『紐育の武士道』
「いししししし〜〜」
胸を張って「いいだろ〜」と言わんばかりに一ホールのパイを掲げるリカリッタ・アリエス。
その肩には、ペット兼相棒兼非常食(!)のフェレット・ノコが乗っている。
彼女は金の銃と銀の銃を駆って悪人を追い詰める、メキシコ生まれの賞金稼ぎ。しかし嬉しそうにパイを掲げる姿は、どこにでもいる無邪気な食いしん坊にしか見えない。
そんな彼女がパイを自慢している相手は大河新次郎。紐育はタイムズスクエアに建つ劇場「リトルリップ・シアター」でモギリを勤める人物だ。
十九才という年齢と、日本の海軍兵学校を主席で卒業した事が信じられないような、童顔で可愛らしい外見――本人はコンプレックスなのだが――で皆に愛されている。
新次郎がシアターの清掃をしている最中にひょっこり現れたリカリッタは、纏うマントをふわりとひるがえしながら、彼の周りをクルクル回る。
「いいだろいいだろ〜♪ ダイアナが作ってくれたチェリーパイだぞ〜♪ すっごくうまいぞ〜〜♪」
適当な節をつけた歌まで入って上機嫌の彼女である。
口の周りに食べかすがつきっぱなしなのを見ると既にいくつか食べたのだろう。その笑顔からするとかなりの味というのが食べなくてもよく判る。
(ダイアナさん、いくつ作ったんだろう?)
ダイアナ――ダイアナ・カプリスはこのシアターの役者であり、また研修医でもある。心優しい癒し系のお姉さん、といった感じなのだが、純粋すぎて何かが微妙にズレているような印象がある。
リカリッタの好みに合わせるならミートパイだろうが、ダイアナはベジアリアンだ。他人に食べさせるのでも肉は見たくないのだろうと、新次郎は推測した。
「しんじろー、食べるか?」
リカリッタは不意に訊ねてきた。いつもなら独り占めして食べるのに。
しかし、ここで「食べる」と答えると「あげないぞー」と返されるのがオチなので、考える振りをして黙っていると、
「だいじょーぶだ。ちゃんとやるぞ。しんじろーはリカの子分だからな」
えへんとさらに胸を張るリカリッタは、
「子分は大事にしなきゃいけないからな。だからちゃんと分けてやるぞ。リカ、えらいだろ」
十才近く年下の割に偉そうな口調なのだが、彼女の年齢のせいか逆に微笑ましく写る。
そこでようやく新次郎も笑顔になり、
「ありがとう、リカ。じゃあ一緒に食べよう」
快諾したその時、
「待てぇぇいっ!」
ホールに響く鋭い――そしてかなり芝居がかった大声。新次郎とリカリッタが声の方を向くと、
「うわあっ!」
新次郎は腰を抜かさんばかりに驚いていた。
まず見えたのは馬だった。ちなみにここはシアターのホールである。普通馬は入ってこない。
次に見えたのはそこに騎乗しているオレンジの服の人物。刀を背負い、カウボーイ・ハットを目深にかぶっている。
新次郎と同じくこのシアターで働くジェミニ・サンライズである。テキサスで生まれここ紐育へやって来たカウガールだ。ちなみに乗っている馬の名前はラリーである。
以前日本人に剣術を教わっていた事があるからか、日本の時代劇やサムライに強い憧れを持っている。
「ジェミニ・サンライズ。参上つかまつりーっ!」
……と名乗ったのは間違いなく自分の名前なのだが、それすらもどうにも芝居がかった口調である。まるで歌舞伎か時代劇だ。
加えて言うなら、口にくわえた竹トンボが更に奇妙さをかもし出している。
ジェミニは竹トンボを外して、それで新次郎を指すと、
「新次郎。何を考えている。そんな風にすぐ食べるようでは『摩天楼のサムライ』にはなれんぞ!」
馬上から、斜め四十五度くらいの角度で見下ろすジェミニ。そういう口調もやはり芝居がかっている。
実はジェミニにはすぐ自分の妄想にふけってしまうクセがあり、時にはそれに他人(新次郎が一番多いが)を巻き込んでしまう。
きっとまたそのたぐいだろう。だが、それにつき合わないと後が恐い――ような気もする。
「ご両親も、君が『摩天楼のサムライ』になる事を待ってんろう。なんちて、なんちてー!」
急にアハハハと明るく笑い出すジェミニ。彼女は、妄想にふけるのと同じくらい、下手なダジャレを飛ばすのも好きなのである。
ジェミニはひらりと馬から降りると、新次郎の手を引っぱって、さらに妙な節回しで、
「さぁ、行こう、新次郎! バドワイザー片手にヤンキースがんばれ! 二人の明日はホームランだ!!」
「ま、待ってジェミニ。それに『摩天楼のサムライ』って何!?」
「大丈夫。エンパイアステートビルディング見降ろすセントラルパークへ行くんだ!」
意味不明な事を叫びつつ、ジェミニは新次郎を引きずって外へ飛び出した。ラリーをほったらかしにして。
独り残されたリカリッタはチェリーパイを切り分け、ラリーに一切れ差し出した。
「おまえ、これ食べるか?」
ラリーは嬉しそうに一鳴きした。


