『特攻野郎華撃団/愛と美の殴り込み大作戦 肆』
組長(らしき人物)の後ろにいた男を見て、加山の顔に強い衝撃と微かな落胆の色が浮かぶ。
加山雄一と落合真伍(おちあいしんご)。かつて海軍兵学校で共に学んだ二人の、皮肉な再会であった。
「何だ、知り合いか? ん?」
そう訊ねる組長に一瞬言い淀んだものの、落合は、
「海軍兵学校時代の同期です、組長」
少しばかりうつむいた顔で、押し殺すような声で答えた。
「……という事は、こいつは海軍の人間なのか?」
「組長。ここはこいつを海に沈めて……」
組長は血気にはやる組員を片手で押しとどめ、
「海軍出身じゃあ、海に沈めても脱出されるかもしれん。こいつも海の向こうに売り飛ばしてしまおう。遠い言葉も通じない異国ならそうそう戻っては来られんし、我々の儲けにもなる」
金勘定しか考えていない冷静な思考。その考えに、
「しかし、組長。『死人に口なし』とも言いますし、始末した方が……」
「殺したのでは金にならん。逆らうならお前の方を始末するぞ」
反発する組員をギロリと睨みつける。それだけでその組員は震え上がって口を閉じる。
「閉じ込めておけ。いいな!」
その命令に忠実に、落合が手拭いを取り出して加山に目隠しをした。
次に身体検査をされ、持っていた投げナイフ、さらに脱出に使えそうな道具を総て没収させられた。
それから両手両足に手錠をはめられ、数人がかりで担ぎ上げられた後、ずいぶん長い間運ばれていた。
わざと倉庫内やその周辺をぐるぐると歩いて、少しでも距離感や現在位置を狂わせるのが目的である。
加山が下ろされて目隠しが外されたのは、薄暗い地下室(らしき場所)に着いてからだ。
ごつい錠前がついた鉄の扉が開かれ、同時に背中を蹴り飛ばされて部屋に押し込まれる。床に叩きつけられたと同時に扉が閉まり、錠前のかかる音がする。完全に閉じ込められた証拠であった。
部屋は思っていたよりも広い。切れかかった裸電球が灯っているものの、ほとんど役に立っていない。
部屋の奥の方には、大きな人影や小柄な人影が約十人ほど。その人影に向かって、
「あの。別に怪しい者じゃございません。皆さんを助けに来た者です」
ここでやらねばならない事は自分が敵ではないとアピールする事。そして、自暴自棄にさせず、脱出の希望を持たせる事だ。そのために道化になる事を、彼は何とも思っていない。
加山のその言葉に反応して動いた者もいる。
「ちょっとお尋ねしますけど、この中に栽尾(さいお)さんと仰る方はいらっしゃいませんか?」
少し待ってみたが、返事はない。
(という事は、こことは別の場所に監禁されているのか?)
目隠しが取られた瞬間に視線だけで周囲を見てみたが、隣にここと同じような錠前のついた扉がもう一つあった。そちらに捕らえられているのかもしれない。
加山はまるで服でも脱ぐように簡単に手錠を外してしまうと、スーツの隠しポケットに入れていたオイルライターをつける。暗い部屋に小さな炎が点った。
ライターの火で一人一人照らしてみる。十代の女学生から年端もいかない子供まで年齢は様々。中には寝間着であろう浴衣のままの女性もいた。さらに全員が両手両足を手錠で拘束されている。
しかしその火を見るなり、皆が次第に落ち着いていくのが判る。ライターの火がもたらす小さな明かりと暖かさが、皆の不安感を和らげたのだ。
人間は暗い中では視覚が利かないので不安だが、小さな明かりがあるとそれだけで安堵するものだ。裸電球一つでは心もとあるまい。
加山はライターをつけたまま、皆に話しかけた。
「俺が助けに来たのは本当です。ここだけの話ですが、外で仲間が待機しています。人数は少ないけれども一騎当千のつわもの揃いです。ご心配なく」
扉の外に見張りがいないとも限らないので、小声でそっと話すと、ようやく少しは信じてもらえたらしく、皆から安堵のため息がもれる。
「でも……大丈夫ですか?」
女学生の一人が、不安そうに訊ねてくる。
ライターの火に浮かぶ加山の顔は、かなり殴られていた。口の端にうっすらと血が流れ、頬も少し腫れ上がっている。そんな顔を薄暗い火の中で見るのはちょっと無気味かもしれない。
さらに言うなら、ライターの火では見づらいが腹や腕、脚もかなり殴られて、せっかくの白いスーツが汚れてくたくたなのである。全身がはっきり見えていたら、かなり痛々しい姿と見られただろう。
「ああ、平気です。このくらいはどうって事……」
そう言う加山の言葉も強がりにしか聞こえない。
「とりあえず。今は休んで、脱出の機会を待ちましょう。好機が来ても疲れて動けないんじゃ意味がないですからね。大丈夫。好機は必ず来ます。なぁに。あんなドア、針金の一本もあれば開けてご覧に入れます」
自信満々にそう語る加山。だが、一応加山の言う事は信じたものの、本当にその好機が来るのかどうか、捕われていた皆にはやっぱり半信半疑であった。


加山が閉じ込められて二時間近くが過ぎた。外されなかった腕時計を見ると、自分が皆に告げてきた夜の十二時まであと三十分ほど。
扉の向こうに人の気配がする。少なくとも、二人。
ここん、ここっ。
ふと、扉の方から小さな音がした。ドアのノックとは違う、どことなくリズム感のある小さな音だ。
ここん、ここっ。ここん、こん。こん、こここんっ。
普通の人ならただの音としか思わないだろう。しかし、海軍の軍人である加山は違った。
(モールス信号!?)
