トガった彼女をブン回せっ! 第21話その5
『それは一体何なのですか?』

やがて崩壊は静かに止んだ。ようである。
全長二十メートルのロボットは地面に倒れ伏し、さらに手足はもちろん胴や頭部までが割れ、転げ、無惨な姿をさらしている。
展望スペースからはみ出した分は山を転げ落ち、木々を薙ぎ倒している。夜という事もありその音がこだましている。
ずっと観察をしていた昭士だが、やがて落ち着きを取り戻すと、
(大丈夫かな)
こんな音がしたら、さすがに近所の警察が黙ってはおるまい。それ以上に近隣の住民という野次馬達が。山が近いとはいえ人が全く住んでいない訳ではないのである。
特に今は近所の合宿所に好奇心だけならとても旺盛な学生がたくさんいるのだ。
[あ、あの、アキシ様]
スオーラがだいぶ遠慮がちに声をかけてくる。
[こんな音を立ててしまっては、不必要に人を集めてしまうのではないでしょうか?]
言うまでもないがスオーラの言う通りである。加えてこの場にいようものならば、間違いなく職務質問から合宿所に戻っての顧問教師の説教という最悪のフルコースが待ち受ける事請け合いだ。
「……押しつけるか」
こっちは正義の味方ではないのだ。さすがに後片付けまでやってやる義理はない。淡々とそう考えているジェーニオ。
放置する事に若干のためらい、後ろ髪を引かれるということわざ通りの心境のスオーラ。
だがグレムリン型エッセの動きがない以上、この場にいる事が得策とも思えない。すでに姿を消してしまっている可能性もあるからだ。それでも全員の考えはやがて一致する。
「よし。じゃあ帰る……」
昭士が帰還を言いかけた時、ロボットの残骸の中に小さく「何か」の動きを感じた。
「……ちょっと待て。ジェーニオ。静かに下ろしてくれ」
《この場にいるのはまずいんじゃないの?》
女性体のジェーニオがそう訊ねる。男性体の方も、
《片づけまでする義理はあるまい》
地面に下り立った昭士は、ロボットの残骸に向かって持ったままの大剣を構えた。それも盾のようにして。
『おいおいバカアキ。アンタってばホンットに人の話し聞きゃしないね。あたしはこンな事やるなって何度も言ってンのよ? いい加減に……』
ちゅちゅん!
高いが小さく鋭い、そしてどこか安っぽい音。同時に昭士に何か光のようなものが迫る。もちろん「能力」によって完全に見切っている昭士は、難なくその光のようなものをいぶき――戦乙女の剣で受け止める。
『あづづっ! ったくナンだってのよ、これ!?』
いぶきが鋭く悲鳴を上げてしまう。もちろん剣自体にはこれっぽっちも傷がついていないのだが、中身は生身の人間である。
どうやら相当熱かったようだ。真夏の山にも関わらず何か熱い物が迫ってきたような温度差のある風を感じる。
それを見てようやくジェーニオ達とスオーラは身構えた。
[アキシ様、今のは一体……]
ちゅちゅん!
再びするさっきと同じ音。今度はスオーラの目の前にぬっと戦乙女の剣の刃が現れ、それが光(?)を受け止める。
『あぢぢぢぢっ。オイコラバカアキいい加減にしろっての!』
「間違いない。ありゃビーム銃だな」
《何だそれは。瓦礫の隙間から小さな光が見えたが。エッセの仕業か?》
男性体のジェーニオがそう聞いてきたが、
ぢゅぢゅぢゅぢゅーーーーん!
今度はさっきよりも長く、ハッキリとした音が。だがそれも戦乙女の剣の刃がしっかりと受け止める。そしていぶきが悲鳴をあげる。
しかし、飛んできたビームに特に変化は見られない。昭士はジェーニオに向かって「ヤツ以外にいねーだろ」と答えると、当たった跡が少しも残っていない剣の刃を見て、
「……威力は大したモンだが、音が変に安っぽいな。まるでオモチャだ」
そう。どことなくオモチャっぽい音なのだ。それこそヒーローが持っている武器のオモチャが出しそうな感じの。
だがどう考えてもあれはオモチャではない。当たれば無事には済まなそうな事だけは判る。
一同は打ち合わせをする間でもなく、瓦礫の陰になるような位置に隠れ、そのビームをやり過ごす事にする。
とはいえ皆がバラバラの位置に隠れた訳ではない。時折かすめて飛んでくる物に気をつけながら、
[アキシ様。その『びいむじゅう』というのは何なのですか?]
