『海軍少尉(エンスン)殿、ご用心』
「……」
帝都銀座の大帝國劇場。その二階にあるサロンで、大神一郎は、テーブルに並んだ小さな札をじっと見つめていた。
(いかん……。これじゃあ……)
自分の前に座る少女とテーブルに並んだ札とを見比べているが、その表情は何とも困り果てた顔だ。
切羽詰まった表情というか、不安と焦りがありありと浮かんだ顔というか。
とにかくそんな表情を隠しきれぬまま、テーブルの対面に座って得意げに笑う眼鏡の少女をチラ、と見る。
「フッフッフ……」
彼女は小さく声を殺して笑うと、手にした札から一枚だけ手に取り、ゆっくりと掲げ、テーブルに叩きつけた。
すぐさまそばに積まれた札の山のてっぺんから一枚だけめくり、じっと見つめる。
「よっしゃ! またうちの勝ちや!!」
元気良くそう叫ぶと、再び札をテーブルに叩きつけた。
それと同時に大神がテーブルに突っ伏してため息をついた。


「どないします、大神はん。もう一勝負しまひょか?」
満足そうな笑顔を浮かべる眼鏡の少女――李 紅蘭が提案するが、彼はすっかり元気を無くした顔で、
「俺の有り金全部巻き上げておいて、もう一勝負も何もないだろ?」
適度に日の入る明るいサロンに似合わぬ暗い雰囲気を漂わせ、自分を見つめる紅蘭を見た。
紅蘭はその解答を聞いて苦笑いを浮かべていた。
「ま、こんな日もありますわ。あんまり気にせん方がええで」
テーブルに散らばる小さな札――花札を手早く片づけながら紅蘭が言う。大神もそれを手伝う。
「『勝つまでやる』などとムキになるからです」
これまでのいきさつを見ていたマリア・タチバナが呆れながらもそう言う。一緒に見ていた真宮寺さくらも、
「そうですよ、大神さん。時には引く事も大事です」
判りきっている事をさくらに言われ、ますます情けない声で、
「はいはい。俺が悪かったよ」
力なく素直に謝る大神。
ここのところの恒例になりつつある大神と花組メンバーの様々な勝負。
トランプの大富豪。ビリヤード。組手。花札などなど。
今回は紅蘭との花札勝負だったのだが、運が悪かったのか、なすすべもなく勝負に負けて、有り金をすべて巻き上げられてしまったという訳である。
表向きは劇場のモギリ係として。実際は帝都防衛の秘密部隊・帝國華撃団花組の隊長としてここにいる大神一郎も、ゲームとなるとさすがに勝手が違うらしく、常勝無敗という訳にはいかなかった。
もともと賭け事がそれほど強くないというのもその一因だろうが。
ここに住み込みで働いている以上、衣・食・住に特に困る事はない。
着る物は支給。食べる物は食堂で済む。住に至っては住み込みなのだから言うまでもない。
食堂があるといっても、彼は腹一杯食べる事をしない。食べ過ぎて動けなくなる事を防ぐ為、とみんなには言っているが、実際は遠慮しているのだ。
ここでの主役は、あくまでも表の顔が舞台女優の隊員たちだ。彼女たちには苦労させたくない。大食らいの桐島カンナがいると言っても自分が率先してたくさん食べるのは気がひけてしまうのだ。
別に気がひける必要はないのだが、そういう所が彼らしいと言えるかもしれない。
それでも二十代前半の青年男子である。量を控えれば腹も減る。そのため、夜中にこっそりと外出し、近くに来ている屋台のそばを食べてから眠るのが習慣となっていたのだ。あまり身体にいいとは言えないが、若いうちなら少々の不摂生も利く。
だが、金がない以上、それもできない。
夕食が済んで自室に戻った大神は、ベッドの上でごろりと横になっていた。
「はぁ……腹減ったなぁ」
彼女たちの前では気丈にふるまっていても、身体は正直だ。
いや。自分で気丈にふるまっていると思っているだけで、勘の良い彼女たちは気づいているかもしれない。