弁護士サジータ・ワインバーグは、お気に入りのホットドッグ屋で買ったホットドッグを美味しそうに頬張っていた。裁判で勝った時の儀式みたいなものである。
黒いスーツをぴしりと着こなしている様子は、見るからに敏腕の弁護士を彷佛とさせる。そんな彼女でも路上で食べ物を頬張るという無作法にも思える仕草が似合うのが、この紐育だ。
サジータは、女性でしかも黒人である自分でも、努力如何でこうして認めてもらえるこの紐育という街、そして何より生まれ育ったハーレムをこよなく愛している。
「ジェミニ。そんなにふらふらしてどうしたんだい?」
ガックリと肩を落としてとぼとぼと歩く彼女を見つけ、サジータが声をかける。実は彼女には弁護士の他に、リトルリップ・シアターの女優という顔を持っている。
さらに暴走族「ケンタウロス」のリーダーだったという意外な一面もあり、そのためか面倒見もいい。
呼ばれたジェミニは首だけで彼女の方を向くと一瞬目を見開くが、やや元気のない声で、
「……あ、うん。新次郎を探してるんだ。一緒にセントラルパーク一周マラソンしてたんだけど、逃げられちゃって」
セントラルパークはマンハッタン島の中央に位置する、自然に溢れた巨大な公園だ。その広さは八五〇エーカー(三四四万平方メートル)。その中には湖や広場。ジョギングコースにサイクリングコース。果ては動物園まであるという豪華さだ。
そこをぐるりと一周すればだいたい四.六マイル(七.四キロメートル)はあるだろう。
「マラソンじゃなくて、ジョギングにすれば良かったんじゃないのか?」
「ジョギングじゃダメだよ。鍛えて立派なサムライになるんだから」
未来を見据えた輝く目で、ジェミニは言い切った。
でも、それだけ走れば、いくら元気が取り柄のジェミニでもふらふらにはなるか。サジータは微笑ましく思って小さく笑うと、
「それにしても。さっきからくわえてるその細い棒は何なんだい?」
サジータはジェミニがくわえたままの竹トンボを指差す。しかしサジータにはそれが竹トンボという物である事すら判っていないが。
「ああ、これ? ROMANDOのご主人が教えてくれた、日本の武士・サムライの必須アイテム」
ROMANDOとは、最近この紐育に店を構えた、日本の品物を扱う店だ。サジータ自身行った事はないが話には聞いている。確かカヤマという日本人が店主だったか。
サジータはそこまで日本びいきでも日本通でもない。それ以上の追求はしない事にした。
「ま、いいか。いっぱい走った後はいっぱい食べな。ほら」
サジータは袋に入ったホットドッグをジェミニに差し出した。ところが、ジェミニは目を見開いたまま動きを止める。
すぐに飛びついてこないジェミニを幾分不思議に思ったサジータは、
「遠慮はいらないよ。ほら」
しかし、それでもジェミニは飛びついてこない。
サジータがその表情をよく観察してみると「食べたい! だけど食べる訳にはいかない……!」と言っているのがありありと伝わってきた。
「ホットドッグにマスタード。今夜の夢はカーネギー! 恋のマンハッタン〜〜!」
またも意味不明な事を口走って、ジェミニは勢いよく走り去って行く。サジータが止めるヒマも全くない。
(ダイエットでもしてるのかねぇ)
少々呆れ顔で差し出していたままのホットドッグを引っ込めた。それからジェミニの後ろ姿が完全に消えるのを待って、
「……詳細、聞かせてもらえるんだろうね? 素直に話せば情状酌量の余地くらいはあるよ?」
幾分凄みを聞かせた弁護士らしいセリフを、自分の後ろに向かって放つ。するとポストの影からひょっこり現れたのは、何と新次郎である。
「詳細と言われても、僕にもさっぱり訳が判らないんですよ。いきなり手を引っぱられてセントラルパーク一周マラソンでしたから。おまけに『何も食べるな!』って」
今にも泣き出しそうな情けない表情で彼女に訴える新次郎。
(こういう顔してるから子供扱いしたくなるんだよねぇ)
サジータは困ったような微笑ましいような、複雑なため息を一つつくと、
「またジェミニお得意の妄想劇場なんだろうね。けどさ。ジェミニがくわえてた細い棒は何なんだい?」
ジェミニよりは彼の方が正確に答えてくれるだろうと、さっき飲み込んだ質問をぶつけてみた。
「あれは『竹トンボ』っていう、昔ながらの日本の玩具です」
「玩具? あれが日本のサムライの必須アイテム?」
「そんな訳ないじゃないですか!」
彼女の素直な疑問をムキになって否定する新次郎。その素直なストレートさはやっぱり子供に見える。とても二つ年下には見えない。
サジータは思わず笑って彼の頭をポンポンと叩くが、それから真面目に考え込み、
「けど、ジェミニがホットドッグを食べなかったのが、ちょっと気になるねぇ」
「ダイエット……な訳はないと思うんですけど」
同じように考え込んでいた新次郎が自信なさげに答えるが、言い終わると同時にサジータからわずかに視線を逸らしてしまう。
その視線に気づいた彼女は、ぴくりと口の端を引きつらせ、脇にあったポストの上にホットドッグの袋を置くと、新次郎の胸ぐらをつかみあげる。
「悪かったね。どうせこっちはダイエットが必要だよ」
実は、お腹についた脂肪を気にしているため過敏反応しただけ。哀れなのは新次郎である。
「ちょ、ちょっと待って下さい、サジータさん! 僕なんにも……」
「シャラップ! つべこべ言うと訴えるよ?」
「ま、待って下さい。後ろ後ろ!」
「その手には乗らないよ、坊や? 素直に観念するなら穏便に……」
新次郎が後ろを指差し、しかも視線は自分ではなくその後ろを向いているのに気づいたサジータは、一旦恫喝を止めて振り向いた。
「……!」
目の前の光景に、サジータの動きがピタリと止まってしまった。


