『刀が行方不明 壱』
「そうは言ってもなぁ……」
帝都は銀座の真ん中にある大帝国劇場。その中にある来賓用の応接室。
その元支配人にして大帝国陸軍中将である米田一基。
背筋もしゃんとしているため若く見られるが、既に六十の齢を越えている、叩き上げの老軍人だ。
そんな彼が、自分の目の前で身体を二つに折り畳まんばかりに頭を下げる、帝国陸軍士官の青年に難色を示していた。
まるで、どう扱ったらいいのか判らずに困り果てている。そんな風に見えなくもない。
「確かに俺もこの年だ。それなりに人付き合いってもんもある」
米田は、苦手なコーヒーを飲まされたような渋い顔のまま続けた。
「でも警察や探偵じゃぁねぇんだ。他をあたった方が、良かぁないか?」
米田の言葉に、若者はうつむき加減の顔をバッと上げる。
「行きましたとも。けど『ダメだ』の一点張りで頼りになりません。あれは見る人が見ればかなりの業物だと判るでしょう。金持ちや名のある剣の使い手をしらみつぶしに探した方が……。ですが、自分一人ではとても……」
顔を上げた青年の目には、うっすらと涙がたまっていた。
男子が人前で涙を流すなどもってのほか、という教育が不文律としてある世の中。ましてや軍人ならなおさらだろう。
そんな彼がためている涙に、訴えの真剣さを垣間見た気がした米田は、
「……判った。だが、あてにはするなよ。こっちは探し物は専門じゃぁねぇんだ」
その返事に、青年の身体はすかさず立ち上がり、背筋を伸ばしてぴしりと敬礼すると、
「有難うございます、米田中将閣下! 自分のような若輩者がこうしてお会いできるだけでも身に余る光栄にもかかわらず……」
「ああ、判った判った」
敬礼されて苦笑いを浮かべる米田は、どこか照れくさそうだ。
「早く戻らねぇと、上官にどやされるぞ」
そう言うと、若い軍人を応接室から追い出すように外へ追いやってしまった。
数時間後。劇場地下の一室に籠っていた米田の前に現れたのは、白い背広姿の若者だった。
「こちらにおいでと聞きましたので」
その声に、胡座をかいたまま帳面をめくる手を止め、
「お、加山か。紐育へ出張だったんだってな、お疲れさん」
「は。加山雄一。只今帰還致しました」
少々くだけた調子であったが敬礼だけはきちんと返した。
彼は訳あって帝都から地球を半周した紐育へ行っており、たった今帰ってきたばかりなのである。
「帰ってきたばかりで済まねぇんだが、お前さんに……一つやってもらいてぇ事ができちまってな」
「ちょっと来い」と言って、加山と呼んだ若者を側に呼び寄せる。
「それも結構ですが、まずはこちらの書類の方を」
そう言って彼が差し出したのは、かなり分厚くまとめられた書類の束だった。
「こういうもんは、渡す相手が違うだろ。俺はもうとっくに総司令官じゃぁねぇんだからよ」
米田は一番上に書かれた書類の「予算案」と書かれた部分だけちらっと見ると、それを脇に無造作に置いた。
「ったく、お偉いさんの言う事は、倹約倹約の一点張りでいけねぇや」
かたわらに置きっ放しだった一升徳利に手を伸ばそうとした時、
「中将のお酒に関しては、少々倹約されてもよろしいと思いますが」
「言うようになったな、加山」
加山に言われ、米田はしぶしぶ手を引っ込める。
「お前さんにやってもらいてぇ事ってなぁ……刀探しだ」
ぽつりと話したその内容に、厄介事と身構えていた加山はぽかんとしてしまった。


大帝国劇場とは世を偲ぶ仮の姿。
その実体は、霊力という稀有な力を持って「魔」の者よりこの帝都を守る秘密部隊「帝國華撃団」の総本部。
そして大帝国劇場の看板を背負う女優たちこそ、その実動部隊・花組の隊員なのである。
二人がいるその部屋は、艦隊の艦橋も霞んでしまうであろう最新設備を整えた指令室。もちろん部外者がこの部屋の存在を知る事はない。