そう思って耳を済ますと、それは明らかにモールス信号だった。
カ・ヤ・マ。カ・ヤ・マ。
音は確かにそう言っている。そして、現在この倉庫内にいる人物で、モールス信号を知っている人間。それは一人しか思い浮かばなかった。
加山も扉のそばへ行き、同じように拳の出っ張った部分で扉を叩く。
オ・チ・ア・イ・カ・?。
すると、すぐに返事が来た。
ソ・ウ・ダ。
やはりそうであった。今扉の向こうには、同期の落合真伍がいるのだ。
このドアにはのぞき窓も何もついていないから会話は難しい。そうなると意思疎通の手段はこれくらいしかないのだ。
兵学校を出て四年ぶりの再会。扉の向こうに同期の桜がいる。しかし、交わせる言葉はモールス信号だけというもどかしさ。
なぜ彼がここにいるのか。なぜヤクザの組員になっているのか。聞きたい事はたくさんあった。
扉を軽くこんこんと叩く音だけが、静かな地下室に響く。
“なぜお前がヤクザに?”
“オヤジの借金がある”
“なぜこんな連中に金を借りた?”
“事故で左手をなくした。その……”
そこで突然音が止まった。同時に人の気配が一人ぶん減る。加山が疑問に思った時そこに響く突然の銃声。直後扉が開いた。
「加山。久しぶりだな」
糸のように細い目。小柄で細いが、無駄のない引き締まった体躯。四年ぶりだが聞き慣れた声と話し方。間違いない。落合真伍である。
ただ、その左手は昔のままではなかった。掌の上半分と四本の指がなくなっていた。借金というのは、この左手の治療費なのだろう。
「落合……」
加山はほろりと涙を浮かべそうになったが、ぐっと堪える。今は再会を懐かしんでいる場合ではない。
「みんなを逃がす準備をしてくれ。早くな」
その声を聞いた女学生達は歓声を上げそうになる。だが加山は真面目な顔で、
「なぜそんな事を? そんな事をしたらお前の立場が……」
「いいんだ、加山」
落合は少し寂しそうに笑うと、
「借金といっても、どうせヤクザの烏金(からすがね)だ。いつまでも借金のカタに働かされるつもりはない。どうせなら組を潰してくれると有難いな」
烏金とは、夕方にカラスがカァと鳴く度に一割ずつ利息を取られるという、いわゆる一日一割の利息がつくあまりにも法外な金の貸し方だ。
「お前の事だ。人質がどこに捕まってるか判らないから、わざと捕まったんだろう」
伊達に兵学校で共に過ごした仲ではない。加山自身はとぼけているが、実際はそうだった。
「……という事は、捕まるまでに『イロイロと』やったに違いないしな」
「バレてたか」
その部分は加山も素直に白状する。
「何だ、今の銃声は!?」
「地下からだったぞ、急げ!」
地上への階段付近から怒号がする。さすがに銃を使えば気づかれるのは当たり前だ。早くも組員が階段を下りてきて、銃を取り出すのが見えた。落合はとっさに組員に向かって一発撃ち、開いた扉の影に隠れる。
「加山。お前のナイフだ。返しておく」
「お、有難い」
落合から愛用のナイフを受け取り、俄然張り切り出す。
「皆さんは伏せていて下さい!」
加山が首だけ振り向いて皆に命ずる。状況が今一つ飲み込めていないようだが、誰も戦闘の始まる場所へ出て行きたくはないだろうし、手足を拘束されていては無理である。
「この状況でナイフもないだろ。俺のだが使え」
落合は持っていたドイツ製のルガーP08という拳銃を加山に渡す。それから再び手を懐に突っ込んで同じ銃を取り出した。
確かにこの状況でナイフを回収しながら戦う訳にはいかない。その銃を有難く使わせてもらう事にした。
落合は楯代わりの扉から身体を半分だけ出して弾丸を惜しむように攻撃する。念のため残弾を確認した加山もそれを援護するように発砲。
「落合! てめえ裏切りやがったな!!」
「向こうにはロクな装備がない、焦るなよてめえら!」
組員達の「応」という返答と共に、容赦ない発砲。ちらりと見えたが、向こうの銃はほとんどがアメリカのコルト社製自動拳銃だった。物によっては四十五口径の弾丸を発射できる、当時としては最強の部類に入れてもいい銃だ。
