『蘇りし死神』
「今帰ったぞ、かなめ」
「あら、お帰りなさい、ソースケ」
――あれから幾年かが過ぎ……。千鳥かなめは『相良』かなめになっていた。宗介も普通のサラリーマンとして生活していた。
最終的に中尉にまで昇進したが、かなめとの結婚を機にミスリルを離れていた。テッサに引き止められ、最後には告白までされたが――宗介はそれを振り切り、かなめと一緒になる事を選んだのだった。
便りによると、その後マオとクルツも退職し、アメリカで結婚したらしい。この前、赤ん坊を抱いた二人の写真が送られてきた。元気のよさそうな双子だった。
「ねぇ、ご飯にする? それともお風呂?」
「うむ、では飯に……」
その時、電話の呼び出し音がなった。
「こんな時間に誰かしら」
「俺が出よう」
そう言って宗介が受話器に手を伸ばす。
「もしもし、こちら相良……!? 貴様は!!」
急に大声を出した宗介に驚いたかなめを手で制し、会話を続ける。
「貴様はあの時……! 何だと? ま、待てっ……! ……くっ、切れたか」
「……だ、誰からなの?」
恐る恐るかなめが尋ねる。
「いや……。また今度話す。大丈夫だ、安心しろ。何があっても、俺は……君を守る」
「ソースケ……?」
「早く食べよう。せっかくの料理が冷めてしまう」
「うん。後で……ちゃんと教えてよね」
「あぁ」
静かに夜がふけていった。
翌日。
「ねぇ、ソースケ今日休みなんでしょ? 買い物付き合ってもらうわよ」
「うむ……」
「……元気なさそうね。昨日の電話が原因?」
「……あぁ。実は……」
宗介が口を開きかけた時、再び電話が鳴った。
「……多分、俺にだ」
宗介が電話に出る。
「はい、相良です……!! はっ! しかし……。はい、その件なら昨日奴の方から……はい。! それは……。自分はもう……わかりました。そちらに伺います」
暗い表情で電話を切った宗介にかなめが心配そうに聞いた。
「誰から? 今度はちゃんと教えて」
「……大佐殿からだ」
「大佐……? テッサのこと?」
「あぁ。……俺に今度の作戦の間だけミスリルに戻ってくれ、と」
「な、何言ってんのよ!? 今頃になって……! まさか、行かないわよね、ソースケ!?」
「……すまん、行かねばならん。……奴がかかわっているのでな。奴が……ガウルンがな。昨夜の電話も奴からだ」
「ガウ……ルンって? 昔、潜水艦の中で戦った?」
「そうだ」
「でも、そいつはソースケが倒したはずじゃ……!」
「そのはずだった。何がどうなっているかはわからんが……奴はまだ生きている。そして、俺達に復讐しようとしている。あいつだけは、俺の手で倒さなければならない……!」
「そんな……! 他の人じゃ……」
「ダメだ。他の人間にやらせるわけにはいかん。それに『アレ』は俺にしか動かせん。……俺は君に出会っていろんな事を教わった。だから……・俺はそんな君を守るためにももう一度戦う……!」
「でも……!!」
かなめはそれ以上喋る事が出来なかった。そっとかなめの唇をふさいだ宗介はそれ以上何も言わずに部屋を出て行った。
「……無事で帰ってこないと……絶対に許さないから……」
かなめの頬にひとすじの雫が流れた。


