『間違いだらけの和食講座 中編』
二人は揃って店内に入った。ロビーを抜けて一階の客席に向かう。
「うわぁ……」
客席の有様を見た二人は、ぽかんと口を開けたまま呆然としていた。
椅子という椅子が片っ端から倒されており、テーブルの方は倒れている物こそ少ないが、テーブルクロスの方が遠目に見ても判るくらいずれたり外れたりしている。
床にも無数の傷があり、どんな惨劇が繰り広げられていたのか知りたくもあり知りたくもなし、といった具合だ。
ただ、テーブルや椅子自体に壊れた物がないのが不幸中の幸いか。
無論シャノワールの従業員が一所懸命直しているのだが、倒れているのが一つ二つではない為に、あまりはかどっていないのが現状だ。
大神も、荷物を加山に預け、修復作業に参加する。困っているのを見すごせないのだ。
加山が荷物を持って棒立ちになり、自分も手伝うべきかどうか思案していると、
「何の騒ぎだ? ったく……」
クセのある銀髪をくしゃくしゃとかきながら、加山の後ろに現れた人物が一人。
巴里華撃団隊員の一人、ロベリア・カルリーニだ。
パリの街始まって以来の大悪党。その罪状を並べれば懲役一〇〇〇年をゆうに超えるほどだ。
そんな彼女がパリの街を守る巴里華撃団にいるのだから不思議なものだが、彼女自身は「減刑とひきかえにする」という完全なビジネスとしてしか考えていないようだ。
「え〜と。確かロベリアさんでしたっけ?」
初めて会った時にサイフをすられそうになった事があるので、さすがに加山も少々警戒気味だ。
「ロベリアでいい。『さん』付けされるなんて、ガラじゃない」
無表情でそう言いながら、かけているメガネの位置を直して客席の様子を眺め、
「またエリカのやつか? さっきからドンガンドンガンうるさくって、目が覚めちまったよ」
刺々しい口調のまま、ぶつぶつと文句を言っている。
ロベリアは、地下の使っていなかった倉庫を自分の部屋に改装し、そこに寝泊まりしているのだ。
地下にうるさく響くほどの椅子やテーブルの倒し方。加山はますますエリカという人物が判らなくなってきた。
ロベリアは、加山が持っている荷物に目をやると、
「アンタ、確か加山だったな。何なんだ、この荷物は?」
そう言うが早いか、彼の承諾よりも早く荷物の蓋を開け、中を物色し始める。
中にあるのはロベリアには珍しい日本の食材だ。食材の方は特製の割れない容器に密閉されているが、昨日中身を確認しているので封は解いてある。
そのためか一種独特の臭いが荷物の中にあった。彼女はその慣れない臭いに少しだけ顔をしかめる。
これらの品物は、どれもこのパリでは入手困難というだけで、金銭的な価値はない。それを認めると、
「金目の物じゃねーのか。つまんねーな」
仕方なく、中にあった適当な瓶を一本ひょいと取り出すと、
「いいや。この酒みたいなやつは貰って行くぜ。こいつを飲んで、もう一眠りといくか」
歩きながら大あくびをし、手をひらひらとさせながら店の奥に歩いて行った。
「一眠りって……今は朝じゃないのか?」
加山は小声で呟いてみるものの、それを聞く者はいなかった。
「あれ? 確かイチローの友達の人?」
ふいに後ろからかわいい声をかけられた。加山が振り向くと、そこに立っていたのは巴里華撃団最年少の隊員・コクリコだった。
フランスの植民地であるベトナム出身のコクリコ。ぱっと見は男の子に見られる為、間違えられる事もしばしば。
現在シルク・ド・ユーロというサーカスで働いているのだが、故郷を離れて遠い異国で逞しく生きる彼女は、もしかしたら華撃団の中では一番精神的に大人なのかもしれない。
「そのとゥり。ユーイチ・加山でェす」
少し変なイントネーションでそう答える加山。
「何しに来たの? イチローは?」
首をかしげるコクリコに、加山は客席の方を向いてみる。すると、そこでは大神をはじめシャノワールの従業員が忙しく椅子やテーブルの位置を直していた。
