『大迷惑なエクスチェンジ〜クルツ⇔カリーニン編〜』
その日、クルツはメリダ島のパブで安酒をあおっていた。
「何かいいことでもあったか?」
マスターが聞いてくる。
「バカいうなよ、いいことがありゃあこんなとこで飲んでいるかよ」
「こんなとことは何だ、バカモン」
いつも通りのやり取りをしながらおかわりを注文する。
その時、パブの入り口付近のざわめきが不意に小さくなる。入ってきたのはカリーニン少佐だった。普段、彼はパブに顔を見せる事などない。あまりにも意外な来客に注文したばかりのスコッチのグラスを中途半端に持ち上げたまま、ぼけっとしているクルツの横に座ると、スコッチを注文した。
クルツの視線がまだ自分に向いている事に気付いたカリーニンは彼を一瞥し、
「変かね?」
とつぶやいた。声をかけられるとは思っていなかったクルツは少し戸惑ってから返事をした。
「うんにゃ、意外だっただけさ」
「そうかね?」
「何かあったのかい?」
カリーニンの疑問を無視して逆に問い掛ける。
「私にも酒を飲みたい時ぐらいある。いかんか?」
「いいや、俺はかまわんさ」
そんなやり取りをしながら、二人はパブが閉まるまで飲みつづけた。
翌日、カリーニンはいつも通りに目を覚ました。しかし、すぐに体の異常に気付く。
体が重く頭痛がする。天井もやたら低く見える。
(夕べ飲み過ぎたか?)
そんな事を考えながら起き上がる。ゴツン、と大きな音を立てて天上に頭を打ちつける。
(どうやら飲み過ぎのせいでもないらしい……)
改めて部屋を見回すと、明らかに彼の寝室ではなかった。薄汚れた壁に貼られたグラビア風のポスター。染み出す雨を受けるためのバケツ。そして自分が寝ている二段ベッド。
(私は何故兵舎で寝ているのだ?)
いくら考えても分からなかった。生まれてこのかた、酔いつぶれた事などなかった。それに、あの後自分の部屋に戻っていった記憶もある。
下のベッドで寝ている者はまだ起きていないようだ。
(ともかく大佐殿のところへ行かなければ……)
ベッドの下にあったブーツを履き、部屋を出る。兵舎からテッサの部屋までは少し離れている。ここからでは定時に間に合わないかもしれない。
(急がねば……)
珍しくあせり、歩調を速める。身なりは気にしていられなかった。
コン、コン、コン。
「カリーニンです」
「どうぞ」
少女の声がするとカリーニンは中に入った。しかし、彼を見たテッサは驚きの表情をあらわにして、こう言った。
「あら、ウェーバーさん。こんな朝早くからどうしたんです?」
「? は?」
「ですから何の用かと聞いているのですが?」
「自分はクルツ・ウェーバーではなくアンドレイ・S・カリーニンですが……?」
テッサの動きがぴたりと止まる。
「あの……何の冗談ですか?」
「自分は冗談を言った覚えはないのですが」
「え? で、でもその……その姿はどこからどう見てもウェーバー軍曹なんですが……」
「?」
テッサが嘘を言っているとは思えない。まさか、とおもいながら部屋の鏡を見る。
さらさらの金髪、澄んだ蒼い瞳。言われた通りどう見てもクルツだった。
「!?」
さすがのカリーニンも驚きを隠せず口をあんぐりとあける。
(これはどういうことだ!? 私は夢を見ているのか……? いや、しかし……)
しばらく身じろぎもせず考え込んだ後、当然の疑問が浮かび上がった。すなわち……。
(それではウェーバー軍曹は!?)


