『ちょっと気になるパートナー』
「はぁ〜。まったく、何でこんな事になったのかしらね」
メリダ島から日本に向かうヘリの中でマオがぼやく。
「まぁそう言うなって。最近机仕事ばっかでたまには外に出たいとか言ってたじゃん」
その横に座っているクルツが上機嫌で答える。
「確かに言ったわよ。ただし、任務抜きでね……。大体どうしてあんたも来るのよ」
「だって俺今日から休暇とってあるもん。だから久しぶりに日本に行こうと思ってさ。カナメやキョーコにも会いたいし」
「あっそ……。あんたってロリコンだったんだ?」
「おいおい、バカなこというなよ! 俺はノーマルだ!」
「あら、そのあわてっぷり、怪しいわね」
「だから違うっつってんだろ!? それに……好きな女はもういるし」
「ふ〜ん……。どうでもいいわよ、そんなこと」
「ひでぇな、姐さんから言ってきたくせに」
「ハイハイ、少し静かにしなさいよ、ただでさえヘリの音がやかましいのに」
「旧式の輸送ヘリでスイマセンね! これしかなかったんですよ!」
突然コクピットの方から怒鳴り声が聞こえる。今の会話が聞こえたらしい。
「あーゴメンゴメン。ヘリが悪いって言ったわけじゃないのよ。このバカがうるさいから、ちょっといらいらしちゃってさ」
「もう、クルツくん、マオさんを怒らせないで下さいよ。彼女、ここ最近機嫌悪いみたいなんですから」
不満を隠そうともせず、パイロットはクルツに苦情を押し付ける。
「ちぇっ、皆して俺をいじめるのかよ……」
席の端に移動していじけるクルツを見てマオが苦笑をもらす。
「……ところで姐さん、任務って言ってたけど、日本に何しに行くんだ?」
「カナメの護衛よ。ソースケの代わりにね」
「あー、あいつまだ帰れねぇのか?」
「何でも"アーバレスト"を使って色々と試すそうよ」
「色々って?」
「そこまでは知らないわよ。それにしても……帰ったらテッサに文句の一つや二つ言ってやんなきゃ」
「前みたくASで対決、なんてことになんなきゃいいけどな……ぐほぉっ」
どすっ、と鈍い音がしてクルツのわき腹にひじ打ちがヒットする。
「はぁ……、本当に何でかしら……」
事の発端は宗介がメリダ島に呼び出された事だった。
「"アーバレスト"に搭載されている例の機材……『ラムダドライバ』の訓練を行ってもらいます」
それが宗介が呼ばれた理由だった。宗介以外の人間では"アーバレスト"を動かす事は出来ても、『ラムダドライバ』を扱う事は出来なかった。だから『ラムダドライバ』を使った実験となると、どうしても宗介を呼び戻すしかなかったのだ。だが、呼び出したものの直前のチェックで異常が見つかり、実験は延期になった。
また、宗介自身も島に残るように命じられたので、カナメの護衛が空いてしまったのだ。その穴を埋めるため、カナメと面識があり、今のところ島を出ても問題のない人物を選び出すことになった。それがマオであった。ちなみにクルツは、マオが決まった直後に休暇を申請していた。
数時間後、八丈島に着いた二人は東京行きの便に乗り換えた。そこにはさっさと一人で先に行くマオと、全ての荷物を持たされ、ぜいぜい言っているクルツの姿があった。


