『いやしんぼう万歳 曙橋・超竹の実』

※はじめに
このシナリオは2002年6月27日に隣町ケーブルテレビで放映された番組を、シナリオ形式に起こしたものです。内容・お店についてのお問い合わせはご遠慮ください。

○番組タイトル(いやしん坊万歳) テーマソング入る。
○超竹の実前 前景。シエル、フレームイン
シエル「みなさん、こんにちはぁ。きょうは曙橋のステーキ屋さん、超竹の実さんにお邪魔します。この荒木町の界隈は東京オリンピック以前の町並みが残っていて、なかなか風情があるんですよ」
アルク「肉だ肉だぁ! 血の滴るステーキだよ! 血のように赤いワインだよ! 志貴、楽しみだね」
シエル「誉め言葉が血しかないなんて、ボキャブラリーが足りないですねぇ、吸血鬼は」
アルク「にゃんだとぉ! カソリックはステーキなんか食べないで、パンとワインだけ食ってろ!」
志 貴「確かに、パンとワインはキリストの肉と血だものね」
シエル「ふぅ、吸血鬼は神の恩寵を知らないんですものねぇ、かわいそうに。神が与えてくださったものはすべからく我々の中を通って神に戻されるのです。いい加減な知識で神学論を吹っかけられてもこまりますねぇ」
アルク「にゃにぉ!」
シエル「バカ猫は放っておいて、お店にお邪魔しましょうね」
シエル、死を観る瞳の手を取って、ちょっと奥まった入り口に入っていく。あとをあわててついていく猫。

