『行方不明のザ・フール 中編』
「……これで何回目かしらねぇ。あんたがこうやって暴走するのって」
かなめはとなりを歩く宗介をじろりと睨みつける。彼もさすがに悪いと思ったのか、無言のまま「爆弾」と思っていた時計を持って彼女に従っている。
というより、ほとんど手加減抜きの金属バットでのめった打ち攻撃を受けた直後である。いかな彼でもしゃべる気力はないのかもしれない。
「ほんっとにあんたって学習能力がないんだから。何回も何回も飽きもしないで同じ間違いやらかして。いい加減それの後始末をやらされるあたしの身にもなってくれない?」
かなめは同年代の女子にしては背も高く、ナンパ男の一人や二人寄ってきそうな容貌ではあるが、今は近寄りがたい程の押し殺した怒りのオーラが漂っている。
それに加え、宗介を殴り疲れたので猫背のままがっくりと肩を落として歩いている。
こんな状態の彼女にナンパ目的で声をかける物好きはまずいないだろう。
「だが千鳥。何事においても警戒は必要だ。前回は大丈夫だったから今回も大丈夫だろうという人間の油断を、テロリスト達は巧みに突いてくる」
これまたいつも通りの宗介の返答に、かなめは声を荒げる元気もなく、
「警戒するのは結構だけど、せめてみんなの迷惑にならないように警戒してくれない?」
疲れた声で冷ややかに言っただけだった。
「それは俺も重々理解している。その為、被害を最小限に食い止めようと、グラウンドにいた生徒達を素早く遠ざける為に威嚇射撃を……」
かなめがどこからか出したハリセンで宗介の頭をばしんと叩いた。
「……なかなか痛いぞ、千鳥」
宗介は叩かれた後頭部をさすりながら呟く。
「ああ。もう嫌、こいつ……」
かなめはため息をつきつつ、つい最近までひどく物騒な海外の紛争地帯で日常を過してきた彼に、日本の常識を逐一説明する空しさを噛み締めて、更に肩を落として弱々しく呟く。
のろのろと疲れ切った足取りで二人は生徒会室にやってきた。
ドアを開けると、そこにはさっきと違って数人の人間がいた。
一番奥の執務机には生徒会長の林水敦信が座っている。とても高校生とは思えない風格と、妙に落ち着き払った態度を持つ青年だ。
「相良くんと千鳥くんか。いいところにきてくれた。ちょうど君達を呼び出そうとしていたのだよ」
林水は二人の姿を見るなり、静かにそう語りかけてきた。
「あたし達を?」
かなめがおうむ返しに訊ねる。
「うむ。今し方の騒ぎの件もそうなのだが、それよりもあちらが優先だ」
林水は部屋の中央にある会議用の机の隅に座っていた二人の女子生徒を指差した。
二人でそこを見ると、座っていた一人は生徒会書記の美樹原蓮である事が判った。おっとりとして品のいい、割と古風な印象の人物だ。
しかし、もう一人の女子生徒が判らない。少なくとも、宗介はもちろんかなめも一度も会った事のない人物だった。
その女子生徒は青ざめた顔でこほこほと小さく咳をしており、蓮がそれを介抱しているようにも見えた。
「どうやら彼女の用があるのが、相良くんのようなのでね」
「自分に……でありますか?」
宗介は咳をしていた少女をじっと観察していた。
顔色の具合から見ると、何らかの病にかかっているように見えた。苦しそうに咳をしているという事は呼吸器系の病気だろうか。
「大丈夫ですか、久美(くみ)さん」
蓮が久美と呼んだ彼女の肩をぽんと叩く。
しきりに咳をしていた彼女は、ようやく座ったまま宗介の方に視線を向けると、か細い声で、
「私は一年の浦部久美と言います」
と短く自己紹介をした。
綺麗なストレートの髪を肩の高さで切りそろえ、前髪は目の上一直線。いわゆる日本人形などに見られるおかっぱ頭だ。そこは古くさく感じるが、表情の方はか弱くはかなげで、実年齢よりも大人びて見える女の子だった。彼女は宗介をじっと見つめると、
