『ウルズチーム対大神華撃団』
多国籍構成の対テロ組織<ミスリル>の特別対応班所属の三機のアーム・スレイブが、一つの工場を制圧していた。
アーム・スレイブ――ASに乗ったまま、モニターに映る工場内の様子をじっくりと観察している。
「人が隠れてる様子もないし、情報部の情報通り三二人の職員は全員拘束完了」
メリッサ・マオ少尉が確認する。ちなみにその職員達は電気銃で気絶させてある。
「ソースケ。そっちはどう?」
マオはソースケと呼んだ一機の白いASを見る。マオが乗るAS<ガーンズバック>とはタイプの違う、<アーバレスト>と呼ばれる機体だ。
『目標のASを確認。ハッチが開いたままだ。オペレーターの姿はない』
無線機から聞こえる、ソースケこと相良宗介軍曹の安堵感を含んだ淡々とした声。
『任務はこのASの確保・もしくは破壊だったな』
『……これで任務のほとんどはおしまいか。いやぁ、楽に終わって良かったぜ』
マオと同系統の機体に乗るクルツ・ウェーバー軍曹の口調が、急にだらけたものとなる。
<ミスリル>最大の敵、謎の組織<アマルガム>。その組織の作る特別製のAS――謎だらけの不可思議な装置ラムダ・ドライバ搭載型AS。
判っているのはあらゆる「常識外れ」な事が起こせる事。そして、そのラムダ・ドライバ搭載型に対抗できるのは、同じラムダ・ドライバを搭載した機体だけ。<ミスリル>には<アーバレスト>ただ一機。
三人とも、このラムダ・ドライバにはさんざん苦しめられている。万一戦闘になったら無事には済まないであろう事は身体が理解している。恐怖すら感じている程だ。
『妙だと思わないか?』
唐突に宗介が口を開いた。マオとクルツがそれを問うと、
『やつらにとってもラムダ・ドライバ搭載型のASは貴重な存在だ。その工場の情報がこんな簡単に漏れ、しかもほとんど抵抗らしい抵抗がない。俺達は罠にかかった可能性がある』
あえてあっさり侵攻させておき、そこにとっておきの罠を仕掛ける。珍しくもない戦法だ。
マオが小さく舌打ちする。薄々感じていた不安を、部下に口にされる事でその不安が増大する。だが、リーダーたる自分がその不安を表に出す事はできない。
「あたし達にできる事は、警戒を怠らない事だけよ」
強がり混じりにそう言うと、マオは制圧完了の報告をするため、通信回線を開いた。
「こちらウルズ2。制圧は予定通り完了しました」
『ご苦労様です』
わずかなタイム・ラグのあと、戦いの場に場違いな少女の声がする。マオ達<ミスリル>作戦部<トゥアハー・デ・ダナン>戦隊のトップ、テレサ・テスタロッサ大佐であった。
『今、撤収のためのヘリが向かっています。あと三〇分程で到着しますから、それまで油断なくお願いしますね』
それから一呼吸ほど間を置いて、テッサは続けた。
『それから、すでに次の作戦行動の指令が入っています。マオ少尉は「ロンド・ベル」部隊ってご存知ですか?』
マオはろくな事は知らないが、<ミスリル>と同じような、世界平和維持のための部隊と聞いている。有事の際にはどの軍にも属さぬ遊撃部隊で、多様な部隊や兵装で構成されているそうだ。
『そのロンド・ベル部隊との合同作戦の指令です。今の任務も大事ですが、これからの任務へ向けて英気を養っておいて下さいね』
普段は疲れを吹き飛ばしてくれるような「癒し系」の声も、今回ばかりは魂切り裂く竜の咆哮に聞こえた。
通信回線を閉じる。人材不足はどこの組織でも同じだろうが、さすがにここまで人使いが荒いと、不平不満の一つも言いたくなる。休みをくれとか給料上げろとか。
『次の任務ねぇ。楽な職場なんてないけどさ。せめて華やかさは欲しいよなぁ』
オープンにしてあった回線からクルツの情けない声が聞こえてくる。マオは別に腹を立てた様子もなく、
「あんたの場合は、スケベ根性丸出しだから、女がいたって逃げられるわよ」
『待て。外に何かいるぞ』
会話に割り込むように入った宗介からの通信。一同が外に出て通りの向こうを見ると、そこには得体の知れない者が立っていた。
大きさはASの半分程。三〜四メートルくらいだ。人型は人型なのだが、とにかく禍々しく、気味が悪い。物語の悪魔とか妖怪とか、そういったイメージの無気味さを形にするとこうなるのでは、という存在。
「な、何なの、あれ!?」
マオが目を見開いて驚くのも無理はない。生まれてこの方、そんな物を見た事がないからだ。しかも、このASの高性能センサーにも反応がない。宗介が気づかなかったらどうなっていたか。
『よく判らねえけどさ。お友達になりましょうって感じじゃ、ないみたいだぜ』
クルツが軽口を叩き、持っているライフルを構える。その先には大きく開いた口からダラダラとよだれを垂らす謎の存在が、次々と増えていっている。
ドンッ!
問答無用でAS用のライフルが火を吹き、謎の存在の頭部らしき所へ命中した。血と肉片をまき散らす。もしあれが生物であれば即死のダメージだ。
ところがだ。まるでフィルムを逆回ししたかのように飛び散った血や肉片が戻り、「謎の存在」は何事もなかったかのように屹立している。
『な、何だよ! 五七ミリだぞ!』
普通のASならあっさり吹き飛ばせる程の大口径の弾をまともに受けて、瞬時に再生。信じられないのは当然だ。クルツの唖然とした叫びにマオは、
「ソースケ! ラムダ・ドライバを使ってみて!」
普通の攻撃が効かないのであれば、奥の手とも言えるラムダ・ドライバしかない。
彼も同じ事を考えたのか、手持ちのショットガンを構え、一番近くにいる者に発砲した。美しい虹色の尾が謎の存在の身体に吸い込まれ、その直後風船のようにあっけなく破裂。
だが、それだけだった。こちらもフィルムの逆回しのように再生してしまった。
『どうなっている!?』
宗介にしては珍しい焦った声。マオですら何がなんだか判らない。武器はもちろん、虎の子のラムダ・ドライバすら効かない敵。そんな敵とどう戦えというのか。
その時、センサーが「何らかの動力で動く者」を発見した。距離は結構近い。数は九つ。
「新手!?」
マオの表情が嫌なくらい凍りついた。


