コーラン&ナカゴが語る

『魔界の諸注意』


ナカゴ:私は魔界治安維持隊人界分所所長を務めます、ナカゴ・シャーレンと申します。
コーラン:サイカ・S・コーランです。
ナカゴ:今回は、私達が魔界の事についてお話致します。
コーラン:「魔界」と云っても、人界の人が想像するのは多分「悪魔の住む世界」ってところでしょうけどね。
ナカゴ:それは完全な偏見です! 確かに遥か昔はそうだったらしいですけど、今は全く違います。魔界に住んでいる私達も、人界の方々と何ら変わらない生活を送っているんですよ。
コーラン:遥か昔は悪魔の住まう「人界の人々が想像する魔界」だったけど、今は人界からの移住者、神界からの出奔者、そして元々の住人達の間でかなり混血が進んでいるから、人界の人と大差ないのよね。
ナカゴ:確かに人界の人よりは能力の平均値が高くて、生まれつき魔法が使える人も多いんですけど、あくまでも「平均」ですからね。
コーラン:そういう事。ちなみに私は位の低い火の神が祖先。ナカゴは鉄の神が祖先だけど。
ナカゴ:だから偏見の目で見られる事も多いです。私達だって人界の人とそんなに違いはないのに。
コーラン:魔界では人界の人と魔界の住人をまとめて「シォイド(神に似た者)」と呼ぶんだけど、まず人界の人は使ってくれない単語ね。
ナカゴ:私達治安維持隊は、この単語を浸透させようと努力はしてるんですけどね。なかなか難しいんですよ。
コーラン:でも、シャーケンの町を始めとして、魔界の治安維持隊の分所がある町ではいくぶんマシかな。だから魔界の住人が集中しやすいんでしょうね。

?魔界に行くには?
コーラン:魔界の概要を語っておきましょうか。ナカゴ、お願い。
ナカゴ:文章でずら〜っと書くとかえって判りずらいと思うので、箇条書きにしました。

宗教…人界でいう国教は特にない。しかし、各地域で様々な宗教が信仰されている。
言語…公用語として魔界の共通語。殆どの地域は対応可。もちろん各地域や種族で使う言葉もある。
通貨…PT(ぷっと)。1PTは約2.5EM。
出入界…人界から魔界へ来るにはパスポートが必要。人界の人の場合は保険証の提出を命じられる。
旅行者の場合滞在できるのは十四日間。それ以上はビザがないと『不法滞在者』として、問答無用で刑務所行き。
検疫…不要だが、霊風対策としてあまりに体調の良くない人は入界を断わられる事がある。
税関…荷物検査と身体検査を念入りにされる。人界を出る時に一回と魔界に入った時一回。魔界を出る時に一回と人界に入った時一回。
麻薬や各種武器類は持込・持出禁止。ただし、武器類に関しては所持許可証があれば大丈夫。
水源が少ないので水は「貴重品」扱いとなり、人界からは一人二リットルまでしか持ち込めない。魔界からの持出は、土産物を除けば厳禁。

