トガった彼女をブン回せっ! 第13話その4
『いくら俺達でもどうにもならん』

ぶぉぉぉん。ぶぉぉぉん。ぶぉぉぉん……。
ムータからの低い音に、昭士とスオーラは顔を見合わせる。
この低い音は、彼等が戦うべき侵略者・エッセの出現を知らせるものである。
ただし、知らせるのはあくまでも「現れた事」のみ。どちらの世界に現れたのかもどの辺りに現れたのかも教えてはくれない。
加えて現在いる世界に「存在しない」生物を模した姿だった場合は、現れても知らせてくれないという欠点もある。
だから出現は判ってもどこに現れたのかが判らない以上、こちらから出向いて倒すのは極めて難しい。
救いは、エッセはこの世界でも昭士達の世界でも、あまり長い時間実体化してはいられない事だ。それだけこの世界を襲う時間が少ないという事だからだ。
「それ」に最初に気がついたのは昭士だった。
このオルトラ世界での昭士は、いぶきが持っていた『周囲のあらゆる動きを超スローモーションとして「認識」する』能力をそっくりそのまま受け継いでいる。その能力に因るところが大きいだろう。
《上だっ!》
低く音が鳴るムータをよそに、彼は真上を見上げた。慌ててスオーラも、そして釣られたようにジュンも同じように真上を見上げる。
だがそこには陽気の良い青空が広がるのみ。エッセはおろか鳥一つ飛んでいる様子がない。
「……何も、ありませんよ?」
「ないぞ?」
スオーラが空を注意深く観察するように、ジュンがお気楽な調子で昭士に言う。
《カッコつけて「上だっ!」なンて言っといてそれ? バッカで〜〜〜》
いぶきも昭士の背中で本気で笑っている。露骨にバカにした声で。
だが昭士は上を見たままである。それも真剣な顔で。だが、相変わらず空には何もない。
ところが。
「あ」
昭士と同じように上を見続けていたジュンが、一言漏らす。そして視線の方向に人差し指を伸ばし、
「落ちてくる」
「落ちてくる?」
ジュンの言葉に驚くスオーラが同じように上を見上げるが、何かあるように思え……いや。違った。
確かに「何か」がある。綺麗な青空の真ん中に、染みかほくろのような小さな小さな黒い点。
その小さな点は、青空を侵食するような雰囲気で少しずつ大きくなっていく。
加えて辺りが次第に薄暗くなっていくのがハッキリと判って来た。まだ夕暮れというには若干早いにも関わらず。
同時に「大きくなっていく」というのが間違いだと理解した。
その黒い点の「正体」は、遥か上空から落下して来た「何か」だったのである。そしてそれがこの町に降り注ぐ陽光を遮っているのだという事も!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………
空気を震わせる低い轟音が辺りに響いて来た。暗くなって来た事に気づいて表に出て来た人々が天を指差し驚き、慌てふためいている。
ドゴゴゴゴゴゴンッ!!
耳をつんざく重低音。同時に立っている地面を激しく揺り動かす振動。横から殴りつけるような突風と衝撃波。
サイドカー付きのバイクにまたがっていたスオーラはまだ良かった。ジュンは布の包みを抱えたままコロリと転び、渡そうとしていた腕時計(型携帯電話)を取り落とす。
昭士もとっさにバイクのハンドルにしがみついて倒れるのを防ぐ。
《ナンっじゃこりゃあああああっ!?》
辺りはほとんど真っ暗。そんな中思わず叫びながら上を再び見直す昭士だが、さすがに事態が把握できるほど夜目は利かなかったので、何が何だかサッパリ判らない。
何か巨大な物体が天を覆い隠している。そうとしか見えなかった。
まだ暗くなる時間でもないのに辺りは真っ暗。その原因は何かが天を覆い隠しているため。そんな状態を見た町の人々は完全にパニック状態だ。
世界の終わりだ。天からの罰だ。そんな叫びがあちらこちらから聞こえてくる。
ある者はその場に伏して天に祈り。またある者はこの教会に向かって「何とかしてくれ」と訴えたり。またある者は悲観的になって喚き散らしたり。
ようやく激しい揺れが収まってきた。
昭士はようやく闇に慣れてきた目で周囲を見回してみると、ずっと遠くに斜めになって天に伸びている柱のような物を確認した。
もちろんそんな物がこの町にない事は確認済である。という事はあの柱のような物は……。
そんな昭士の考えを吹き飛ばすような地面の揺れが再びやって来た。さっきと同様か、それ以上のものだ。人々は倒れないよう何かに捕まったりするので精一杯だ。
そんな中辺りがゆっくりと明るくなっていく。揺れに耐えながらそれを見上げる昭士が、思わず口をあんぐりと開けてしまった。
天を覆っていた「何か」が動いているのだ。上に向かって。そこへこれまた先程のような突風と衝撃波がやって来る。
それに転げそうになりながら昭士の目が見た物は自分の想像を遥かに超えた代物だった。
それも当然だろう。今まで天を覆っていた物、それこそが賢者が言っていた「ノミ型のエッセ」だったのだから!