「うわ〜、すごいや。またエリカがやったんだね。しょうがないなぁ」
ため息混じりに呆れ顔のコクリコ。これではどちらが子供か判らない。
「ボクも手伝ってくるよ。みんなでやれば早く終わるし」
そう言って客席に向かって駆けて行った。
「む。確か隊長の友人の……」
再び後ろから声をかけられる。そこにはグリシーヌと花火が立っていた。
「あ。どうも。おはようございます」
クォーターとはいえ日本人の花火を見た加山は、反射的に荷物を持ったままおじぎをする。すると花火も、
「おはようございます、加山さん」
礼儀正しくおじぎをして応える。
「……そうやって頭を下げるのが、日本の挨拶なのか?」
パリの地では見慣れない「おじぎ」に、グリシーヌが首をかしげている。そこに、作業を終わらせた大神が戻ってきた。
「悪かったな、加山。すっかり待たせちゃって」
「一体何があったのだ?」
戻ってきた大神に、グリシーヌが訊ねる。
「従業員の人が言ってたけど、エリカがやったんだって」
大神の後ろにいたコクリコがそう説明する。グリシーヌも空しいため息をつき、
「またエリカか……。いつまで経っても進歩がないな」
ほとほと困り果てたという表情のグリシーヌだが、同時に「しょうがないな」という雰囲気がある。
「それで、ユーイチは何しに来たの?」
コクリコが訊ねると、思い出したかのように大神が答える。
「そうだ。昨日グリシーヌには話したんだけど、日本から色々送ってきた物があってね。特に花火くんはこうした物に触れる機会は、なかなかないだろうから……」
「グリシーヌから聞いてます。ありがとうございます、大神さん。……ぽっ」
花火が少しうつむいて頬を染めている。
「ボクも見てみたいな、日本の物」
「そうだな。確かに興味はある」
コクリコはともかく、グリシーヌも意外と乗り気のようだ。
「そうなの? いつもなら『そのような庶民の戯れ事にはつきあってられん』なんて言うのに」
それを聞いたコクリコが、グリシーヌの物真似でツッコミを入れると、
「そ、そんな事はないぞ。異国の文化や風習に触れて……見聞を増やすのは大切な事だ」
グリシーヌも言葉に詰まりながらそう言い訳する。


一同は楽屋に移動し、荷物の中身を広げる。
米・味噌・醤油・梅干・日本酒など。大神や加山には馴染みの品々だ。米はともかくとして、どれもこのパリの地では珍しい品である。
しかし、それらの一種独特の風味がパリの感覚とはかなり合わないようだ。グリシーヌは顔をしかめて露骨に嫌そうな顔をし、
「しかし……奇妙というか奇怪というか。凄い臭いだな」
荷物から少しばかり遠ざかり、鼻をつまんでいる。言葉を選んでいるだけまだましだろうか。
「そ、そう……かな?」
大神にはむしろ故郷日本を思い出させる懐かしい香りなのだが、そこは民族や文化の違い。責めても仕方あるまい。
コクリコと花火は物珍しそうに荷物の中を見ている。コクリコが適当に取った容器の中身を見て、
「イチロー。この変な粘土みたいなやつは何なの?」
「それが味噌だよ。日本の味噌汁の材料なんだ」
「ふ〜ん。変な臭いがするし、泥にしか見えないけど……」
ベトナム生まれのコクリコにそう言われ、大神と加山は苦笑する。
味噌は米麹と蒸し大豆を交ぜて発酵させた物だ。確かに、言われてみれば変な粘土か泥にも見えるだろう。
一方グリシーヌは恐る恐る荷物に近づいて、かつお節を手に持つと、加山に向かって、
「この変な塊は妙にカビ臭いぞ。腐っているのではないか?」
「ああ、それはかつお節と言いましてですね……」
確かにかつお節は、鰹の身を煮た後に燻し、さらにカビをつけて天日干しにするから、カビ臭いのは当たり前だ。
花火の方は醤油の瓶を持ち上げて、
「これが、お醤油ですね、大神さん」