仮にそうなら二人のルガーP08と比べても威力の差は大きい。
だがそこは、お互いに軍での訓練を積んだ者同士。少ない弾をほとんど無駄撃ちせず、一発一発確実にしとめていく。それに比べると若衆会側は、まともにこちらを当てにくる弾もなければ、何人もいる割に一発一発の間隔が妙に開いていた。
これは素人と玄人だからというのが原因ではない。銃と手が合っていないからだ。
当てるためには訓練も必要だが、それよりも「しっかり握って撃つ」という単純な事ができねばならない。
だが、彼らが使っているのは、数あるコルト社製品の中でも大型の自動拳銃なのである。威力があるからこれを使っているという、実に単細胞生物のような理由だろう。
これらの拳銃は体格の大きい欧米人を基準に作られているので、彼らのように小柄で手の小さい大半の日本人には微妙に大きく「しっかりと」握れないケースが多い。
どんなに威力のある銃でも当たらなければ意味がないし、しっかりと持てない銃を撃っても当てられる訳がない。
さらに重い上に撃った反動で銃身が勢い良く跳ね上がる。筋力の劣る日本人が調子に乗ってバンバン連射できる銃ではない。
もちろん手に馴染むようグリップを加工したり銃そのものに慣れればこの限りではないが、こうしたヤクザ連中はそうした鍛練はまずしないだろうし、するとも思えない。
一方加山と落合が持つルガーP08だが、弾丸の口径が小さい分純粋な威力は彼らの使うコルトと比べれば劣る。
だが兵学校時代の射撃訓練で使っていた南部式拳銃と似たデザイン(南部式拳銃がルガーのデザインを真似た説アリ)なので、多少手に馴染んでなくても、きちんとした訓練を積んだ者の「経験と勘」で何とかなった。
「軍を辞めてずいぶん経つし、ろくろく訓練もしてなかったが、それほど腕は落ちてないな」
向こうの弾を鉄の扉でしのぎつつ、落合が呟く。加山が驚いて「辞めたのか?」と聞き返すと、彼は苦笑いをして半分しかない左手を見せ、
「ああ。初めての演習航海の時に大時化に遭ってな。艦搭載の陸戦部隊の人型蒸気が倒れてきて左手が押し潰された。固定が甘かったんだろうが、情けない話さ」
七〇〇キロを超える人型蒸気に押し潰されては、手がそうなるのも当然だ。
「結局治らなくて、手を半分切り落とすハメになっちまった。オヤジは若衆会の先代に借金して、医学の進んだ独逸(ドイツ)へ行ってこいつを治そうって言ってくれたんだけどな。けどそれが上官にバレて『軍人とヤクザが繋がるとは何事だ』と難くせつけられてな。その挙げ句に辞めさせられたよ」
寂しそうに苦笑すると、弾雨の合間を縫ってルガーを連射する。だが、その途中で弾切れになってしまった。すぐ加山も発砲するが、こちらも同様だ。
とうとう弾が尽きてしまった。それにひきかえ向こうは文字通り売るほど持っている。機関銃を使ってこないのが不思議なくらいだ。
「さすがにダメだったか。このまま御陀仏かな」
仕方ない、とどこか割り切った顔の落合を見て加山がにやりと笑う。
「……そうでもないさ。奇跡の逆転劇という結末もあるぞ」
加山は自分の靴のかかとの部分をパコッと外す。すると、そこには何かのスイッチがついていた。
「加山。まさか……」
「そう。そのまさかさ」
まるでいたずらっこのように目を輝かせて、加山はスイッチを押し込むと同時に、落合の手を引いて部屋の中に飛び込んだ。
「わざと」捕まる前に倉庫のあちこちにしかけておいた爆弾が一斉に爆発し、その爆風で耳をつんざく轟音と共に鉄の扉が勢いよく閉まった。
偶然だったのか計算だったのか、時計の針が十二時を差すのと同時の爆発だった。


「爆発音!?」
時計の針が十二を差すのと同時に聞こえてきた轟音。
「やってくれるわね、加山君。この隙に行くわよ!」
琴音の合図で菊之丞が車を走らせる。猛スピードで倉庫街を駆け抜け、あっという間に目標の二十二番倉庫に到着。
見ると、倉庫のあちこちから煙が上がり、組員らしき人間達が大慌てで逃げ出している。煙がもうもうと上がり壁に穴まで開いてるが、倉庫が崩れる気配は全くない。
