「……特に大きな事件はナシ。世の中平和で結構結構」
さっき届いた新聞を、朝食のトーストをくわえたままじっと見つめるグライダ・バンビールは、地元のニュース欄の見出しを見て、くわえていたトーストを思わず離してしまった。
「食べ物は粗末にしない事」
すかさずトーストを股でキャッチした彼女を見て、同居人のコーランが静かに言って、紅茶をすする。
「コーラン。これ見て、これ」
グライダはトーストをくわえ直すと、自分がびっくりした見出しを彼女に見せる。
「ねーねー、セリファにも見せて〜」
グライダの後ろから飛びついたのは妹のセリファ・バンビール。セリファはそのまま新聞をのぞき込む。
「あー。シャドウが新聞にのってる〜」
そこには、瓦礫の中で撤去作業をする人々の写真が載っていた。そこに、見知った人物が写っていたのだ。
しかし「人物」というのは、ある意味では間違っているのかもしれない。その「シャドウ」というのは「人間」ではないからだ。
もちろん、この世界には「人間」以外にも人型知的生命体は存在する。
代表的な者で妖精の流れを汲むエルフ・ドワーフなどの亜人種。異世界の住人である魔人・魔族。
各固体数は多いとは言えないが、詳しく数え上げればキリがない程だ。
しかし「シャドウ」は、これらの人型生命体のどれにも属さない。いや。「生命体」ですらない。
何故なら「シャドウ」は機械体。いわゆる「ロボット」であるから。
「生き埋めの人を総て助けたロボット」
シャドウは、瞬く間に時の人(?)となった。
世界で最も不可思議な港町として名高いこのシャーケン。
ここにも、朝はきちんとやってくる。
同時に、面倒な騒動までやってくる。
平穏な日は、一日としてなかった。
この広い町のどこかで、必ず誰かがはた迷惑な騒動を引き起こし、巻き込まれるのだ。
だからこそ、ここへ来れば——どんな職種であれ——仕事にあぶれる事はない、とまで云われている。
そのシャドウは、今日も瓦礫の中で撤去作業を続けていた。
数日前に起きた地震によって、古くからある大聖堂の三分の一が崩壊したのだ。建てられてからかなりの年数が経ち、老朽化が進んでいた事が一番の要因だった。
この辺りはあまり地震の起きない地域だから驚いて逃げ遅れた人もいたが、それにしては被害は少なく、撤去作業も意外な程順調に進んでいる。
総て、シャドウの功績だった。
老朽化した聖堂を補修するか改築するかの相談で、シャドウが雇われている建築会社がここに来ていた事も幸運だった。
知らせを受けて急行したシャドウは、自分のメモリーの中にある「地震が起きた時の対処法」にのっとり、戦闘用特殊工作兵であった知識も総動員し、テキパキと指示を出した。
ただ指示を出しただけではない。どこから手をつけたらいいのか。どの瓦礫を、どのように撤去すればいいか。どこに人が埋まっているか。それら助けた人の応急処置……。
普通なら一日以上かかるであろう作業を、わずか半日程で終了させたのだ。埋まっていた人は総て救助され、病院に収容された。
さすがに瓦礫の山の方はまだまだ残っている。建物を取り壊す手間が省けた、と建築会社の皆は笑って作業を続けていた。
「いーね、お前は。一躍有名人」
昼休み中にやってきた雑誌のインタビューに答えていたシャドウに、同じくアルバイトで来ているバーナム・ガラモンドが声をかける。
ロボットであるシャドウには顔の表情というものがないのでよくは分からないが、彼には人間と同様の「感情」がある。
機嫌がいいわけではない、という事は何となく伝わってきた。
「しかし、何度も同じ事を答えると云うのは理解出来ない。一度で済まないのだろうか」
「そう言うなよ、シャドウ!」
「ついでにウチの会社の宣伝頼むよぉ」
シャドウの答えを聞いた誰かが口を出す。
