『踏んだり蹴ったりのディサーム 後編』
「ど、どういう事よ、それ!?」
かなめには何がなんだかさっぱり判らなかった。宗介はペンライトで手元を明るく照らしてみせる。そこをかなめが覗き込むと、
「停止させる為に切る必要のある回路が、高電圧によるショートで焼き切れてしまっている」
見ると、白いリード線の真ん中が切れている。ただ切れただけでなく、白いゴム(?)部分がとろけており、嫌な臭いが微かにしていた。
「これが切れていれば、本来なら機能を停止している。なのに停止するどころか電圧がさらに上がってしまっているのだ。これは回路が誤作動していると考えるしかない」
その理屈はかなめにも判る。だが、
「それって、ケチって安い部品使ったから?」
「そうではないのだが。オキシライド乾電池入のリモコンによって誤動作した影響だと思う。今度は出所のしっかりした部品を使って作る。安心しろ」
「安心できないって!」
とりあえず頭を叩いておくかなめだが、まずい状況なのは素人のかなめにだってよく判っている。
切らねばならない所を切っても停止しない。しかも作業中の今はドアそのものにも触れない。
「じゃ、じゃあどうする気なのよ。まさか爆破とか、爆破とか、爆破とか……」
かなめの顔から完全に血の気が引き、無意識のうちに宗介の肩を掴んで揺さぶり始める。
手に負えないから、爆破。彼の典型的な「始末」の仕方である。現に何時間か前もそれで自分の靴箱を吹き飛ばされているのだ。
「だから落ち着けって。こんな所でやらかしたら、シャレじゃ済まねぇから」
宗介をガクガク揺さぶるかなめに、クルツも真剣な顔で話しかける。
「俺は爆破の方は専門じゃないが、壁に埋め込むようにしている部品もあるんだ。ドアだけじゃなくて周辺の壁も吹き飛ばさなきゃならない事はしない」
クルツはそう言うと、宗介を睨みつける。この無遠慮な相棒は「やむを得ない。必要な措置だ」で実行しそうだからである。
「爆破はできない」
真面目くさった宗介の言葉に、クルツはもちろんかなめも安堵の息をもらす。
「爆破等で強行突破しようとしたり、どこかの回線が一か所でも切れると、ドアに最大電圧の電流が流れる。それは上下階や両隣りに多大な影響を及ぼす事になるだろう。それは避けたい」
宗介もさすがに東京暮らしをするようになって、その辺の分別はできてきたのか。
かなめは心底ホッとしていたが、それで心に若干の余裕ができたのだろう。ふいに浮かび上がってきた疑問があった。
「けどさ。こういう電気トラップって、本当ならバッテリーや変圧器がいる筈でしょ? 変圧器は今あんたがいじってるやつっぽいけど、肝心のバッテリーはどこにあるのよ?」
あまり綺麗とは言えない、マンションの共用通路を見回してみる。確かに彼女が言う通りバッテリーに相当しそうな物もなく、それが隠してあるスペースもちょっと見当たらない。
変圧器や、それに相当しそうな物ならば結構ありそうだし、これかな、くらいには見当をつけていたが。
その辺はクルツも気になっていたらしく、彼を急かすように問いただすと、
「ああ。そこの電線から無断拝借している」
少し離れた電信柱にある電線を、無造作に指差す宗介。
「ちょ、ちょっと宗介。それっていわゆる盗電ってやつ!?」
「問題ない、千鳥。借りているだけだ」
「大ありよ! このトラップに使われてる電気の料金、全部ウチに来ちゃうじゃない!」
今度は怒りで顔を真っ赤にして、宗介の首を掴みまたガシガシ揺さぶる。
「大丈夫だ。メーターは通していないから、いくら使っても君に料金を払う義務は発生しない」
「あ。ならいいや」
宗介の言い分に、パッと揺さぶる手を離すかなめ。変わり身の早さに呆れるクルツは「いいのかよ……」と呟くが、それにはかなめは耳を貸さず、
「じゃあ、どうやって外す気よ? 普通にリード線切ったり何だりってやってたら、どのくらいかかるのよ?」
「正確な事は言えんのだが、リード線を切るだけでも五か所ある。変圧器も三つ残っている。それらのコードもさっき言ったようにダミーがダミーでなくなっている可能性が高い。調べながらになるから、いつになるかは……」
「それじゃ間に合わないじゃない!」