だが、こんな所を見られる訳にはいかない。武士は食わねど高楊枝。痩せても枯れても海軍少尉だ。
そう思っていた時、ドアをノックする音が聞こえた。慌ててベッドから跳ね起き、
「どうぞ。開いてますよ」
「ほな、失礼します」
紅蘭は、細く開けたドアから頭だけ出してから、
「大神はん。すまんけど、うちの部屋まで来てもらえますやろか?」
「え? また花札でもやるのかい? 今日は勘弁してくれよ」
「ああ。ちゃいますわ」
そっけなく答えた大神に、紅蘭はぶんぶんと首を振る。
「ちょっとうち一人では持ち運べんのや。せやから大神はんの方が来てほしいんや」
そう言いながら小さく笑う。機械いじりが趣味の彼女の事だ。また何か妖しげな物を作ったので見せたいのだろう。
「わかったよ。今度のは大丈夫だろうね?」
何故かは知らないが、彼女の作った「発明品」の大半は、途中まで上手く作動していても、最後には爆発してしまうのだ。大神自身も何回かその爆発に巻き込まれている。紅蘭の方は、
「大丈夫や。まーかしとき!」
と自信満々な表情だが、大神は一抹の不安を隠せなかった。
彼女の部屋のドアを開けて中に入るとまず目につくのが、部屋の奥に置いてある良く判らない大きな機械。設計図や複雑な計算を書いた紙があちこちに散らかっており、そんな中に金属製のカカシと表現するのがしっくりくる人間の上半身がちょこんと置いてあった。
目鼻のないつるんとした顔に、ねじり鉢巻を巻いたところが板前さんのようでもある。
「……これが、今回の発明品なのかい?」
「その通り!」
彼女は踊るような軽やかなステップでかかしの横に立つと、力強く握りこぶしを作って、
「これぞ世紀の大発明。おにぎり製造マシン『ちゃきちゃき職人くん3号』や!!」
「……おにぎり製造マシン?」
1号と2号がどうなったのかはあえて聞かなかった。
「せや。日本には『幕の内弁当』っちゅうもんがあるやろ? 歌舞伎の舞台の合間に食べるそうやけど、帝劇みたいな所やとおべんと広げてって感じにはならへんしな。でも、おにぎりくらいやったら……」
切々と紅蘭が説明をしているが、帝劇の舞台で食事をはさまねばならないほど長丁場の舞台などやらない。彼女の考えはハッキリ言って的外れもいい所である。
もっとも、ちょっとした話題提供や客寄せくらいにはなるかもしれないが。
「そこで、大神はんに味を見てもらお思うてな」
「え?」
そう言った彼女の表情は明るい笑顔だったが、目は真剣だった。
「それに、お腹空いてるの我慢してはるやろ思てましたし」
その言葉に内心ぎくりとする。やっぱり見ているんだな、と考え直すと、
「わかった。食い尽くしてやるからかかってこい」
こうなりゃヤケだ、と言わんばかりに威勢だけは良く宣言する。
「了解しました! ほな、ちゃきちゃき職人くん3号、起動!」
紅蘭が背中のスイッチを押すと、ギギギと耳障りな音がしてロボットの腕が動き、その手が前に置かれた桶からご飯をすくい、ぎゅっぎゅっと握ってから胸の所にある台にちょこんと置く。すくい取った量の割には随分と小さなおにぎりである。
大神は恐る恐るそれを手に取り、こわごわ口に入れる。
(な、何だこりゃ!? なんて固さだ。まるでおこしじゃないか)
ロボットの力加減の調整が上手くいってないのだろう。その固さは、以前浅草で食べた雷おこしを連想させた。
「大神はん。どんどん握ってますから、遠慮なくどんどん食べてや」
ちゃきちゃき職人くん3号は次々に「おこしのようなおにぎり」を作っている。紅蘭も屈託のない笑顔でその光景を見ている。
(わかったよ。食べればいいんだろう?)
ここで文句の言えない気の弱い自分に腹がたつも、大神はその固いおにぎりを腹一杯食べた。