『降魔の数一八。それから、妙な鉄の巨人が三体です』
指令室から聞こえた報告に、帝国華撃団花組隊長・大神一郎が訊ねた。
「鉄の巨人? 魔操機兵じゃないんだね?」
『はい。少なくとも霊力や妖力は感じられません』
彼はしばし考えると、
「みんな! 目標は降魔のみ。鉄の巨人の方は、向こうが攻撃して来ない限り手を出さない事!」
『了解!』
部下達の声が綺麗に揃い、彼ら操る色とりどりの霊子甲冑光武二式が躍り出た。


「何だ、ありゃ!? あのザクの頭とバーバパパを足して二で割ったようなのは!?」
クルツが、いきなり現れた「モノ」を見てきょとんとしている。
『何それ?』
ザクの頭とバーバパパを足して二で割ったような、という例えばさっぱりだったが、少なくとも彼がきょとんとした者は見えた。確かに「何だ、ありゃ!?」と言うに値するスタイルだ。
全高は先ほどの謎の敵と同じくらい。リベット打ちされた丸く寸胴な身体に手足があり、それぞれが刀や槍を持っている。無兵装の者までいた。そんな色違いの機械が都合九体。
背面についた筒――煙突からもくもくと煙を吹き上げ、こちらの攻撃が全く効かない敵へ襲いかかる。
こちらの大火力が全く効かない相手に、あんな貧弱な装備でどうにかなるものか。マオ達がそう思ったのも当然だ。
しかし、現実は違った。彼らの振るう刀や槍、拳は、確実に謎の敵の身体を切り裂き、致命傷を与えている。おまけにライフルや迫撃砲での攻撃すら、謎の敵は苦しみの叫び声を上げているではないか!
「ど、どうなってんだよ!?」
まるで狐につままれたような顔で三人がその戦いを見つめているところへ、金色に塗られた「ザクの頭とバーバパパを足して二で割ったようなの」がいきなり目の前に現れた。
『あなた達、だあれ?』
外部スピーカーから聞こえる声は、驚いた事に日本語だった。それも小さな女の子。声から可愛らしい容貌が容易に想像できるくらいの。
『ちょっと待っててね。もうすぐアイリス達「帝国華撃団」が降魔をやっつけてあげるから』
きゃはっと小さい笑い声。三人がぽかんとしたのも無理はないだろう。
「テイコクカゲキダン? コーマ?」
もう何がなにやらさっぱり判らない。そして、さっぱり判らない間に、戦いは終了していた。