「ああ。日本料理には欠かせない調味料だよ」
「へぇ。ベトナムにもニョクマムっていうのがあるんだけど、それみたい」
とコクリコが応える。
醤油は大豆から、ニョクマムは魚から作る醤油だ。材料が違うだけで、製法は意外と似ている。同じように見えるのは当然か。更にコクリコは海苔の入った金属の缶を開けて、
「ねえイチロー。こんな所に真っ黒の紙みたいなのが入ってるよ?」
「それは海苔といってね。これも日本食に欠かせない食べ物だよ」
「こんな紙まで食べるのか? 日本にはまともな食材がないのか!? 実に嘆かわしい」
海苔を見たグリシーヌの目が点になっている。
いくら口では「異国の文化や風習に触れて」と言っても、インパクトの方が強かったのかもしれない。
そこに、箒を持ったままエリカが帰ってきた。
「みなさんこんな所にいたんですか? わたしを仲間はずれにしないで下さいよ」
「エリカ、どこへ行っていた。自分で客席をめちゃくちゃにしておいて逃げ出すなど、どういうつもりだ。罪悪感や責任感というものがないのか!?」
エリカを見た途端、グリシーヌが怒り出した。
「違います! あれは一所懸命働くわたしの邪魔をする、悪魔の仕業です」
エリカはきっぱりと言い切った。
「その為、わたしは『日本にプリンを広めて世界を平和にする』という天命を受け、その為に日本へ行く許可を戴けるようお願いに行っていたんです」
全然話が繋がっていない。いつもの事とは言え、グリシーヌも呆れ顔である。
「悪魔とプリンがどう繋がるというのだ、エリカ……」
この中では、エリカと一番長いつきあいのあるグリシーヌでも、未だにその思考は理解しかねる。
「それで、許可は戴けたんですか、エリカさん?」
加山の問いに、エリカはしょぼんとして肩を落とす。
「……ダメでした」
(そりゃそうだろう)
皆の呆れた視線を一身に浴びていたエリカだが、みんなが先程の荷物の中身を色々見ているのに気づき、
「あ〜っ!! 大神さん、日本のプリンを食べさせてくれるって、約束したじゃないですか!?」
そんな約束をした覚えはない。
「エリカ。日本にプリンはないんじゃないかな?」
コクリコがツッコミを入れるが、エリカは聞いていない。荷物の中身を目をキラキラとさせて眺めている。
「へぇ〜。日本の食べ物って、みんな変な臭いがするんですね。勉強になります」
グリシーヌですら「奇妙」だの「奇怪」だの言葉を選んだのに、鼻をつまんだままストレートにそう言うエリカ。
「そう言えば、チョンマゲするのに免許がいるそうですし、こういった物を食べるのにも、やっぱり免許がいるんですか?」
エリカの勘違いしたままのトンチンカンな問いに、大神の表情が凍りつく。
「そうなのですか、大神さん? 両親からそんな話は聞いた事がないのですけど……」
エリカの言葉に花火が反応した。確かに彼女の親は日本人。不思議に思うのも当然だ。
「いいっ!?」
チョンマゲに関しては、どうせ信じないだろうと思ってついた嘘なのだが、こうまで真剣に信じられては。
大神は冷や汗をだらだらと流している。
「貴公。我々が知らないと思って、適当な嘘を言ったのではあるまいな?」
花火の答えを聞いたグリシーヌも、隙あらば斬り捨てると言わんばかりの迫力でギロリと大神を睨みつける。
「ちょ、ちょっと待って下さい、皆さん」
そんな大神を見かねた加山がするりと割って入る。
「チョンマゲの免許はあるには……あるんですけど、最近では取得者が少なくて、ほとんど廃れているらしいんですよ。だから、免許の事を知らない人も……いる訳です。少なくとも、俺はそう聞いてます。な、大神?」
何とか思い出そうとしている演技を交えて、みんなにそう説明する。大神もすかさずそれに乗り、
「そ……そう。そうなんだよ、エリカくん。説明不足で済まなかった」