「固いのには参ったけど、お腹も一杯になったし、結果オーライという事にしておこう」
一応満腹感に満たされた大神は、水でも飲んで行こうと食堂の方へ足を伸ばす。
すると、大神の部屋の前にさくらが立っているのに気がついた。手には何か持っているが、布がかぶさっていて何なのかは良く判らない。
「さ、さくらくんか。何か用かい?」
「大神さん……お夕食あまり召し上がってらっしゃらなかったから、お腹空かせてるんじゃないかと思って……」
そう言いながら布を取ると、そこには皿に乗ったおにぎりが5つ。
「え……?」
大神の顔がピクッと引きつった。
「……食欲がないんですか?」
さくらがそっと上目遣いで彼を見上げる。済まなそうな、それでいて心配そうな表情で、ほんの少しだけ視線をそらす。
「あ。い、いや。別にそういう訳じゃないんだけど……」
しどろもどろになって何か言おうと頭を働かせる。
別に「すでにお腹一杯だ」と言ってもいいのだが、「せっかく作ってくれた」という気持ちを無下にしたくないという気持ちと、彼女のがっかりした顔を見たくないという気持ちが彼の頭でからみ合い、何を言って良いのか判らなくなる。
彼にしてみれば傷つけたくない一心なのだが、こういった態度が一番傷つける事に未だ彼は気づいていない。
「何を隠してるんですか、大神さん?」
さくらは大神の瞳の奥を見つめるように彼の顔を覗き込む。言葉にも少しだけ刺が入る。
「いや、隠してなんか……」
そこへ、明るい元気な声が響く。
「お兄ちゃん、さくら、何やってるの?」
後ろを振り向くと、そこにはアイリスとレニ・ミルヒシュトラーセが立っていた。
「ア、アイリスとレニの方こそどうしたんだい?」
大神は助かった、とばかりに二人の方を向いた。ここで話題を変えて何とかこの場を脱出しよう。
と思っていたのだが、二人が持っているのは少々いびつな形のおにぎりとお椀だった。
「お兄ちゃんがお腹空いてると思って、さっきレニと一緒に作ったんだよ。ね、レニ」
「日本には『腹が減っては戦はできぬ』という言葉があるし、食べられる時に食べておくべきだと思う」
アイリスの言葉を受け、レニが静かにつけ加えた。
「そうですよ、大神さん。いつもカンナさんが言ってるじゃないですか。『あたしたちは家族も同然だ』って。そんなに気を使わないで下さい」
さくらもさり気なく自分の作ったおにぎりを差し出す。
「ご飯だけだと喉の通りが悪い。ありあわせの物で作ったお味噌汁もある。少し冷めたけど」
レニも手に持った大根の味噌汁の入ったお椀を差し出した。
「レニ、初めてお料理したんだよね。でも、すっごく美味しくできたんだから。ちゃんと食べてね、お兄ちゃん」
初めて作った料理をごちそうする。男としては非常に光栄きわまりない事態だ。満腹とはいえ期待と不安で胸は高鳴っている。
三人の優しい視線が大神に集まる。だが、今の大神には戦場の集中砲火のように感じられた。
(……こりゃ、とても逃げられないな)
大神は胸の内で覚悟を決めると、
「……ありがとう。頂くよ。気を使わせちゃって済まない」
その返事に三人の表情が明るくなり、彼女たちに誘われてサロンへ向かった。
そこで、三人が見守る中、それらをきれいに平らげる事となった。