今度は宗介の頬を遠慮なくグイグイと引っぱり回した。
「困ったなぁ。ソースケとキョーコの家は衛星放送は入らない筈だし、ミズキは今夜はバイトで留守だって言ってたし、お蓮さんは……」
眉間にしわをきつく寄せ、誰に録画を頼もうか考えだすかなめ。左手首の時計を見ると、あと四五分。
今から無理を押して頼めば間に合いそうな時間ではある。ここは誰かに録画を頼む事に決め、かなめはPHSを取り出した。
「……うげっ。バッテリーがほとんど残ってない!」
液晶画面の電池残量部分がそれを示している。かなめの胸中にプレッシャーが走った。
これは無駄な会話は一言とてできない。短く、簡潔に、自分の意志をこれ以上なく的確に知らせる必要があるし、誰にかけようかと、頭を悩ませる。
「あの……すいません」
その声に顔を上げると、そこにはスーツ姿のサラリーマンが、一人。かなめの隣の部屋に住んでいる住人である。
ふと我に返ると、狭い共用通路の真ん中に三人で立っているのだ。これでは誰も通れまい。
「あ、済みません……」
一同は作業を中断し、互いに両脇に避けてそのサラリーマンを通す。
その時だ。サラリーマンの肩がかなめに当たり、彼女はふらついてしまう。
しかし。とっさに手をつこうとしていたのは自宅のドア。
(やばい。ここには電流が!!)
慌ててそれを思い出すが、身をひねろうにもかわそうにも、バランスが崩れているのでそれもできそうにない。運動神経抜群の彼女でも、できない事はある。
「危ない!」
そばにいた宗介が彼女の手を掴み、自分の方へ抱き寄せる。勢い余って彼に抱きつく格好になったかなめ。
普段は彼女を困らせる事ばかりする宗介だが、真剣な顔になれば間違いなくそこに「かっこ良さ」が見える。
その「かっこ良さ」を増した真剣な表情に真正面から見つめられ、かなめは全身に電気が流れたように硬直する。
さらに顔は赤くなり、胸の奥がきゅうぅっとしてくる。全身から一気に力が抜けて、自然しなだれかかる格好になった。PHSを落とした事になど気づきもしていない。
「大丈夫か、千鳥」
「……あ、う、うん。ありがと」
現在の状況も忘れ、力の抜けた声で返事をし、そのまま見つめあう格好となる。
「……あのー。ラブシーンは後にしてくれませんか?」
呆れ半分の冷めた口調で、クルツが割って入る。その声に慌ててかなめは彼から飛び退くように離れた。
「ク、クルツくん……!?」
さっき以上に真っ赤な顔でクルツに食ってかかろうとするかなめだが、
「ほらほら。時間がないんだろ?」
その声で自分がやらねばならない事を思い出し、いつの間にか落としていたPHSを拾い上げようとする。
しかし。そのPHSがぷすぷすと煙を吹き出していたのである。
「へ? な、何なの、これ?」
かなめは首をかしげながらも拾おうとしたが、それをクルツが止めた。
「カナメちゃん。もうお陀仏だ、そいつは」
クルツが言うには、落として床を跳ねた時に、電流流れるドアにぶつかってしまったと言うのである。
電子機器は強い衝撃や高圧電流に弱い。特に最近の携帯電話やPHSのような小型の精密機器ならなおさらだ。
「ど、ど、ど、ど〜してくれやがんのよ、ソースケ!!」
かなめは引きつって固まった顔で彼に訴える。
「ど、どうすると言われてもな……」
「もうこの辺公衆電話ないのよ! 電話かけられないじゃない!」
「駅にならあるだろう」
こんな状況でも淡々と返答する宗介だが、かなめの方は癪にさわったように、
「みんなPHSのメモリーに入れてるから、番号覚えてないんだってば。そういうのメモした手帳は家の中だし。どうすりゃいいってのよ!」
電話があっても番号が判らないのでは無意味だ。宗介も彼女の友人の電話番号までは記憶していない。彼はしばし黙って考えた後、
「どんな事でも機械に頼り切りになるというのは、ろくな事にならないという教訓になったな」
「なってたまるかっての!」
火に油を注ぎ込む結果となったらしく、素早く宗介にヘッドロックを決めたかなめは、彼の頭を共用通路の手すりにガシガシと遠慮なく叩きつけた。


「はぁ。どうすりゃいいってのよ」
へなへなとくず折れるかなめが腕時計を見ると、残り時間三〇分。これではどう考えても間に合わない。