スオーラが考えながらそう聞いてくる。
高い教育を受けてはいるのだがどうやら彼女の知識に「銃」という物はないようだ。
だが昭士は変に思った。スオーラのいるオルトラ世界はここと比べて百年は昔の科学技術力の世界。その頃にはすでに「銃」はあった筈だ。
今使われているビーム銃なら知らなくても無理はないだろうが、古い西部劇でガンマン達が持っているような銃くらいなら、いくら何でも知識がありそうなものだが。
「銃ってのはクロスボウの小型強力化つーか進化系つーか、そんな飛び道具だよ。そっちにはそういうの無いのか?」
正しいとは言えない説明をする昭士だが、クロスボウは何となくイメージできたようだがその「強力化」とか「進化系」とか言われてもピンとはきていないらしい。
数百年前の精霊であるジェーニオはもちろん知る筈もない。まぁこの世界のネットの海で情報を仕入れれば別だろうが。
「だがさすがにあんなビーム銃はないぜ。本来なら。あんなのがあるのは特撮ヒーローの世界くらいなモンだ」
相変わらず安っぽい音を発しながら飛んでくるビームを見つつ、昭士はそう毒づく。
特に質が悪いとはいえ鋼鉄にいとも簡単に穴を開ける威力を見てしまうと、あまり毒づいてもいられないと考える。
「でも、銃しかないならやりようはある。……コレ借りるわ」
昭士はスオーラの腰に手を伸ばすと、ベルトに挟んでいる短剣――ジュンが変身している物をすっと引き抜いた。
それから昭士は再度戦乙女の剣を盾のようにかかげて立ち上がり、無造作に銃を撃ってきている(筈である)エッセに向かう。
スオーラがあまりに無謀と口を出す前に、彼は剣の刃にビームを「当てさせながら」歩いて行く。いぶきの小さな悲鳴を無視して。
すると銃を撃つ間隔が急に早くなった。きっと全く効いていない事に驚いて焦りが出ているのだろう。その気持ちはとても良く判る。
瓦礫の陰から賢明にビーム銃を撃つグレムリン型エッセの姿がチラリと見えた。暗いのでどんな銃なのかの確認はできないが、大きさから察するとずいぶん大きく見える。
だがそれは人間の子供サイズのエッセが持って「大きく見える」のであり、一般的な人間の大人が持てばそこそこのサイズか、むしろ小さいかもしれない。
そんなサイズで、こんなに撃っても弾切れ一つ起こさず、鋼鉄に簡単に穴を開ける破壊力を出す。そんなビーム銃。
機械いじりや改造が大好きらしいが、そんなハイスペックな銃を作るとは。一体どれほどの技術力を持っているというのか。グレムリンの一番の怖さはまさにそこだろう。
エッセにしては生物を金属に変えるガスを一度も吐いて来ないのが気になるところだが、そんな物は来ないに越した事はない。むしろ来る前にしとめる。その意気で行くしかない。
やがて戦乙女の剣の間合いに入った。相変わらずエッセの姿は瓦礫の陰で見えはしないが、ビームが飛んでくる位置からおおよその場所の見当はつく。
それに「周囲の動きを超スローモーションで認識する能力」は、相手が見えている必要はない。死角にいても判るのだから、壁などの向こうにいたとしても問題はない。
そのエッセがとうとう飛び出してきた。これだけ撃っても全くダメージを受けていないのだから、やけになったとしか思えない。
こちらに駆け寄りながらエッセの両手は素早くビーム銃をガチャガチャと「動かしている」。弾の補充だろうか。
実際は違ったのだ。エッセの手の中でビーム銃はあっという間に細長い棒状に姿を変えたのである。さらに、
びひゅうううん!