「……水でも飲んでいこう」
そう思った大神は厨房の方へ向かった。
すると、厨房の方から何やらいい匂いが漂ってきた。
そっと厨房を覗き込むと、そこでカンナが何やら作っていた。
先程の夕食であれだけ食べたのにまだ食べるのか、と呆れつつも気づかれないようにそっと入る。
だが、あっさり気づかれてしまった。
「ああ。隊長か。アイリスとレニには会わなかったのかい?」
大神は苦笑いしながらあいまいに返事をする。
それを聞いたカンナは、またすぐに鍋の方に向き直った。
「カンナ。何作ってるんだい?」
「こいつは沖縄の料理で『ソーキ』ってんだ。あばら肉の煮込みってトコかな」
確かに大鍋の中では肉の他にも昆布や大根が白濁したスープの中でぐつぐつといっていた。
「煮込み料理か。作るのに時間がかかるだろ」
そう言いながら水道の蛇口をひねって水を出し、カンナから受け取ったコップでそれを受け、飲み干した。
「豚肉がとろけるくらい煮込まないと美味くないんだよ。おかげで半日がかりになっちまった」
確かに、今日は朝からなにやら作っていたようだが。
「豚肉か。そう言えば、俺たちは肉はあんまり食べないな」
この頃の日本の食卓は魚や野菜が中心で、兎や鶏ならともかく、豚や牛の肉はあまり食べなかった。大神自身も海軍兵学校の食堂で初めて食べたくらいだ。
「沖縄では豚肉を昔から良く食べるんだよ。だから、豚を使った料理が多いんだ」
カンナがそう説明する。
「やっぱりさ。東京の食べ物もいいんだけど、生まれ故郷の物が無性に食べたくなる時ってあるだろ?」
カンナの故郷は帝都から遠く離れた南国・沖縄だ。そこにしかない食材なんかもたくさんあるだろう。それを手に入れるだけでも一苦労なのに。
大変だな、と大神が思っていると、鍋の隣にうどんが山と積まれているのに気づいた。
「これ、うどん?」
カンナはからからと笑うと、
「違うよ。ソーキそばってんだ。美味いんだぜ」
そう言いながら隣のお湯をはった鍋にそばを入れて、茹で具合をじっと見つめる。その目は真剣そのものだ。まるで獲物を狙う肉食獣だ。
「意外か、あたいが料理なんて」
「え?」
いきなりそう言われ、答えに詰まってしまう。だが、カンナはそんな彼に構わず続ける。
「そりゃガラじゃないけどさ。それにマリアみたいに上手い訳じゃないし」
確かにマリアの料理が上手な事は大神も知っている。彼女の故郷のロシア料理はもちろん、和食もある程度なら作れる筈だ。
「だけど、自分が食いたいからな。自然に作れるようになっちまったって言った方が正確かな」
冗談ぽくそう言いながらもアクをすくう目は真剣だ。
それから少し経ち、アクが取れたらしく火を止めた。
「隊長も食ってくか?」
さっきのおにぎりとお味噌汁ですでに胃の中はパンパンなのだ。この上更にカンナのソーキそばが加わればどうなるか判ったものではない。
(いや。もう腹一杯なんだけど)
そう言いたかったが、カンナは構わず丼に茹で上がったそばを入れてスープをなみなみと入れた。
「ほら」
丼と箸をぽん、と渡される。
「いや……俺は」
丼に入っているのは「ほんとに一人分か!?」と言いたくなるくらいの量で、スープが今にも溢れてこぼれてしまいそうだ。
でも、本当にいい匂いが漂ってくるのは確かだ。
「……もっとも『料理』なんて呼ぶのもおこがましい代物だけどな」
そう言って、少しだけ淋しそうに笑う。
「まぁ、味の保証はできないけどさ。良かったら食ってってくれよ」
下手だけど一所懸命作りました、という姿勢は男心を微妙にくすぐるのだ。
ましてやおおらかで大雑把という印象の強いカンナであればなおの事。
(俺って、やっぱりこういうのに弱いんだよなぁ)
とほほ、と泣きそうになりながらも、ソーキそばをすすり出した。
実際、味の方はなかなか良かったのだが、大神はじっくり味わうどころではなかった。