ぐきゅうううるるるる。
かなり豪快な腹の音をさせつつ、ジェミニは独り街を往く。
別に所持金がない訳ではない。嗜好の偏りが激しい訳でもない。
しかし、それでもジェミニは独り街を往く。何も食べず。何も飲まず。
唯一口にしているのは、ずっとくわえたままの竹トンボただ一つ。
だが。さすがに空腹ばかりはいかんともし難い。食欲は人間の欲の中でも最も大きいのだ。
いかんいかん。こんな事でどうする、ジェミニ・サンライズ。こんな事で簡単に挫けるようでは、立派なサムライにはなれんぞ。
自身への問いかけすら芝居がかっている彼女。
常に志を高く持ち、困難に直面しても決して慌てず、誘惑されても動じない、そんな理想の「サムライ」になるためだ。
しかし、どんな妄想をしようが、現実の空腹を満たせる訳でもなければ、まぎれる訳でもない。
こういう心境の時に限って、周囲の景色が実に空虚に見える物だ。特に仲睦まじいカップルなどは。
「みつめ合ってる瞳には、ロックフェラーの灯が潤む……」
ぽつりと三たび意味不明の言葉を呟く。
しかし、どんな言葉を吐こうが、現実の空腹を満たせる訳でもなければ、まぎれる訳でもない。
「はぁ。日本のサムライはすごいなぁ。どうやってこんなのに堪えてるんだろう」
もはやギブアップ寸前といった雰囲気のジェミニ。彼女が「新次郎にそれとなくコツなどを聞いてみよう」と思い立ったその時。
「ジェミニ」
ぽつりとした声が聞こえた。ジェミニがそちらを向くと、何故かラリーを引き連れた九条昴の姿があった。
何でも器用にこなしてしまう、物静かな「孤高の天才」という表現がピッタリ来る、生粋の日本人だ。
昂もリトルリップ・シアターで舞台に立っている。男か女か判らない中性的な雰囲気が人気だ。
「この馬が、僕が買ったベーグルを勝手に食べてしまった」
怒っているのだろうが、視線や言い方そのものは物静かだ。ハッキリした喜怒哀楽表現に慣れているジェミニには、その感情の奥底までは読み取れない。
だが、ラリーがした事は悪い事だ。それは判る。
「ご、ごめんなさい」
ジェミニは素直に頭を下げると、ラリーの額をぱしんと叩き、
「こら、ラリー。ダメじゃないか。勝手に人の物を食べたらいけないんだよ?」
さすがにジェミニに言われると、ラリーもおとなしくしゅんと頭を下げる。
「昂は思う。これがもしサジータならば、損害賠償を請求されているだろう」
いかにもありそうな事を昂が言う。ジェミニもありそうだとどんよりとした目になった。
「この事は犬に噛まれた……もとい、馬に蹴られたと思って忘れよう」
反省していそうだと判断した昂は、そう言ってラリーとジェミニを許す事にした。
「ところで」
昂はどこからともなく扇子を取り出すと、ジェミニがくわえる竹トンボを指し、
「この竹トンボは何だ?」
昂のその言葉に、ジェミニはきょとんとした顔で竹トンボを外すと、
「これ『タケトンボ』って言うの?」
「そうだ」
簡潔に問いを返す昂。ジェミニは驚いた顔で竹トンボをかざして見せると、
「これ『タカヨージ』って言うんじゃないの!?」
今度は昂がきょとんとした顔になり、
「タケトンボにタカヨージ。大して似ているとも思えないが、なぜそんな間違いを?」
間違いを指摘されて恥ずかしいのか、ジェミニはどこか気落ちした様子で語り出した。
「昨日ROMANDOに行った時、お客さんが全然いなかったから、つい『儲かってるの?』って聞いちゃったんだ」
アメリカは自分が思った事は素直に表に出す「言いたい事はハッキリ言う文化」だ。ジェミニの行動をデリカシーに欠けると責める事はできない。
昂もROMANDOに足を運んだ事はある。確かに儲かっているのか疑問に思う程、客の入りが良いとは言えない。