さっきとは全く異なる音がした瞬間に、棒状の先からまっすぐ伸びるオレンジ色の光。それはまるで――
「ビームサーベルかよっ!」
完全に動きを読んでいた昭士は、今度は戦乙女の剣を盾にせず、剣本来の用途――相手を斬りつける事に使った。
一気に縦一文字に振り下ろした大剣は、互いの体勢の関係でエッセの左肩を叩き潰した。腕が根元から千切れ、ごろりと地面に転がる。
だがエッセ自身はまだ生きている。ビームサーベルは振り下ろした剣を持つ腕を狙っている。昭士は素早く剣を引いて戦乙女の剣に当たるようにする。もちろんこの程度で傷がつく剣ではないが……。
『いでっ! あづづっ! てめぇ! やめっ!』
エッセはひたすらに戦乙女の剣を斬りつけている。エッセがビームサーベルを振るう度に「びしゅん」だの「ばしゅっ」といった音が鳴って、正直微妙に鬱陶しい。
加えて剣術の基本など全く無視した、めったやたらという形容しかできない典型的な素人剣法。この程度なら「能力」を使わなくとも受け止めるのは雑作もない。
が、素人とはいえあちらもバカではないようで、何と、一気に間合いを狭めてきたのだ。
そう。いくら相手の動きが理解できても、今の昭士が持っている武器はとんでもなく長い全長を誇る。
こうした長い全長を持つ武器は相手の間合いの外から攻撃できる利点があるが、自爆覚悟ででも接近されると取り回しがしにくくなる=攻撃できないという欠点があるのだ。
こればかりはどれだけの技量を持っていても、そうそう解決できる事ではない。事実槍の名手が決死の覚悟で飛び込んできた歩兵の短剣にあっさりやられたなどというケースはいくらでもある。
「出番だ、ジュン!」
昭士は戦乙女の剣をエッセの方へ放り出すように地面に斜めに突き刺すと、今まで隠すように持っていた短剣(ジュン)の方に持ち変える。
とはいえこの短剣は、スオーラ達の世界で「マーノシニストラ」と呼ばれる「防御の為に使う短剣」。攻撃力自体は申し訳程度でしかない上に、この刃は焼き入れを施していないので切れ味など皆無に等しい。
だが鉄の棒で殴りつける程度のダメージを与える事は十分に可能で、さっき破壊された左肩のヒビを狙って短剣を叩きつけると、狙い通り左肩から胸にかけて大きく亀裂が広がった。
痛みを感じているのか判らないエッセであるが、明らかに動きが鈍くなった。だがそれでもビームサーベルを振るう手は止まらず、昭士はそれを短剣で受け止める。
ところが。ビームサーベルの刃がするりと短剣の刃をすり抜けてしまったのである。
昭士もビームサーベルを持った相手と戦う事など初めてではあるが、戦乙女の剣では起きていなかった「ビームがすり抜ける」自体に驚き、とっさに身体をひねる。幸いビームの刃が昭士を傷つける事はなかったが、
「おいジュン、どうした! 刃がすり抜けたぞ!?」
『申し訳ありんせん。上手く受け止められんせん』
ジュンが素直に謝罪する。元々ビームは固体ではないし、ジュンはビームというものの存在自体を知らない。いかにジュンといえども「知らない物」を受け止めるのは容易ではないのかもしれない。
『やーいやーい役立たず〜〜〜』
ここぞとばかりに戦乙女の剣(いぶき)からの罵声が飛ぶが、
「てめぇも超接近戦じゃ役立たずだろうが!」
という昭士の言葉に怒濤のごとく言い返してくる。しかし昭士もいちいち相手をしている余裕はない。
当たり前である。自分の武器を受け止める手段がないと判れば、調子に乗って攻撃してくるに決まっている。事実さっき以上にビームサーベルを荒っぽく振り回している。
もちろん「周囲の動きを超スローモーションで認識する能力」があるので昭士に当たる事はなかったが、ふと気になる部分を見つけた。
それはグレムリン型――直立歩行のウサギが腰に巻いている安っぽいガンベルト。そのバックルの部分にある模様である。
鳥の羽とアルファベットの「S」を混ぜて図案化したような、ロゴマークのような物。
(アレ確か……セイバード、だったよなぁ?)
昭士が幼少の頃TVで放送していた特撮ヒーローモノ「飛空(ひくう)戦隊セイバード」で、変身した主人公達が身につけていた物によく似ているのだ。
そんな彼等が使っていたのがビーム銃にもビームサーベルにもなる鳥型メカ「ウィングシューター」。今思えばひねりのないストレートな名前であると一笑に伏すだろう。
もう十年は昔の話だが、初めて買ってもらったオモチャだったので良く覚えている。もちろんすぐにいぶきに殴られて取り上げられ、彼女がいつの間にかどこかへ放った結果なくなってしまったが。
が。何故そんな十年も昔のオモチャを、現代に現れたグレムリンが身につけているのだろうか。
そんな事を考えていると、後ろからスオーラの声が。
[アキシ様、一旦高くジャンプして下さいっ!]
後ろで何かしていたのは判っていたが、その真剣な声に昭士はすぐさま高くジャンプしてみせる。
戦士に変身しているとはいえそれほど高くジャンプできる訳ではない。せいぜい自分の身長の半分ほどだ。
だが子供ほどの大きさのエッセとスオーラの間に何もなくなる状態を作れるほどではある。その一瞬をついてスオーラの魔法が炸裂した。
どぐぉぉっ!