「ふぅ……」
「どしたの? カナちゃん。元気ないね」
「あ、あら、そう?」
「相良君いないから寂しいのは分かるけどさ」
「な、何言ってんのよ!? あいつがいなくて何であたしが落ち込まなきゃなんないのよ!」
「もぅ、正直じゃないんだから……」
「バ、バカな事言わないでよ! う、うは、うははは……」
お決まりの「この話題はストップ!」サインを出したが恭子はそのまま続けた。
「だって、カナちゃん、今日も相良君のアパートに行くんでしょ?」
「それは……先生にプリント渡すよう頼まれたから……」
「ハイハイ、じゃ、そゆことにしといたげるよ」
「ちょっと、本当よ!? あんまり変な事言わないでよ!」
「むう……。強情なんだから……。じゃ、バイバイ、また明日ね」
「うん、じゃーね」
そういって恭子と別れるとかなめは一直線に宗介のアパートに向かった。閉まりかけのエレベーターに飛び乗り、宗介の部屋へと急ぐ。そうしてドアの前まで着た、鍵を差し込んだところで気付く。
(あれ? 鍵……開いてる?)
慌てて中に入り、リビングへと走る。
「ソースケ……っ!?」
だが、そこにいたのは宗介ではなかった。
「よ、カナメちゃん。久しぶり〜」
「ク、クルツくん……?」
「あら、久しぶりね。今学校から帰ったの?」
「マオさんまで……!?」
「うん。ソースケの奴がね、まだしばらく帰って来れないみたいだから。あたし達があなたの護衛に当たる事になったのよ」
「おーい姐さん、『達』って……」
「当然あんたも含まれるわよ」
「やれやれ……。ま、元からそのつもりだったけどな」
「あのー……。それで護衛って、あたしが学校にいる間は?」
「う〜ん。それなんだけど、学校内だけはどうしてもダメだったのよねぇ。まぁ、一応監視しとくし、問題ないと思うわ。それより外にいるときの方が面倒かもね。あたしとクルツがずっとくっついてるワケにもいかんでしょうから」
「そうでもねぇぜ? 俺、キョーコと面識あるしさ。俺は久しぶりに日本に帰ってきたということにして、マオ姐は俺の恋人役……」
がすっ。
「あんた、あんまり調子に乗ってると痛い目みるわよ?」
「も、もういてぇよ……」
後頭部を押さえ、クルツがうめく。
(本当に大丈夫なの……?)
そんな二人のやり取りを見たかなめはそこはかとなく不安になるのだった。


翌日の放課後、校門を出たかなめと恭子の前に一人の男が立ちはだかった。
「ハァ〜イ! 二人とも、元気してた?」
「え? あ、あなたは……確か、ウェーバー……さん?」
「さっすがキョーコちゃん。よく覚えていてくれたね。うれしいよ。お兄さんが飴玉をあげよう」
「あのー……」
「安心しなよ。別に毒なんて入ってねぇぜ?」
そのときクルツの背後に忍び寄る黒い陰が……!
ごすっ! 鈍い音が響き、通行人が何事かと振り向く。
「いってぇ〜。何すんだよ、メリッサ」
「真っ昼間から物騒なこと言ってる方が悪いのよ」
「あの、そちらの方は?」
マオのことを知らない恭子が多少引き気味になりながら尋ねる。
「ああ、彼女はメリッサ・マオ。俺のおん……のぁっ! ウ、ウソです! 友人っス……!」
「はじめまして、キョーコちゃん。話はこのバカから聞いてるわ」
「はあ……どうも」
にこやかに手を差し出すマオ。だがその足は思いっきりクルツのつま先を踏んづけていた。引きつった笑みを見せて恭子がマオの手を握る。
(あんた、終いには撃つわよ? それに、あたしの事はマオと呼ぶように言ったでしょ!)
(こっちの方が自然かと思って……。ってそろそろ足どけてくれよ。マジで痛いって)
つま先の激痛から開放されたクルツが涙目でかなめと恭子に話し掛ける。
「こんなところで立ち話もなんだからさ、皆でカラオケにでもいかねぇ?」
「今から……ですか?」
「いや、いったん家に帰ってからでもいいけど……。ほら、日本じゃ知り合い少ないからさ。……ダメかな?」
そう言ってクルツは少し寂しそうな目で恭子を見つめる。
「え、いや、だめってわけじゃないけど……」
「カナメちゃんは?」
「私は……別にいいわよ」
「よし、じゃあ決まりね。五時に駅で待ってるよ」
「じゃあ、また後でね」
そう言ってマオとクルツは去っていった。
少しいったところで角を曲がり、二人はかなめの様子をうかがう。クルツがタバコに火をつけ、しばし沈黙の時が流れる。先に口を切ったのはマオだった。
「全く……。なぁ〜にが『ダメかな?』よ、この女ったらし」
「別に……。ああやった方が誘いやすいのさ。それとも何? ヤキモチやいてくれたの? だったらうれしいなぁ」
「ハイハイ……もう突っ込む気も失せたよ、あたしゃ」
「お、動き出したみたいだぜ」
「それじゃ尾行開始といきますか」
二人はかなめの後をつけ始めた。