そのエッセは町には何もせずにそのままジャンプしてどこかへ行こうとしている。
何もする様子がないとはいえ、町を覆う程巨大なノミである。地面を蹴ってジャンプしようとするだけで、地震のような揺れ、突風や衝撃波まで起こってしまうのだ。
昭士がどうしたら良いのかと考えている間に、そのノミ型エッセは何事もなかったかのようにジャンプして飛び去ってしまった。災害並の「余波」を残して。
ジャンプした際の「余波」でキリキリ舞いになった人々が体勢を立て直した頃には、町を覆っていたエッセの姿は遥か彼方の上空にあり、そのまま姿が消えて行った。
ノミ型エッセにしてみれば、どこかからジャンプしてきてこの町に着地。そして次の目標めがけて飛び去っただけなのだが、たったそれだけにも関わらずこの被害とは。
昭士達の目に見える範囲では、立て付けの悪い看板が吹き飛ばされたり街路樹が斜めに倒れかけている程度だが、それ以外の地域はどうだろう。
特に着地点にされた場所に被害がなければ良いのだが。そんな奇跡のような願いを抱かずにはおれない。
スオーラは教会の人々と協力してそれらを調べて来ると言い、バイクを置いて駆け出して行った。
この国の言葉を聞く・書く・話す事ができない以上、昭士・いぶき・ジュンの三人は、この場では何もする事はないし、できそうにもない。
昭士は背中のいぶきに向かって話しかけた。
《なぁ、いぶき。元の姿に戻してやるから、アレをブチッと踏み潰して来いよ》
《無茶言うなこのバカアキ》
珍しくいぶきの方が同意を得られる意見を吐いた。


遠くに行き過ぎて見えなくなったのか、活動限界が来て姿が消えたのかは判らないが、エッセは姿を消した。
ひとまずこの町の危機は去ったのだ。あくまで「ひとまず」であるが。
パニックを起こしていた町も、その元凶が消え去った事とスオーラを始めとした聖職者達が手分けをして事態の収拾と説明にあたった結果、落ち着きを取り戻しつつある。
しかし時間は経ち今はすっかり夜も更けている。どんなに急いでいても、今から出発するのは危険すぎる。
昭士達の世界のようには、夜間行動可能なほどに発達していないからだ。こうした大きな町の中や周辺はともかく、それ以外は未開の荒野という場所も多い。それに野獣も多いし野盗も出没する。
実の姉の安否を気にしつつも、それを周りに悟られまいと笑顔を作るスオーラが、昭士には少々痛々しく見えた。
とりあえず出発を明朝に定め、今日はもう休む事に決めた三人に教会で簡素な夕食が出された。
献立はいくつかの野菜を煮た物と小さなパンだけである。別に殺生を禁じる=肉は食べないというイメージの教会で作ったからではなく、単にこの国では肉そのものをあまり食べる事がないだけだ。
昭士とジュンがそれらを口に運ぶ中、スオーラは夕食そっちのけで、テーブルにこの町の地図を広げていた。
「先程町を見て回ったり、目撃情報から割り出したのですが……」
そう言いながら、手にした鉛筆で地図の上に細長い四角をいくつか書いていく。都合四ヶ所だ。町の中央に固まっている事はなく、結構四方に散っているように見える。
昭士はこの世界の言葉も文字も、ついでにこの町の地理も全く判っていないが、とりあえず聞いておく、という態度で話の続きをうながす。
「この四角で囲った部分は、ノミ型エッセの足が着地した部分です。地面は凹み、建物は潰され、残念ですが亡くなられた方も何名かおります」
悲しいのを堪えるような無表情を作ってそう言うと、小さく何やら祈りの言葉のような物を呟いたスオーラ。
だが昭士はギョッとなった。足が着地したという事は、町の四隅に散らばったこの「痕」が昆虫の足の位置という事になる。その痕から考えるとこのノミ型エッセがどれだけの巨体だったのか想像がつくし、また考えたくもなくなるスケールである。