米田はその頂点に立つ総司令官だった人物。今ではその役職を愛刀の神刀滅却と共に後進に譲り、悠々自適の生活を送っている。
と思いきや、頭と身体の動くうちはご意見番でもやってやろうかと考えてもいた。
加山はいくつかある部隊の中でも、情報収集を主な任務とする隠密行動部隊・月組の隊長だ。
つい先日まで、亜米利加は紐育に新設された「紐育華撃団」の情報収集部隊へ出向扱いとなっていたのである。
若いが抜け目のないその態度と恵まれた能力は、これまで幾度となく華撃団を救っている。
だがその活躍が決して表に出る事はない。総司令官だった米田も部隊長である加山も、月組の全貌を完全に把握しているとは言い難い程に、それは徹底されている。
そんな加山に米田がわざわざ頼む「刀探し」。彼はぽかんとはしたものの、何か裏がある事を見抜けぬ訳ではない。
「続きをお聞かせ下さい」
加山はすぐさま真面目な顔でその場に片膝をついてかしこまると、短くそう切り出した。
米田は「何から話したものか」と言いたそうに少しうなっていたが、
「さっき、俺のところに客が来てな」
「客……ですか」
「根来(ねごろ)と言ってな。俺の片腕とも言えた部下の……息子がな」
米田は少しだけ懐かしむようにため息をつく。それでも帳面をめくる手は止まってない。
加山も「言えた」の部分でちらりと見えた悲しみに、口をはさむのは止めた。
「あいつの愛刀が、死んじまった時に紛失しててな。それを何とか取り戻したい、と。ま、そういう訳だ」
軍人にとっての軍刀は、武器であると同時に己の魂の象徴。それは武士の時代より変わる事のない伝統だ。
だが銃や大砲が物言う時代になってからは、武器として使うよりは軍人を意味する身分証代わり。もしくは儀礼用といった意味合いが強かった。
もちろん軍で使う物だから配給もあったが、使い慣れた愛用の日本刀を使う者も多かった。その愛刀が紛失したとあっては、気に病むのも無理からぬ事であろう。
当然加山もそう思った。米田は話を続けた。
「だが、こいつはただの刀じゃなかったって事だ」
そう言った米田の声には、ふざけた雰囲気はひとかけらもなかった。
「御神刀って、判るな」
いきなり訊ねられた加山だが、そこは情報収集を任務とする月組隊長。すぐさま、
「神社に奉納された守り刀、ですよね?」
「元を辿るとそれらしいんだ、その刀は」
米田は首をトントンと叩き、少しだけ座り直すと、話を続けた。
「何でも、やっこさんの奥さんの実家ってぇのが、大層古い神社でな。知名度自体はそう大したもんじゃぁねぇけどな。で、やっこさんの家はそこの氏子。それも神社総代だそうでな」
氏子というのは、神社の地元でその神社に奉られた神を信仰し崇める人々の事。
神社総代とはそうした氏子達の代表として神社の祭りや様々な行事に協力する人々の事である。
仏教やキリスト教などの信者とは少々意味合いは違うが、近しい部分もある。
「神社総代の息子と神社の娘。親しくなってやがて恋に……ですか」
加山がため息をつき、誰に言うともなく呟いた。
古い神社の娘ともなれば、小さい頃から許嫁だの何だのを決められ、親や一族の定めた生き方を強制させられていたであろう事は容易に想像がつく。
明冶以降文明開化として様々な事が革新されてきたものの、まだまだ女性は旧い封建的な社会制度の中にあったのだ。
米田は「ああ」と短く答えてから、さらに続けた。
「いくら相手が神社総代の息子といっても、許嫁じゃなかった以上すんなり行く訳はねぇ。事実、結婚どころか交際すら猛反対されたそうでな。あげくに二人は駆け落ちしちまったのよ」
その後の台詞に見当がついてしまった加山は苦笑いをして、
「まさか、その駆け落ちの時に御神刀を?」
「そのまさかよ。しっかり持って逃げたそうだ」
