸板にぽっかりと穴を開け、または上半身などを吹き飛ばす。
だが砂の塊に過ぎないらしく全くダメージを受けている様子がない。そもそもこの砂人間達は足元の砂がある限りいくらでも再生されるだろう事は予想がつく。
《ジェーニオ、来い!》
光線銃で砂人間を牽制しつつ叫ぶ。数秒後上空から降下して来たジェーニオが昭士を掬い上げるようにしてその場から持ち上げて退避させる。
“戦乙女の剣が全く効果がないとは”
“戦乙女の剣が全く効果がないとは”
《仕方ないかもな。あれは金属化する水を吐くけど、エッセそのものかと言われると微妙だしな》
戦乙女の剣は、エッセに対しては物凄い威力を発揮する。これでとどめを刺した時に限り、そのエッセが金属にした生物は元の姿に戻る。
だがそれ以外の敵に対しては、単に超重量級の鉄塊に過ぎない。
地上に降ろしてもらった昭士は、何故か攻撃の手が止まっている砂の塊を見上げている。
泥の塊から砂の塊に変わってからは、少なくとも先程のように触手攻撃をして来なくなったし、金属化の水も吐き出して来ない。
さっきのような砂人間を繰り出して来るかと思えばそれもない。完全に動きを止めてしまっている。
だがこれ幸いと、観察できる程度に距離を取って一堂に会する。
《とりあえず、今は大人しいけどな》
昭士が砂の上にしゃがんで呼吸を整えている。もちろん下は熱いのでドカッと座る事ができない。
《それよりもオッサンとこんな所で出くわすとはな》
《それはこっちのセリフだ東洋人。ちびくろも寄るな》
愛馬・ウリラのたてがみを撫でながらガン=スミスが言い返す。そして無言でウリラの背に乗って来ようとするジュンを必死に牽制している。
ガン=スミスは本来二百年は昔のアメリカ人。当時のアメリカはまだまだ有色人種に対する差別が大きい時代だった。
とはいえ当人はそれを差別と全く思っていないので、外見が黒人たるジュンに対する態度は当然「差別的」である。
この世界とこの時代では「差別」という事は判っているし、しばらくの間共に牧場で過ごしていたが、改善されている訳ではない。
その牧場のあるメッゼリーアという町を離れて、あてのない旅暮らしをしていたガン=スミス。
立ち寄った隣町でこのスピアッジャの事を聞きつけ、せっかくなので立ち寄ってみた途端ムータからエッセ出現を知らせる音が鳴り響いたのだ。
それと同時に真上から振って来た水の塊。巻き込まれないよう馬を必死で走らせ――旅の荷物を載せているのでかなり走りづらかったであろう――何とか回避。
慌てて荷物を下ろして身軽にさせると、状況からその水の塊をエッセと判断し、ムータをクロスボウに変形させて一人戦いを挑んだ、という訳だ。
《とはいえウリラがずいぶん怖がっててなぁ。攻撃が当たりはしなかったけどいつもみてぇに走れなかったのがな》
その言葉に事情を知る一同は激しくうなづいた。
ウリラは過去エッセによって金属にされた事があるからだ。何とか元に戻したはいいが、金属になっている時間が長い程生物だった頃の記憶がどんどん無くなっていくらしいのだ。
そしてついには自分が「馬」であった事すら忘れてしまったかのごとく、ただ生きているだけの物体にまで変わり果ててしまった。
今では記憶を取り戻しているものの、覚えていない筈の何かが脳裏や身体に染みついてしまっているのだろうか。
「アキシ様。馬は元々臆病で怖がりな動物です。馬に乗って戦うためには、馬にも戦う訓練を施さなければなりません」
スオーラの解説に、ガン=スミスはウンウンと力一杯うなづいて「さすがはお嬢さん」と思い切り持ち上げている。
昭士がこのオルトラ世界に来て戦士の姿になるように、ガン=スミスは中身はともかく外見だけが男性から女性に変わっている。
中年男性が若い美女の言動を無駄に誉めて持ち上げる事自体は珍しくはない。ガン=スミスの行動にいちいち文句をつけるつもりもない。
そんなガン=スミスは「砂山」に視線を向けて、
《多分、水の塊が砂を吸って泥になって、さらに吸い過ぎて砂の塊にまでなっちまったんだろうが……》
さすがは「射手」のムータの持ち主らしく、並外れた視力で砂の塊を観察しながらそう言うと、
《こいつ、ホントにエッセなのか?》
今まで避けていたように考えていなかった、核心を突く質問が飛び出した。
《ムータが反応したから多分そうだと思う》
昭士は自分でもいい加減だなーと思いつつそう答える。
《とはいえなぁ。前に話してたテッポウウオ型エッセの反応がしなくなった途端に出てきたのがこいつだし》
そう続けるとガン=スミスは「はぁ?」と呆れ顔になり、
《じゃあテッポウウオの方はどうなってんだ? もしかして放ったらかしかよ?》
《それも判らん。喰われててくれりゃ数が減って御の字なんだがな》
昭士の答えにガン=スミスは言葉を失う。昭士自身も無責任な発言と判ってはいるが、そうとしか答えられない物は答えられないのだ。
「ガン=スミス様。ジェーニオが荷物を持って来てくれましたよ」
スオーラが良いタイミングで割って入る。ジェーニオもウリラの側に放置していた荷物を置くと、
“ずいぶん遠くまで走っていたようだな”
“ずいぶん遠くまで走っていたようだな”
《そりゃあもう。あのデケェ図体だしな》
今やすっかり砂の山として落ち着いてしまっているようにも見える水の塊である。
“水としか思えんが、意志を持っているかのように砂を吸い込んでいる”
“水としか思えんが、意志を持っているかのように砂を吸い込んでいる”
精霊としての能力で「砂山」を観察するジェーニオ。確かに水の動きにまぎれて触手(?)を伸ばしたり、下から迂回してマンホールをぶち破って人質を取るなど、明らかに知性を持った動きをしている。
だがその知性の使い方が今ひとつなのだ。頭が良いのかバカなのか判らない。
そして判らない事が起きたら、昭士達が取るべき行動は一つしかない。
昭士はポーチから携帯電話を取り出し、電話帳に登録してある番号を呼び出した。だがすぐに切る。
《節約は大事だもんな》
そう呟いて。

<つづく>


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