《おいこらバカアキ!》
昭士は蓋を開きっぱなしの携帯電話を手に取ると、親指でしばらく操作を続ける。そうして画面に表示されたのは、ノミの事が書かれたネット上の百科事典サイトだった。
そのノミの全身画像をスクロールさせて表示させるとブツブツと呟きながら、
《昆虫だから足は六本だよなぁ。けど六本全部の足で着地って訳じゃなさそうだな。にしてもこの絵と町が真っ暗になった事から考えると……なぁスオーラ。この町の端から端までってだいたい何キロくらいだ?》
いきなり質問を振られて驚いたスオーラは、部屋の隅をチラリと見て一瞬言い淀んでから、
「え、そ、そうですね。正確な円や正方形の形はしていませんが、だいたい十キロメートルくらいはあると思います」
という事は、エッセの体長は間違いなくそれ以上という事になる。大きいにも程というものがあるだろう。
さらに百科事典サイトには「ノミは体長60倍の高さ、100倍の距離を飛べる脚力を持つ」と記されている。
計算しやすく体長十キロと考えたとしても、高さ六百キロ、一万キロの距離を飛べる事になってしまう。
重量までは判らないものの、そんな勢いの巨大な物体が着地したのでは、確かにあれだけの被害が出ても無理はない。むしろ奇跡的に被害が少ないと言う方が正しいだろう。
あれだけ大きい身体では、いかにエッセ限定で一撃必殺の威力を持つ戦乙女の剣もどれだけ役に立つ事か。例えるなら超弩級戦艦めがけてBB弾を撃ちこむようなものである。
加えて一回のジャンプで一万キロは飛び去ってしまう移動能力。人力はもちろんこの世界のどんな乗り物を使ったとしても、追いかけるのは不可能だ。
今の昭士には『周囲のあらゆる動きを超スローモーションとして「認識」する』能力がある。
だがこれはあくまでも『相手の動きが判る』だけである。一万キロもの距離をジャンプするための一挙手一投足は見えるが、そのスピードそのものにまで昭士が着いていける訳ではない。
《聞けよゴラ》
《どうやったモンかね、ホント》
八方塞がりとはこういう状況を言うのではないだろうか。そんな昭士の無責任に聞こえる発言の中に、そんな諦めにも似た雰囲気がこもる。
「アキシ様。確かに状況は絶望的だと思います。ですが諦めてしまう訳には参りません」
もちろん本当に諦めてしまっている訳ではないが、この状況ではスオーラがそう思っても無理はない。
《どこに現れるかも判らない。現れたとしても動かれたら追いつけない。たまたま俺達の目の前にこつ然と現れて、なおかつ動かないでいてくれる確率なんて、ゼロパーセントどころかマイナス何パーセントってトコだろ》
昭士は煮込んだ野菜をパクつきながら、冷たい現実を突きつける。
《諦めるつもりはさらさらないけれど、せめて何かでおびき出すとか、何かで動きを止めるとか、そういうアイデアがない限りは、いくら俺達でもどうにもならん》
昭士は食べながらスオーラにそう言い聞かせる。
《聞けっつってンだろバカアキ》
ふと何か思い当たる事があったかのように一瞬黙ると、スオーラに向かって、
《なぁ、スオーラ》
「ハッ、ハイ、何でしょうか、アキシ様」
いきなり名前を呼ばれて驚いたのかスオーラはドモってしまう。ついでにビシッと背を伸ばしてしまう。
《超巨大化したノミ型エッセって、何食べるんだろうな。ノミってのは生き物の血を吸う生物だし、金属は食える、つーか吸えるのかね》
エッセが捕食するのは、自らが吐き出した特殊なガスで生物を金属化した金属のみである。だが、姿を模した生物の生態に大きく影響を受ける。