「実は……さっき箱を抱えて階段を駆け下りてきた貴方がぶつかってきた時に……」
そう言うと、ブレザーのポケットから慎重に何かを取り出した。
それは紙製の小さな箱だった。表によく判らない幾何学模様が描かれており、その下に「TAROT CARD」と質素な文字で書かれている。
しかし、模様や文字は随分と色褪せており、どうにかそうだと判る程度だ。
「う〜んと……タロット・カード?」
表の文字を見たかなめが久美に訊ねると、彼女はこくんとうなづき、
「このタロ・カードは、私のおばあちゃんが五〇年前に買って、ずっと使っていた物を形見分けでもらった物で、私の愛用の品なんです」
「タロ・カード? タロット・カードじゃないの?」
かなめがついそう訊ねてしまう。
「タロ・カードというのはフランス語読みです。このカードはフランス製なんですよ」
そっけなくかなめの問いに答えると、久美は更に続けた。
「このタロ・カードはもう五〇年も前の物で、それでこの紙製のケースもかなり傷んでました。でも貴方がぶつかってきたショックでポケットからケースが飛び出して壊れ、中のカードが飛散してしまいました」
そのケースを改めてよく見てみると、あちこちにセロテープで修復した跡があり、相当古い物であるという事が一目瞭然であった。
形見であり、愛用品が壊れる。確かにそれはショックな出来事である。
久美はそこで再び浮かんできた涙をハンカチでぬぐうと、更に続けた。
「幸いカードは蓮さんや周囲の方々が拾い集めてくれたんですが……一枚だけどうしても見つからないんです」
がっくりとした様子でそこまで語ると、再びさめざめと泣き出してしまった。
「そういう訳なのです。わたしと林水先輩がたまたま通りがかった時にカードが散らばっていましたので、拾うお手伝いを」
蓮が彼女の肩をそっと抱いて言った。
「久美さんとは家も近所ですし、妹みたいなものなのです。放っておく事もできませんでしたので、ここに連れてきたという訳なのです」
かなめは蓮の説明をぽかんとしたまま聞いていたが、
「……つまり、浦部さんはタロット・カードが無くなってがっくりきてて、その原因がソースケって事?」
かなめの言葉に蓮はうなづくと、説明を続けた。
「千鳥さんはご存知ないかもしれませんが、久美さんはこれでもタロット占い師なのです。彼女にとっては自分の商売道具でもあるタロット・カードを紛失してしまった訳ですから、落ち込んでしまうのも無理はないかと」
蓮の説明に、かなめはさっきの詩織達との話を思い出した。この子が話題になっていた占い師の一年生か、と。
久美を見たかなめは、さっきの自分の想像がそう的はずれでなかった事に何となくほっとしたものの、う〜ん、と言葉に詰まってしまった。
かなめにはタロット・カードといえば占いに使うもの、という知識しかない。昔の映画のワンシーンで、ジプシーの占い師が使っていたのを見た事があるくらいだ。具体的にどういったカードなのか、といった事はよく判らない。
「事情は理解した。だが、無くなったカードの補充は不可能なのか?」
ずっと黙っていた宗介が久美に訊ねた。すると久美は顔を伏せたままふるふると首を振り、
「無理でしょうね。タロ・カードは微妙な物で、無くなったから簡単に補充という訳にはいかないんです。単に同じメーカーの同じ絵のカードを加えればいいという物でもありません」
涙声でそう答える。
「それに、このカードは五〇年も前の物ですから、今売っているかどうかも判りません」
「では、一枚ない状態で使い続ければいいではないか。新しい物を購入するという手段も……」
宗介のこの言葉に、久美は過敏に反応して立ち上がって、叫ぶ。
「タロ・カードは一枚でも欠けてはいけないんです! それでは公正な占いは不可能です!!」