「そうしたらご主人がコレをくわえて『武士は食わねどタカヨージ』ですよ、って笑ったんだ。だからコレがタカヨージだと思って」
おそらく、手近に楊枝がなかったから竹トンボをくわえただけだろう。
でも、そういう態度を取られては、ジェミニが竹トンボを高楊枝だと思うのは無理もない。
「……昂は問う。君はその言葉の意味を知っているのかい?」
昂がそう聞いたのは、ジェミニがあまりにも元気がないからだ。間違いを堂々と披露して恥ずかしく思うのとは、まったく別の種類の。
「武士は食わねど高楊枝」。
たとえ貧しくとも満腹を装って楊枝を使うものだという意味だ。
常に志を高く持ち、困難に直面しても決して慌てず、誘惑されても動じない、そんな理想の日本男児=サムライ像を語る喩えだ。
だが、このジェミニの誤解ぶりを見るに、「食わねど」という言葉を言葉のまま受け取って空腹なのではないか、昂はそう感じていた。
「よく判らないけど……『サムライはご飯を食べずにタカヨージをくわえて生きる』って事なんじゃないの?」
昂は自分の予想が「予想外に」当たった事にため息を一つつくと、
「ジェミニ。やはり君は言葉の意味を履き違えている」
扇子でジェミニの額を軽くコツンと叩き、
「この言葉は生活に困っても不義を行なわないという、武士の気位の高さを喩えた言葉だ。日本男児、サムライの美学を語ったものだが、転じて『意味のないやせ我慢をしている』という意味にも使われる」
ROMANDOの主人は、後者の意味でこの言葉を使ったに過ぎない事が、ジェミニにもようやく判った。
「じゃあご飯を食べないって意味じゃないんだね。……新次郎に悪い事しちゃったな」
自分の誤解を他人に押しつけた挙げ句、彼の言葉の一切に耳を貸さず、セントラルパーク一周マラソンにまで巻き込んだのだから、ハンパじゃない落ち込みようだ。
「何をしたのかは知らないが、彼ならきっと許してくれる」
どこか頼りなく自分の事も満足にできないのに、他人には優しく甘い。新次郎はそういう男だ。昂はそう信じている。
「……そうだね。ありがとう」
ようやくジェミニは微笑んだ。元気が取り柄の「ジェミニ・サンライズ」をようやく取り戻したかのように。だが、
ぐきゅうううるるるる。
ホッとしたからか、再び豪快にお腹が鳴った。息を呑んで顔を赤くするジェミニに、
「謝る前に、何か食べた方が良い」
小さく笑う昂を見て、ジェミニもつられて笑顔になった。
ところが。そんな二人に迫る影が、二つ。
『いたーーーーーっ!!』
聞き覚えのある二つの声が重なる。声の主はリカリッタとサジータだった。
「どうしたの、二人とも?」
すごい勢いで迫る二人に気押されながらも、ジェミニは訊ねた。
「こいつ、リカのチェリーパイ食べたーっ!」
「この馬が、あたしのホットドッグを食っちまったんだよ!」
聞けばリカリッタは、ダイアナから貰ったパイを一切れ食べさせるつもりが、ラリーは一切れ以外の方にかぶりついて食べてしまったのだ。
サジータの方は、新次郎を怒っている間に、ポストの上に置きっぱなしだったホットドッグを食べられてしまったのである。
「…………食べ物の誘惑を断ち切るために、目の前の物をどんどん食べちゃっていいって言ったんだった」
「武士は食わねど高楊枝」の意味を誤解した昨日のジェミニは、ラリーにそう言っていたのだった。ラリーにしてみれば主人に言われた事を忠実に(?)実行に移していただけである。
『ジェミニッ!!』
食べ物の怨みは恐ろしい。敵相手にすら見せないであろう形相のサジータと、金の銃と銀の銃をピタリと突き付けるリカリッタ。
不器用にオロオロと謝るジェミニを見て、昂は思った。
(何か食べる前に、謝るのが正解か)