ノミは血を吸う事で栄養を得る。何か堅い物を「食べる」ような身体の仕組みにはなっていない筈だ。
仮にガスを吐き出せたとしても、堅い金属をどうやって「吸って」食べるのだろうか。
昭士の疑問にスオーラはハッとなる。だが自分にその答えが出せる訳もなし。
「ですが、エサが食べられないと考えるのは早計です。それにそうだったとしても、エッセが衰弱するまで待つ余裕なんてありませんよ?」
《そこまでは言ってないけど……おいジュン。お前も何かアイデアの一つくらい出せよ》
昭士の視線の先には、さっきから無言で脇目も振らず野菜の煮物を貪っているジュンの姿が。
片手にスプーン、片手にフォークを持ち、左右交互に野菜をすくっては口の中へ、野菜を突き刺しては口の中へ、をひたすらくり返している。
「もぐまぐまぐ。ぼぐ」
口の中一杯に野菜を詰めたまま喋ろうとしているので、何を言っているのかサッパリ判らない。
ジュンに頭を使うような真似は正直厳しい。綿密な作戦を立てて挑むような行動には全く向いていない。
彼女は頭が悪いのではなく「学がない」。行動も本能的というか直感的。当然そんなアイデアを思いつく筈もない。と、昭士は思い直した。
《ハデに無視してンじゃねぇよテメエら》
ジュンは口一杯の野菜をどうにか苦労して咀嚼し終えると、
「仕掛ける。罠」
素晴らしいひらめきのごとく目をキラキラとさせ、二人にそう言った。
ところが昭士は大きくため息をつくと、八つ当たりのように手近の野菜にフォークを突き立て、
《あのなぁ。お前、あのエッセ見たのか?》
昭士のその呆れた言葉に、ジュンは不思議そうに首をかしげる。
《どう考えてもこの町よりもデカイんだぞ、あいつ? どんな罠を仕掛ける気だよ?》
昭士にそう指摘されたからなのか、ジュンは食べる手を止めてじっと考え込んでいる。単なる振りにしか見えないが。
罠という事は、エサでおびき寄せて捕らえる、もしくは通りすがったところを捕獲する、のどちらかのパターンになる。だがエッセに最適の「エサ」と言われても全くピンと来ない。
スオーラが言うにはこれまで現れたエッセは、生物であれば特に選り好みをしたりはしないらしい。身体が大きいから食べでがあるだろうとか、小さいから食べやすそうだという思考はないように思えたとの事だ。
通りすがりに捕まえられたとしても、今回のエッセの場合どこをどう飛び跳ねて来るか判らない上にその距離が数千キロ単位。あちらはある程度の時間が経つか極端に消耗するとこの世界から消え失せてしまう。
どんな罠を仕掛けるつもりだと「改めて」ジュンに説明してから、
《普通の生き物だったらエサで釣るって方法もあるっちゃあるが、相手はエッセだからなぁ》
「確かに罠を仕掛ける事自体は良い作戦だとは思いますけど……」
せっかくアイデアを出してくれて申し訳ないが、という一応の気持ちを込めて、ジュンの案を否定する。
そこまでハッキリと言われてはさすがのジュンも頑として言い張るような真似はしない。
《だから人の話聞けってンだろうが!》
カンカンカン。
部屋の外にある鐘が軽やかに鳴らされる音が響いた。話を中断されて少し不機嫌そうなスオーラが席を立ち、入口そばにある鐘を同じように鳴らす。
カンカンカン。
同じような鐘の音が響き、スオーラはそれからドアを開けた。
昭士やジュンからすると面倒なやりとりではあるが、こうした教会での「決まり」らしい。
スオーラはやって来たらしい者と入口で立ち話中である。昭士とジュンは言葉は判らないので、しばし討論を中断。夕食を食べる作業に戻った。
《……おい。ゴラ。さっきから聞こえねーフリしてンじゃねぇ、このバカアキ!》
