『ミスリル作戦第1号』
「こちら、相良。現在のところ異常無し」
国連警察機構『ミスリル』の極東支部、『トゥアハー・デ・ダナン』に所属する相良宗介隊員は、最新鋭戦闘機〈M9〉のコクピットからパトロールの報告をした。
『分かりました。それでは帰還してください』
「了解」
そう答えた時、宗介の視界の隅に何かが光った。
(何だ?)
それは、2つの光球だった。前を走る青い球体が眼下の湖に吸い込まれるようにして消えた。
「……!? あれは!? ……こちら相良、異常発生! 巨大な光球が湖の中に……うわぁぁあぁあっ!」
後についてきた赤い球体が相良の乗る〈M9〉の目の前にまで迫っていた。避ける間もなく――衝突した。


(う……。目がぼやけてよく見えん……。体が重い……。俺は……死んだのか?)
朦朧とした意識の中で宗介がそんな事を考えていると、目の前に何か巨大な物体が姿を現した。それは巨大な頭部をした……
(ぐっ……)
激しい頭痛がしてまともに考える事が出来ない。
(殺られるか……!?)
だが、それは、宗介の予想に反して穏やかな口調で話し掛けてきた。
『すまない事をした、相良隊員。お詫びに、私の命を与えよう』
(お前の……? だとしたら、お前はどうなる?)
宗介の問いには答えず、物体は彼の胸の上に何かを置いた。赤い蝶ネクタイだった。
(これは……?)
『ベーター・リボン』
(ベーター・リボン?)
『そうだ。君の命が危険にさらされた時、それを使うのだ。そうすれば……』
(そうすれば……どうなる? そもそもこれをどう使えというんだ?)
『ふふふふふふふふ……』
怪しい笑い声を残して、物体は消え去った。同時に宗介の意識も闇へと落ちていくのだった。


「……員! 相良隊員! しっかりしろ! 目を覚ましやがれっ」
「う……っ」
宗介が目を覚ますと、同僚のクルツ隊員に抱えられていた。クルツはお調子者だが射撃、特に狙撃では右にでる者はなく、また宗介と親しい数少ない隊員だった。
「う、クルツか……。ここは……?」
「お前が最後に通信していたところだ。普段冷静なお前が悲鳴なんざ出すから慌ててすっ飛んで来てみりゃあ、〈M9〉は大破してるしよ。近くにおまえが転がってた時にゃさすがにもうだめかと思ったぜ」
「そうか……心配をかけてすまない」
「お前が礼を言うなんてめずらしいな。それより、最後に言ってた球体ってのはこの湖に沈んだんだよな」
「肯定だ」
「う〜ん。空からじゃ何も見えなかったけどな……。しかたねえ、潜水艦でも持ってくるか」
「あれをか……? しかし……いや、それしか手はなさそうだな。よし、いったん基地に戻るぞ。お前の〈M9〉に乗せてくれ」
「OK。と、その前に……さっきから気になってたんだが……。そのリボンは一体なんだ?」
「……気にするな」
言ってもどうせ信じてもらえないだろうと思い、宗介は先ほどの事を黙ってる事にした。かくして二人は基地に戻っていった。