○超竹の実・店内
さして広くない店内は2席のテーブルと、鉄板前のカウンターしかない。女将に導かれてカウンターにつく3人。さっそくメニューを開く。
志 貴「う〜ん、やっぱり基本はお店の名前のコースかな」
シエル「はい、そうですね。超竹の実コースをお願いしましょう」
女 将「飲み物はいかがしますか?」
アルク「あ、リパッソがある。あたし、これ好きなんだ」
志 貴「リパッソって?」
シエル「イタリアワインで、赤ワインに葡萄の皮を加えて再発酵させたものです。皮の苦味と渋味がワインに深みを与えて、芳醇な味わいを楽しめるんですよ」
志 貴「よくわからないけど……アルクェイドがいいならそれにしよう」
シエル「あ、食前酒はキールロワイヤルにしてください」
女将下がる。すぐにグラスとオードブルが運ばれてくる。
志 貴「これは……カニ?」
女 将「はい、タラバガニと山芋のタルタルです」
シエル「はふぅ、おいしいです。カニと山芋がこんなに合うなんて思いませんでした。カニの身を山芋がコーティングして独特の舌触りですね」
志 貴「うん、それにまたオレンジソースの酸味が合ってるよね。確かに酢やレモンで食べるのはよくあるけど、オレンジっていうのは意外だったなぁ」
アルク「あたし、カニ嫌い」
一人キールをあおる猫。そこに運ばれてくるスープ。
アルク「スープ? 蓋ついてるけど」
女 将「はい、シャンピニオンです」
志 貴「うわぁ、濃厚だぁ」
シエル「ええ、マッシュルームのエキスだけを煮詰めてバターとコンソメに溶かしたような味わいですね」
志 貴「だからこそ普通のスープ皿にいっぱいじゃなくて、小ぶりの壷に入って出してくるんだね」
アルク「これ、おいしい。もっと欲しい!」
志 貴「う〜ん、こればっかり食べてると、肝心のステーキが食べられなくなるからね。ガマンしようね」
アルク「う〜〜〜〜」
ちょうど空いたキールが下げられ、ワインが出てくる。それと同時にコック帽を着けたシェフが現れ、ぺこりとお辞儀をする。と、鉄板を温め、素材の支度をはじめる。
志 貴「このワイン、香りに木の皮のような渋みがかんじられるね」
シエル「リパッソによくある香りですね。全部がそうとは限りませんけど」
アルク「ふふぅ、幸せぇ。血よりもコクがあって、やっぱりワインはおいしいにゃ」
シエル「はい、たわけた感想は放っておきましょう。でも、確かにこれはいいですねぇ。深みがあってボリュームもある。お肉とあわせるのが楽しみですね」
まずは鮭を焼きだすシェフ。軽く両面に焼き目をつけると蓋をかぶせて蒸し焼き状態にする。蓋を開けるともわっと湯気が上がるが、それをフォークとナイフできれいに切り分けて皿へ。
アルク「あふぅ、口の中で身がハラっとほどけるにゃぁ」
志 貴「最後にぴゅっと絞られたレモンがほんとに効いているね」
シエル「はい、サーモンの香りが口いっぱいに広がりますねぇ。おいしいです」
鉄板では薄切りのニンニクが炒められる。カリカリに脂で揚がったところで脇に避けられ、肉が置かれる。脂身が切り分けられ、外側に置かれる。
志 貴「あ、この子にはベリーレアでお願いします」
にっこり笑ってうなずくシェフ。一枚、ちょっと早めにより分けられ、ナイフがまるで豆腐を切るかのようにスムースに肉に入っていく。
アルク「お肉ぅ〜!」
おろし醤油につけた肉を箸で口に運ぶ猫。口に入れた途端、目を丸くすると、一瞬間を置いて隣に座る志貴の腕をかきむしる。
志 貴「アルクェイド、痛いよ、痛いってば」
アルク「志貴ぃ〜、おいしいよぉ。甘くて、柔らかくて、口の中で溶けるんだよぉ、お肉なのにぃ〜」
残る二人にも肉が出される。そちらにはワサビも添えられる。
シェフ「わさびも試してみてください。なかなかいけますよ」
志 貴「じゃあ、早速」
口に入れた途端、目を丸くして顔を見合わせる二人。
志 貴「すごい。これが肉なんだ!?」
アルク「でしょ? でしょ? すごいよねぇ。おいしいよねぇ」
シエル「これは……もう肉じゃありませんね。霜降りの和牛っていうのは、私たちの肉と全然別な食べ物です。ヨーロッパのカレーと日本のカレーが全然別物なのと一緒ですね」
アルク「ぷにぷになのにトロトロなの。すごいよねぇ、志貴ぃ」
志 貴「肉汁が口いっぱいになって……くそっ、なんて言ったらいいんだろう。おいしいってしか言えないよ」
肉とワインがどんどん消えていく。その前で脂身を押さえつけるようにして、ジュウジュウと脂を搾り出していくシェフ。その脂と先ほどのガーリックでガーリックライスを作る。横に脂身が添えられている。
志 貴「うわぁ、ニンニクと醤油の味わいがすごいや。……ん? 先輩、どうしたんですか?」
シエル「ん〜〜〜、すごいです、ステキです。遠野くん、この脂身を食べてみてください」
志 貴「う〜ん、脂身、あんまり好きじゃないんだけど……え? ええ? なに、これ!?」
アルク「ううう、泣きそう。単に脂身のはずなのに、口の中で溶けてめちゃくちゃおいしいにゃ!」
志 貴「本当だ。舌が溶けるってこれのことだったんだね」
シエル「脂なのに、脂っこくないんですよ。さっきからずっと脂を出していたのはそのせいだったんですね!」
アルク「おいしすぎるよぅ」
本当に泣いている猫。
シェフ「これでコースはおしまいです。このあと追加がなければデザートに入らせていただきますが」
アルク「お肉、もうひとつ!」
シエル「そうですね、私もいただけますか」
注文にニッコリ応え、またガーリックを焼き始めるシェフ。その前でシエルはなにかを考えている。
シエル「すごくおいしいんですけど、なにか一つ足りないんですよね」
と、何かを思いついたらしく、画面手前のカメラのほうになにごとか囁きかける。カメラマンがうなずいたらしく、画面がちょっと揺れる。
やがて、肉が置かれる。その途端、カメラ手前から受け取ったレトルトの口をあけると、肉の上に中身をぶちまける。黄色い流動物が流れ出した途端に上がる、湯気、湯気、湯気。
シエル「これですよ、これ。これが足りなかったんですねぇ」
シェフ「なにすんだ! 鉄板に味がつくじゃないか!」
その声を無視して、いい焼き加減になった肉をひょいとつまむシエル。満足げだ。
シエル「これですよ、これ! カレー味のステーキ! 最高です。いい仕事してますね」
シェフ「なにいってんだ! あんた、自分が何したかわかってんのか!?」
アルク「そーだそーだ、バカ耶蘇! あたしのお肉までカレーになったじゃにゃいか!」
シエル「ふぅ、おいしい」
喧騒と、突然店に充満したカレーの匂いに、テーブルの客も立ち上がって、勘定を済ませようとしている。
シェフ「あんたら、出てってくれ! こんなことしてただで済むと思ったら大間違いだ! 鉄板の代金は改めて請求するからな!」
調理場から別なコックたちも出てきて店から追い出される一同。

○超竹の実前
アルク「あう〜、あたしのお肉ぅ〜」
志 貴「あんまりだ」
シエル「あらあら、まだデザートも食べてないのに追い出すなんて、ひどいお店ですね」
志 貴「いや、追い出すのは当たり前だと思うんだけど……でも鉄板のお金とか、どうするんですか?」
シエル「大丈夫です。あんなもの、暗示を使えばピポパのパで出前も来ますから、気にしなくても大丈夫です」
志 貴「…………」
シエル「それでは次回の『いやしんぼう万歳』をお楽しみにぃ。さようならぁ」
エンディング曲流れる。
クレジット。カメラマン:翡翠
叩き出された一行に塩が蒔かれてフェードアウト。
シエル「次は、あなたの店に行きますよ〜!」
○エンドタイトル
この番組では、出演を希望するお店を募集しております。

【了】


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