「い……いかん。さすがに食べ過ぎた」
あれから丼で二杯(普通の店なら四人前近い量だ)平らげた大神は、お腹を押さえてふらふらしながら階段を昇っていた。
(なんなんだ、今日は……厄日かなぁ)
夜の見回りまで少し横になっていれば多少は良くなるかもしれない。そう思って自分の部屋まで戻った時、後ろから声をかけられた。
「大神くん。ちょっといいかしら」
声をかけてきたのは藤枝かえで。帝國華撃団の副司令でもある女性だ。
「あ。何でしょうか、かえでさん」
大神は、自分にとっては上官にあたる彼女に背筋を正して応対する。
すると、彼女は大神に一本のバナナをポンと渡した。
「これは?」
「織姫からよ。伝言つきで。『餓死で死ぬくらいなら私たちのために死んで下さい』ですって」
「はぁ」
これでも気を使ってくれたのだろうか。根は優しい筈なのだが、言動に遠慮がない織姫らしいといえばそうかもしれない。
「夜の見回りの後にこっそりおそばを食べに行ってるけど、程々にしておいてね」
「はぁ」
更に気の抜けた返事をしてしまう大神。
みんな知っていたとは気がつかなかった。見られていたのか勘づいただけなのか。女性の観察力の鋭さに改めて驚く大神。
そこへ、出かけていた神崎すみれが戻ってきた。
「あら。少尉、かえでさん。何をなさっていますの?」
「すみれ、お帰りなさい。どうだったの?」
出かけた先を知っているらしく、かえでが尋ねると、
「ま、腕の方は折紙付きですから、繁盛すると思いますわ」
彼女の生家である神崎財閥邸で働いていたコックが、死去した親の跡を継いで小さな洋食店を開いたというので食べに行っていたそうだ。
すみれは手に持っていた箱を大神に押しつけるように渡すと、
「少尉。そこのお店のサンドイッチですわ。お腹を空かせていらっしゃるでしょうから、どうぞ、お食べになって下さいまし」
彼が何か言おうとする前に、彼女は「ほほほ」と笑って自分の部屋に戻ってしまった。
右手にバナナ、左手にサンドイッチの箱を持ってその場に立ち尽くす大神を見て、
「どうするの、大神くん」
困ったような、それでいてどうなるか知りたい好奇心に満ちた顔で彼に尋ねる。
彼は、ため息をつきつつバナナとサンドイッチを見つめた。
この帝劇には、一般家庭にはあまり普及していない冷蔵庫があるにはあるが、現代と違って冷蔵庫の性能がそれほど高い訳ではないし、そこに入れているのが知られれば、彼女たちが何を言ってくるか判らない。そのつもりはないのだが、過去にそれで理不尽に責められた事は一度や二度ではない。
「もうヤケです」
ぽつりと呟いて肩を落とした大神だった。


次の日。大神が食べすぎのため動けない事を知らされて、一同驚きの声を上げていた。
その時、マリアを除く全員が、何かしら食べ物を渡していた事を知った。
「それじゃあ、無理して食べてたんですか?」
「ま、少尉さんの事ですから『みんなのがっかりした顔を見たくない』とかフザケタ事を言うに決まってまーす」
心配そうなさくらに織姫が呆れた顔でつけ加える。
「嫌な物はキチッと断る。どうして日本の男はなかなか煮え切らないですか? ハッキリしない男は嫌われまーす」
そんなみんなの会話が聞こえているのかいないのか。自分の部屋のベッドで寝ている大神がため息をついた。
「……隊長。反省して下さい。昨日もそうでしたが、ムキにならないように」
手にはおかゆの入った鍋と茶碗の乗ったお盆を持ったマリアが呆れつつも優しく言った。
「反省してます」
大神は小さくそう言うと、恥ずかしそうに布団を頭にかぶった。
その頃、マリアを除く七人の頭には、同じ考えが浮かんでいた。
「食べすぎで苦しんでるのなら、持って行った方が良いよね、胃薬」
そして、その考えが大神を再び悩ませる事になるのだが、それは、別に語られるべき物語である。

<海軍少尉(エンスン)殿、ご用心 おわり>


あとがき

この話は、「2」が出て1年くらいたった頃、友人のサイト用に書いた物です。
が、送ろうとした時に仕事の都合でこれ以上サイトを続けるのがきつくなったので閉鎖してしまったのです。
そんな訳で、ようやくこうして日の目を見る事となりました次第です。
とりあえず、友人にはあらすじを語ったのですが、第一声は「何か、他でやってそう」。
もしやっている所がありましたらごめんなさいですm(_ _)m。
タイトルの元ネタは1978年のアメリカ映画「料理長(シェフ)殿、ご用心」からです。
大の美食家、料理雑誌出版社を経営するマックスが医者から減食を命じられた。彼は、自ら選んだ四人のシェフを集めて晩餐会を開催する。が、その夜からその四人が一人ずつ殺されていく……という話なんですが、もちろん内容とこの話とは無関係です。
海軍少尉の「エンスン(Ensign)」は、アメリカの海軍少尉がそう言うのでそのまま使ってます。陸軍とかは「セカンドルテナン(Second Lieutenant)」というらしいです。詳しい方、間違っててもツッコミは入れないで下さいね(^^ゞ 。

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