フルメタ昔話『きんたろう』
むかしむかし。陣代という場所に足柄山という山がありました。というか、あった事にして下さい。
そこに、金太郎という男の子が住んでおりました。
――ちょっとちょっとナレーション!
はい、何でしょう? 金太郎役のかなめさん?
――何で女のあたしが金太郎役なのよ?
あら、ダメですか?
――ダメに決まってんでしょ!? だいたい金太郎の格好ってば、あの「金」って字が入った腹がけ一つじゃない。
言われてみればそうですねぇ。
――女のあたしに、あんな死ぬほどこっぱずかしいハダカ同然の格好しろっての!?
う〜〜ん。確かにその通りですな。このサイトを成人指定にする訳にもいかんし。
――言われる前に気づかんかいっ!
まぁ服の方は適当でいいや。昔話をきっちり再現するのが目的じゃないから。
――何か不安……。
脱線しましたが、話を始めさせて戴きます。
金太郎という男の子……。
――女だっつーの!!
失礼m(_ _)m。
金太郎かなめはとっても元気な女の子で(おかしな文章ですが、気にしないで下さい)、友達とお喋りしたりスポーツしたり遊びに行ったりして、毎日を楽しく過ごしていました。
特に熊のソウスケとはとても仲がよく、
「ソースケッ! 工事中の柵に高圧電流なんか流すなっ!」
「ソースケッ! アンタまたグラウンドに地雷しかけたわね!」
「ソースケッ! 購買のパンに毒ガスのボンベなんか仕込むなっ!」
毎日のように得意のハリセンでしばき倒し、首根っこ引っつかんでは放り投げ。
おまけに「戦争バカ」だの「デリカシーに欠ける」だの「少しは常識を覚えなさい」と、事あるごとに罵倒したり足蹴にしています。
……本当に仲がいいのか疑わしくなる言動ですが、金太郎かなめは熊のソウスケのために、よく夕食やお弁当を作ってあげたり、熊のソウスケが苦手な古典や日本史を親身に教えてあげているので、本当は仲がいいのだと思います。
そういう訳で、さしもの熊のソウスケも金太郎かなめにはかないません。
各地の戦場を渡り歩いてきたベテランの傭兵という設定の筈なんですけど。
――余計なお世話だ。
失礼しました、宗介くんm(_ _)m。
そんな風に過ごしていたある日。金太郎かなめは友達たちと海にバカンスに出かけました。
金太郎かなめはハリセンかついで先頭を行きます。その後をクラスメートがゾロゾロと。
大きな荷物を熊のソウスケに持たせ、気分はすっかりピクニックです。バカンスなのに。
それにしてもベテラン傭兵が、単なる荷物持ちとは。落ちるところまで落ちたものです。
――一言多いぞ、貴様。
済みません、宗介くんm(_ _)m。
それはともかく。みんなで楽しく歩いていたところ、
「カナちゃん、あれ見て!」
金太郎かなめと仲のいいキョーコが驚いて前を指差しています。
みんながその指差す方を見ると、何と。目の前には崖があるではありませんか。
高さはそれほどないものの、下を流れる川の流れは早く、とても泳いで渡れるものではありません。
金太郎かなめは平均以上にスポーツをこなせる才女(おかしな文章ですが、気にしてはいけません)ではありますが、荒れ狂う川を無事泳ぎきれる自信はありませんでした。
おまけに今は自分一人ではありません。中には泳ぎの下手な友達もいます。
金太郎かなめは辺りを見回しました。しかし橋がかかっている場所は見えません。
ぐるっと迂回する間に日が暮れてしまい、バカンスどころではなくなるでしょう。
「そうだ。何か橋になりそうなものは……」
辺りをきょろきょろと見回すと、周りには大きな木が何本も立っています。
「よし。俺が橋を作ってやるよ」
調子よく手を上げたのはクラスメートのオノDです。
以前金太郎かなめに告白して玉砕したくせに完全に吹っ切れていない、ちょっと未練がましい男の子です。
――うるせぇっ!