「……では空からの確認は困難だと?」
「肯定であります、キャップ」
自分とそう年の変わらない少女に対して、宗介はバカ丁寧に返事をする。キャップと呼ばれたその少女こそ、この『トゥアハー・デ・ダナン』の指揮官、テレサ・テスタロッサであった。その優秀な頭脳は今までいくつもの怪事件、難事件を解決してきた。
「分かりました。〈M6〉で湖底を調べましょう。直ちに出撃準備をしてください」
「了解」
「あいよ」
「はっ」
宗介、クルツ、マオが答える。マオはもともとこの基地の情報管理部に所属していたのだが、テッサがその腕を見込んで特殊戦闘チーム、ウルズへと入隊させたのだった。
ちなみに〈M6〉とは高性能小型潜水艇の事で、かなりの深度まで潜る事ができる。ただし、小さくした分一人しか乗せる事が出来ないという欠点もあったが。
二時間後、現場に到着したウルズチームは、〈M6〉に宗介、残りの二人は上空から監視という事で調査を開始した。複雑な湖底を、宗介は身長に機体を進めていく。
(確かこの辺りに落ちたはずだが……)
そう思いながら進んでいくと、湖底の、ちょうど窪んだようになっている場所に、巨大な生物を発見した。
(あれは……恐竜!? バカな……!)
半ば混乱しながらも、宗介は上空の二人に連絡をいれた。
「こちら〈M6〉の相良。湖底に巨大生物発見! 地上に追い出すので攻撃してくれ!」
そう言いながら、怪物の顔をよく観察する。鋭い目つき。人を小ばかにしたような笑みを浮かべているようにつりあがった口。額に大きな縦の切り傷があった。
(何故だ……。俺はこの顔が気に入らない。非常に気に入らない……!)
奇妙な感覚にとらわれていると、近づきすぎたためか、怪物が雄叫びをあげた。
『カ〜シ〜ム〜〜〜!!』
「くっ! 魚雷発射!」
ズズン!
静かだった湖底に爆音が轟く。怪獣が〈M6〉をたたき潰そうと近づいてきた。敵の間合いの外から軽い攻撃を仕掛けて湖面へと誘導していく。
「おい、姐さん。相良が言ってた巨大生物って……あれかな……」
「たぶんね……。それにしたって……なんて大きさなの!?」
上空で待機していた二人が絶句する。無理もない。それは全長四〇メートルはあろうかという、前代未聞の生物だった。
「どうやって倒すんだ。あんなの」
「とにかく……攻撃開始よ!」
やけくそになったマオがミサイルを乱射するが、蚊に刺された程度にしか感じないのか、相手は全て手で叩き落してしまった。
「ミサイルが……効かない!?」
『俺が援護する!』
手の出しようのなくなったマオたちに、宗介から通信が入る。
「何いってんの! 〈M9〉のミサイルでも効かないのに、それのミサイルが通用するわけ……」
マオの静止も聞かず宗介はミサイルを放つ。しかし、やはり怪獣には何の変化も認められなかった。
いや――怪獣はゆっくりと振り向き、相良の乗る〈M6〉をその長い尾でたたき伏せた。強力な一撃に、高性能潜水艇は一撃で沈んだ。
『ソースケ――――っ!』
マオとクルツの悲鳴がこだまする。そのとき……。
怪獣に撃沈された〈M6〉の中で、相良は謎の生き物が言っていた事を思い出していた。
『お前の命が危険にさらされた時、このリボンを使え』
「くっ……!」
宗介は首のリボンをむしりとり、天に向かって突き上げた。すると、リボンが輝きだし宗介の体は光に包み込まれていった。
(何が起こっている……?)
気がつくと、目の前に例の怪獣がいた。だが様子がおかしい。相手の目線が自分と同じ目線の位置にあるのだ。
(これは!?)
宗介は自分の体を確認して驚いた。犬だかねずみだかよく分からない頭。短い手足。どうやら緑色の帽子もかぶっているようだ。そして首には先ほどのリボンがついていた。
あっけにとられている宗介に怪獣が迫る。尻尾による攻撃をかろうじてかわす。
「くそっ!」
宗介は叫んだ。否、叫んだつもりだった。だが、聞こえてきた声は……
「ふもっ!」
なんとも場違いな掛け声である。しかしそんな事を気にしている余裕はなかった。
敵が眼前に迫ってきているのだ。
(やるしかないか!?)
いくらか絶望的になりながら、宗介は敵に挑んだ。相手の攻撃をかいくぐり、懐に飛び込んで渾身の一撃を叩き込む。
「カ〜シム〜!」
「ふぅもっふ!」
壮絶な(?)戦いの火蓋が切って落とされた。


「なんだよ、あれ……」
「さあ……」
突如現れた謎の巨獣を前に、マオとクルツは思い切り戸惑った。
「とにかく……両方攻撃すっか?」
『待ってください』
クルツがミサイルを撃とうとする直前、テッサの静止が入った。
「っとと……。なんだい、キャップ」
『あの帽子をかぶった方の生物は攻撃してはなりません。もう少し様子を見てみましょう』
「へ? また、何で?」
『だって……かわいいじゃないですか……』
「あのなぁ……」
「あんたって子は……」
あまりの返答に脱力しまくるクルツとマオ。そんな二人をよそに、二匹はまだ戦っていた。