マオ達はASの両膝をついて降着状態にさせると、ハッチを開けて外に出た。
それを見ていた「ザクの頭とバーバパパを足して二で割ったようなの」の中でも、白く塗られた物が二つに割れ、そこから白い服の青年が姿を見せた。
真面目で堅物そうな青年だ。しかし純朴で何事にも真剣に打ち込む。そんなイメージを抱かせる。
「助けてくれて有難う。私はメリッサ・マオと言います。訳あって所属はお話できません」
マオが申し訳なさそうに言った。するとその青年は気分を害したそぶりも見せず、
「我々は、あのような降魔達と戦う組織・帝国華撃団の者です。自分は隊長の大神一郎です」
そこで初めて、あの「謎の敵」の名が降魔という事が判った。
そういう会話をしている間に、他の「ザクの頭とバーバパパを足して二で割ったようなの」からも続々人が降りてくる。全員色違いの揃いの服を着ている。制服なのだろう。
驚いた事に、大神を除く全員が女性なのだ。年齢も人種も様々。彼の後ろに並び、マオ達を見ておじぎをする者。爽やかに小さく手を振って挨拶する者。油断なく観察する者など反応は様々だ。
「しかし、驚きました。まさかこちらの武器が一切効かないとは」
マオが素直に感想を述べる。別に嫌みではない。正直な本音だ。すると、中でも一番背の低い金髪の少女がぴょんと前に出て、
「だって、お姉ちゃん達には『霊力』がないもん。『霊力』がないと、降魔はやっつけられないんだよ」
得意げに胸を張るのは、さっきアイリスと名乗った女の子の声だった。という事は、こんな小さい女の子も先程のような敵と戦っているのか。幼い頃から戦場で戦っていた宗介ですら、衝撃を覚える事実だ。
「霊力……ねぇ。って事は、その『降魔』ってやつはお化けとか妖怪とかか?」
「そう考えて戴いても結構です」
クルツの問いに、金髪に黒い服を着た長身の女性が言う。穏やかではあるが妙に隙がない、自分達と同じ傭兵を思わせる緊張感を持った女性だ。
「なるほどな。その『霊力』という物がないと。その降魔という物は倒せない訳か。ラムダ・ドライバすら効かないとは、厄介な敵だな」
今まで考え込んでいた宗介がため息と共に呟く。
ラムダ・ドライバが凄いとはいえ、結局は「物理的に」作用するものでしかない。
対して降魔は霊的な力がこもってなければダメージは与えられない。「物理的な」ダメージだけでは倒せないのだ。
そんな宗介の前へ緑の服のメガネをかけた少女がひょっこり顔を出した。
「……な、何だ?」
いきなり詰め寄られ宗介が一歩引く。その少女は畳み掛けるようにさらに詰め寄ると、
「あんさん方のあのメカ、なんですのん? うち、あんなん見るの初めてですわ!」
まるで幼子のように目をキラキラとさせて、降着姿勢のASを見上げ、しげしげと眺めて首をひねっている。
「あれ、何で動いてはりますのん? 蒸気には見えへんし……。いじってみてもええですか?」
「紅蘭。気持ちは判るけど、いじったらダメだよ」
大神に紅蘭と呼ばれた緑の服の少女が残念そうな顔で素直に引き下がる。クルツは大神を見て、
「しっかしあんた、羨ましいなぁ。上から下までよりどりみどりの美少女に囲まれてさ。こっちなんざ色気を忘れて生まれて来たクソア……」
彼のぼやきが途中で止まる。マオの肘が彼の腹に炸裂したからだ。
「ああ、すいません。このセクハラ野郎が失礼な事を……」
大神達に笑顔を向け、自分はクルツの足を思いきり踏んづける。
その時、アイリスがびくんと身体を震わせた。
「どうしたの、アイリス?」
桜色の服のポニーテールの少女が心配そうに声をかける。
「怖い……何かいる。あそこにいるよ……」
恐怖で歯をカチカチと言わせ、青ざめた顔で指差したのは、さっきマオ達が制圧した工場だ。
「何だって!?」
大神達が一斉にその方を見る。マオ達も同じように見るが、特に何も感じない。
『軍曹殿。工場内にて金属音を確認しました』
宗介の機体に搭載された高性能AI<アル>が外部スピーカーを使って話しかけた。
「金属音だと!?」
『肯定です。ASクラスの物体が稼動した模様です』
確か、あの工場内にはコクピット・ハッチが開いたままのASがあった。それもラムダ・ドライバ搭載型が!
『少尉殿が気絶させた人々以外は工場内にいない筈ですし、彼らはまだ回復していません』
言い合いながら宗介が<アーバレスト>に戻る。マオとクルツも自分の<ガーンズバック>に戻った。
「はぁ……あのメカ、喋っとる……」
紅蘭がぽかんとそのやりとりを見ていたが、
「みんな。万一を考えて光武に乗って待機、いいな!」
『了解!』
大神の指令に綺麗に揃った声で復唱すると、一斉に光武に乗り込んだ。