翌日。
「お願い、ダイアナさん。いや、ダイアナ様!」
どうしたらいいのか判らない表情のダイアナの前で、必死に日本の「土下座」をしているジェミニ。
実は、前日の「暴食」がたたったのか、どうもラリーの具合が良くないのだ。そこで研修医であるダイアナを頼ったのだが。
「助けてあげたいのは山々ですが……まだ研修医の身ですし」
「お医者さんには違いないでしょ? ラリーを助けてよ〜。お願いします〜〜!」
必死になるジェミニを前にして「自分は獣医ではないのだけれど」と、ほとほと困り果てるダイアナだった。

<紐育の武士道 終わり>


あとがき

この話は真宮寺まくらさんのリクエスト『ジェミニもので何か1つお願いします。』に応えて書かれた物であります。
そして、当サイト初の「サクラV」SSなのであります。
うちのサイトの場合「初物」だとメインのヒロインが主人公の話というケースが多いのですが、今回も図らずもそうなりました。
え? メインヒロインは新次郎だ? まぁ、確かにある意味間違ってはいないと思いますが(苦笑)。
ジェミニの「強い憧れから来るトンチンカンぶり」が出せていれば御の字なのですがね。

今回もタイトルは映画から拝借。「紐育の歩道」というアメリカ映画です(1931年公開)。
大富豪のホーマーはひょんな事から貧しい少女マギーに一目惚れ。ところが、悪の道に足を踏み入れたマギーの弟クリッパーが、ホーマーの射殺を命じられてしまい……というお話です。もちろんこのSSとの関連性は全くありません。

追伸:ジェミニの発する「意味不明なセリフ」は、山本正之「ニューヨークラブマップ」をお聞き戴ければ判ります(笑)。

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