「ふもっ。ふも、ふもっふ、ふもっふ、ふもふも!(くっ。まだ、くたばらんのか!)」
「カ〜〜シ〜ム〜〜!」
宗介(が変身した巨獣)は怪獣に決定打を繰り出せないでいた。その時、突如首のリボンが点滅をはじめた。
ピーン、ピーン、ピーン……
「ふもっふ? ふもっふ、ふも、ふっもふ……!?(なんだ? 急に力が……!?)」
リボンから音が出るたびに力が吸い取られていく様だった。
(こうなれば、一気に片をつける!)
宗介は十字に腕を組もうとし……失敗した。腕が短すぎるためである。
(何!? 腕が組めん! こういう場合腕を組めば、何らかの光線が出るはずなのだが……)
どこで見たのか、そういう知識もあったようだが、腕が組めない事にはどうしようもない。
(いや待てよ……。確かこんな格好でも……)
悩んでいるひまはない。そう思うと、宗介はおもむろに両腕を額に持っていった。
「ふもっふ!!(くらえ!!)」
叫ぶと同時に光の束があふれて、怪獣を貫いた。
「カ〜シ〜ム〜〜……!!!」
ちゅど〜ん!
断末魔の悲鳴をあげて怪獣は木っ端微塵になった。それと同時に巨獣の姿も薄れていく。
(消えていく……?)
「消えた……」
「何だったの、あれ?」
ほとんど何も出来なかった二人が上空でつぶやく。マオがふと気付いたように言う。
「そういえば……ソースケは!?」
「っ! 下に降りて探すぞ、姐さん!」
二人は急降下して〈M6〉の残骸付近に着陸する。
「うっわ……。ひでぇ……。これじゃいくらなんでも……」
「バ、バカなこと言うんじゃないわよ! ソースケが死ぬわけ……!」
マオがクルツを殴ろうとしたその時……
「俺がどうかしたのか?」
宗介がどこからともなく現れた。
「お、お前……足あるよな……!?」
「当たり前だ。足がなくては歩けんではないか」
「いや、そうじゃなくて……。ま、いいか。どうやら無事みてぇだしな」
「うむ」
「そういや……さっきの帽子かぶった奴……。結局何者だったんだろうな」
「そうだな、彼の名は……。仮に『ボン太くん』とでもしておくか」
『へ?』
「……なにかおかしいか?」
『……別に〜?』
マオとクルツは同時に答え、三人は談笑しながら基地へと帰っていった。
その頃、基地では……
「はぁ、また会えるでしょうか……。『ボン太くん』さん……」
先ほどの会話をきっちり聞いていたテッサが、一人ため息をはくのだった。

<ミスリル作戦第1号 終わり>


あとがき

はいっ! またまた真ゲッター1.5です!
出来ました、3作目。投稿するたびに話が短くなってるというのは気のせいです。
実はこの話、家で飯食ってる途中で思いついた物で、書き始めるとあっという間であったという自分にとって大変楽な作品でした。元ネタは、読んでの通り「ウル○ラマン」の第1話です(と言われて分かる人が何人いるのだろうか)。
作者自身あまりこの話の内容を詳しく知らないもので、知ってる人が読んだらちょっと違う、とか思うかもしれませんが、それはそれで良し(オイ!)。
さて、今回の話でようやく宗介もでてきた事だし、これで枕を高くして眠れるな。

 「おい」
 うひゃほうっ!
 「……声をかけただけで何故そんなに驚く」
 いきなり後ろから声をかけられたら誰だってビビるわい!
 「そうなのか。それはいいが、ようやく俺が出たと思ったら何故パロディなのだ?返答によっては……」
 だ―――! だから銃を抜くなって! お前さんだそうにもネタがなかったんだから。出てるだけでも良しとしとけ……
 ジャキン!
 うわっうわっ! ゴメンなさい、冗談です! ……ったく。今新しいの書いてるからちょっと待てって。
 「それには俺も出るのか? ……もちろんパロディではなく、な」
 うん、出てるよ。主人公で。シリアスなストーリーで。でも間に合うかわかんない。
 「絶対に間に合わせろ。いいな」
 はっ、肯定であります! 軍曹殿!

ま、それはともかく、期待して(?)待っててください!

真ゲッター1.5さん。有難うございますm(_ _)m。
これは管理人にもおなじみの「陣代高校生徒会室」さん投稿のものをひとまとめにして、こちらで少しばかり直したものです。直した、と言っても、両方を見比べないと多分わからないくらい微妙なものです。ご心配なく。
懐かしいなぁ「ウルトラマン」。再放送ですが、しっかり見ていた世代としましては、当時の映像が脳裏をよぎります。きっと、この頃は口元がいびつだったんでしょうかね?? とマニアックなネタを振っておきましょう。
これは……わかる人は笑える。わからない人には一生わからないというある意味「読者を選ぶ話」ですけど、笑えるから承認します。
このくらいのんびりとした防衛組織で良いのかなぁ。何て今の人は思うんでしょうね。でも良いんです!! それが当時の特撮だ!!
――管理人より。


文頭へ 毒を喰らわば一蓮托生へ
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