一時は「ドアがダメならベランダから」とも考えたが、宗介の事だ。そっちにも信じられないほどのトラップを仕掛けてあるに決まっている(実際そうだった)。
いくら何でも爆弾でドアを吹き飛ばす訳にはいかない。そんな事をしたら周囲はもちろん大家さんからも怒られて、追い出されてしまうかもしれない。
まともに解体したのでは絶対に間に合わない。解体が終わる頃には番組自体が終わっている。
かといって肝心のリモコンは壊れて、正常に作動しない。
番組の録画を頼もうにも、連絡先を覚えていないので、無理。
整理された情報は、そのどれもが絶望的な物だった。
「……打つ手なし、か」
「あんたが言わないでよ」
腕組みするクルツに、かなめが容赦なくツッコミを入れる。だが宗介だけは、床に置いた解体道具に手を伸ばした。
「もういいよ、ソースケ」
かなめはできるだけ優しく、宗介に語りかけた。
「元々あたしが事態をややこしくしちゃったんだもん。無理しなくていいよ」
宗介はくわえていたペンライトを外し、かなめの方を向くと、
「大丈夫だ。あと三〇分ある」
決意すら感じられる、力強い声。
「もちろん三〇分で外せるとは思っていない。だが、作業を進めない事には外す事はできない」
「けど……」
「どんな時でも諦めず、決めた事を最後の最後まで貫き通す。君から教わった事の一つだ」
そう言うと、再び作業を再開した。その表情は真剣なものの、どこか照れくささの混じった、微妙なものだった。
「だが、君は退避してくれ」
いきなり出た宗介の言葉を、かなめが理解するには数秒の時を必要とした。
「時間がないから、かなり荒っぽい作業にせざるを得ない。その時何が起こるか俺にも判らん。万が一でも君を巻き込む事はできん」
宗介の言葉に、クルツも「しょうがないか」とため息をつき、ウィンクして手をひらひらとさせる。
「そうだな。カナメちゃんを傷つける訳にもいかねぇしな」
二人の言いたい事は判る。だがかなめは唇を噛んで文句を言いたい気持ちを堪える。
ややこしいトラップを仕掛けたのは宗介でも、状況をややこしくしてしまったのは自分なのだ。
それなのに総てを二人に押しつけて、安全な場所へ逃げるなど、できなかった。
考えろ。何かある。ある筈なのだ。さっきから引っかかっている何かが……。
「思いついた事があるんだけど、聞いてくれない?」
やがて何かを吹っ切ったように顔を上げたかなめ。その目にはさっきまでの諦めを秘めた気持ちなどない。
「二人とも、まだあたしの事よく判ってないみたいね。あんな事言われて素直に逃げると思う?」
そう言うかなめに反論しそうになる宗介だが、それを止めた。こうなった時の彼女は、誰にも止められない。それを何度も経験しているからだ。
「あたしがこのリモコンにオキシライド乾電池を使っちゃって、それが原因で回路が切れちゃった所があったんでしょ?」
「ああ。ごく一部の回線だが。停止命令を出す筈が電圧上昇になってしまったようだ。通常以上の電圧によって回路内に発生した熱に、安物のコードが耐えられなかったのだろう」
宗介が正直に状況を説明する。
「それを使うのよ」
何の前置きもなくそう言い切ったかなめ。しかし二人にはすぐさま何をするのかピンと来なかった。かなめは「何で気づかないの」とイライラした顔で、
「だから、このリモコンを使って、もっと回線を切っちゃえばいいじゃない。どんな回路も全部切れちゃえば意味ないしね。別に失敗したら爆発する訳じゃないんでしょ? それなら賭ける価値くらいあるわ」
つまり、回線を切断して解除するのではなく、徹底的に壊して無力化しようというのである。
これにはもちろん二人は猛反対した。
「確かに爆発はしないだろうが、足元はまだ濡れている。漏電による感電の危険が高いぞ」
「無茶苦茶なのは嫌いじゃないが、それはあまりにも危険すぎるって」
宗介とクルツは真剣な顔で自分達を見つめるかなめを見返した。そこにあるのは一か八かの賭けに挑む、ギャンブラーの目である。
「とにかく、部屋に入る事が先決。トラップの解除は後からゆっくりやればいい。これはさっきも言ったわよ」