工場内から明らかにASの駆動音が聞こえてくる。
『相手がASなら俺達がやらなきゃな』
クルツが早くもライフルを構えている。
『助けられっぱなしってのも、癪だしね』
無線から聞こえて来たマオのセリフに、宗介も、
「彼らの装備では、ASには対抗できない」
出てきた所を一斉照射で片づける。誰が乗っているのかは知らないが、ラムダ・ドライバを使った照射ならば、充分あのASを倒せる。
『待って下さい! 工場の中から降魔の気配がします! 一旦引いて下さい!』
外部スピーカーを使った大神の声が背中から聞こえる。
『待て、中にいるのはAS。我々のような機体だ』
宗介が外部スピーカーで言い返す。その時、薄暗い工場の中から何かが飛び出してくるのが見えた。宗介はとっさにラムダ・ドライバを駆動させ、それを防ごうとする。
ラムダ・ドライバが生み出した見えない盾がかろうじてはじき返せたそれは、間違いなくASサイズの降魔の腕だった。それがしゅるしゅると工場の中に引っ込んでいく。
『な、なんちゅうこっちゃ……』
やがて工場から出てきた物を見て、紅蘭が絶句する。もちろん他のメンバーもそうだ。
外見はASと呼んでいた全高八メートルほどの人型兵器。だが、その装甲の表面には無気味な血管のような筋が浮かび、鍛え上げられた筋肉のようにぴくぴくとし、光沢を放っている。
ASの装甲を持った腕が二本。それから、先程の降魔と同じ腕――スケールはAS並だが――も二本。
都合四本の腕を持った、文字通りの「怪物」であった。同時に、歴戦の猛者である一同を一歩後ずさりさせるには充分な迫力と禍々しさが発せられている。
降魔とラムダ・ドライバ搭載型ASが融合してしまったのだ。
『相手が誰だろうと、攻撃しなけりゃ勝てないぜ!』
『先手必勝! 参ります!』
光武と呼んでいた機体の中で、赤い機体と菫色の機体が飛び出し、棒立ちのASに肉迫する。
「どりゃあああっっ!」
「てええぇぇいっっ!」
二人の雄叫びが重なりあい、赤い機体の拳と、菫色の機体の長刀によって、膨大な霊力がこめられた一撃が見舞われる。しかし、堅い鋼鉄を叩いたような強い衝撃の後、二つの機体は天高く弾き飛ばされた。
『カンナ! すみれ君!』
飛ばされた二人を案ずる大神が叫び声と共にASに迫る。それを止めたのは宗介だった。
「待て。隊長が焦ってどうする。あれは同じ装置を持つASでなければ対処できん」
宗介は落ち着いてショットガンを構え、高々とジャンプして自分に襲いかかる敵ASに照準を合わせた。
(くたばれ!)
再び虹色の尾を引いて飛ぶ弾丸。それらが敵ASにぶつかる直前に空中で一瞬制止し、次の瞬間ASの装甲を貫き、降魔の生体組織を吹き飛ばす。
しかしそこまでだった。降魔の身体は見る見るうちに再生していく。降魔の影響下にある装甲もだ。さしものラムダ・ドライバも降魔相手では何の役にも立たない。
そこへ、着地と同時に敵AS頭部に搭載されていたチェーンガンが火を吹いた。それは秒速三〇発という速度で横殴りの雨のように一同に襲いかかる。
宗介達のASはほとんど被害がないが、光武の方はほとんどがまともに被弾していた。煙突以外の部分から煙や火花を吹きだし、くず折れて行動不能になる者まで出る始末。
マオやクルツの武器はもちろん、宗介のラムダ・ドライバでは降魔にダメージを与えられない。
大神達なら降魔にダメージを与えられるが、霊力を込めた攻撃もラムダ・ドライバの障壁そのものは破れず届かない。しかも対AS戦では威嚇程度の威力しかないチェーンガンでも光武は大破してしまう。
彼らの持つ霊力をもってすれば弾丸を弾き返す事くらいはできるのだが、不意打ち同然の攻撃ではそれもできない。
どうすればいい? 過去数々の激戦をくぐり抜けてきた戦士達も、突破口を見つけられずにいた。
『軍曹殿。光武と呼ばれる機体と同じタイプと思われる機体が五機、こちらに向かって飛んできます』
アルが宗介に向かって言う。同じ機体。救援なのだろうか。しかし頭数が増えても戦う方法がないのでは増えるだけ無駄だ。宗介は頭を悩ませる。
それから十数秒後、轟音と共に何かが落ちて――いや、着地した。
確かに彼らの光武と同じような寸胴の機体だ。だが、細かいパーツは塗装にはかなりの違いがある。
『巴里華撃団、参上!』
後から来た方の機体達が、力強くそう名乗った。驚く事に、こちらも全員女性の声だ。
『大神さん。リボルバーカノンで飛んできちゃいました』
『世界を揺るがすやもしれん問題が発生したのだ』
『アームナントカっていうロボットを使って降魔兵器を作ろうとしてる人達が東京にいるって聞いて』
『こうしてわざわざ来てやったんだ。戴く物はしっかり戴くよ』
『そういう訳で、我等が助太刀致します』
外部スピーカーで代わる代わる説明をする巴里華撃団の隊員達。
『おいおい。それじゃその降魔ってやつとASが合体したのがあんた達の言う「降魔兵器」ってやつか?』
『確かにこんなのが大量生産されたんじゃ、シャレにならないね……』
クルツとマオが、敵ASの振るう単分子カッターと降魔の腕をかいくぐりながら答える。
『皆はん、あいつを倒す方法が見つかったで!』
紅蘭が分析を終えたモニターを見ながら唐突に無線で呼びかける。
『あの「えーえす」っちゅう機械にある、ラムナントカいう装置っぽいのが、背中の辺りにあるんや』
そこで言葉を区切ると、紅蘭は続けた。
『そちらの白い人型メカなら、そのナントカ装置が作った、壁みたいなもんを壊して攻撃できるんやろ? せやから回復する間を与えずに連続で攻撃して、装甲を壊し、降魔の身体を吹き飛ばした隙に、その装置をぶっ壊すんや』
つまりラムダ・ドライバを使った連続射撃。それを宗介にやれと言っているのだ。
もっとラムダ・ドライバの扱いに慣れていれば一撃で装置のみを破壊する事もできるかもしれないが、今の彼ではまだ無理だ。
『それさえなければあとは降魔の塊。うちら全員でかかれば何とでもなる筈やけど、回復力がかなり上がってるみたいやから時間はかけられへん。文字通り一撃で決めなあかん!』
確かに障壁を貫いて降魔の身体は吹き飛ばせる。完全に再生するにはわずかなタイム・ラグがある。そこを狙えば確かにうまくいくだろう。
しかし、宗介達ASはともかく、あとから来た五体と大神の光武を除いて被弾しており、まともな戦力にはなりそうもない。
『……判った。その作戦しかなさそうだな。いいかい?』
『よし。大バクチといこうぜ、ソースケ!』
大神の声を受けて、クルツが宗介に声をかける。
『やりましょう、軍曹殿。というより、ここでやらねば男が廃るというものです』
「……判った」
アルの言う事はいちいちもっともなのだが、宗介は無表情で答えた。