午後五時。かなめが駅に着くと、すでにマオと恭子が来ていた。
「あれ? クルツくんは?」
「あぁ、今ジュース買いに行かせてるよ」
そう言ってかなめの後ろを指差す。
振り向くと片手にビニール袋にいっぱいの缶ジュースを振りながら歩いてくるクルツの姿が見えた。
「や、待った?」
「あんた遅いのよ。さっさとこっち来なさいよ」
「ちぇっ。文句ばっか言いやがって。だったら自分が行ったらよかったじゃん」
「何よ、自分で言い出したことでしょ?」
「…………」
二人のやり取りをかなめはぼけっとみていた。
「カナちゃん、何ぼーっとしてんの?」
「いや、あの二人、本当は仲いいんだか悪いんだかと思って」
「まるでカナちゃんと相良君みたいだね、それ」
「どういう意味よ……!」
かなめは険しい顔で相手をにらんだが、恭子はくすくすと笑うだけだった。


ひとしきり歌った後、四人はほとんど暗くなった道を笑いながら歩いていく。
「あはは、それでね……キャッ」
後ろをむいて歩いていた恭子がふいに誰かとぶつかった。
「んじゃあ!?」
「あ、ゴ、ゴメンなさい……!」
ぶつかったのはガラの悪い、いかにもやくざ屋さん的な格好をした中年の男たちだった。
「ゴメンですむかぁ! ハン……詫びたきゃてめぇらこっちこいやぁ。ワシらに付き合ってくれたら許してやるぜぇ?」
後ろの男たちがゲラゲラと笑う。
「あ〜……、ちょっと待った。俺には男とじゃれあうような趣味はねぇぜ?」
クルツがやれやれといった調子で言う。
「あん? んだ、てめぇ。今までこいつらと遊んでたんだろ? 一人ぐらい貸せやぁ。そーだな……おい、そこのショートの姉ちゃん。そんな男ほっといて俺らと遊ぼうや」
「……ちょっと、いいかげんに……」
一歩前に踏み出したマオの前にぬっと腕が現れた。クルツのものだった。
「クルツ……?」
マオはクルツの顔を覗き込んだ。その顔はいつものようなへらへらした顔ではなく、真剣な、戦士の、いや一人の漢の顔だった。だが……。
(苛ついてる……?)
マオは直感でそう思った。さっきまで男達と話していたときとは明らかに違った印象の、マオが初めて見る表情だった。
「てめぇら……。いいかげんにしとけよ? いくら温厚な俺様もしまいにゃ切れるぞ……!?」
急変したクルツにかなめと恭子が息を飲む。
「ああ? おめぇ、一人でわしらとやろうっつうんか? 頭おかしいんじゃねぇか?」
「てめぇらよりましだと思うぜ? 何なら試してっみか? あ!?」
「……んだとぉ!? おぅ、おめぇら、このバカぶちのめせぇ!!」
「ちょっと! クルツ、何考えてんのよ!? カナメたちの前だからっていいとこ見せようとしてんじゃないでしょうね」
「…………………………だよ」
「……え?」
マオの耳元で何かささやくと、クルツは男たちに向かって猛然とダッシュした。格闘はあまり得意ではないといっても、それはSRTの中での話である。クルツから見れば、ヤクザなどそこらのチンピラに毛がはえた程度でしかなかった。
目の前で起こっている乱闘を呆然と見ているマオに、かなめが不思議そうに尋ねた。
「あの……どうしたの?」
「今……あいつ……あたしに……。え? じゃあ……あの時のって……もしかして……?」
うわごとのようにつぶやくマオをよそに、クルツが最後の一人に渾身の一撃をみまった。
「おおぁぁあぁあっ!」
ひざから崩れ落ちる男を背に、クルツはベストをビシッと直した。数人を相手にほとんど無傷で勝利を収めたクルツを、かなめと恭子はホケーッと眺めていた。
「どう? 俺だってやるときゃやるんだぜ?」
「……まあね。確かに見直したわよ」
そう言ってマオは自分の腕をクルツの腕に絡ませた。
「……え?」
「あら、迷惑?」
「……うんにゃ、光栄だね」
照れ隠しにクルツはにやりと笑って見せた。
そうして恭子を家まで送った後、かなめをマンションへと送っていく。エレベーターの前で、
「じゃあ、ここまででいいかな」
「うん、ありがと」
そう言いながらも彼女はエレベーターに乗ろうとはせず、マオに耳打ちした。
(ねぇ、あの時クルツくん、なんて言ったの?)
(……それは……あいつ、「カナメやキョーコじゃなくて、姐さん、あんたに見てもらいてぇんだよ」って……)
少し顔を赤らめてマオが答える。
(なるほどね……)
「お〜い、何話してんだぁ?」
「な、なんでもないわよ!」
「あ、何か仲間外れにされた気分……」
しょげるクルツに、マオは苦笑する。
「じゃ、またね。二人とも頑張ってね♪」
カナメはそう言い残してエレベーターの向こうに消えた。
「……ほら、いつまでもスネてんじゃないわよ」
マオは再び腕を絡ませた。
「……メリッサ。せっかくだから飲んでかねぇ? いい店知ってんだ」
「いいわね。あんたが言うんだから間違いないでしょ」
二人はあれこれと言いながら、夜の街の闇へと溶け込んでいった。