数時間後、メリダ島のテッサの事務室で、宗介とテッサは数年ぶりの再会を果たしていた。しばらく続いた沈黙の後、テッサが先に口を開いた。
「お久しぶりですね、サガラさん……」
「はっ。大佐殿もお元気そうで何よりです」
テッサと向き合うと、昔の癖でバカ丁寧な口調になる宗介。テッサは昔の幼さの面影はなく、今や立派な女性になっていた。絶世の美女とはこの事だろうか。その美女は、昔と変わらない宗介の態度に、懐かしそうな、それでいて悲しそうな顔をした。そして、それはすぐに少し意地の悪そうな表情に変わった。
「その後、カナメさんとはどうですか?」
「はっ……それは……その……」
(なんと答えればよいのだ!?)
宗介が返答に困っていると、誰かがノックをして、ドアが開いた。
「いよぅ、久しぶりじゃねぇか、テッサ、ソースケ」
「クルツ!?」
入ってきたのはクルツ・ウェーバーだった。あの頃に比べると、少し背が伸びたような気がする。それ以外は以前とほとんど変わりないように見えた。続いてもう一人。
「あたしもいるよ」
「メリッサもか……!」
クルツと結婚した事で姓が変わったので、宗介や他の皆は彼女の事をメリッサと呼ぶようになっていた。
「三人ともよく来てくれました。本来ならば、私たちだけでやらなければならないのですが……事態が事態なだけに、トゥアハー・デ・ダナン結成以来最高のチームといわれたあなたたちに招集をかけた次第です。特にサガラさん、あなたにとっては因縁の深い相手でしょうし……」
「……大佐殿は奴の事をどこで?」
「情報部から連絡があったのです。彼の目的は現在調査中です」
「その事ですが、奴はおそらく東京に現れると思います」
「ん? 何でわかんだ?」
「昨夜、奴の方から電話があったのだ。明後日殺しに行くから覚悟しておけ、とな」
「本当にガウルンからなの?」
「俺があの声を忘れるはずがない。確かに奴からだった。そして、おそらく俺に復讐するというのも本当だろう。やられたらやり返す。奴はそういう男だ」
「なるほど……。それが分かれば手の打ちようもあります」
「なぁ、テッサ。一応この作戦の間俺達はミスリルに復帰する事になるんだが……どういう待遇になるんだ?」
「それについては、皆さんが辞めた時の階級で復帰してもらいます。つまり、メリッサは大尉、ウェーバーさんとサガラさんはそれぞれ中尉です。それと、三人にお渡ししたい物があります。着いてきてください」
そういうとテッサは部屋を出て行った。廊下を歩いている途中、宗介はクルツに話し掛けた。
「お前たち、子供はどうして来たのだ? 俺の記憶では双子がいたはずだが」
「ああ、あいつらなら隣の家に預けてきたよ。気のいい人たちなんでね。……んで? お前の方はどうよ。カナメに子供は……」
そこまで言った時、クルツのわき腹にひじ打ちが叩き込まれた。
(痛ってーな! いきなり何すんだよ、メリッサ!)
(あんたバカ!? テッサの目の前でそういう話する? 普通)
(うっ……)
そんな二人を見て、宗介はいつまでも変わらんな、としみじみ思うのであった。


「ここです」
「ここは……〈アーバレスト〉の格納庫?」
「そうです。そして……」
部屋全体がライトアップされ、三体のASの姿が浮かび上がる。
「そして、メリッサとクルツさんの専用機の格納庫でもあります」
「俺たちの……専用機?」
そこには、〈アーバレスト〉の他に、漆黒の機体と淡青色の機体が置かれていた。
「これは……」
「黒い方がメリッサの機体、ARX−8〈ナイトメア〉、青い方がクルツさんのARX−9〈トルネード〉です。〈アーバレスト〉の技術を取り入れ、〈M9〉をはるかに凌ぐ能力を持たせました。『ラムダドライバ』は搭載されていませんが、〈ナイトメア〉は通信系統を、〈トルネード〉は射撃性能と火力を飛躍的に向上させました」
「っは〜……スゲェ……」
「〈ナイトメア〉か……気に入ったね」
「ところでよ。〈アーバレスト〉、ずいぶん痛んでねぇか?」
「……〈アーバレスト〉は、結局サガラさん以外の人には使いこなせず、最後には搭乗する事すら拒んだので、来週解体処分になる予定だったんです。ですが、今回のことで破棄せずに済みそうです。色々と思い出のある機体でもあるので……。見た目はアレですけど、中身は異常ありません」
「…………」
宗介は無言で〈アーバレスト〉を見上げた。かつて「世界一危険な芸術品」と言われた〈アーバレスト〉も今ではあちこち傷つき、まるで中古の〈M9〉のようになっていたが、その奥底にはまだ未知なる神秘性を秘めている様だった。
「急かすようで悪いのですが、あなた達にはすぐに東京へ向かってもらいます。日本まではTDDで送りましょう。準備をしてください」
「了解」
普段通りの無表情で答えたものの、宗介の心中は穏やかではなかった。
(かなめ……無事でいてくれ……!)
そんな思いを乗せて、TDDは静かに発進した。


……約八時間後、東京湾付近にて
「私たちが送れるのはここまでです。これ以上はTDDでは進入できませんので。御武運を祈っています。それでは各機に乗り込んで下さい」
「了解」
三人が格納庫へと向かう中、テッサは宗介を呼び止めた。
「サガラさん」
「はっ」
「……死なないで下さい」
「……はっ」
宗介が再び走り出した。テッサは、ふいに宗介の背中が消えてしまったかのような幻覚を見た。
(もう……会えないかもしれませんね)
テッサの両目はわずかに潤んでいた。