「建設現場に機械がある事は、当たり前だ。人型の建築機械も珍しくない。彼等は、建築機械の取材に来ている様な物だ」
「違いますよ、シャドウ。それは、あなたの行動が評価されたからですよ」
両手に紙コップを持って現れたのは、瓦礫の撤去作業場の雰囲気には似合わない神父の略式礼服の青年。
「クーパー。昼休みに説教する気か?」
クーパーと呼ばれた彼、オニックス・クーパーブラック神父は、持っていた紙コップをゴロリと寝転がったバーナムに渡すと、
「生き物にとって、『生命』はとても大切な物で、同時に尊い物です。その大切な物をあなたは救ったのです」
そこまで言って、皆の注目が集まるのを確認すると、言葉を続けた。
「しかし、生き物総てが、救うという行動をとる事ができるわけではありません。ですから、『命を救う』という行動は皆の注目を集め、高く評価されるのです」
教会の説法の様に優しい口調でシャドウに語りかける。さすがに堂に入ったものだ。
「……ほう。若き神父の説法ですかな」
そこに現れたのは、彼の三倍は生きているであろう老人だった。
彼は、聖堂の長を表わす、真紅のたすきの様な布を肩にかけている。
「あ、これは司祭様」
クーパーは彼の前にひざまずき、右手を左胸に当てそのまま頭を下げる。身分の高い僧への挨拶である。
「いやいや。礼儀正しいのは良い事だが、今は良かろう。クーパーブラック神父」
年を感じさせぬきびきびとした動きでシャドウに近づくと、深く頭を下げた。
「シャドウ殿。貴方のこの度の働き、皆も非常に感謝しております。神も、きっと貴方の行動を喜んでおられる事でしょう」
しかし、シャドウの方は淡々としたまま、
「自分はただ指示を出しただけに過ぎないし、そんな事は誰にでも出来る事だ。感謝の言葉は、建設会社の人間全員に言うべきだ。彼等が居なければ、時間はもっとかかっていた」
シャドウはあちこちで食事をとっている皆の方を見て言った。
「自分は人間ではないから、命の重みや尊さといった物は分からない。しかし、人が死ねば、悲しむ者が出る。それは良い事ではない」
その言葉に司祭は微笑み、
「貴方のおっしゃる通りですな。『悲しむ人を出したくない』。貴方は、人間よりも人間の優しさを知っていらっしゃる」
「一応戦闘用ロボットだろ、お前? 矛盾してんじゃねぇか、それ?」
バーナムが大あくびをしながら口をはさむ。
「確かに。自分は、戦闘用特殊工作兵。こんな事を言っても、説得力はないな……」
シャドウ静かに、そして悲しそうに呟いた。
この世界にはきちんと「神」が存在し、沢山の神がいる、いわゆる多神教だ。
日本の八百万(やおよろず)の神のように「総てのものに神が宿る」という訳ではないが、その数は多い。
中でも信者が多いのは、神話の中の主神にして創造神である『エカム・エダム・クレアート』。
その創造神の妻にして、平和と喜びを尊ぶ女神『エキャエップ・ヨジ・ラピアス』。
その息子にして、戦いと勝負を司る勇気の神『エルッタブ・エマグ・バーレル』。
同じく息子にして、知恵と知識を司る真実の神『モドシゥ・エグデルウォンク・ムウィスタ』。
同じく娘にして、美と芸術を司る愛の神『イトゥアエブ・トラ・アルト』の五柱の神。
そして、以上の神をまとめて「五大神」という呼び方をされる程だ。
それ故に、同じ聖職者でも信じる神によって宗派が変わるし、同じ神を信じる者の中にも、教えの解釈によって派閥めいた物がいくつもある。
この聖堂の司祭とクーパーの教会は、信じる神はエカム・エダム・クレアートなのだが派閥は全く違う。
しかし、違うといえども「同じ神」を信じる者同士。細かいいざこざは絶えないが、争う事の無意味さといざこざが結局は何も生まない事を「一応は」理解している。
もっとも、全員がそうだというわけではないのだが……。