二人は苦笑いのままそう言うと、
「そうだったんですか。また一つ日本の事を覚えちゃいました」
明らかに苦し紛れだったのだが、エリカは真剣に信じたようである。
「そうならば最初からそう言えばよかろう、まったく……」
グリシーヌも少々疑わしい雰囲気で見ていたが一応納得する。
「加山。助かったよ」
大神は、みんなに聞こえないような小声で加山に礼を言うと、
「ここでこじれたら、ややこしい事になりかねないしな」
二人はほっと胸をなで下ろした。嘘に嘘を重ねたのは少々心苦しいが。
そうしてる間にも、エリカは大神の荷物の中をあれこれと物色しだす。やがて彼女はテープで封をした小さな壷の蓋を乱暴に開けて、
「あ。これ何ですか? 赤くて丸くてしわしわで。日本の果物ですか?」
中に入っていたそれを、指でつまんでしげしげと眺めている。
「ああっ、それは梅干……」
大神が止める間もなくそれを口の中に放り込んだ。
梅干をほおばったエリカの顔が、みるみるうちに渋い顔になってくる。
「ふえ〜ん。レモンより酸っぱくてしょっぱいです〜」
泣きそうな顔でそう抗議し、梅干を吐き出す。その泣きそうな顔があまりにもおかしかったので、みんなはたまらず吹き出してしまった。
「それは梅干っていって、日本食に欠かせない物なんだ。凄く酸っぱいけど、保存が効くんだよ。昔の人の知恵、かな」
大神がいちいち親切に色々と説明を入れる。
「酸っぱくて、舌が変になりそうです」
泣きそうな顔で舌を出したままのエリカだったが、荷物の中の和紙に包まれた瓶を発見した。持った感触から水だと判断する。
日本の水がおいしい事は、ここパリでも知られている。それは、日本の水質はクセがない軟水が多いからである。
さらに川の流れも急なものが多いので、激しい水の動きによって水の中に酸素がたくさん含まれて味が柔らかくなる上に、料理にも適している。
一方ヨーロッパの大半はその逆で、カルシウムやマグネシウムがたくさん入っている硬水が殆どで、さらに急な流れの川が少ない。
別に硬水がそのまま飲めない訳ではないのだが、少々クセが強く「適している」とは言えないのだ。
そういった化学的な知識はないが「日本の水はおいしい」という知識だけは持っている(らしい)エリカは、何の迷いもなくその瓶を引っぱり出した。
「エ、エリカくん!?」
大神と加山は、いきなり「日本酒」の一升瓶を引っぱり出したエリカを目を見開いて見ている。
「口の中が酸っぱいんで、お水を……」
「ちょっと待ってくれ。それは水じゃない!」
大神と加山が立ち上がってエリカを止めようとするが、
「ダメです! これはわたしが見つけたんです!」
重い瓶を抱き締めるようにして「わたしのです」とだだっ子のように主張するエリカ。
何がダメなのかよく判らないが、これは大神の荷物だという事がすっかり頭から抜け落ちている。
「待ってくれ、エリカくん。だからそれは……」
そこに、楽屋のドアを乱暴に開ける音が。全員がそちらを見ると、楽屋の入口に怒りの形相のロベリアが仁王立ちしていた。
「おい、加山。何だ、この甘ったるい酒は!?」
手には、先程勝手に持って行った瓶が握られており、その瓶には「みりん」とひらがなで書かれてある。
確かにみりんの材料は焼酎であり、立派な酒である。
だが、それに蒸したもち米や米麹などを入れて作るので、普通の酒に比べてかなり甘い。
戦国時代や江戸時代には『甘いお酒』として、特にお酒の飲めない人や女性などに飲まれていたくらいだから、飲んで毒という事は全くない。
単にロベリアの好みとは合わなかっただけだろう。しかし、適当とはいえ自分で選んだのだから自業自得だ。
それでも大神は、彼女の怒りを解こうとして説明する。
「ロベリア。それはみりんといって、お酒はお酒だけど、主に料理の味つけに使う物で……」