時間は二〇分前にまで遡る。
将校用居住区の一室で一人の男が呆然としていた。
「……こりゃあ一体?」
そうつぶやいたクルツは周囲を見渡す。綺麗な壁にかけられた額に入った絵、質素だがそれなりの絨緞。そして自分が寝ているフカフカのシングルベッド。一目で兵舎でないことを理解した。立派すぎる。
(夢でも見てんのか?)
そう思いながら頬をつねってみる。
「いてぇっ」
どうやら夢ではないらしい。とりあえず状況を把握しようと部屋を出る。外は見た事のある風景だった。
(これは……将校用居住区の廊下? なんだって俺はこんなとこで寝てたんだ?)
その時不意に背後から声がかかった。
「何をボサッとしとるのかね」
クルツは飛び上がりそうになるのを抑えて振り向くと、メガネをかけた痩せた中年男が立っていた。マデューカス中佐だ。
「いえ、あの、これは、その……」
「何を言っとるのかね? 早くしないと大佐殿への報告の時間に遅れるぞ、カリーニン君」
「はぁ!?」
突然妙な事を言われ思いっきり間の抜けた返事をしてしまうクルツ。
「どうしたのかね?」
「いや、どうしたかって聞かれても。俺ぁクルツなんスけど……」
「何を寝ぼけている!? さっさと行きたまえ!」
こめかみに青筋を立てて怒鳴られたクルツはようやく事態を飲み込んできた。
(つまり……俺があのおっさんに見えるってことか!?)
内心動揺しまくりながらも冷静さを装い、
「マデューカス中佐、重大なお話がある……あります。俺……自分の部屋に来て下さい」
と告げた。普段使わない敬語を使うのは、それだけでクルツを疲労させた。
「今からかね。私には用事があるのだが」
「手間は取らせません。すぐに済みます」
そういって部屋に入っていく。マデューカスもしぶしぶといった感じで入っていった。
数分後、事情を聞かされたマデューカスが難しい顔で立っていた。
「つまり、君はカリーニン少佐ではなくウェーバー軍曹で、気付いたらこの部屋で寝ていたと言うのかね?」
「そういうことになりますねぇ」
「信じられると思うか?」
「本人が信じらんねぇのに、まず無理だろうね。でもこいつは紛れもない事実さ」
「それを証明する事はできるかね?」
「証明……っスか。う〜ん……。そうだ、こないだテッサの私服姿の写真を取り上げられたっしょ。この事を知ってんのは俺とアンタだけのはずだぜ」
「むう……確かに」
ベヘモスの一件の後、メリダ島に帰る前にクルツがこっそり撮っておいたものだった。
その後のマデューカスのチェックですぐにバレたが……。
「とにかく、こうしていても埒があかん。とりあえず大佐殿のところへ行くぞ。君は黙っていたまえ。いいな」
「え〜?」
「この事が広まると後々めんどうだ。とにかく、大佐殿の部屋につくまでは静かにしていたまえ」
「ヘイヘイ」
こうして二人はテッサの部屋へ向かう事となる。