「……司祭様。こんな所におられたのですか」
ずいぶん体格の良い中年の神父が声をかけてきた。クーパーの物と同じデザインの略式の礼服だが、彼と違うのは左胸に信仰する神・クレアート(儀式以外では最後の部分のみで呼ぶのが通例)と宗派を意味する神聖文字が一文字ずつ刺繍されている所だ。
その男は自分達の派閥ではないクーパーをジロリ、と睨みつけると、
「これはこれは。確か、クーパーブラック神父でしたな。有名な破戒僧の」
「そんな事を言うものではない!」
司祭がきつい口調でたしなめる。だが、彼はかまわず続けた。
「だいたい神と宗派を表わす神聖文字を刻まぬ礼服が、その確固たる証。聞く所に因れば、呪われた剣を振るうとか。それが破戒僧でなくて何だと言うのだ」
「剣を振るう者が破戒僧なのではない。そんな事も分からぬのか!」
司祭が彼を諌めるが、聞く耳持たんといった風情で睨みつけている。
剣の所持や使用は、別に禁じられているわけではないが、聖職者は持たないというのが一般的な常識になっている。その事を言っているのだ。
「いえ、いいんですよ。似たようなものです」
クーパーの笑顔が少しばかり曇ったが、いつも通りの調子で答える。
「それに、お前もお前だ。我々の同胞を助けた事は感謝するが、機械の分際でいい気にならないでもらいたい」
彼の攻撃の矛先はシャドウに向けられた。
「機械は人間の為にある物だ。だから、人間の役に立って当然。こんな大騒ぎをする事自体が間違っている!」
「騒ぎ過ぎている事については同感だな」
挑発の意味も込めた彼の言葉に全く動じていないシャドウの台詞に、彼は一瞥くれただけだった。
「もういい。お前は持ち場に戻っておれ。私も後から行く」
司祭の言葉が終わらぬうちに、ふん、と鼻を鳴らすと、その男は足早に去っていた。
「……申し訳ない。クーパーブラック神父、シャドウ殿。彼は、自分と違う宗派の者を敵対視する傾向が強いのです。それはいけない事だと常々教えているのですが……」
司祭が深く頭を下げる。
「宗教やるのも楽じゃないねぇ」
今までのやりとりを珍しく黙って見ていたバーナム。別に特定の神を信仰しているわけでもない彼から見れば、異宗派同士の争いなど馬鹿げた話でしかない。
「何を信じようがこっちの勝手だろうが。神だって悪魔だって同じようなモンなんだし。こういう事は強制するもんじゃねぇだろ」
バーナムは権力とか信仰といったものには関心を持たない。だから、その神を信じる者を目の前にしても遠慮なく自分の言いたい事を言うだけだ。
さすがにクーパーがバーナムを止めようとしたが、司祭の方は怒った様子はなく、
「普通なら『冒涜するな』と言う所だが、宗教の信仰というものは、そういったものなのかもしれない。自分の信じていないものは、どんなに尊いものであっても、結局は……いや、これは私が言う言葉ではなかったな」
司祭が自嘲気味に笑みを浮かべる。自らの信仰を自分の手で否定する事になりかねないのだから。
彼はそのまま皆に頭を下げ、去って行った。
そこに、昼休み終了を告げるサイレンが鳴らされた。
「……ところで、その薄気味悪い、声を殺した笑いは、やめてもらえないかしら?」
コーランが目の前で惚けたようにフフフと笑う人物に向かって静かに言った。
「……え? 何ですか、サイカ先輩?」
コーランは、あまり好きではないファーストネームを呼ばれても動じた様子はないのだが、如何せんこの笑い声には我慢できかねるようだ。
その人物とは、魔界治安維持隊(まかいちあんいじたい)人界分所所長ナカゴ・シャーレン。彼女の元同僚にして後輩である。
「それで、先輩。持ってきてもらえました?」
コーランは無言でいくつかの雑誌を彼女の前に放り出すように置いた。
「あ〜ん。シャドウさぁ〜ん♪」