彼女が魔法で出したドッヂボールほどの火の玉が、エッセの顔面に直撃。頭が綺麗に吹き飛んだ上に、胴体に入っていたヒビがますます広がった。
これではさすがのエッセにも大ダメージを与えた事は間違いがないのだが、これで倒せた訳ではない事は、ガクガクとしながら前進してくるエッセを見れば一目瞭然。
昭士は着地するとすかさず地面に差したままの戦乙女の剣を引き抜いてしっかりと掴み直し、エッセの後ろに回り込みながら刃の根元にあるくぼみに、自分が持っているムータを嵌め込んだ。
その途端、戦乙女の剣の刃全体が真っ赤に変化していった。剣自体が熱を帯びているのだ。それも真夏の空気を燃やしそうなほどに熱く。
『…………っ…ッ……………っ……ッ…………っッ…………っッ』
あまりの熱さにさすがのいぶきも悲鳴すら上げられない。そんな高温の刃を、昭士は大上段に振り上げ、エッセに叩きつけた。
ドッッッッグォォォォォォォオオオォォォォオオンッッ!!!!
『いっっっでええぇぇええええええぇぇええぇぇぇっっっ!!!!』
さっきロボットの脚に剣を叩きつけた以上の爆発と衝撃。昭士の視界が真っ白に染まる。想像を超えた轟音が耳をつんざき、麻痺していくような感覚。
何かが周囲の空気を震わせる。下から、横から、前から、上から、ありとあらゆる方向がビリビリと恐怖するかのように。
昭士の真っ白だった視界がだんだんと戻っていく。だが見える物は真っ白である。白い空間の中に放り込まれた。そんな感じにしか見えない。
右手には戦乙女の剣。左手にはジュンが変化したマーノシニストラ。それぞれを持っていた筈なのに、今の昭士の手には何も握られていない。
さっきの衝撃で落とすか無くすかしたのだろうか。昭士の顔色がすっと悪くなる。
そこで唐突に目の前に現れたのは、さっきと同じような直立歩行をするウサギだった。人間の子供くらいの大きさだが、耳と後ろ足がだいぶ大きく感じる。模様はないがまばらな体毛がある事からみても、エッセ本人(?)ではありえない。
これが先程ジェーニオが話していた「グレムリン」の本来の姿なのだろう。昭士が知っているグレムリンは小柄な小鬼のような姿だから、だいぶイメージが異なるが。
そんなグレムリンらしき者は、手にしていた物をこちらに軽く放ってきた。
問題なく昭士が受け取った物は、さっきまでエッセが身につけていたガンベルト。ホルダーには銃が入ったままである。
ベルトのバックルにあるロゴマーク。羽を畳んだ鳥のような外見の武器。間近で見れば間違いない。「飛空戦隊セイバード」に登場していた武器(のオモチャ)だ。
《ワビダ》
直立ウサギが投げ終わったポーズのまま、確かにそう言った。日本語で。いや。妖精や精霊は自分の言葉を訳す事なく他種族に伝える事ができるらしいから、日本語かどうかは判らないが。
《アノジンジャトカイウコヤノナカニアッタモノヲカイゾウシタ。オマエニヤル》
日本語には違いないがアクセントや抑揚が全然違うので、若干聞き取りづらい。それでも昭士は賢明に耳を澄まして相手の話を聞こうとする。
《トニカクスマナカッタナ。コンナコトクライシカデキナイ》
昭士が口を開こうとするが、言葉が出て来ない。いや。喋ってはいる筈なのだが声が出ていない。
《イキナリシンダトオモッタラコレダ。ナニガナンダカオレニモワカラン》
確かに昭士にも判らない。だが、確信した事が一つある。
これは多分殺されたグレムリン本人だ。
もちろん証拠など何一つないが、首を斬られて殺され、何らかの魔法や術、あるいは改造手術のような物でエッセにされ、自分達と戦った……もしくは戦わされた。
そんな風に巻き込まれたグレムリンの最後のメッセージ。そう思えてならなかった。
声に出ていない事は判っていても、昭士はグレムリンに語りかけた。こっちこそ済まなかった。助けられれば良かったのに。お前をエッセにしたのはどこの誰なのか教えてほしい。などなど。
しかし昭士の視界は今度はみるみるうちに黒くなっていく。真っ白の空間も、グレムリンの姿も、塗りつぶすようにして黒くなって……


[……アキシ様、ご無事ですか!?]