コンコンコン。
「マデューカスです」
「……あ、はい、どうぞ」
少し間があった事を不審に思いながらドアを開けると、またしても信じられないものを見た。そこにクルツ・ウェーバー本人が立っていたのだ。
後から入ってきたカリーニンもといクルツと、クルツの姿をしたカリーニンは、お互いに顔を合わせると、ほぼ同時に声をあげた。
「俺の体!?」
「な……! 私……!?」
あまりの衝撃に二人は凍りついた。
「ってこたぁ……、あんたがカリーニン少佐ぁ!? 一体どうなってんだよ!?」
「それは私のセリフだ、軍曹。今朝目を覚ましたらこうなっていたのだが。昨夜、君と別れてから何があったのだね」
「何って……。別に何もなかったぜ? そのままベッドに直行したから」
「なるほど、するとお前は昨夜、今朝のチェックをしなかったという事か」
「ギクゥッ」
冷静なカリーニンのつっこみにたじろぐクルツ。体が逆なのでかなり異様な雰囲気だった。唖然としているマデューカスをよそにテッサがおずおずと口を開く。
「あの、つまり……二人の人格が入れ替わってしまった……という事……なんでしょうか?」
ひどく自信のなさそうな声である。無理もない。空想の世界ででもない限り、こんな事は起こるはず無いのだ。
「マンガやドラマじゃねぇんだからよ。冗談じゃねえぜ、ったく」
文句たらたらでふてくされるクルツ。
「しかし、残念ながらこれは夢ではない。現実は受け入れるべきだ」
「そりゃ分かってるけどよ。大体、何であんたはそんなに落ち着いてられるんだ?」
「否定したところで何も変わらんからだ」
「……さては若くてカッコイイこのクルツ様の容姿になって喜んでるな?」
「……あまり調子に乗らん方が身のためだぞ」
「う〜ん、自分にそういうこと言われんのってなんか妙な気分だな」
「…………」
もはや何も言えないマデューカス。と
ココン。
突然、誰かがドアをノックした。
「あ、少し待って……」
ガチャリ。テッサの返事を待たずにドアが開く。
「ヤッホ〜。テッサ、いる? ……ってあら?」
声の主はメリッサ・マオ曹長だった。その場の全員の視線を浴びながら内心冷や汗をかきつつ入ってくる。カリーニン、マデューカスはともかく、何でクルツまで要るのか疑問に思いながらもそっとテッサに話し掛ける。
(ちょっと、朝の報告終わったら誰も来ないんじゃなかったの?)
(そ、それが、ちょっと……)
小声でそう言ってから敬礼をして部屋を出ようとしたが、その前に、
「ほら、クルツ、あんたも来るんだよ」
とその尻に蹴りを入れようとする。が、直前で止められ、足払いをかけられる。
「痛った……。あんた、何すんのよ!」
尻餅をついたままマオがくってかかる。
「落ち着きたまえ、マオ曹長。今の私はウェーバー軍曹ではない」
「はぁ? あんた何言ってんのよ。ついに頭をやられたの?」
「おいおい、姐さん。そりゃまずいだろ。中身は本物の少佐なんだぜ」
自分を止めたのがカリーニン(の姿をしたクルツ)であることを知ったマオは、驚きに身を固め、数秒前に自分が言った事に青くなる。
(え? どういうこと? 少佐がクルツでクルツが少佐? だとしたらあたし……今とんでもないこと……)
「あ、あの……し、失礼しました! じ、自分はその……だから……えぇっ!?」
混乱しまくるマオ。
「ま、気にするなって」
「はっ、少佐殿。って、違うっ! だからこれはクルツで……あぁっ、もう何がなんだか!?」
「お〜い、落ち着けってば、姐さん」
「これが落ち着いていられるかあぁぁっ!」
「君はもう少し冷静になったらどうかね」
「キーーーッ! その顔で言われるとむかつくぅっ!」
「あ〜あ、完っ全にプッツンしちまってるな、こりゃ……」
「わ、私が説明しますから、落ち着いてください……!」
この後、マオが落ち着きを取り戻すのに約一〇分ほどを要した。


……しばらくして、ようやく正気を取り戻したマオはまだぶつくさと文句を言っていた。
「本っ当、勘弁してよね。SFじゃあるまいし……」
「文句より、彼らをどうやってなおすかが先決だ」
ショックから立ち直ったマデューカスが冷静に告げた。
「それより大佐殿、今日の午後に予定していた演習はどうしますか?」
「こんな状況ではどうしようもないでしょう。今日の予定はすべて中止です」
「あ〜らら、宗介のやつ、また損しちまったな」
「その要因があんたにあることを自覚しなさいよ」
「んなこと言ったって、しかたねぇだろ? ワケわかんねぇうちにこうなってたんだから。大体俺一人じゃねぇし」
「何よ、その無責任な口調は!?」
「いでででで……!」
見かねてカリーニンが口をはさむ。
「やめんか、見苦しい。そんなことをしているひまがあれば解決する方法を考えろ」
「そういう少佐は何かいいアイディアとかねぇのかよ」
「あればとっくに実行している」
「う〜ん、テレビとかだともう一度同じ状況に陥ったら元に戻るなんてのがよくあるパターンなんだけど……」
「そりゃ無理だろ。寝て起きたらこうなってたんだから」
「じゃあもう一度寝てみたら?」
「しかし、それで上手くいくとは限らんのだろう? 貴重な時間が……」
「でも、何もしないよりいいかもしれませんね。それではカリーニンさん、ウェーバーさん、二人とも寝室に戻ってください。三時間後、もう一度皆さんにここに来てもらます。それでは解散です」
カリーニンとクルツがそれぞれ朝起きた部屋へと戻っていく。マデューカスとマオも仕事をしに戻った。一人になったテッサは机の引出しから胃薬を一錠取り出し、ため息をつくのだった。