日が沈み、満月が昇った頃―――
「大佐、東京湾に所属不明のASが一機! おそらく今までECS不可視モードを使用していたと思われます。ですが……なんて大きさだ! 四〇メートルはあります!」
「! スクリーンに出して!」
「アイ・マム。正面スクリーンに映像出します」
スクリーンに映ったそれは、以前宗介たちが戦った事のある機体だった。ひし形の頭部に一つ目のようなメイン・センサー。後頭部にたなびく髪のようなパーツ。
「……〈コダール〉?」
まさしく、ガウルンの乗っていた〈コダール〉そのものだった。大きさだけは〈ベヘモス〉並になっていたが……。
「サガラさんたちに連絡してください! 早く!」
「アイ・マム!」
静かだった艦内が一気に騒然となった。
一方その頃、宗介達はすでに巨大ASを目の当たりにしていた。その容姿を見て、まず宗介とクルツがうめいた。苦い記憶が蘇る。
「おい、ソースケ。ありゃあ……」
「ああ、ガウルンに間違いないようだ」
『こちらTDD、巨大なASが上陸した。全機迎撃態勢に入れ。なお、民間施設に被害が出る恐れがあるため、TDDからの援護はない。ただいまより、敵ASを〈死神〉と呼称する』
「了解、これより迎撃に移る。いいわね、二人とも!」
「うむ」
「おぅ」
と、その時、ふいに〈死神〉から笑い声が聞こえてきた。
「ヒャハハハハハハ。懐かしいなぁカシム。またお前に会える日が来るとは思ってなかったぜ! ククク……、全く面白いよ、お前は。ちっと俺が声をかければこうして飛んできてくれるんだもんなぁ。愛してるぜぇ? カシムゥ」
「くっ……ほざけ! 何故貴様が生きている!? お前はあの時、嵐の中で死んだはずだ!」
「あぁ、そうさ。俺はあの時、一度死んだ。だがな、あるテロ組織が俺の遺体を拾い上げてあれこれと手を加えたのさ。奴らの名は〈A21〉。聞いた事あるだろ? お前らも戦った事のある相手だ。いや、お前らが壊滅させた、と言った方が正しいかな? ククク……。で、〈A21〉の残党どもは俺を改造した挙句、〈コダール〉のデータを元にこいつを造りあげ、俺を組み込んだのさ」
「組み込んだ?」
「そう、文字通り組み込んだんだよ。分からねぇか? こいつは俺で、俺はこいつ。まさに人機一体って奴だ」
「……ねぇ、この映像見てよ……」
〈ナイトメア〉から送られてきた画像は〈死神〉のコクピットをスキャンしたものだった。胸部の中心より、やや左にずれた場所。人間で言う、心臓に当たる位置。そこが……。
(奴の居場所か)
だが、妙な違和感が彼をとらえた。ガウルンの首から下が見えない。体が機体に埋まっているのだろうか?
(いや、これは……!)
事実を知って、宗介は戦慄した。事実。それはガウルンの首から、直接パイプ類が伸びているという事だった。首から下が埋まっているのではない。首しかないのだ……!
「おい……こいつぁ……!!」
クルツも同様に気付いたようだ。
「ヒヒヒ……。やっと分かったか?人機一体の意味が。……クックック、だが安心しな。〈A21〉の連中が現れることはねぇ」
「どういうことだ」
「俺が潰してやったんだよ。この体が完成した直後にな。フフフ……、俺って親切だろ? お前らの仕事を手伝ってやったんだぜ?」
「……んの、バケモンがぁ!」
そう叫ぶと、クルツはスナイパーライフルをぶっ放した。しかし、頭部へと飛んでいった弾は見えない壁に阻まれ、空しく四散した。
「ちっ、やっぱ無理か!」
〈死神〉が『ラムダドライバ』を搭載している事は明らかだった。ふいに〈死神〉の右手が動く。その手には、以前のようにガトリングキャノンが握られていた。
(避けろ!)
戦士の勘がそう叫んだ。〈アーバレスト〉が横に跳ぶ。次の瞬間、先ほどまで宗介が立っていた場所に砲弾が雨あられと降り注いだ。
(いける)
宗介は思った。
(俺は、まだ戦いを忘れてはいない!)
それは確信へと変わった。血が入れ替わったような気がした。身体が熱くなる。全身の神経が研ぎ澄まされる。懐かしい、戦場の臭いが還ってきた。
「クルツ、あんたは後ろに下がりな! 援護射撃、頼むよ!」
「メリッサは!?」
「ソースケと前に出る! まずはあのガトリングを狙うよ!」
「いよっしゃぁ!!」
「行くぞ!」
クルツが物陰に隠れ、ライフルを連射する。タイミングをずらしながら、確実に手元を狙う。メリッサと宗介が単分子カッターを引き抜き、敵の巨体を駆け上がった。〈アーバレスト〉のものは普通のサイズだったが、〈ナイトメア〉は刀サイズの、順安のときに使った物になっていた。二本の刃がうなりを立てて突きささ――らなかった。やはり当たる直前で止められる。
「ヒャハハハハァッ、そんなもんが通じるかよぉっ」
「やはり普通の攻撃では……ぐっ!!」
「きゃぁあぁぁ!!」
〈死神〉が腕を振り回すと、二機はあっさりと吹き飛ばされた。
「メリッサ! ……こんの野郎っ!」
しかし、クルツの怒りの一撃も、〈死神〉には届かなかった。と、唐突にテッサから通信が入った。
『三人とも、モニターのパターンを07に移行してください』
「え?」
『早く!』
訳がわからなかったが、とにかく言われた通りにしてみる。一瞬のブラックアウトのあと再び映ったモニターには、前と同じく〈死神〉が映っていたが、その周りに3枚の四角い板のような物が飛んでいるのが見えた。
「なんだ? あれ」
『モニターパターン07は、『ラムダドライバ』を可視化するために開発されたものです。そして、今見えている三枚の板が先程からあなた達の攻撃を阻んでいるものの正体です』
「そんないいもんがあるなら、先に言ってくれよ」
『すいません、こちらで敵を分析するのに手間取ってしまって……』
「ま、何にせよ、これで何とかなりそうね」
マオの表情にほんの少し、余裕の笑みが浮かんだ。