はい、失言でしたm(_ _)m。
ともかくオノDはどこからか木こりの斧を取り出すと、大きな木の前に立ち、大きく振りかぶりました。
ところが斧がすっぽ抜け、ポーンと後ろへ飛んで行ってしまいました。
飛んで行った先には、これまた都合よく小さな泉があり、斧はその泉の中に落ちてしまいました。
調子よく名乗り出たのにこの始末。あまりにもバツが悪くて途方にくれていると、泉の中から光り輝く女神が現れたではありませんか。
アッシュブロンドの髪も眩しいその女神は、オノDに向かって、
「あなたが落としたのはこの金の斧ですか、それとも、この銀の斧ですか?」
と訊ねたではありませんか……って、コレ違うお話だよ。混ざっちゃったよ、おい。
……話を元に戻します。
――あの、私の出番これだけなんですか?
すいませんね、配役の関係上出せなくて。かと言って「その他大勢」だとファンが怒るし、勘弁して下さい。
――それはないでしょう!? 待遇の改善を要求します!
……「金」の字の腹がけ、着ます?
――着る訳ないでしょうっ!!
はい、ごもっともですねm(_ _)m。
いい加減脱線が過ぎるんで、話を元に戻します。
次に名乗りを上げたのは熊のソウスケです。
彼は大きな荷物を下ろすと、中からとってもごつくて黒くて鈍い光を放つ物体を取り出しました。
「これは暴徒鎮圧用のラバーボール弾を発射する銃だ。これで……」
「なにする気よっ!」
もちろん金太郎かなめがすかさずハリセンで叩きます。すっかり日常の習慣となった行為に、クラスメートは苦笑いするだけで止めようともしません。
「話は最後まで聞け。これであの木を攻撃して倒せばよかろう」
なるほど。戦争バカと言われている割に、実に平和的でスマートな行動ですね。
「それに、今持っている刃物は、木を切り倒すのに向いていない」
グルカナイフやマチェットは薮や茂みを切り開くのには向いていますが、木は切り倒せませんしね。充分説得力のあるセリフです。
他のクラスメートが一斉に彼のそばから離れると、熊のソウスケはピタリと銃口を目標の木に定め、
ばかん!
鈍い音を立てて、ラバーボール弾を発射しました。
しかし。弾は当たったのに木は倒れません。どうやら一発では威力が弱いようです。
じゃきっ、どかん! じゃきっ、どかん! じゃきっ、どかん!
熊のソウスケは連続してラバーボール弾を発射します。
しかし。弾は全弾命中しているのに木は倒れません。上から葉っぱが落ちてくるだけです。
「む。弾が無くなってしまった」
無計画に撃つからです。なんだかベテランの傭兵という経歴が怪しくなってきました。
――…………。
判った。判りましたからそのグロック19を引っ込めて下さいっ!