そう言いながら米田もこみ上げてくる笑いを懸命に抑えようとしている。
互いの仲が認められずに駆け落ちする。取り立てて珍しい出来事という訳ではないが、まさか御神刀を持ち出すとは。
ここの花組の隊員である女性達も我が強い方だが、この女性も負けてはおるまい。
お互いが同じ事を考えていた事を察したのだろう。二人は顔を見合わせて苦笑する。
「俺も根来の奴から『これはさる神社の御神刀なんです。だから、ここぞという時にしか抜きません』と聞いちゃあいたが、さっき息子から事情を聞いた時は笑いそうになっちまったぜ」
自分の愛刀が、駆け落ちの時の行きがけの駄賃とは。確かに苦笑ものだろう。
「ところが、だ」
米田は急に声のトーンを落とす。
「その根来も日露の大戦で死んじまってなぁ。仲間の死なんざすっかり見慣れちまっていた筈なのに、あん時ばかりは……」
米田の脳裏には、その時の光景が未だにこびりついていた。
大陸で、敵より奪取した拠点の砦を守る任に着いていた根来率いる部隊。
人型蒸気を含めた敵大部隊の急襲を受けたにもかかわらず、パニックに陥った部隊を素早くまとめあげ、果敢に戦ったという。
その知らせを聞いた米田自ら援軍を率いてきた時には既に戦闘は終了していた。
人型蒸気に薙ぎ倒され、壁という壁に力任せに叩きつけられた味方の死体。
銃で撃たれ、大砲で吹き飛ばされた敵兵や、徹底的に破壊された人型蒸気。
負けたのかと思ったが、それにしては砦を征服した敵兵が一人も見当たらないのが妙だった。まるで双方が共倒れでもしたかのように。
奇妙といえば奇妙だが、そんな事に気を回せる者は一人としていなかった。
死体や壊れた兵器で埋め尽くされた砦の中を、生存者がいないか走り回った米田達。
身体にいくつもの弾を受け、壁に叩きつけられて息絶えていた根来の死体を見た時、さしもの彼も目の奥が熱くなるのを止められなかった。
済まない。もっと早く到着していれば――
米田は、思い出の中に行きかけた自分を首を振って我に返すと、
「俺は、あいつの刀を妻や子供達に返してやりたかった。あいつは立派に戦った。男の中の男だったと言ってな」
そこで米田は一瞬寂しそうな表情を見せたが、加山はあえて何も言わなかった。
もちろんそんな事をしても死んだ者は帰ってこない。
だが、そうだと判っていても、残された者に小さな希望を与えてやりたい。
生き残った者の自己満足と言われるかもしれないが、何かしてやりたいというその気持ちは、決して欺瞞ではないだろう。
悲しい事実だが、それが戦争というものなのだ。
「……手違いがあったか。それとも誰かがこっそりかすめ取りやがったか。鞘はあったのに刀は見つからなかった」
米田はため息一つつくと、話が思い出話に脱線した事を恥じたように空元気を出すと、
「ともかく、だ。息子の方が、その刀が競売にかけられていたって噂を聞き込んだらしくてな」
戦場からなくなった刀が、どこをどう巡り巡ったのかはさすがに判らない。その言葉に加山も小さく唸り、
「競売にかけられていたとなると、確かに普通の人には厄介でしょうね」
出所はもちろんの事、売った先を第三者に教えるとは到底思えないからだ。
たとえそれが盗品(かもしれない品)で、元の持ち主だったとしても、である。
そもそも士官学校を出たての若造では、百戦錬磨の美術商にでも舐められて終わりである。
「実際舐められて、門前払い喰らったそうだよ」
しょうがねぇな、とため息混じりに米田は語る。
「そこで俺のところへ来たって訳よ。俺の知ってる奴で、そうした刀を売り買いした奴がいねぇかってな」
競売を行なうところは情報を漏らす事はないだろうが、売り買いする顧客は別だ。
社会的な身分が上がると、今度は身分相当と云われる品を持ちたがる。そこからそうした「骨董品」に手を出してしまうもの。成り上がり者ならなおさらだ。