目を開けた時に飛び込んできたのは、心配そうに自分を見つめるスオーラの真剣な顔だった。
自分はどうやら仰向けになっているようであり、彼女の顔がどいて見えたのは、合宿所から見えたのと全く同じ美しい満天の星空。グレムリンにトドメを刺してからまだそれほど時間が経っていないらしい。
《……やってくれたな。先日あれだけ言っておいて》
気難しい顔の男性体のジェーニオが、昭士を一瞥している。彼はゆっくりと身を起こした。変身はすでに解けてしまっている。少し離れた場所で囚人服姿のいぶきが横になっていた。
ここはさっき降り立った神社だ。名前は「金烏明神(かなうみょうじん)」。その狭い境内である。
「ど、ど、ど、どういう事!?」
詰め寄る昭士に女性体のジェーニオが無言で展望スペースの方角を指差した。
のろのろとそちらへ歩き下を見た昭士は、それだけで彼等の言いたい事を理解した。
ないのである。展望スペースが。綺麗サッパリ跡形もなく。そこの部分だけ空間ごと削り取ったかのごとく。
見えるのはむき出しの土。ただそれだけ。
《力の加減ができるか不安だから我々に戦うなと言っておいて、自分はこれか。人の事は言えんとはこの事だな》
男性体のジェーニオがムスッとしたまま文句を言ってくる。
確かに昭士は先日の戦いでジェーニオ達にそう言っている。ただ立っているだけでアスファルトにヒビを入れてしまう彼等精霊のパワーを町中で使ってほしくなかったからだが。
この結果はどう考えてもいぶき=戦乙女の剣のトドメの一撃が原因である。今日最初にロボットの脚を斬った時も爆発したし、威力が上がったのだろうか。
《とんでもない量の、良く判らないエネルギーが詰まっているような雰囲気だったけど。気づかなかった? 使い手のあなたが?》
女性体のジェーニオも若干冷ややかな目でそう言ってくる。元が妖艶だけに表情だけでも言葉以上に心をえぐってくる。
戦乙女の剣は、いぶきが痛がれば痛がるほど、苦しめば苦しむほど凄まじい威力を発揮する事は実証済だ。過去小さな池を地盤ごと吹き飛ばした事もある。
思い当たる事は一つしかない。独房生活でフラストレーション=心の痛みや苦しみがたまっていたと解釈すれば。発揮するべき威力が貯まりに貯まっていたのであれば。この威力も納得ではある。
だが振るう度にこれでは困る事になる。ここが荒野だったとしても毎回地面をこんな風に吹き飛ばしてしまうというのは。
これが普通の町の中だったらと思うと、昭士は全身の血が引くような恐怖を覚える。
《やはり人が迫っているな。追求は後にして、ひとまず逃げた方が良かろう》
山の下の方に小さな明かりが見える。さすがにこれだけの事をしでかしたのだ。どれだけのんきな土地柄であろうと警察や消防などが来て当たり前である。
[アキシ様。これを]
スオーラが彼に差し出したのは……あの白い空間(?)でグレムリンが放ってよこした「飛空戦隊セイバード」のガンベルトだ。もちろんホルダーに銃が入っている。
[地面が崩れ落ちる時にアキシ様が持っていたのですが、それは一体何なのですか?]
「……た、た、多分だけど。か、かた、形見。かかなぁ」
グレムリンが死ぬ間際(?)にくれた物なのだから「形見」でいいと思う。昭士は首をかしげていたが、ベルトの裏側を見て表情を固くする。
《何を惚けている。逃げるぞ》
そこで男性体のジェーニオが彼を持ち上げた。続いて女性体のジェーニオがいぶきを持ち上げ、スオーラは自分の魔法で空に飛び上がっていた。彼等はそのまま現場を離れる。
下の方で騒ぐ声がするが、自分達を見てのものかどうかは判らない。だが今は逃げるしかない。
夜の闇の中持ち上げられて運ばれる昭士は、手に入れたばかりのガンベルトを真剣な顔で見ている。
グレムリンの言う事が本当なら、ジンジャトカイウコヤノナカ=神社とかいう小屋の中=神社の社にこれがあった事になる。
今は銃という形態だが、変型すれば金属っぽい表面の鳥型に変わる。しかも色はゴールド。
神社の来歴にあった「室町時代に金の鳥を見つけた村人が神の使いと思い祀ったのが始まり」は、これなのではと考えるのは突拍子もない事だろうか。
今まで見た事のない物を「珍しい物」として「不思議な物」として崇め祀る。それ自体は珍しい事ではないのだから。
だからこそ「まさか」と首を振ってしまう。そんな事はありえないという意味で。
昭士はガンベルトのホルダーに入ったままの銃を取り出した。そして銃身の下の部分とベルトの裏を見比べる。
その二ヶ所には油性マジックで書かれたへろへろのひらがなで、こうあった。
「か>たあさし」と。

<第21話 おわり>


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