……三時間後、まずマデューカスが来た。続いてマオとカリーニンがやってくる。しかし、カリーニンの部屋で寝ているはずのクルツがなかなか来ない。
「あのバカ……」
「どこへ行くのかね」
「クルツを起こしてきます」
しばらくして……
『〇×△÷◇+◎!!!???』
この世の物とは思えない悲鳴がした後、ぐったりとしたクルツを引きずってマオが帰ってきた。
「……一応、私の体だ。あまり無茶をしないでもらいたい」
「大丈夫です。外からは見えませんから」
「そういう問題ではない」
「くっそ〜、一瞬死神が手招きしてんのが見えたぜ」
「これに懲りたら次からは時間を守る事ね」
「かわいい娘とのデートだったら絶対に守れるんだけどなぁ」
「はいはい。それより、少佐の顔であんまりへらへらしないでよ。不気味だから」
「姐さんに顔の事言われたくないね」
「ほほぅ……。いい度胸してんじゃない!?」
「いいかげんにせんか、大佐殿の前だぞ……!」
「ハイ……」
「すんません……」
マデューカスの静かな威圧感に圧倒されて押し黙るマオとクルツ。
「残念ながらダメだったようですね。昨日カリーニンさんとウェーバーさんが最後に接触したのはいつですか?」
言われて二人は少しの間考える。
「ここのパブで……」
「閉店まで二人で飲んでおりました」
「その時何か変わった事は?」
「変わったことねぇ。っつっても、このおっさんがパブに来る事自体珍しいからなぁ」
「ウェーバー! 貴様、口を慎まんか!」
「確かに自分は滅多にあそこに行きませんが……しかし……」
「ウ〜ン……それだけじゃいくらなんでもねぇ……。そこで何を飲んだの?」
『スコッチを』
二人が同時に答えた。
「スコッチを?」
「……まさか姐さん、それのせいだってのか?」
「だって他になさそうじゃない。本当にそれだけなの?」
「そうだな……。あ、そうそう、珍しいと言っちゃ何だが、あん時少佐がおごってくれたな」
「ゲェッ!?」
「……その反応はどういう意味かね?」
「い、いや、本当、珍しいこともあるもんだなぁ、と思って……。ハハハハ……」
「結局これといったことはなさそうですね」
そう言いながらはちらりと時計を見る。
「まだパブは準備中の時間ですね。今のうちに現場検証に行くとしましょう」
そういってテッサは部屋を出る。残りの者もそれに従った。