<ちょっと気になるパートナー 終わり>


あとがき

どうも、再び真ゲッター1.5です。2作目、ここに完成ッ! というわけで、今回は『マオ×クルツ』ねたです。ベタすぎるかなぁ(汗)?
でも、マオリストとしてはどうしても一度書いてみたかったんです。前回がかなり長くなったので(大学ノート10ページ分)今回は短めにしようと思ったんですが……。無理でした。
ところで、前回『クルツ⇔カリーニン編』とやったので続きがあるのかというと、何も考えてません(おい……)。ですが、機会があれば書いてみたいと思います。
では、そろそろ、彼が来る前に……。

 「待て」
 げっ!
 「また俺が出てないようだが……。どういうことだ?」
 それは、その……色々と事情がありまして……
 「ほおう……。事情……か。それはともかく、「訓練中止→俺の出番なし」というねたが前回とかぶっているのは気のせいか?」
 ぎくっ! 気のせいですよ、きっと……
 「ともかく、貴様は約束を破ったわけだ。俺の育った環境では約束を守れん奴は銃殺刑と決まっている。覚悟してもらおうか」
 ま、待って! 次は出すから……!
 「次? あるのか?」
 上の文読んでみろよ。機会があればまた書くだろう。……きっと。
 「ふむ……よかろう。だが次は絶対に俺を出せ。さもなくば……」
 そりゃもう、相良さん。書くときには思いっきり書かせてもらいますよ。ほんと。やだなぁ、聞くまでもないじゃないっすか。

と、いうわけで、よろしくお願いします。

真ゲッター1.5さん。有難うございますm(_ _)m。
これは管理人にもおなじみの「陣代高校生徒会室」さん投稿のものをひとまとめにして、こちらで少しばかり直したものです。直した、と言っても、両方を見比べないと多分わからないくらい微妙なものです。ご心配なく。
実は管理人も密かにファンのマオ姐とクルツのコンビ。この二人に限っては「カップル」より「コンビ」の方がしっくり来ると思うのは管理人だけではあるまい。
前のあとがきで「フルメタ1いい加減な」と評したクルツですが、それを覆すようなスマートなカッコ良さ。前の話と比べると別人のようです。
真ゲッター1.5さん、ご心配なく。長さで悩む必要はありません。管理人がいますから。その分タグ打ちは確かに大変ですけど(^^ゞ 。
――管理人より。


文頭へ 毒を喰らわば一蓮托生へ
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