シャドウが表紙を飾っている地元雑誌に頬擦りをするナカゴ。それを見て「ついていけない」と冷めた目で見つめるコーラン。
そこでドアをノックする音がして、誰か入ってきた。
「所長。……あ、サイカさんもいたんですか」
二人のいる所長室に入ってきた顔馴染みの所員が、コーランにすがるように情けない声を出す。
「サイカさんからも何か言って下さいよ。ウチの所長。その機械人形の記事が出るようになってから、全然仕事しないんですよ」
「機械人形じゃなくて、ロボット! 戦闘用特殊工作兵!」
機械人形という呼び方が気に入らないらしく、ピッと鋭く反応を返す。
「シャドウさんくらいになると、もう芸術品と言っても良いくらいなんですよ! あの完成度とスマートさと言ったらもう……」
うっとりとした目で周囲を見回す。
実は、所長室の壁という壁には、極限まで拡大したシャドウの写真のコピーが何枚も貼ってある。下手なアイドルと何も変わらない。
「それはいいから、仕事は疎かにしない事。もうすぐ会議じゃなかった?」
「え!? もうそんな時間なんですかぁ。それじゃシャドウさん。行ってきますね〜」
部屋に貼られたコピーに手を振り、二人で部屋を出る。ナカゴは会議室に向かったが、コーランはそのまま分所を去った。
「大丈夫なのかしらね、あの子」
心配そうに建物を見つめるコーラン。そこに、グライダとセリファが通りかかる。
「あ、いたいた。コーラン。……ナカゴさんの所に行ってきたの?」
「ええ。相変わらずだったわ」
「ねーねーコーラン。これからシャドウのとこに行くの?」
セリファがニコニコ笑顔のまま彼女に飛びついて尋ねる。彼女がそうだと言うと、
「じゃあじゃあ、おみやげもって行こ」
「おみやげ? ああ、差し入れの事?」
コーランはそう言いながら少し考える。
「でも、シャドウはロボットだから、食べ物も飲み物もいらないし、何を持って行くのよ」
確かに、横から口を出したグライダの言う通りだ。
ロボットであれば燃料を持って行くという手段も考えられるのだが、シャドウは構造上「燃料」を必要としない。考えていたコーランもますます困ってしまった。
「そうねぇ。シャドウは魔力が動力源だし……。だからといって、魔力はその辺のお店では売っていないし……」
確かに、魔力を人工的に造り出す事は現在の技術では不可能。自分の持つ魔力を他人に分け与える術もあるのだが、シャドウの構造上それはできないのだ。
シャドウの心臓部には「ストーンキュー」と呼ばれる魔力の詰まった魔法石がある。この石の中の魔力は、一定の時間が経過しない限り回復しない仕組みになっている。
「う〜ん……」
今度は、三人揃って悩んでしまった。
次の日。セリファは一人でその現場に来ていた。
もちろん「関係者以外立入禁止」の柵の中に入る事はできないが、作業の様子を眺めるくらいはできる。
瓦礫もだいぶ片づいている。しかし、建物の一部を欠いたままの姿というのも痛々しく感じる。そんな建物の痛々しい姿を、グライダのぬいぐるみを抱いたまま悲しそうに見つめていた。
「どうしたのかな、お嬢ちゃん。危ないから離れていなさい」
セリファの後ろから老人の声がする。彼女が振り向くと、そこにはこの聖堂の長の司祭が立っていた。セリファは彼に尋ねた。
「このたてもの、おじちゃんのなの?」
「いや。この聖堂は私の物じゃない。みんなの物だよ」
「あのたてもの、いたそう。だから、すっごくかわいそーなの」
セリファは目に涙を潤ませて、まるで訴えるように司祭に言った。
「建物」が「痛そう」で「かわいそう」という発想は彼にはなかったらしく驚いていたが、すぐに優しい笑顔になると、
「……そうだね。直すために、あの方達が一所懸命働いて下さっている。感謝しなくてはいけないよ」
バァン!