「こんにちは」
「おや、めずらしい客だな」
テッサを見たマスターが驚いた表情になる。
「悪いがまだ準備中なんだがね」
「あ、違うんです。私達は飲みに来たんじゃないんで……」
「私『達』……?」
そう言った時、マオ達が入ってきた。にこやかだったマスターの顔が一気にしかめっ面になる。
「お前さんたち、ここが開く時間ぐらい知っとるだろう?」
「開店前にすまない。だが我々は飲みに来たのではない」
「ほぅ、すると今大佐が言ってた私達の『達』てのはお前さん等のことか」
「ええ、たぶんね」
「それにしても変わった顔ぶれだな」
そういうとマスターは、入ってきた時からずっと沈黙しているカリーニンに目を向けるとからかうように話し掛けた。
「おぅ、クルツ。さっきから何を黙っとる。お前は派手に騒ぐのだけが取り柄なんだ。あまり静かだと気味が悪いわい」
「……」
カリーニンはぴくりと片眉を動かしたが、それだけだった。クルツが口を開こうとするのを見たマオがつま先を踏みつけて黙らせる。そんな中、テッサが切り出した。
「さて、そろそろ本題に移りたいのですが。マスター、あなたに聞きたい事があります」
「何じゃね」
「昨日、カリーニン少佐とウェーバー軍曹がどこに座っていたか覚えていますか?」
「おお、それなら、ほれ、あの隅っこの席じゃ。あそこの席はSRT専用なんでな」
「それと二人が何を飲んだか、全て教えてほしいのですが」
「二人とも最後までスコッチしか飲まんかったと思うがの。……何かあったのか?」
「え、それは……」
ようやく、様子がおかしい事に気付いたマスターが逆に問い掛けてくる。事情を話してもよかったが、これ以上関係者が増えるのもめんどうだった。
返事に詰まったテッサを見てマオが助け舟を出す。
「ねぇ、そのスコッチ、何か怪しい薬とか入れなかった?」
「ばかもん! そんなもん入れるわけがなかろう!」
「じゃ、そのスコッチのボトル見せてくんない?」
マスターはまだ何かぶつぶつ言いながら奥に引っ込んだ。テッサがほっと一息つき、目線でマオに礼を言う。少しして、スコッチのボトルをぶら下げて帰ってきた。
「これがそうじゃ」
「ふ〜ん、特に何もなさそうね」
ボトルを観察していたマデューカスが何かに気付きマスターに尋ねた。
「マスター、ボトルの底に沈んどるそれは何かね?」
「む?」
そういわれてマスターは底を覗き込む。確かに何かが沈んでいた。よく見ると、それは小さなカプセルの様だった。それも半分溶けかかった……。
「む、こんなところにも入っとったか」
「それ、何の薬なんですか?」
「ん? い、いや、これはじゃな……そうじゃ、風邪薬じゃよ、ただの。ハハハハ……(汗)」
『……?』
ボトルの底に沈むカプセルの事を指摘されたとたん、いきなり狼狽しまくるマスター。一目でそのカプセルがただの風邪薬ではない事がわかった。
「正直に言いたまえ。本当は何の薬だね」
「そ、それがじゃな……、これは、その……大佐の部屋から持ってきた薬でな……」
「私の部屋から?」
「どういうことかね? 詳しく話したまえ!」
全員の驚愕と責めたてるような視線にさらされ、マスターはみるみる縮んだ(様に見えた)。
「い、いや、ほんの出来心でじゃな……。前にクルツが言っとった酒を入れてもらおうと大佐の部屋に行った時、机の上にこの薬のビンがあるのを見つけてな。ちょうど風邪気味だったんで……。風邪薬かと思ってもらっていったんじゃが」
「まったく。だからといって勝手に持っていくかね」
「いやぁ、お詫びに今度ジュースでも持っていこうと思っとったんじゃが」
「それで? 何でその薬がスコッチの中に入ってんの?」
「うむ、この薬をスコッチで飲もうとしたんじゃ。じゃがビンをひっくり返してしもうてな。中身をぶちまけてしもうたんじゃ。その時にボトルの中にはいったらしい」
「なるほど……ってマスター、あんた店の酒飲もうとしたの?」
「金は出しとるわい」
「どうだかね……」
「……で、あなたはそれを飲んだんですか?」
何故か青くなりながらテッサが尋ねる。
「いいや、あちこちに散らばってしもうたんでな」
「この二人以外にそのスコッチを飲んだのは?」
「こいつはクルツのボトルじゃでな。薬をばら撒いた日からはこの二人しか飲んどらんよ」
(人のボトルで薬を飲もうとしたんかい……!)
クルツはそう叫びたいのを必死で抑えた。そんな苦労も知らずに、テッサが安心した表情になる。
「そうですか。……なんにせよ、これで原因がわかりました」
「何の薬だったのですか?」
「え、それは……まだ言えません」
「…………」
マデューカスはあえてそれ以上詮索しなかった。
「それでは私はこの薬の解毒剤を作ります。おそらく今日中には間に合うはずです。少佐と軍曹は呼び出しがあるまで各自部屋で待機していてください。それとマスター。今日のことは絶対に誰にも言ってはいけません。そしてあなた自身もこの事は忘れてください。これは命令です。それでは解散」
そういってテッサはとことことパブを出て行った。


その夜、クルツとカリーニンはテッサの部屋に呼び出された。
「何とか間に合いましたね。これがそうです」
目の下にクマを作りながらテッサは二粒のカプセルをそれぞれに渡す。
「それを飲んで、今日はもう休んでください。明日には元に戻っているはずです。……それと念のために言っておきますが、今日のことは誰にも言ってはいけません。特にウェーバー軍曹は気をつけて下さいね」
「何で俺だけ?」
「……分かりましたね?」
「……はい」
いつもと違った迫力にクルツは思わず身を引く。
「さて、と。これで一件落着ですね。帰っていただいて結構です」
「はっ」
「へ〜い」
それぞれ返事をして寝室へと帰っていく。二人を見送った後、テッサは背もたれをきしませてイスに座り、ポツリとつぶやいた。
「はぁ……。いつのまにか無くなっていると思ったら……。せっかく作ったのに、『ミラ○ルクル○ル・人格交換剤』……」