……となってます。
コーラン:順に解説していくと、国教がないのは仕方ないのよ。各地域や種族で信仰されている宗教の数が多すぎて、どれか一つに決められないから。決めるためには間違いなく魔界が崩壊する規模の戦争が起きかねないし。
ナカゴ:でも、倫理的に常軌を逸していたり、無意味に生け贄を要求する宗教などは弾圧の対象になります。
コーラン:私も魔界にいた頃、そうした宗教団体の制圧任務をしたけど……主義主張が違い過ぎるからなかなか進まなくてね。大変だったわ。
ナカゴ:言葉も一応共通語がありますけど、たいがいの人は共通語と自分の種族の言葉と二つ扱えます。
コーラン:いろんな種族が雑多に暮らしてるから、二つ以上使えないと生活できないしね。でも、共通語しかできない人というのはたまにいるわよ。でも、人界の言葉が判る人は少ないから注意してね。
ナカゴ:魔界への入界手順としては、まずパスポートとチケット・保険証を提出して、偽造された物でないかどうかチェックを受けます。
それが済むと税関で荷物検査と身体検査が待っています。機械と魔法と人の手で念入りに調べられます。荷物検査はそれこそ荷物を全部出して一つ一つチェックされるし、身体検査も全身くまなく調べられます。乗客と同性の係員がやるのでご安心を。そのあと魔界の霊風を始めとした、魔界の事について説明があります。
コーラン:魔界の霊風というのは、簡単にいうなら「エナジードレインの風」。この風を受けると生命エネルギーを吸い取られるわ。一日に一回、もしくは二回。十数分くらい吹くけど。
ナカゴ:今は天気予報よろしく「何時何分頃霊風が吹きます」って予測できますが、昔はそれすらできなくて、魔界の住人の中でも犠牲者が出たんです。
コーラン:元々魔界生まれの人はある程度の耐性はあるけど、長時間は無理だしね。人界からの数少ない観光客は……下手すれば一瞬で昏睡状態よ。
ナカゴ:この説明の時、一週間先までの予測表をもらえますが、それを過信しないで外へ出る直前は必ず予報を見てから出かけて下さい。ホテルや商店では、この予報の掲示が義務づけられてますので。
それが終わると、順番に魔界へワープするトンネルを行く事になります。距離にすれば約二キロ。でも徒歩での移動はできないので専用の送迎バスに乗る事になります。バスと言ってもだいたい二〇〇人くらいは平気で乗れます。なお、窓はないので車窓風景の撮影はできません。
コーラン:そして送迎バスを降りたら、再び荷物検査と身体検査があるわ。また機械と魔法と人の手で念入りに。パスポートとチケット等も同様ね。それが済めばあとはほとんど放任状態。「どこでも好きなところへ行け」とばかりにね。
ナカゴ:麻薬や武器は人界の人も判るでしょうけど「水」は「あれ?」なんて思うんじゃないでしょうか。
コーラン:まぁ……無理もないでしょうね。魔界じゃ果汁飲料やお酒の方が、下手すれば水より安いから。
ナカゴ:ええ。魔界は人界に比べて水源が少ないので「貴重品」扱いなんです。たくさん持っていると襲われかねません。冗談抜きで危険です。人界から正規のルートで輸入している業者が襲われたり、非合法な手で密輸をする事件があとを絶ちませんから。
コーラン:水以外は人界間の旅行でも変わらない注意だと思うけどね。

?魔界って、どんなところ?
ナカゴ:魔界は大きく分けて7つのエリアに分けられています。各エリアは人界でも有名な方々の名前がつけられて、同じ名前の王がいます。
政治・経済の中心地「ルシファー」。唯一海がある「リヴァイアサン」。「食」で有名な「ベルゼブブ」。魔界で一番の歓楽街がある「アスモデウス」。有名な避暑地である「ベルフェゴール」。魔界の工業地帯「マモン」。火山が多く温泉もある「サタン」
これは、遥か昔の「悪魔」達の中でも強い力を持った者と言われています。人界の古い資料には「七つの大罪を司る者」なんて言われてますけど、ホントなんですかね?
コーラン:真実は定かならず。それが定められてから気が遠くなるような年月が経ってるから。治める王も無論本人って訳じゃないけどね。名前を受け継いでいるだけ。名前が同じだから今でも「魔界には悪魔がいる」って人界の人は思ってるのかしらね。
ナカゴ:おかげで人界での捜査の時、すごく怖がられるんですよ。いくら説明しても判ってくれないんで。
コーラン:そういう偏見を無くしていくのも、あんたの仕事でしょ?
ナカゴ:はい、すみません。
コーラン:話を戻すけど、基本的にエリアに分けられてはいても、人界のように「国」という感じではないの。一つの国を七分割して治めている、という感じかしら。
ナカゴ:だから、基本的に政治は七エリアが話し合い、それで方針が決まります。確かに細かいところは各エリアの王が独断で決めちゃいますけど。
コーラン:このへんの話し合いは人界の国と変わらないわね。一番大変なのは飲み水の確保。自然環境が違い過ぎるから肥沃な大地なんてほとんどないし、水も少ない。何度となく戦も起きてるしね。
ナカゴ:もちろん水が全くない訳じゃなくて、濁った水が多いんですよ。そのまま飲むのは危ないかな、というくらいの。これでも人界の科学技術の提供で、以前に比べればだいぶ水源は増えてるし、水も綺麗になってるんですよ。水道完備率だって魔界全体で五一%にまで上がってますし。「そのまま飲める綺麗な水」が少ないだけなんです。
コーラン:魔法で巨大なクレーターを作るのは簡単だけど、井戸を作るために局地的に狭い部分を何キロも掘るのは、やっぱり辛いしね。それに命を奪う「霊風」も吹き荒れてるし、住みやすい環境でない事は確かね。
ナカゴ:けどサイカ先輩。一応故郷なんですから、そこまで悪し様に言わなくても……。
コーラン:事実は事実。