ずっと離れたところに立てかけておいた戦乙女の剣=いぶきが恨みがましく一層ボリュームを上げて怒鳴りつけて来た。昭士はうんざりした顔で彼女の方を向くと、さらに文句が来る。
《こっちだって腹減ってンだからメシくらいよこせオイ》
この世界では身の丈より巨大な刀剣だが元の世界では普通の人間だ(性格的にはともかく)。食べなければ腹も減る。
しかし刀剣になっている間は飢えもしなければ疲れもしない。眠る必要もない。その辺は既に調査済であるし、ジュンからの体験談も聞いている。
それに協力する意志が全くないいぶきの発言に付き合っていては、発展する話も停滞どころか逆戻りしてしまう。
だが話が中断したからだろう。昭士はわざわざいぶきに近づくと、
《食べなくても良いんだから別に食わなくても良いだろ。食費の節約にもなるし。だいたい、そう何人分もメシをタダで用意してもらうってのも、さすがに気が引ける。お前じゃあるまいし》
彼は黙々と野菜の煮込みを「いぶきの目の前で」食べながらそう説明する。
この食事は、托鉢僧であるスオーラに与えられた「特権」の一つである。
托鉢僧とはこの宗教では、見習いを除いた僧侶の最下層の階級である。
その役目は、あちこちを旅して自分達の宗教の教えを人々に伝え、広める事。そしてその旅に必要なあらゆる便宜を各地の教会が責任を持って払わねばならない決まりになっているそうだ。
昭士がインターネットで調べた「托鉢僧」とは少々意味が異なるが、その辺も「世界が違うための差」であろう。
やがてやりとりが終わったらしい。部屋のドアを閉めたスオーラが小走りでこちらに駆けて来る。
「皆様、朗報です!」
その顔にはひらめきにも似た明るい輝きがある。昭士は黙って話の続きをうながすと、
「殿下がペイ国へ向けての専用列車を用意して下さいました。それでペイ国へ向かえます!」
《あー、ちょっと待った。確かクーデターの影響で、そっちの国まで行けないんじゃなかったのか?》
いきなり冷や水をかぶせるような昭士の言葉にもスオーラはひるむ事なく、
「エッセが現れたからです!」
力強くそう宣言する。
「人類共通の敵が現れた以上、その討伐を最優先にするべきだと、殿下やおと、キエーリコ僧様達が訴えていた事を、ペイ国側がついに承諾して下さったのです。これで大手を振ってペイ国へ向かえるのです!」
言われてみれば、エッセのような存在が現れては自分達の身が危うい。
そもそもクーデターというのは基本支配階級側同士の内部抗争。外敵、それも共通の敵を排除するまでは休戦しろ、という事のようだ。内輪もめをしている場合ではない、という事だが、やはり十中八九ジェズ教の圧力だろう。
何せジェズ教最高責任者モーナカ・キエーリコ・クレーロはスオーラの実父であり、また相当の親バカ、もとい子煩悩な人物だ。その「圧力」は相当な物だったろうと容易に想像がつく。
むしろペイ国側に同情したくなるような雰囲気を、何となく感じ取った。
「エッセが最初に現れたのはペイ国内。エッセの習性として、初めて現れた場所の近くに再び現れる。ならば待ち伏せも不可能ではありません」
スオーラの言葉に昭士も「そうだったな」と思い返した。
「焦りが先行して、そんな単純な事も忘れていました。やっぱり落ち着く事が肝心ですね」
落ち着くというよりも、直に姉の安否を確かめに行ける安堵感と喜びの方が大きいと思う。昭士は声に出さずにそう思った。
《で、専用列車が出るのは何時何分だ?》
「三時間後の夜十一時です!」
スオーラは部屋の時計を見上げるとそう力説した。
とても高いテンションで。

<第13話 おわり>


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