翌朝、クルツが目を覚ますと、そこは見慣れた兵舎だった。
「も……戻ってる……。ハハ……ハハハ……。やった! やったぜ! ヒャッホウ!」
「うるせえっ!」
自分のベッドではしゃぐクルツに真下から怒鳴り声が返ってきた。
ほぼ同時刻。カリーニンもまた自分の部屋で目を覚ましていた。
(……戻ったか)
すこし伸びをして起き上がる。が、腹に激痛を感じ、わずかに顔をしかめる。何事かと服をめくって見てみる。
「…………」
そこには、マオのものと思われる拳の跡がくっきりと残っていた。

<大迷惑なエクスチェンジ〜クルツ⇔カリーニン編〜 終わり>


あとがき

どうもはじめまして。『真・ゲッター1.5』という者です。今回初めて小説書きました。
なんかキャラの性格がおかしい、とか、この人は絶対にこんなこと言わない、とか思うところは作者の力不足です。なにとぞお許しを……。あと、テッサが何のためにあの薬を作ったのかは今のところなぞです。ご想像にお任せします。
実はこの話、友人と話してるうちにだんだんと具現化していき、授業中に先生の目を盗んで書き上げたというそれはそれは大変な努力を要した作品なのです。その割に1話ごとが異様に短かったり、そのくせ話数がやたら多かったりするのは、あまり気にしてはいけません。きりいいところで切ろうとすると、どうしてもこうなってしまったのです。まあ、この次から解決していきたいとおもいます。それでは……。

 どだだだだだ……ビシィッ!
 ぐはぁっ! だ、誰だ! いきなり後頭部はたくのは!
 「やかましい! なんでこのあたしが出ないのよ!」
 ぬぅっ、現れたな、タイドリー・カヌム!
 「ちゃんと呼びなさい! それよりどうして『かなめ』の『か』の字もないのよ!」
 だってメリダ島の話だもん。出てきたらおかしいじゃん。
 「うっ、それはそうだけど……。じゃあ、次は出しなさい。いいわね!?」
 え〜? どうしよっかなぁ?
 「おい」
 うわぁっ!
 「何故俺の出番がないのだ」(ジャキッ、と拳銃をスライドさせる音)
 で、でてたじゃないスか、宗介さん……(汗)
 「名前だけな……」(ガシャッ、と手錠をかける音)
 な、何をするはなせ! はなしてくれ!
 「次の話にはちゃんと俺を出せ。さもなくば……」
 はい〜! 出す、出しますとも!
 「うむ、いいだろう。今回は見逃してやる」
 ……ふう、行ったか……。作者に対して何てことしやがる。絶対に出してやんねぇからな。
 ズギューン……!(遠方からの銃声)
 ぐほあぁっ! ば、ばかな……、まだいたのか……。ガクッ。
 ――作者音信不通のため、この辺で終わらしてもらいます。あ、感想とか(批判でもいいので)もらえると嬉しいです。
 では次回はかなめのハリセンがうなる……といいですね……。

真ゲッター1.5さん。有難うございますm(_ _)m。
今ではすっかり「キリ番ゲッター」としても、当サイトのお得意さまです。
これは管理人にもおなじみの「陣代高校生徒会室」さん投稿のものをひとまとめにして、こちらで少しばかり直したものです。直した、と言っても、両方を見比べないと多分わからないくらい微妙なものです。ご心配なく。
フルメタ1いい加減なクルツとフルメタ1ハードボイルドな男(管理人独断)カリーニン。人格入れ替えネタはよそで結構あったものの、意外となかったこの組み合わせ。着眼点はさすが。おみごとです。
どうせならもう少し二人の入れ代わった故のドタバタが見たかった気もしますけど。
――管理人より。


文頭へ 毒を喰らわば一蓮托生へ
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