確かにこれだけ見事に爆発物を仕掛けられるのは、きちんとした技術を持った者でなければ不可能だ。加山の仕業に間違いないだろう。
倉庫の少し手前で、菊之丞は車を止めた。
「それじゃ、一網打尽にするわよ☆」
勇ましいとはとても言えない琴音の合図で、色部を除く全員が車から飛び出した。
だが、制圧は実に簡単だった。倉庫の地下で加山達が暴れていた事と、いきなり倉庫で爆発が起きた事でパニックを起こして、統率が全く取れていなかったのだ。
いくら武装していても、パニックを起こした団体というものは非常に脆い。その証拠に、組長含めた二十数人全員を拘束するのに二十分もかからなかった。中には逃げ出した組員達もいた事だろう。
彼らは爆発音を聞きつけてやってくる警察に任せておけばいい。どうせ密輸した武器が大量に見つかるのだ。逮捕されるには充分すぎる。
もう戦闘はないと判断した大神は、車から色部を連れてきた。さすがに彼でなければ「お嬢さん」が誰か判らない。
そこに、地下から上がってきた女子供が十人ばかり。全員拘束を解かれており、先頭を歩くのは小柄なスーツの男だった。彼は大神の姿を見つけると、大層驚いた様子で、
「! お前、ひょっとして大神か!? 俺だ。落合真伍だ」
「え!? お前落合なのか? 何でこんなところに!?」
驚く大神に、落合が大雑把に今までの経過を説明する。それでどうにか納得した大神は、
「それじゃ加山は、今地下にいるのか?」
「ああ。彼女達が閉じ込められていた部屋とは別に、もう一つ錠前のついた扉があったんだ」
大神は、その扉こそ色部が探している栽尾家のお嬢さんがいるところだと確信した。
落合の案内で、一同は地下室へ向かう。見ると、加山が落ちていた針金で、いくつもの錠前を開けている真っ最中だった。実は囚われの身の全員の手錠は、この針金で外していた。
「加山君、どいて!」
琴音が十四年式拳銃で鍵を破壊する。それを見た色部は彼を押し退けるように前に出て扉を開けた。
「お嬢さん!」
大きく開け放った扉から中に入る。
地下室だけに殺風景な部屋ではあったが、小さなテーブルや簡素なベッド。部屋を彩る壁紙やぬいぐるみ。さらには火鉢まで置いてある。贅沢を言わねば居住性はそれほど悪くない。
その部屋の一番奥にうずくまっていたブルーのドレスの人物が、色部の声に反応した。
「三郎さん? 三郎さんなのね!?」
ハスキーな声がして、その人物が立ち上がる。
髪は流れるような薄茶色のストレートヘア。うっすら紅をさした大きな唇。ソバカスだらけの顔。四角くゴツイ輪郭に力強い眉。背は低く、横に太い引き締まった固太り体型。
ついでに言うのなら、あごと頬にうっすらと黒い胡麻状のものが。
そんな人物が両手と両足を手錠で固定され、うるうると瞳を潤ませている。
「まさか助けに来てくれるなんて……こんなケガまでして……」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて色部に駆け寄った時に薄茶色の髪が後ろにずり落ち、角刈りの頭に早変わり。その様子は、どこをどう見ても女装した醜男(無精髭つき)にしか見えなかった。
「三郎さん!」
「お嬢さん!」
二人はその場で固く抱き締めあう。
「怖かった。若衆会の組長があたしに何度も何度も迫って来て。懸命に抵抗してたの」
「何も言わないで下さい。お嬢さんが無事なら、ぼくはそれでいいんです」
そこで始めて大神達に気がついた「お嬢さん」。色部は改まって、
「ああ。幼馴染みの丘菊之丞と、その友達です。ぼくを助けてくれたんです」
「そうでしたか。本当に有難うございました」
その「お嬢さん」はにっこりと――ちょっと気味の悪い笑みを浮かべると、わざわざ一人一人に頭を下げる。大神と加山と落合が嫌そうな顔だった事はつけ加えておく。
「さらわれていた愛しい人を助け、その腕(かいな)に抱く。ハッピーエンドはこうあるべきよねぇ☆」
「そうそう♪ もらい泣きしちゃいそう」
「よかったわね、さぶちゃん」