「そんなのダメに決まってるでしょ!? それくらいあたしでも判るわよ」
かなめも呆れ顔のまま肘で彼の脇腹をごんと小突いた。
「それに、長年使い込んだ物の方がインスピレーションも湧きやすいんです! それを……」
その時、久美はかがみこんで激しく咳き込んだ。ハンカチで口を押さえて、息苦しそうに何度も何度も。
「久美さん。大丈夫ですか?」
蓮は手慣れた動作で彼女を座らせて、呼吸を落ち着かせようとする。それから久美の荷物から何か取り出し、それを彼女の口に当てる。
「久美さんは喘息持ちなのです。今みたいに強い感情はもちろん、空気の汚れなどが原因でも、すぐに発作が出てしまうのです」
口に当てたのは薬の吸入器だそうだ。
喉の奥からひゅうひゅうと変な音が漏れ、真っ青な顔で苦しそうにあえぐ久美を見たかなめは、
「事情はどうあれ、あんたに原因がある訳だから、探してあげるのが筋ってもんじゃない?」
「相良さん。わたしからもお願いします。これ以上発作が起きたら、お薬が足りなくなりそうなので」
「…………」
蓮の言葉にかなめが少々ため息をついた。
二人にそう言われ、宗介も考え込む。
さっき「ぶつかった時」と言っていたが、それは間違いなく時計を爆弾と勘違いして、段ボール箱を抱えて階段を駆け下りていた時の事だ。
それが発端ならば、確かに自分に原因がある。それならば償わねばならない。
「了解した。よく判らんが、俺ができる限り探してみよう」
そう言って生徒会室を出て行こうとした時、
「待ちたまえ、相良くん。千鳥くんと共に行きたまえ」
今まで黙って聞いていた林水が、何かの書類整理をしながら彼を呼び止めた。
「ちょっ、センパイ! どうしてあたしまで行かなきゃならないんです? タロット・カードを探すくらい、ソースケ一人でも充分できるじゃないですか!」
つかつかと彼の執務机に近づき、ドンとそこを叩いて抗議する。
しかし林水は涼しい顔のまま、宗介に向かって、
「時に相良くん。君はタロット・カードという物を知っているのかね?」
「……いえ。残念ながら」
「そうか。では千鳥くん。君はどうかな?」
「まぁ……こんなもんだろうな〜くらいなら」
二人のその答えを聞いて、そうだろうと小さくうなづくと、
「目的の物が何かも判らないまま探すというのは、あまりにも無謀。それに単独での探索など実に非効率的だ。違うかな、千鳥くん」
林水はメガネのブリッジを人差し指でくいっと上げると、そう告げた。
「まぁ、それは判りますけど……」
「美樹原くんは浦部くんの介抱があるし、喘息の発作が治まっていない浦部くんを探しに行かせるなど論外だ。そうなると、君しか残っていないのだがね」
「センパイは?」
「私はこの通り各種書類の整理が残っている。会議がないからといって、私の仕事が全くない訳ではない。君が代わりにやってくれるというのなら話は別だが」
机の上には、目が痛くなりそうな細かい文字がびっしりと書かれた書類が何十枚と置かれている。それを見たかなめはげんなりとした表情のまま、
「……判りました。行ってきます」
ため息をつきつつ、宗介のとなりに並んで生徒会室を出て行った。


宗介とかなめは、浦部久美が宗介とぶつかったと主張する南校舎二階の踊り場へやってきていた。周囲には職員室や放送室。それにトイレがあり、一般生徒の教室などはない。
宗介達の教室のある北校舎への渡り廊下もあるが、現在は人通りもまばらである。
肝心の宗介は「準備がある」と言って、教室に戻ってしまっていた。
その為かなめは腕組みして、宗介の到着を待っていた。その間、職員室で聞いてみたり、きょろきょろとあたりを見回して「タロット・カード」らしき物を探してみたが、やはり見当たらなかった。
「風で飛んじゃったのかな……」
そう思ってはみたが、今日はそれほど風が強い訳ではない。その線は薄いだろう。