今度はかなめの力強い声。賭けとはいえ決意を秘めた声。
さすがに素人のかなめにそこまで決意されては、専門家の二人が動かざるを得ない。
「カナメちゃん。その方法で行こう。いいな、ソースケ」
「……判った」
ついに二人も覚悟を決めたようだ。
かなめは制服のポケットに入れていたリモコンを取り出す。オキシライド乾電池はしっかりと入れてあり、万一を考えてドアから少しでも離れる三人。
「……いくわよ」
わずかに震える指先が、リモコンのボタンをゆっくりと押した。見た目には反応がないが、かなめはさらに何度も何度もボタンを押す。
始めは何の反応もなかったが、次第に変圧器やドアの隙間から小さな火花が散り出した。
「キャッ!」
火花に驚いたかなめが、リモコンを落としそうになる。そこに宗介が、
「君は気にせずボタンを押すんだ。火花は何とかする」
その迫力と真剣さは、かなめに力をもたらした。覚悟を決めてさらにボタンを押す。
回線がショートし、火花と共に切断され、リード線のゴムが溶ける。漂ってきた焦げくさい臭いに顔をしかめる。散った火花が三人に襲いかかり、それを互いにかばい合う。
それでも黙って――二人を信じてボタンを押し続けるかなめ。
一度バチバチッと大きな火花が出て、一瞬だけ周囲が真っ暗になる。一瞬の闇から回復した灯りの元で、ドアの隙間から黒い煙が立ち上るのが見えた。
「……待て」
それを見た宗介がボタンを押すのを止めさせる。その頃には宗介とクルツの身体のところどころに火花が飛んだ跡があり、かなめ自身も髪の毛の先が少し焦げていた。
宗介は慎重にドアに近づき、テスターなどで何か所かチェックする。その後で、自信を持ってこう言った。
「……大丈夫だ。もうドアにもドアノブにも、電流は流れていない」
宗介のその言葉に、全員が脱力していた。
何ともあっけない展開。しかしうまくいった「一か八かの賭け」は、案外こんなものだ。
「まさかこんな無茶苦茶な方法でぶっ壊すなんてな。うまくいってよかったぜ」
クルツが手すりに背を預け、感心したように呟く。しかし脱力感から真っ先に回復したかなめは、
「よし! 急いでビデオをセットしなきゃ!」
素早くドアに近寄り、鍵を差し込み回転させる。させ終わると同時にドアノブをひねってドアを大きく開けた。その時宗介はドアにぶつかって弾き飛ばされそうになる。
「ま、待て千鳥、まだ……」
宗介が何か言おうとした時には、かなめはミサイルのようなスピードで一直線に家の中に入ろうとしていた。
ところが。
ドゴンという凄まじい音が家の中から聞こえてきた。
見ると、かなめが見事に転んでいた。とっさに手と膝をついていたが顔面をぶつけたらしい。
「……転ばせるためのワイヤーの解除が、まだ済んでいないと言おうとしたのだが」
さすがに申し訳なさそうにドアを回りこんだ宗介が謝罪する。
「あったた……。そういう事は先に言いなさいよ、ソースケぇ」
強打した鼻を押さえ、涙声で訴えるかなめ。我ながらみっともない所を見せてしまったと思いながら。
だが。そこでふと冷静に今の自分の格好を思い浮かべる。そして、自分がいかにトンでもない事になっていたのかを知って、声にならない悲鳴を上げる。
膝立ちのままうつ伏せの状態の上、かなりお尻を突き出した格好。しかも宗介達に向かって。
それに加え短いスカートの裾がまくれ上がって、二人にパンツが丸見えになっていたのだから無理もない。
体勢が体勢なので足を閉じる事もできないし、この角度で足を閉じても全く意味はない。
おまけに足首にしっかりワイヤーに引っかかっている事に気づいてないので、なかなか体勢を変えられない。
そもそもパンツを見られている事に慌てふためいているので、彼女の頭の中は真っ白になっていた。
「ちょ、ちょっとナニ見てるのよ、二人とも〜〜っ!!」
急いでまくれ上がったスカートの裾を懸命に直そうとするが、短すぎる裾のせいか慌てているせいか、それともお尻を突き出した体勢のためか、なかなかうまくいかない。
二人も突発的なアクシデントに目を見開いたものの、すぐさまばつが悪そうにそっぽを向いた。
「ち、千鳥。君を、辱める、つもりは、なかったのだが……」