マオとクルツの銃、巴里華撃団のうちの二機が、ガトリング・ガンと弓矢でASを攻撃している。足止めと注意をそらすためだ。
敵ASはその場で棒立ちになっている。だが、それらの攻撃はラムダ・ドライバに阻まれて全くの徒労に終わっているが、それでも撃ち続けている。
総ては宗介のために。今日初めて出会った者のために。
その攻撃の隙に背中に回った宗介は、しっかりと狙いを定めると、ショットガンに全神経を集中させる。
「くたばれっ!!」
一発目発射。それはラムダ・ドライバの障壁を破り、降魔の肉体を装甲ごと弾き飛ばす。そこにラムダ・ドライバの中核となる小型冷蔵庫大のモジュールが露出した。
間髪入れずに引き金を引く。しかし弾が出ない。画面には「残弾:0」の文字。悪態をつく宗介だが、そうしている間にも降魔の肉体は見る見るうちに再生していく。
こうなれば残る方法はただ一つ。
<アーバレスト>は銃を投げ捨てながら地を蹴って、敵ASに接近する。宗介は雄叫びと共に、ラムダ・ドライバを駆動させた<アーバレスト>の拳をそのモジュールに叩きつけた。
ごしゅんという妙な音がして、敵ASの動きが止まる。だが降魔の肉体がほとんど再生を果たしてしまい<アーバレスト>の腕が引き抜けない!
一方大神は武器である二振りの刀を持ったままその場に棒立ちとなっていた。そしてその機体には、帝国華撃団八人と巴里華撃団五人の祈りと霊力が注ぎ込まれている。
華撃団全員の気持ちと霊力が自らの身体と機体に満ちて、霊力を持たない宗介達ですらそのオーラに包まれた光武を見る事ができた。そのせいか霊力計の針はとっくの昔に振り切れて壊れる寸前だ。
「狼虎滅却……」
一点の曇りもない澄んだ心。その心のまま光武を一直線に走らせる。
「震・天・動地!!」
一四人分の霊力を注ぎ込んだ究極の攻撃が生み出す、爆発的な霊力の渦と光。それを二振りの刀に込めて一気にASに叩きつけた!
渦と光に飲み込まれた降魔の細胞が見る見るうちに粉微塵になって吹き飛んでいく。降魔に冒されたASの装甲もだ。
渦と光が唐突に消え失せると、そこには拳を突き出したままの<アーバレスト>だけが立っていた。もちろん無傷のままで。