そもそも、良い物を手に入れたらそれを自慢したくなるのが人情。もっとも、それが明らかに盗品という触れ込みであれば話は別だろうが。
「俺も根来の事は気にかけていたつもりだし、刀の行方をうやむやにしちまった負い目もある。何とかしてやりてぇって思ったのよ」
米田の手が、ゆっくりと一升徳利に伸びた。だが今度は加山はそれを止める事はなかった。
彼は荒っぽく封を切り、徳利にそのまま口をつける。そして一口喉の奥に流し込んだ。
「……ふう。今日の酒はいつにも増して、胸に染みやがらぁ」
米田がいつも酒を飲むのは、酒が好きというだけではない。飲む事で、天に逝ってしまったかつての友や部下に語りたいのだろう。
「ですがしれ……いや中将。刀を探すといっても、いくら何でもそれだけでは月組としても探しようが……」
困ったなと言わんばかりに考え込んだ表情を見せる加山。
月組の情報収集能力を持ってしても、どんな刀か判らない刀を探し出すのは、いくら何でも困難を極める事は必至。
知っている限りの手がかりを、話の主から聞いておくのは当然の行動である。
「その御神刀とやらには、ちょいとした伝説があるらしいんだ」
「そうした神社に奉る御神刀には謂れがつきものでしょうが、ほとんどが後付けで根拠のないものです」
米田の言葉に加山が現実的な異を唱える。
事実、こうした神社に故事来歴はつきものだが、それが真実を伝えている物など数える程しかない。
大概はいい加減なでっちあげかあやふやな記録を元にした物である。
「だからここへ来たんだよ。聞き覚えがあったんでな。もしかしたらと思ってな」
少々薄暗い指令室の床には、これまで月組が全国各地で調べ、集めてきた様々な資料が山と積まれたり放り出されていたり。
一応種類別にまとめて保管されていたが、これだけ引っ掻き回されると片づけがかなり面倒だな、と加山は思った。
「こいつを見てくれ」
米田はさっき見ていた帳面をパラパラと開いて、それを加山にずいっと差し出した。
加山は帳面を受け取り、差し出されたページに目を落とす。
「鬼之刀? 鬼之鎧?」
見出しに書かれていた単語に、さすがの加山も目を疑った。
鬼といえば、この国では魑魅魍魎の代名詞と云われる「降魔」と共に有名な、人外の存在である。
鬼に関する伝承は、降魔の話と共に全国各地に点在している。
と同時に「固い」「強い」という意味の形容詞にも使われる。鬼蜘蛛や鬼胡桃などがその例だ。
おおかたその類いだろうと思っていた加山だが、読み進むうちにその考えが揺らいできた。

<鬼之刀/鬼之鎧>
紀州は玖度山(くどやま)で暴れ回っていた鬼を退治した、藤堂鷹寅(とうどうたかとら)の使っていた物。
口伝に因れば、玖度山に住む鬼を倒し、いまわの際に鬼が、
「儂を負かした褒美だ。儂の骨で太刀を。儂の皮で鎧を作れ。さすれば生涯戦で倒れる事はないだろう」
との言葉を残し、息絶えた。
半信半疑ながらもその通りにしてみると、見事な太刀と見事な鎧ができあがり、鷹寅はそれらを身につけた。
鬼の言葉通り、刀は敵を鎧ごと真っ二つにしても刃こぼれ一つおきず、鎧は敵の槍や弓、刀を一切寄せつけなかった。
鷹寅が病で亡くなった後、その鎧は玖度山の椎出(しいで)神社に封印され、刀は以後椎出神社の御神刀として代々奉られてきた。
これらの武具は霊力ある者が持てば魔を祓う力となり、霊力のない者が持てば魔を呼び寄せるという。
事実、過去その刀を盗んだ者がいたが、いずこともなく魔物が現れ、その者を殺して消え失せたという。
その鎧を調べてみると、妖気が微かに残っていた。
しかも鎧の材質は明らかに木でも鉄でもない上に、鎧に刃を軽く立てただけで刃こぼれを起こしてしまった。
その事から、伝承が全くの嘘とは言い切れないと推測される。