一方、宗介達がまさかこの東京で戦っているなどとは知らないかなめは、一人眠れぬ夜を過ごしていた。
(ソースケ、今頃どこかで戦ってるのかな……。ちゃんと帰ってきてくれるよね……ソースケ)
そんな事を考えていると、不意にチャイムが鳴った。こんな夜中に? もしかして……。
「……ソースケ?」
彼女がドアを開けると、黒尽くめの男が入ってきた。
「!!」


「なぁ、俺ちょっと考えたんだけどよ、〈ベヘモス〉の時みてぇに『ラムダドライバ』の冷却装置ぶっ壊したらどうかな。三枚しか障壁がないなら、三点同時攻撃すりゃ少なくとも一発は当たるだろ」
「だが、今我々は三人しかいない」
「そうね……。だったら、クルツとあたしで二枚を引きつけるわ。ソースケは『ラムダドライバ』で一枚相手しなさい。あれなら障壁を破れるはずよ」
「分かった……やってみる!」
宗介は、〈死神〉の股の下をくぐり、背後へと回った。
(冷却装置は……あった!)
それらしき縦長の穴が左右に二つ、見つけることができた。ひざを突いて、しっかりと構える。
「ああ? 何やってんだ? てめぇら」
その声は宗介の耳には届いていなかった。最大限まで集中する。イメージを注ぎ込む。
(だが……何年も使っていなかった物を、上手く扱えるか?)
心に一瞬の迷いが生じた。
「いくよぉっ! ファイアッ!!」
三機のASが同時に火を噴く。が、三つの砲弾は同時に砕け散った。
「失敗!?」
「そんな……」
「ククク……惜しかったなぁ!!」
ズガガガガガ…………!
ガトリングキャノンから放たれた灼熱の雨が、クルツの隠れた方へと降り注ぐ。
「うあっ!?」
「クルツ!?」
「だ、大丈夫だ! ちっとかすっただけさ」
追撃してくるかと思われたが、〈トルネード〉と〈ナイトメア〉を無視して、〈死神〉は後ろを振り向いた。
「クックック、残念だったなぁ、カシム。だが、ぐずぐずしていいのか? 今頃は俺の部下が、お前の大事な大事なかなめちゃんを拉致してる頃だぜぇ?」
「何だと……!?」
それを聞いた瞬間、宗介の中で何かが切り替わった。押さえられていた感情が爆発的に膨らむ。それは、今までに感じた事のないほどの大きな怒りの念だった。
「貴様ぁっ!!」
〈アーバレスト〉がショットキャノンを構える。意識を束ね、極限まで集中力を高める。時間の流れさえ止まったかのような感覚が彼の体を支配する。今の彼の感情――怒りと憎しみ――の全てをダブルオー・ヘッシュ弾に込める。〈アーバレスト〉の眼前の大気が歪んでいくのがクルツとメリッサにも見て取れた。
「おい、いけそうだぜ。メリッサ! できるだけ障壁引き付けんぞ!」
「分かってる!」
〈トルネード〉と〈ナイトメア〉が必死で撃ちまくる。それらは全て防がれたが、確実に障壁をその場に留まらせていた。『ラムダドライバ』の発動準備を終えた
〈アーバレスト〉の指に力がこもる。
(ガウルン、貴様は……。貴様だけは俺の手で……)
「殺す!!」
「!!!!」
宗介の全身全霊を込めた一撃が、ガウルンへと一直線に翔んだ。残る一枚の障壁が行く手を阻もうとしたが、怒りの矢はそれを一撃の元に砕き、〈死神〉の心臓に突き刺さった。
