E−2794 シャドウが語る

『シャーケンの町』


自分は開発コードE−2794。戦闘用特殊工作兵でシャドウと呼ばれている。
今回、自分達が暮らすシャーケンの町の説明をする様依頼された。
話術は得意分野では無いが、宜しく頼む。

シャーケンの町は漁業と他国との交易で栄える港町。海と森とに囲まれた一地方都市だ。
誤解が有るのだが、シャーケンの町は首都ではない。此の国の首都は別にあり、スピカという名だ。
総面積は657.23平方キロメートル
そちらでも判る様に説明をするのであれば、東京都23区全部(621.22平方キロメートル)より少々大きい。
この面積には先程挙げた森や巨大な港や倉庫街も含まれる。其れを除けば450平方キロメートル程だ。

気候は暖かいと云うよりは暑い。
夏と冬の気温の差が平均15度だが、四季の区別が際立ってはっきりとしている訳では無い。
春と秋にあたる期間が短いため、急激な変化と受け取られる為だ。
1年を12ヶ月に分けると、春と秋は約1ヶ月。冬は3ヶ月。残りは夏だ。
だが夏の平均気温は29度冬の平均気温は15度。特に夏季は海からの風が湿気を帯びて来るので気温よりも暑く感じられるが、過ごし難い温度とは言えない。

町の人口は前年度の資料によると389,123人。此の数字はシャーケンの町に「住人として」登録されている人数だ。仕事等で周辺の町や村から来ている者を含めれば、人口は最大で230%程になると推測されている。
人種の内訳は、人間が80%、亜人種が10%、魔族が10%(此の国としての割合が人間が90%、亜人種が10%、魔族が0.1%)。
魔界治安維持隊の分所が有る為、他の町と比べても魔族の人口比率が極端に高いのが特徴だ。
此の国に住む魔族の殆どがシャーケンの町に住んでいるのだから当然だ。
魔族相手に魔界から取り寄せた物品を売買する輩も多く、人間の魔術師等も多く訪れている。
異文化の衝突は騒動の元。昔から此の町で規模の大小を問わず騒動が絶えない最大の理由と云われている。

国内の宗教はクレアート神信仰が60%、ラピアス神信仰が30%、その他の神の信仰が10%
しかし、此の町のみの割合になると魔族や亜人種が居る為か、クレアート神信仰が50%、ラピアス神信仰が20%、その他の神の信仰が30%、とかなり変動する。
人類の宗教はあらゆる文化の根源だ。多種多様な種族や民族が各々の宗教と文化を持ち寄るのだから衝突と騒動も止むなしと判断できる。
少しでも衝突を避ける案なのか、此の町では各種族毎の住居中心の区画と、全種族共用の住居・商業半々の区画とに分けられている。だが大多数の者は全種族共用の区画に住んでいる。
騒動が絶えないのは事実だが、此の町の住民は異文化同士の接触を怖がっていない。むしろ他の地域と比べればかなり積極的だ。
異文化の接触がもたらす物が「騒動」や「衝突」だけではない事を生活の中で理解しているからだろう。
現に此の町の名物料理の1つに数えられている「白身魚の香葉包み焼き」に必ず使われる香辛料の一部と香葉という植物は魔界原産。異文化同士の接触がもたらした平和な例だ。
此の町に住む者は、騒動にならない程度に自分達の種族・民族の文化を曝け出して生活を送るのが、此の町に於ける「文化」であると云うのが、賢人の見方らしい。

シャーケンの町にある観光名所は皆無。だが交易の町である以上訪れる人は数多い。
様々な種族・民族が入り交じる市場に買い物に来る者も多い。
先程述べた「白身魚の香葉包み焼き」の様に、漁業の町でもあるから「名物」と呼べる物は海産物が多い。
生憎自分は料理を食せる構造ではないので味は判らないが「白身魚の香葉包み焼き」は数多く注文が有るのだから、好まれていると言って良い。
他にも魚の内臓から抽出したエキスに魚の切り身を漬けた物を太陽光線に浴びせて乾燥させた「切り身の干物」も人気が高い様だ。米から製造した酒に良く合うと云う評判も聞く。

此の町にはタクシーもあるが、町の中での基本的な交通手段はバスか地下鉄だ。無論港町故の運河も有るが、こちらは交通では無く貨物運搬が殆どだ。交通に使う事は稀だ。
シャーケンの町には、バスが走る通りが全部で50本ある。町の東西を行くバスが20本。町の南北を行くバスは30本ある。
バスは同じ通りを1日に何度も往復して走る。勿論1つの通りにバスが1台しかない訳ではない。
道路の渋滞の具合にも因るが、10〜20分間隔でバスが来るタイム・スケジュールだ。
別な通りへ行きたい場合は、別な通りと交差する停留所で降りて、その通りのバスに乗り換える事になる。しかし、料金は1回100EM(えむ)で統一されているので、あまり騒がれる事は無い。
地下鉄は大小2つの環状線と、2つの環状線を一直線に結ぶ路線が2本。合計4本。駅は16カ所(各環状線で、東西南北・北東南東北西南西の8駅がある)のみ。
地下鉄の車両には魔族の技術提供によって開発された魔術が併用して使われており、音も静かで振動も少ない。こちらは約15分間隔のタイム・スケジュールだ。
内側の環状線は総距離約70キロメートルで、1周するのに約60分(平均時速70キロメートル)。
外側の環状線は総距離約125キロメートルで、1周するのに約90分(平均時速80キロメートル)かかる。
そちらでも判る様な資料を出すならば、都内山手線の場合駅数は29。総距離は34.5キロメートル。1周するのに約60分。これと比較すると違いが判るだろう。
地下鉄の料金は一律250EMとバスに比べてかなり格差があるが、バスと違って渋滞が無い事と、魔術が使われた珍しいタイプの車体乗りたさに利用する者も多いと聞く。
料金が統一されているので、交通機関用にと100EM硬貨と250EM硬貨が特別に作られている。
地下鉄の自動改札だけは切符だけでなく250EM硬貨専用の投入口も有り、切符ではなく硬貨を入れて改札を通るのが「通」だと云われている。一律料金なので、駅から出る時のチェックはない。
地上を走る鉄道も勿論有るが、これは町から町へ移動する目的の物で、此の町にも駅は1つしかない。こちらは距離に応じて料金が変わるタイプだ。
後は船での交通になるが、これは他国へ行く船が殆どだ。
それから、この町に飛行場は無い。この世界で旅客機の停泊する飛行場が有るのは首都だけなのだ。

この位で良いだろうか。役に立っていれば良いのだが。
もし君達がシャーケンの町を訪れた時は、怖れずに町の人に話しかけてみる事だ。
人間のコミュニケーションは其処から始まるのだ。

——Shadow (E-2794)

文頭へ メニューへ
inserted by FC2 system