金太郎かなめは思わずハリセンで熊のソウスケを一発叩いて気絶させると、ある事に気づきました。
「あら。ちょっと押せば倒れそうね」
ラバーボール弾のおかげで、木が根っこから傾いているのです。
金太郎かなめはみんなに呼びかけました。
「みんなー。みんなでこれ倒して、橋の代わりにしよー」
金太郎かなめの号令の元、ハリセンで倒されたままの熊のソウスケと、いつの間にか姿が見えなくなったオノD以外の男子が勢揃いし、
「そーーれーー」
大きな木を力一杯押し始めました。
するとどうでしょう。ラバーボール弾だけでは倒れなかった木が、みるみるうちに倒れて行くではありませんか。
どずーーーん。
傾いた木は大きな音と共に倒れ、崖のあちら側とこちら側を結ぶ橋になったのです。
それを見た一同は一斉に歓声を上げて大喜びです。
ところが。その歓声の中にまぎれて聞こえる、やや間隔の開いた拍手。
その拍手の主は、丈の長いコートに身を包んだ、アッシュブロンドの髪の少年でした。
外見通りの優雅な動作で近づいてくると、
「すごいな、君は。『みんなで倒せばいい』。言われてみれば誰もが気づくような単純な事だが、それに最初に気づくとは。君のような人間を人々は天才と呼称するのだろうね」
金太郎かなめに近づいてきた少年は、まるで姫にかしづく王子のようであります。
金太郎かなめも、今までこういうタイプの美少年には会った事がありません。
ですが、そのまどろこしい話し方が癪にさわります。金太郎かなめは元気よく彼を拒絶すると、
「あんたね。どこの誰だか知らないけど、もっと物事ハッキリ話せないの?」
「物事をハッキリ言い過ぎるのも、どうかと思うよ?」
「それに、これって昔話なんだから、そんなコート着てきたら時代考証メチャクチャになっちゃうじゃない?」
言うまでもなく、既にメチャクチャだと思うんですけど。
少年は彼女のツッコミをサラリと聞き流し、コートの内ポケットからこれまた優雅な動作で名刺を取り出して、金太郎かなめに手渡しました。
<秘密結社アマルガム。源 頼光 レナード>。そこにはそう書いてありました。
「ひみつけっしゃあまるがむ。げん たよりひかり れなーど」
名刺の内容を声に出して読む金太郎かなめ。
「……『みなもとのよりみつレナード』なんだけどな」
すかさず小声で訂正する頼光レナード。
その内容に、今まで倒れていた熊のソウスケはガバと起き上がると、あっという間に金太郎かなめと頼光レナードの間に割って入りました。
熊のソウスケは金太郎かなめをかばい、グロック19の銃口をピタリと頼光レナードに突きつけました。
「アマルガムの人間が何の用だ」
その眼光の鋭さは、今までのヘタレっぷりを返上するような、プロの傭兵らしいものです。いつもこうだとカッコイイんですが。
「決まっているだろう。彼女をスカウトしに来たんだ。彼女の知的好奇心を大いに満たす事ができるし、きっと素晴らしい仲間になれるだろう」
「スカウト!?」
金太郎かなめは驚きの声を上げます。スカウトという単語を聞いたクラスメートも、
「スカウト? じゃあ芸能人になるの!?」
「すっげー。俺らのクラスから有名人が出るのかー」
「がんばってね。応援するよ」
クラスメートは金太郎かなめを囲んでわいわい騒いでいます。すでに有名芸能人になったかのようです。
しかし、熊のソウスケだけは違います。優雅に立つ頼光レナードに向けて立て続けに発砲したのです。
ぱんぱんぱんぱんっ!
いきなりの銃声に、さすがのクラスメート達も慌てて飛び退き、逃げ出します。
唐突に始まった銃撃戦に、金太郎かなめも驚いて声も出ません。
「彼女を貴様達のようなテロリストに渡すと思ったか」
全弾命中を確認した熊のソウスケは、珍しくカッコつけてそう言いました。
ところがです。確かに銃弾は頼光レナードに命中しているのですが、彼は全くの無傷で相変わらず優雅に、さらにカッコつけて立っています。
熊のソウスケは素早く弾倉を交換すると、再び発砲。
ぱんぱんぱんぱんっ!
すると、なぜ頼光レナードが無傷だったのかが判りました。
頼光レナードが着ているコートが、まるで生き物のように動き、空中で弾丸を総て叩き落としてしまったのです。
その常識外れの「防弾性」に、熊のソウスケもさすがに驚いて声も出ません。
今まで惚けていた金太郎かなめは我に返ると、熊のソウスケの頭に得意のハリセンを鋭く叩きつけました。
ばしん!
「事情は知らないけど、いきなり発砲はないでしょ!?」
熊のソウスケはうめき声を上げて、ぱったり倒れてしまいました。
頼光レナードは憮然とした顔で倒れた熊のソウスケを見つめ、コートについた埃を払うような仕草をしながら、
「テロリストとは心外だな。僕達は……」
ばしん!