巨人がぐらりと傾き、膝をついた。そのまま前のめりに倒れ込む。数瞬後、全てのパーツを撒き散らして、〈死神〉は大爆発を起こした。爆炎が深夜の東京湾を紅く染め上げる。爆風に煽られながら、クルツがポツリとつぶやいた。
「今度こそ地獄に落ちやがれ、亡霊め……」
「ちょっと、しんみりするのはまだ早いわよ。かなめが狙われてるんでしょ!?」
「……!!」
宗介は、自分でも気付かないうちに〈アーバレスト〉を降りていた。そのまま、街へと走り出す。
「ど、どこ行くんだよ!?」
『かなめのところに決まっている!』
高性能マイクが宗介の怒鳴り声を拾いあげた。
「変わったねぇ、あいつ……。いや、そうでもないか」
闇へと消えていった宗介の背中を見ながら、メリッサは独りごちた。と、赤色灯の明かりとサイレンの音が聞こえてきた。
「おっと、こうしちゃいられねぇ。〈アーバレスト〉回収してずらかるとすっか」
「そうね」
二人は証拠を残さない様帰り支度をはじめた。


「ハァッハァッハァッ……!」
息を切らせてマンションの階段を駆け昇る。ドアの前まで来て、中の様子をうかがう。
(一人……いや、二人いる?)
かなめともう一人いるのか、あるいは二人とも敵か……。それは分からなかったが、宗介は思い切って踏み込んだ。リビングへと走り、中にいた人間に銃を向ける。それと同時に、相手の銃も宗介の額を向いていた。
「っ!」
「……お前か」
男はそういうと、銃を降ろした。月明かりに、深くしわが刻み込まれた顔が浮かび上がる。
「!! あなたは……カリーニン少佐!?」
「久しぶりだな、サガラ中尉」
「あなたが何故ここに?」
「万一の事も考えてな。他の者でもよかったが、彼女と面識があった方が都合がよかった。今では大佐殿を除いては私しかおらんので、私が来た。ここを襲った連中はもう始末した。私はもう帰る。君も来たまえ」
「……いえ、ここでお別れさせてもらいます」
そう言ってカリーニンに銃と階級章を渡した。
「……いいのかね」
「はい」
「……分かった」
カリーニンが部屋を出て行こうとする。
「……少佐殿」
「何かね」
カリーニンは振り向かずに返事した。
「大佐殿に伝言をお願いします。……『自分は何があってもミスリルには戻らない。もう会う事はないでしょう』と」
「いいだろう」
カリーニンが去り、しばし沈黙が部屋を支配する。
「……どこで戦ってたの?」
「ここだ」
「ここ?」
「うむ、東京湾でな。……そういえば、〈アーバレスト〉をそのままにしてきてしまったな。やはり、まずいだろうか。……いや、クルツたちが何とかするか……」
「もうミスリルには戻らないって本当?」
「ああ、本当だ。ガウルンも倒した。俺が戻る理由がない」
「……テッサにお別れ、言わなくていいの?」
「……ああ。今夜は俺のせいで君を再び恐ろしい思いをさせたのだ。今夜は君のそばについていたい」
「ソースケ……」
「かなめ……」
お互いの目を見つめる。そして……。