薔薇組の面々が、仲睦まじい二人を見てうんうんとうなづきあっている。
「何か間違ってないか、これ……」
何をどうつっこんでいいのか判らぬ、青ざめた顔の大神と加山。落合は得意そうに、
「知らなかったのか?」
知らないとリアクションを返した二人に、彼は説明した。
「栽尾って名前の、ある会社の役員がいるんだが、そこの一人息子の女装癖は地元・品川じゃ有名だぞ。本名は満三(まんぞう)っていうんだが、本人は満子(みつこ)って名乗っててな」
落合の言葉に、大神と加山が揃って落胆したように肩を落とす。現実は甘くないとはいえ、救出劇の結末としてはやるせない感じだ。
「知ってたのか、お前?」
「聞かれなかったからな。それとも、囚われの美女を助けてハッピーエンド、な〜んて結末を期待していたのか?」
落合は意地悪そうに大神の胸板をこづく。大神はかなり照れくさそうに頭をかいて、
「ほんのすこ〜〜〜〜しくらいは……」
「お前。花組のみなさんに聞かれでもしたら、タダじゃ済まないぞ」
大神のぽつりともらした本音に、加山が口を引きつらせてツッコミを入れる。そのツッコミにびくっとなった大神は、急に真面目な顔になると、
「……ひょっとして言う気か、加山!?」
「さて、どうするかな」
得意げに鼻を鳴らして、オロオロしている大神を見ている加山。そんな彼を見て加山はポンと手を叩くと、
「じゃあ、これから落合との再会を祝して飲みに行こうか。お前のおごりで」
「いいっ!? 俺の安月給は知ってるだろう!?」
大神は慌てて抗議するものの、その顔はどこか嬉しそうだ。
たとえ何年も会っていなくても、たった一回再会しただけであっという間に年月の差を埋めてくれる。そんな友の存在があるからなのかもしれない。
振り向くと、色部・栽尾の二人はひしと抱き合って慰めあい、薔薇組はその様子を見て感涙にむせび泣いている。
よく判らない感動にうち震える一同に別れを告げ、海軍兵学校の同期生三人の姿が、地上へ消えて行った。

<特攻野郎華撃団/愛と美の殴り込み大作戦 終わり>


あとがき

「特攻野郎華撃団/愛と美の殴り込み大作戦」。いかがだったでしょうか?
ある意味でサクラ大戦SSにあるまじき『大神は影が薄い・ヒロインが出てこない』という、前代未聞なSSでございます。
けど加山だって薔薇組だって、立派な「サクラ大戦」の登場キャラですから(笑)。たまにはこんなのがあってもいいんじゃないでしょうか??
イロモノキャラと言われている彼らですが、その気になればこのくらいの活躍はできるでしょ。「2」で実績もあるし。
だけど、何でこんなに長い話になっちゃったんだろう。書いている本人が一番判ってない。

今回一番大変だったのは銃器の知識です。何せ管理人はこのテの知識はろくにありませんから。
一応調べられるだけは調べましたが、史実と付き合わせればかなり間違ってる事でしょう。その辺は「フィクション」という事でご勘弁を(笑)。
それから本文中で「南部十四年式拳銃」の事をかなり悪く言ってますが、概ねあの通りらしいです(特に第二次世界大戦末期)。ただ「威力が弱い=銃を撃った反動で銃口が上がってしまう事がほとんどない」という事なので狙いはつけ易かったそうです。当たるかどうかは射撃の腕次第ですが。

今回のタイトルの元ネタは、もちろん「特攻野郎Aチーム」。その劇場版の「地中海殴り込み大作戦」です。
マフィアのボスを法廷で裁く予定だった判事の娘が組織に誘拐されてしまう。Aチームは娘を救出すべくイタリアへ向かい……というお話であります。
管理人は元々「Aチーム」は大好きなんですよ。コミカルだけどカッコイイ、人死にが出ないB級アクション巨編。
5人だから「戦隊モノ」でいこうとも考えたんですが、この話のノリだと「Aチーム」の方が近いかな〜って(^^ゞ。
そういう訳で、コミカルだけどカッコイイ(かな)、死人が出ないB級アクション『小』編をお送り致しました。

文頭へ 戻る メニューへ
inserted by FC2 system