「うるさい。それに何だよ、この変な臭いは。おまけに泥の塊だのカビた棒だの持ち込みやがって」
ロベリアは味噌やかつお節に違和感を隠そうともしない嫌な視線を向ける。
「だから、これは日本の食材で、花火くんにもどうかと思って持ってきたんだよ」
「だったらこいつの家に直接持って行きゃあいいだろ。いちいちこっちに持ってくんなよ」
ロベリアはしかめっ面のまま大神を睨んでいる。しかし、大神の後ろにいるエリカの方を見たロベリアは、
「エ、エリカ。お前さっきから何を飲んでるんだ?」
そう言われて大神達がエリカの方を見ると――何と一升瓶を両手で持って一気に飲んでいたのだ。
「エリカくん!?」
大神と加山は止めるのも忘れ、大口開けてその場に立ち尽くしている。やがて飲み終わったらしく「ぷはー」と一息ついて、
「日本のお水って、何かお酒みたいな匂いがするんですね」
そう言うと、軽くなった一升瓶をこんと床に置いた。
それからロベリアの方をじ〜〜っと見て、口を開いた。
「ロベリアさん」
「エ、エリカくん……?」
嫌な予感がした大神は、ぎこちないながらも声をかける。エリカはそれを無視して、
「ロベリアさん。そこに座って下さい」
妙に据わった目でロベリアをじろ〜〜っと見つめたまま、すぐ前の床を指差す。
「何だと? アタシに命令……」
ロベリアが文句を言いかけて、それがピタリと止まる。
無理もないだろう。エリカが法衣の裾をするりと上げ、ももに固定したホルダーから小型のマシンガンを抜き、銃口を向けたのだから。
「すわってくら(だ)さい!」
「エ、エリカくん!」
ロベリアを除く全員が彼女を止めに入り、大神が真っ先にマシンガンを取り上げる。
「なにをするんれ(で)すか、おおがみさん〜。ぐりしーぬさんもはなしてくら(だ)さい〜」
エリカは拘束から逃れようとしてのろのろともがく。何だか口調も変になってきている。
「飲んだのか、全部!?」
大神が、彼女が床に置いた瓶を指差すと、
「はい。のみましたよ〜」
エリカは顔を真っ赤にしたまま、けたけたと笑っている。その様子にコクリコがピンときたようで、
「もしかして、エリカが飲んだのって……」
「日本酒っていって、立派なお酒だよ」
コクリコの言葉を大神は肯定する。
もちろん種類にもよるのだが、平均すれば日本酒もワインも、アルコール度数という点では大差ない。
ワインは葡萄から作られるので果物の香りや甘み渋みが加わり、度数は高くても口当たりがいいので、比較的飲みやすい酒だ。
日本酒は米から作られるので果物の甘さなどはないが、冷やか常温の場合だと酒の香りが薄い割に口当たりがいいので、意外とするりと飲んでしまうという点でも大差ないのだ。
更に言うなら、アルコールは体温と同じ位の温度にならないと胃壁に吸収されない。
しかも体温の温度になるまで胃にたまってから吸収されるので、酔いが一気に回ってくる場合がある。
「エリカ! いい加減にしろ。早く酔いをさませ!」
「あれ〜? ぐりしーぬさんへんなかおれ(で)す〜あははは〜」
完全に酔いが回ったらしく「あははは〜」と笑いながら、立ったままがくんと首を倒すエリカ。
「ワ――ッ!! エ、エリカ、大丈夫!?」
それっきり動かなくなったエリカを見て、コクリコもあたふたとしている。
しかし、穏やかな――少々酒臭くはあったが――寝息が聞こえると、一同は安堵し、エリカをすぐに手近の椅子に座らせた。
完全に酔い潰れたエリカをよそに、ロベリアがエリカの持っていた瓶を手に取り、
「げっ。残ってねえじゃねえか! このバカ、一人で全部飲みやがって!」
ロベリアが一升瓶を逆さにして振っているが、ほんの数滴がポタッと落ちただけだった。

<後編につづく>


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