「それにしても、ソースケのヤツ何してるのよ……。『準備をする』なんて言ってたけど……」
すると、渡り廊下の向こうから、数人の人影がやってきた。
両手に様々な機械類とおぼしき物を持ち、額には何かごついゴーグルのような物をつけ、小走りに駆けてくる宗介の姿を確認する。
「ソースケ、遅いじゃない。何してたのよ?」
先頭にいた宗介はむっつりと押し黙ったまま、機材類を廊下に置いた。
「それに、何でキョーコやシオリがくっついてくるのよ?」
彼の後ろにいた恭子と詩織を見てかなめがそう言うと、
「まあまあ。相良くんが『探し物がある』って言うから手伝いにきただけだよ」
恭子がそう言うと、詩織の方も、
「探し物なら、人出が多い方がいいでしょ?」
しかし、恭子はそこでにやりと笑うと、
「それとも、相良くんと二人っきりの方がよかった? あたし達が手伝うのは余計なお世話だったかな〜?」
わざとらしくそう言って、くるりと後ろを向いて帰ろうとする。かなめはそんな二人に後ろから飛びついて、
「待って待って。せっかくきたんだから手伝ってよ」
「え〜? でも、カナちゃんは相良くんと二人っきりの方がいいみたいだし〜」
「そんな事ないって。あたし、キョーコとシオリがきてくれてすっごくうれしーなー、う、うはははは」
あさっての方を向いて二人の肩をぽんぽんと叩くかなめ。
「じゃあ今度おごりだよ」
詩織がすました顔でそう提案する。かなめもちょっと困った顔をしつつもその提案を受け、商談は成立した。
それからかなめは先程までの経過をかいつまんで恭子と詩織に説明する。
「浦部さんのタロット・カードかぁ。確かにそれは一大事ね」
「それで、どういうヤツなの、カナちゃん?」
恭子に言われて、かなめはぽかんとしてしまった。肝心の「どういうヤツなのか」という点をさっぱり聞いていなかったのだ。
しかし、先程の喘息の咳や発作の状態を見ると、今答えさせるのは少々酷に感じてしまう。かなめは素早く考えをめぐらせると、
「聞いてないんだけど、この学校にタロット・カードなんて持ってきてるのって、たぶん浦部さんくらいだと思うから。それっぽいのを見つけたら、あたしに連絡。それでいい?」
どうにか二人は了承した。
「……ところでソースケ。あんた一体何を持ってきた訳?」
かなめは、よく判らない機械類のスイッチを入れて動作テストらしき事をしている宗介の肩をぽんと叩いた。
「無論、タロット・カード捜索の為の機材類だ。今持っているのは金属探知機だ」
至極真面目な宗介の答えに、三人の女子は思いきり空しいため息で答えた。
「どうかしたのか?」
「あのさ〜。相良くん。探すのってタロット・カードなんでしょ?」
代表で恭子がそう訊ねる。
「肯定だ」
「タロット・カードって金属じゃないんだけど……」
この空間に、しばしの無言の時が流れる。遠くで微かにカラスの鳴き声がした。
その沈黙を破ったのは宗介だ。彼はかなめに向かって、
「……金属ではないのか?」
「そうよ。こんな機材なんか役に立たないわよ」
宗介は金属探知機を置くと、今度は別の機材を取り出した。
「という事は、この赤外線センサーも……」
「それ、何に使うの?」
「人間の体温をはじめとして、熱を感知する物だ。その様子がこのヘッド・マウント・ディスプレイに表示される仕組みになっている」
宗介は言いながら額のゴーグルを指でこんこんと叩いた。
「タロット・カードは紙でできてるんだから、熱感知センサーなんて役に立つ訳ないでしょ!?」
かなめが握り拳をがつんと振り下ろす。たまらず宗介は少しよろめいた。
「そうか……」
さっき以上にむっつりと押し黙ったまま赤外線センサーを置き、かなめに訊ねた。
「では千鳥。どの機材を使えと?」
「いらないわよ、んなモン。目と頭でも使えば?」
「…………」