あれから数日後……。
「今帰った」
「あら、お帰りなさい、サガラさん」
「た、大佐殿!?」
そこには、テレサ・テスタロッサその人が立っていた。何故かエプロンまでかけている。
(こ、これはどういうことだ? 俺は夢でも見てるのか?)
「あ、お帰り、ソースケ。何玄関でぼーっとしてるの?」
「かなめ!? これは一体……」
「あぁ、テッサが来てる理由? あたしが呼んだのよ、ちょうど休暇中だって言うしさ。ダメだった?」
「い、いや、かまわないが……」
「そうだ、せっかくですからドライブでもいきません? 二人きりで。ねぇ、サガラさん?」
「はっ……? しかし、その……」
少し意地悪そうに微笑むテッサに戸惑う宗介。それを見ていたかなめは、少しむっとして
「あ〜ら、よかったわねぇ、ソースケ。こんなかわいい子からお誘いがあって。ドライブでもなんでも行ってくれば? あたしはおとなしく待っててあげるわよ」
口ではそう言っているが、目は、
(うんとでも言おうもんなら、どうなるか分かってんでしょうね)
と告げていた。
「た、大佐殿、残念ですが、やはり……」
「……私の事、嫌いなんですね……」
「い、いえ、その、そういう訳ではなく……」
「そういうわけではなく、何よ? 大体さっきの『残念ですが』って何よ!?」
「うっ、いや、だから……」
二人に責めたてられ、狼狽する宗介。だが、宗介はやり取りをしながら、苦笑をもらしていた。
「何がおかしいのよ?」
「いや……クルツとメリッサをみていつまでたっても変わらんなと思っていたのだが……、どうやら俺たちもそう変わってはいないらしいな」
「そうかな?」
「そうですね……。きっと、そうです」
「フフ、フフフ」
「ははは……」
誰から、というでもなく、三人は笑い出していた。

<蘇りし死神 終わり>


あとがき

こんにちは、真ゲッター1.5です。
完成しました4作目。前回の予告どおり、シリアスストーリーで仕上げてみました。いかがなもんでしょうか。このストーリーでは、ガウルンはITB以降は出てこない、という設定でかかれているので、もし文庫の方で出てきたりしたらどうしよう(汗)。
それはさておき、クルツとマオの専用機を登場させたのですが、マオの機体の名前は決まっていたものの、クルツの機体名が思いつかない!と言う状況に陥り、友人に助けを求めたところ、第一声に「マグロ漁船!」と答えやがりました。「スナイパー」と「青い感じ」をイメージできるもの、と事前に教えたのに……。全くもって、心強い友人です。結局、家で考えてる時に聞いてた「ル○゚ン3世」のサントラの、○元のテーマ曲から採りました。
最後まで書いて気付いた真実。数年で宗介達は中尉や大尉になってるのに、テッサやカリーニンは全然昇格してない!実は、別に彼らがさぼってた、とかいうわけではなく、単に最初にテッサを大佐で出したら、マデューカスとカリーニンは昇格させれなくなちゃっただけです(今回マデューカス中佐は出てませんが)。それにしても、やっぱり「そーかな」のペアで結婚させるとかかぁ天下になりますね(笑)きっと、マオとクルツも同じだ(大笑)。
ではでは、このへんで……。

真ゲッター1.5さん。有難うございますm(_ _)m。
これは管理人にもおなじみの「陣代高校生徒会室」さん投稿のものをひとまとめにして、こちらで少しばかり直したものです。直した、と言っても、両方を見比べないと多分わからないくらい微妙なものです。ご心配なく。
シリアスですねぇ。仇敵再び(いや。一応4回目扱いか)。お互いの弱点を知っている者同士の戦い。宿命の戦いってのはこうじゃないと。
でも、弱点がそのままってのもおまぬけな話です。しつこいくせに。みんなでガウルンに「改良しろよ」とつっこんであげましょう。
このストーリーはこれで終わるにはもったいないです。戦闘シーンを引っ張るとか各キャラの心理描写を加えて長編並みのスケールと長さにしてもおかしくありません。というより、そのくらいの価値がある話だと思います。言う方は気楽ですけど。
このストーリー最大の謎は宗介に「普通のサラリーマン」ができるのか!? この一点ですな(笑)。
管理人も、この次のフルメタ話はシリアス路線にしようかな??
――管理人より。


文頭へ 毒を喰らわば一蓮托生へ
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