刀は明冶の半ば頃より所在不明であったが、現存する鎧から察するに、本物であればこれらの伝承が全くの嘘と言い切る事は難しいと思われる。

米田は、加山がある程度読み進めたのを見計らい、
「根来の出身は紀州で、しかも玖度山のふもとときてる。あいつの刀が元御神刀って言うんなら、その椎出神社の御神刀の可能性は高いだろう」
「確かに。根来という姓は和歌山、あと大阪にも多いですから」
加山はそこで言葉を切る。そして神社の来歴に目を通しながら、
「詳細は知りませんでしたが、この神社なら一応知ってます」
その反応に、今度は米田の方が不思議そうな顏になると、加山は顔を上げて、
「お忘れですか、中将。自分も出身は紀州和歌山。椎出神社の『鬼の舞』くらいは、話に聞いております」
年に一度の祭りの最後に、鬼を退治した藤堂鷹寅に扮した年男が、鬼之鎧をまとい鬼之刀を振りかざして舞い踊ると聞いている。もちろん祭りに使われるのは模造品であるが。
「椎出神社に伝わる伝承が、もし真実を伝えているのであれば、確かに放っておく訳にはいかない事態ですね」
霊力の無い者が持てば魔を呼び寄せてしまう刀。そんな刀が所在不明なのである。
霊力は、どんな人間にもごく微量ならあるものだ。それゆえに魔を呼び寄せる事はないのかもしれないし、長い年月の間に「力」が失われたと解釈する事もできる。
しかし、微量な霊力では魔を呼び寄せる力を抑え切れないという解釈も可能だ。
少しずつ魔を呼び寄せ、いつかは本格的に魔物が現れる。そんな可能性がない訳ではない。
それに、この「魔」を呼び寄せてしまう刀で悪しき企みを考える輩が現れないとは限らない。
これは「魔」よりこの帝都を守る帝國華撃団としても、無視できるものではない。
「やってもらいてぇ事」と米田が言った理由がようやく判った。これは明らかに帝國華撃団・月組の職務である。
加山は改めてといった趣で、もう一度帳面に目を通し出した。
「藤堂……?」
鬼を倒したと伝えられる人物の名前に、妙なひっかかりを感じた。
「中将。この『藤堂』というのはもしかして……」
「ああ。確証はねぇが、おそらくは」
米田も同じ考えらしく、小さくうなづいていた。
江戸時代、徳川家を守るという名目で尾張・紀伊・水戸の徳川御三家があったように、世を魑魅魍魎から守る「裏の御三家」とも言うべき存在があった。
魑魅魍魎を討ち果たす「破邪」の力。その血脈を受け継ぐ三つの家である。
その一つが京都にあった藤堂という家なのだ。
京都は古来より魑魅魍魎と縁があったから、そのためにわざわざ藤堂家が置かれたのは当然と言えるだろう。
そして和歌山と京都は隣接こそしていないが行き来が困難という訳ではない。鬼に悩める人々を救わんと藤堂家の者が行っていた可能性は大いにある。
「だが、この藤堂家はかなり前にその血筋は途絶えちまってて、資料や文献もほとんどありゃしやがらねぇときてる。困ったもんだよ」
米田は再び徳利を傾け「無理もねぇがな」と続ける。
藤堂家は裏の御三家というだけあり、公にはその存在すら秘匿され続けた。
しかし陰ながら国家の恩恵に恵まれた事は事実で、表向きには大した役職にはついていなかったものの、そこそこ目立つ旧家として知られている。
そのため、あのお屋敷はいったい何だろう、と人々の噂に上る事もままあった。
そんな不可思議な家が、あと二つばかりある。
西国の隼人(はやと)と、奥州の真宮寺(しんぐうじ)がそれだ。
だが、隼人の方も既にその血筋は途絶え、この太正の世に残るのは奥州の真宮寺家ただ一つ。
そして帝國華撃団には――その真宮寺家の一人娘が在籍しているのである。

<弐につづく>


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