到着した輸送ヘリが三機のASを載せて飛び立った。クルツが下で手を振る少女達を名残惜しそうに見つめ、
「あ〜あ。一人くらい分けてくれねえかな、ホント」
「そんな事、できる訳ないでしょ」
マオがかなり本気で彼の後頭部を叩く。
「お前はそればかりだな、クルツ」
「お前みたいにカナメちゃん一人いればそれでイイってやつと、一緒にするなよ」
宗介にまで嫌みを言われ、ぶつぶつ文句をたれている。
マオは大神達にこれからロンド・ベルという世界平和維持を目的とする部隊と合同作戦を行う事を話し、そちらも参加を表明してはと訊ねてみた。
しかし、大神は笑顔で参加を断わった。
「我々の戦力は、対降魔のみに特化したものです。通常の戦争行為ではお役に立てません」
何の迷いもなく爽やかにそう言われては、何の言葉も続けられない。
互いの無事と活躍を祈って別れる事しかできなかった。


この後<トゥアハー・デ・ダナン>戦隊はロンド・ベル部隊と合流し、のちに「スーパーロボット大戦」と呼ばれる戦乱にて活躍する事となる。
が、それはまた別の話である。

<ウルズチーム対大神華撃団 終わり>


あとがき

>『フルメタ』と『サクラ大戦』のクロスオーバーでお願いします。
>劇中劇のようなものではなく、実際にキャラ同士の会話があるような設定で
>(KRIFFさんなら、どういう話にするのか興味がありまして)。
>設定が難しければ、コメディ調の座談会みたいなものでも構いません。

……というのが森平さんからのリクエストでした。

そういう訳で思いきり悩んだ結果、クロスオーバー物で一番有名で、どっちも参加しそうにない「スーパーロボット大戦」でいく事にしました。リクエストを貰えたのはかなり早かったのですが、完成したのは一番最後でした。
クロスオーバーとは「ジャンルの垣根を乗り越えた」という意味であり、二つ以上の作品のキャラクターを同じ世界で活躍させるお話をそう呼びます。けど、これが難しいんですよね、さじ加減が。
そもそも組み合わせた作品を知らないと面白くも何ともない(人気作品=知られた作品をからませるから面白いんですし)。
なるべく均等に扱わないといけない上にどちらに華を持たせる(主役にする)かでももめますし、それ次第では苦情しかきませんし。
組み合わせた事による「微調整」をした結果「もっと強いだろこいつら」「こんな訳ねーだろ」というツッコミも多数。
作り手が大変な割に報われないんですよね、意外と。

タイトルは1970年代に多かった「○○対××」というクロスオーバー・ロボットアニメのパターンを踏襲。「対」と付いているが、実際には一致協力して巨悪を粉砕するという伝統芸(笑)。
その伝統芸でも上記の苦情はかなり多かったんです。

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