お母さんが倒れたという連絡を聞いたのは、ちょっと大きめの地震があった、翌日の朝だった。
その日は高校の入学式で、わたしは式の真っ最中にいきなり見知らぬ先生に呼ばれ、職員室でその連絡を聞いた。
わたしが病院に着いた時には、お母さんはベッドの上で弱々しく寝ていた。
今朝元気にわたしを送りだしてくれたお母さんと同一人物なんだろうか。そう思う。
頬はげっそりと痩せこけ、顔色も蒼白。
今朝「今日の夕食は、美子の好きなちらし寿司作ってあげるからね」って笑ってくれたのに。
苦しそうにはあはあと荒い、しかし小さな息をしている。
「お母さん! お母さん!!」
わたしが声をかけると、少し遅れてゆっくりと目を開けてくれた。
それから痙攣のように手を震わせてわたしの手を握ると、
「美子……ごめんなさいね……あなたに……」
耳をそばだててないと聞こえないくらい、かすれた弱々しい声。
でも。その時、突然お母さんの手の力が消えた。
「……ご臨終です」
やがて聞こえてきた、お医者さんの淡々とした声。
何て冷たく、重く、寂しい声だろう。
その時お父さんとお兄ちゃんが病室に着いてたけど、わたしは全く気づかなかった。
力の抜けたお母さんの手が、だんだんと冷たくなっていくのが判る。
でも、わたしは何もできなかった。
声をかける事も。悲しみを感じる事も。激しく泣く事も。そして――

お母さんが、この世の人でなくなってしまった事を、認める事も――


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