金太郎かなめは頼光レナードの頭にも得意のハリセンを鋭く叩きつけました。
すると不思議な事に、弾丸を叩き落とした謎のコートは何の反応もありません。
「あんたも! この戦争バカを挑発しない! 辺り一面焼け野原になっちゃうわよ!」
頼光レナードは声もなくバッタリとうつ伏せに倒れてしまいました。
がしゃがしゃがしゃっ!
倒れるとほぼ同時に、周囲の木々や茂みに潜んでいた完全武装の傭兵が何十人も姿を見せたのです。
その姿は、素人が見ても「凄腕の特殊部隊の人間」を彷佛とさせます。
いきなり向けられた銃口に、金太郎かなめは思わず両手を上げました。
傭兵の一人がすすっと近づいてきて、倒れたままの頼光レナードの様子を見ています。
「大変だ! 頼光レナード様がお亡くなりになった!」
そうなのです。金太郎かなめのハリセン攻撃を頭部に受けて倒れた時に、その衝撃で死んでいたのです。
すると傭兵達はテキパキと頼光レナードをその場に埋葬し、墓石まで建ててしまいました。気味が悪いくらい手際がよすぎます。
総ての作業を済ませた傭兵達は金太郎かなめを取り囲み、その場に片膝ついてかしこまっています。
その様子に驚いて、何を言っていいのかオロオロしてしまう金太郎かなめに向かって、傭兵の一人が言いました。
「頼光レナード様亡き今、社長が勤まるのはあなた様だけです!」
「お願いします。我が社を継いで下さい!」
周りの傭兵達も「お願いします!」と頭を下げて頼みます。
訳が判らないのは金太郎かなめです。
(確か秘密結社って言ったわよね。秘密結社のトップも「社長」って言うのかな?)
いきなりの展開に頭がついていっていないのでしょう。全くトンチンカンな事を考えている金太郎かなめ。
しかし。正面きって頼まれると嫌とは言えない、面倒見のいい金太郎かなめです。
「……判りました。そこまで言われてこのまま見捨てるのもなんですし。どこまでできるかは判りませんが、力になりますよ」
自信なさげなその言葉に、周囲の傭兵達からどよめきと歓声が巻き起こりました。
それがやがて「金太郎かなめコール」になるまでに、それほどの時間はかかりませんでした。


そういう訳で、学生と秘密結社アマルガムの社長の二重生活を送る事になった金太郎かなめは、すぐに隠されていた才能を開花。
社名を「クイックシルバー」と改め、これまでのイメージを一新。
経営方針を転換させ、社内組織の見直しをし、大胆な操業に乗り出しました。
金太郎かなめはそれらに驚くほどの経営手腕を見せ、美貌とカリスマを最大限に活用し、わずか数年で世界のトップクラスの秘密結社に成長させてしまいました。
こうなると、もう秘密もへったくれもありません。名実共に名だたる企業の仲間入りです。
こうして金太郎かなめは、立派なセレブの仲間入りをし、故郷に錦を飾ったという事です。

<フルメタ昔話/きんたろう 終わり>


あとがき

この話はNBTさんのリクエスト『フルメタキャラで日本昔話』に応えて書かれた物であります。
これがですねぇ。思ったよりも難しいんですよ。何の昔話にするか、で。
まず、すでに公式に「シンデレラ」があります。
「浦島太郎」「桃太郎」「かぐや姫」「うさぎとかめ」「因幡の白うさぎ」「舌切り雀」「赤ずきん」「白雪姫」「マッチ売りの少女」なんかは既に二次創作で書かれております。一部海外の話が混じってますが、気にしないで下さい。
「キャスティングを変えちゃえばイイ」と仰る方もいそうですが、フルメタキャラである以上、各キャラの個性は変えられない=自然と配役パターンが決まってしまうので二番煎じが過ぎます。
……それに、他人がやってない話をやる方が面白いしね。
どんな話を使おうかと考えていた時、金太郎の話を見て瞬時にこの構成が思い浮かびました。原作とも微妙にシンクロしてる(?)し。
それに、金太郎の話って意外と皆さん知ってるようで知らないし。これを機に読んでみて下さいな。

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