あまりにも不毛なやり取りのあと、恭子と詩織は下の階へ探しに下りて行く。
「ソースケ。あたし達も探すわよ」
「判っている。しばし待て」
宗介は何か妙案がありそうな顔でさっきとは別の機械を取り出すと、スイッチを入れてバッテリーを確認する。それは、かなめの目には変な形の有線マイクとそれが繋がったレコーダーにしか見えなかった。
「……今度は何?」
また機械を使おうとしている宗介を見て、かなめは一応義務的に聞いてみた。
「これは、においで物を探す装置だ。犬の鼻の機能を機械化した物と思ってくれれば判りやすいだろう。これならばこの状況下でも大丈夫な筈だ」
その答えを聞いたかなめは、ぱっと明るい表情になると、
「ソースケ。こういういい物があるんだったら、最初っから出しなさいよ」
「この装置はまだ試作品でな。できる事なら使いたくはなかった。完成品ではない以上、確実に探し出せるかどうか判らんしな」
「いいわよそんなモン。少なくとも、タロット・カードを探すのに金属探知機とか、熱感知センサーなんかを引っ張り出してくるよりよっぽどマシだってば」
「そ、そうなのか?」
あまりに嬉しそうなかなめの笑顔を見た宗介は、ふいとそっぽを向き人差し指でこめかみをかいていた。
「それで? 浦部さんのにおいがついた物、何か持ってるの?」
「うむ。生徒会室を出る時、密かに彼女のハンカチを失敬した。使う事になるとは思わなかったが、念の為にな。あとで返せば問題はなかろう」
そう言うと、いつの間に取ったのか、ポケットの中からビニール袋に入ったかわいらしいハンカチを取り出した。その答えに、かなめの笑顔が急に呆れ顔に変わる。
「いや。充分問題あるっての」
宗介はそんなかなめに気づいた様子もなく機械のスイッチを入れると、ハンカチをビニール袋から取り出し、そのにおいを機械に記憶させた。
スイッチを切り替えて、さっそく探索モードに入った。
すると――
「……むっ。どうやら近いようだ」
メーターらしき物の上についた小さなランプが激しく点滅をくり返している。
宗介は身体ごとマイクもどきの探知部分をゆっくりと旋回させ、メーターを見ながら方向を確認している。
「……どうなの、ソースケ?」
別に音は検知されないが、それでもかなめは何となくその場の雰囲気から小声で訊ねた。
「……近い事は判るが……どの方向ヘ向けても大差ない。やはり試作品だから、微妙な部分は改良が必要らしいな。改良点を報告しておく必要がある」
宗介の方も小声で答え、方向確認を続ける。しかし、三六〇度回ってみたが、どの方向へ向けても、これ以上の際立った反応は見せなかった。
「おかしい。いかな試作品でも、こうまで距離感が判らないとは……」
「う〜ん。やっぱり機械に頼るのはやめた方がいいんじゃない? ソースケはもう少し探してて。あたしがそのハンカチ、返しておくから」
かなめはそう言うと、宗介が持ったままのハンカチをひょいと取り上げた。そして、そのまま階段を数段登った時、宗介が鋭い声を上げた。
「待て、千鳥」
「え?」
かなめは思わずその場で立ち止まり、彼の方を向いた。
宗介は、機械のメーターを見たままマイクのような物を彼女の方に向け、ゆっくりと歩いてくる。
そして、かなめの前にきた。
ランプの点滅が激しくなり、メーターも最大値らしき物を指していた。
ランプとメーター。それからマイクもどきの探知部分のすぐ前にあるハンカチを二人揃って交互に見つめている。
「……どうやら、装置はこのハンカチに反応していたらしい」
額から脂汗を流したまま、宗介が呟いた。
それは、彼がかなめに思いきり蹴り飛ばされるには充分な理由であった。

<後編につづく>


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