突然大きな音が轟く。
「どうした! 何だ今の音は!」
「何だってんだ、一体!」
あちこちで怒りとも叫びともつかない声がする。思わずびっくりしてしゃがんでしまったセリファを立ち上がらせた司祭は、
「何かあったようだ。お嬢ちゃんは危ないから帰りなさい。いいね」
そう言って、柵を跨いで中へ入って行った。
「これは……ミサイル、ではないな。爆弾でもない。……魔法でもない」
現場に駆けつけたシャドウは、さっきの音で弾け飛んだ聖堂の屋根の一角を魔法の目と科学の目でジッと見つめている。そこに現場監督や司祭がやって来る。
「どうした、シャドウ!」
「原因は分からない。しかし、火薬が使用された様子はない。火薬を使わずに爆発を起こしたと考えるべきだろう」
「爆発? 火薬なんぞ持ってきてたか?」
誰かが首を振る。確かに、今日は一切火薬の類いは持ってきていない。
「……成程。その手があるか」
辺りを注意深く見、水が飛び散っているのを発見し、シャドウは一人で納得している。
「何なのです。魔法でも爆弾でもないのに爆発なんて起こるんですか?」
司祭の言葉に無言のまま首を縦に振ったシャドウは、近くに落ちていた小さな黒い金属辺を手にとった。
「……『気化』は、学のある人間なら理解出来るな。それを使えば小さな爆発紛いの事はは起こせる」
「気化というと、水が気体に変わる……アレですね」
「そうだ、司祭殿。水が気体に変わる時、その体積は六千倍を優に超えるまでに大きくなる。この現象が、完全に密閉された空間の中で発生した場合、密閉している物体を破壊する事もある」
シャドウの説明を黙って聞いていた現場監督も、その説明で理解する。
「それで『バン!』て訳か? でも、たかだか水でそんな事……」
「しかし、蒸気機関はその力を利用する。侮る事はできますまい」
司祭の言葉に、現場監督も納得するしかない。うっと言葉に詰まったままだ。
しかし、そんな事を一体誰がどうやったのだろう、という単純で重要な問題が残った。
それから少し経ち、ようやく警察がやってきた。
警察も、魔法の反応も火薬の反応も検出されない以上、シャドウの考えで正しかろう、たちの悪いいたずらだと結論づけた。
ただし、もう一つの事件が起こった事に気がついたのは、それから少し後の事。
それがシャドウに渡されたのは、爆発があって小一時間も経った頃。野次馬のほとんどが去ってからだった。
「これは……お嬢ちゃんの縫い包みだな」
警察官から渡されたのは、セリファが肌身離さず持っているグライダのぬいぐるみに間違いなかった。
「やっぱりセリファちゃんのぬいぐるみに間違いないですよね!? それが立入禁止の柵のそばに落ちてたって言うんですよ。あのセリファちゃんが、これを落として気づかないなんておかしいでしょう? まさか誘拐?」
ぬいぐるみを持ってきた警察官が一気にまくしたてる。どうやらセリファのファンらしい(信じにくい話だが、セリファには私設のファンクラブが存在するのだ)。
「しかし……それで誘拐と考えるのは、幾ら何でも短絡的な考えだ」
何気無くぬいぐるみを見回していたシャドウは、ぬいぐるみのズボンのポケットに、何か小さな板が入っている事に気づき、そっと取り出す。それは、マイクロチップだった。
昔は頻繁に使われていたが、今ではレトロなスパイ映画にたまに顔を出すくらいの、前時代的な記憶装置である。
シャドウは、自分の左腕に内蔵されているマイクロチップの読み取り機にセットした。
『シャドウ君。君のいた時代に合わせて、こんな博物館物の機材を使わせてもらった。このセリファというお嬢ちゃんは預からせてもらうよ。何。どうしようというのではない。新しくなったという君の性能を儂に見せてくれるだけでいい。君の故郷にあたる、あの地下都市の廃墟へ行きたまえ。総てはそこで……』
以上が、記された全文だった。<To Be Continued>