宗介が何とも言いにくそうに言葉を濁す。
「何か素っ裸よりエッチだなー、こういうのの方が……」
クルツは暴れて揺れて煽情的に見える彼女のお尻をちらりと見るが、直後「ああ違う」と前置きし、
「安心しろ、カナメ。いい形のお尻とか、その純白の下着の事は、誰にも話さないから」
「話すなぁぁっ!」
かなめは耳まで真っ赤にして二人に怒鳴りつけた。当たり前である。
「んな事より、とっとと助けなさい、このスケベ!」
宗介が解体工具のごついニッパーでワイヤーを切ると、足が自由になったかなめは素早く自力で起き上がった。
普段なら間髪入れず鉄拳制裁といっているだろうが、その顔はうつむき、二人の顔すらまともに見られない。
アクシデントとはいえ、パンツを見られて「いいのいいの、気にしないで」などとできる筈もない。かなめの胸中は怒りよりも恥ずかしさが先に立っていた。
「カナメ。正直済まないと思ってる」
唐突に、真剣な顔でクルツが言った。
「謝って済む問題じゃない事は、判ってるつもりだ。この朴念仁だってそうだと思う」
かなめはおそるおそる顔を上げる。そこには本当に済まなそうにしている二人の顔があった。
しかし。次のクルツの発言で、かなめの心は怒りが一〇〇%を占める事となる。
「『目には目を歯には歯を』って言うからな。代わりに俺のを見せ……」
クルツがズボンのファスナーに手をかけた時、
「いらんわ、この変態どもっ!!」
素早く槍のような蹴りを繰り出し、家に入ると怒りに任せてドアをバタンと閉めた。顔面にそれぞれ綺麗に蹴りを喰らって、その場に立ち尽くす二人。
「なぜ俺まで蹴る」
宗介は憮然とした目で、閉まったドアを眺めていた。
「これじゃ、カナメにご飯をねだるのは、無理そうだな」
「そうだな。諦めろ、クルツ」
宗介もどこか残念そうに呟いた。
「しょうがねぇ。報酬はカナメちゃんの純白パンティが見れた事でよしと……何のつもりだ、ソースケ」
いきなり拳銃を突きつけられ、クルツの表情が凍りつく。「今見た事は忘れろ」と目で訴える宗介に、
「わ、判った判った。忘れるから。今すぐにでも。だからそいつを引っ込めろって」
諸手を挙げてそう訴えるクルツ。だが宗介は彼を睨みつけ、銃口を彼の身体に押しつける。
すると再びかなめの部屋のドアが開き、
「人ん家の前で、騒いでんじゃないわよ、この変態」
まだ制服姿のままのかなめが、険しい顔で二人を一瞥する。
「トラップの方は全部外してってよね。ひ・と・つ・の・こ・ら・ず・よ」
『……了解』
女の子の一睨みと刺々しい声で二人のエリート軍曹は背中を丸め、すごすごと作業を再開した。

<踏んだり蹴ったりのディサーム 終わり>


あとがき

まず、品のないオチで済みませんm(_ _)m。
次に、無駄に長くて済みませんm(_ _)m。
最後にかなめちゃん。いろんな意味でごめんなさいm(_ _)m。

神祈〜Kan-Nagi〜」に時間を割いていたので、約1年ぶりの「フルメタSS」。いかがでしたでしょうか??
それにしても、たかだか「かなめ宅のトラップを外す」だけのこの話(話と言えるかどうか判りませんが……)。にもかかわらずこの文量ですもん。何がどうなっているんでしょう。
ストーリーらしいストーリーがない。だから解説しようにも解説のしようがない。
だって。この文量でほとんど話が進んでないんだもん。けどたまにはいいでしょ、こういうのも。……たまに、だけならね(-_-;)。

ちなみにディサーム(Disarm)とは『武装解除』という意味。
しかし、古参RPGの「WIZARDRY」においては、宝箱の罠解除コマンド。それゆえ「罠を外す」の意味合いで使用しました。
本編中の「しかし感電して灰になる、か」は、WIZARDRY Vに登場する「ELECTRIC BOLT(高圧電線)」の罠の事。解除に失敗するとホントにキャラクターが一瞬で灰化。最悪の罠の一つです。
「WIZARDRY」ではOK(正常)→DEAD(死亡)→ASHES(灰化)→LOST(喪失)の順にステイタスが悪くなっていきます。

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