?魔界の、楽しいところは?
コーラン:だから、魔界の人々の「楽しみ」となると、必然的に屋内になるわ。
ナカゴ:人界風に言うのなら「ショッピング・モール」って言うんでしょうか。こちらでは「カジノ」って呼びますけど、それだと人界の「カジノ」と混乱しますね。
コーラン:確かにいろんなお店や賭け事もあるけど、スポーツのできる屋内運動場の方が多いかな。そこで汗を流すのが普通ね。子供はスポーツ、大人は賭け事かな、多いのは。
ナカゴ:賭け事といっても現金でチップを買い、それを増やして物品と交換するシステムです。現金への交換は厳しく禁止されていますし、一回の利用で購入できるチップの量は、法律でしっかり決まってます。
コーラン:もちろん余ったチップの預かりもやってるしね。そういえば、私のチップはまだ預ってくれてるかな?
ナカゴ:さすがに二〇年近く利用しないと処分されてるんじゃないでしょうか。
コーラン:……残念。もちろん最近は人界の影響で映画館とかミニ遊園地みたいなものあるけれど、数自体は少ないわね。
ナカゴ:屋外にあんな大きな遊園地があるのは、人界へ来て初めて知りましたし。
コーラン:魔界にあんな屋外施設作れる訳ないしね。
ナカゴ:あと食べ物は……人界の人はちょっとダメかな。ホテルで人界の人用のを食べた方がいいと思います。人界の物と比べると水気がなくて味つけが大ざっぱすぎるから。昔に比べたらかなりマシにはなっているんですけど。
コーラン:魔界の帰昔(きせき)祭の時に昔ながらの料理が出るけど、あれは今の魔界の住人ですらキツイしね。そこがイイっていう人もいるんだけど。
ナカゴ:それから何より気をつけてほしいのが、魔界の法律。基本的な部分は人界と大して変わりません。けど、こっちでは一般人でも銃火器の所持が認められるので、強盗にズドンとやられる可能性はあります。
コーラン:あんたね(汗)。一番違うのは、やっぱり「水」に関する事ね。いくら水道完備率が上がったとはいっても、魔界では水は貴重品。しつこいくらいの「節水」が求められるわ。
ナカゴ:魔界の中流ホテルの場合、一泊で五リットルまではタダだけど、それを越えると部屋代とは別に水代を請求されるから要注意です。一リットルあたり部屋代の倍は請求されちゃいます。魔界の水道は、人界の物以上に何度も何度もろ過と消毒をくり返すので、どうしてもコストがかかるからなんです。
コーラン:もっとも、魔界は人界のようなバスルームよりは、共同浴場のサウナを使う方が一般的だから、部屋でそこまで水を使うケースは少ないけど、それを知らないでトラブルを起こす人界の観光客もいるからね。
ナカゴ:ちなみに共同浴場は街には必ず一つはあります。高いところでも一回一〇〇PTくらいですからそれほど懐も痛みませんし、こうした共同浴場には様々な街の情報を売ってくれる人が必ずいますから、そうした人と話してみると結構収穫があります。意気投合してタダ同然でガイドしてもらった、なんて話も多いですから、損はしませんよ。
コーラン:ニセ情報や高額の情報料をふっかけられる心配もないわ。そこにいるのは王が許可を出した情報屋だから。こんな事をしたってのがバレたら、資格剥奪の上に極刑が待ってるしね。でもニセ情報屋に引っかからないように。共同浴場のカウンターで聞くのが一番ね。
ナカゴ:魔界の法律は人界の物と比べて刑罰がずっと重くなってます。人界なら罰金だけで済むような軽い犯罪でも、魔界では数日の拘留刑くらいにはなります。おまけにこれは人界からの観光客でも適応されてしまいます。「知らなかった」じゃ許してくれませんよ。
コーラン:出発前の魔界の説明を受ける時にしっかりと聞いておく事。自分の身を守るためにもね。
ナカゴ:自分の身は自分で守るのが、魔界での基本です。せっかく来るんですから楽しんでもらいたいですけど、それと隙だらけになるのは違います。
コーラン:そういったところを気をつければ、そんなに危険なところではないわ。
ナカゴ:そうです。魔界も結構、いいところなんですよ。

——Cyca S Corran & Nakago Schalen

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